エンクラッセの効果と副作用【COPD治療薬】

エンクラッセ エリプタ(一般名:ウメクリジニウム臭化物)は2015年から発売されているお薬です。

「お薬」といっても飲み薬ではありません。口から吸う(吸入する)ことでお薬の成分を直接気管に吸入し、気管に作用させるお薬になります。

エンクラッセは「抗コリン薬」という種類に属します。抗コリン薬は気管を広げる作用を持ち、これにより呼吸のしにくさや咳・痰などの症状を改善させてくれます。

吸入剤にも多くの種類があり、それぞれで配合されている成分も異なっています。各吸入薬にどのような作用があって、どの吸入剤が自分に適しているのかというのはなかなか分かりにくいものです。

吸入剤の中でエンクラッセはどのような特徴のあるお薬で、どのような作用を持っているお薬なのでしょうか。

エンクラッセの特徴や効果・副作用についてみていきましょう。

 

1.エンクラッセの特徴

まずはエンクラッセの特徴をざっくりと紹介します。

エンクラッセは気管を広げる作用を持つお薬で、主に慢性閉塞性肺疾患(肺気腫など)の治療に用いられます。

作用時間が長く、1日1回の収入で24時間以上効果が持続します。また薬と吸入器が一体になっているため、手間なく吸入を行う事が出来ます。

エンクラッセは気管を広げる作用を持つため、主に慢性閉塞性肺疾患に治療に用いられます。

慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)というのは有害物質(主にタバコなど)を長い間吸い続けることで、肺に慢性的な炎症が生じてしまっている疾患の総称です。以前は「肺気腫」や「慢性気管支炎」などとも呼ばれていました。

難しく書きましたが、COPDを簡単に言えば「タバコで肺が痛んでいる」状態の事です。

慢性閉塞性肺疾患では、タバコに含まれる有害物質が長期間にわたって肺や気管支を傷付けるため、肺・気管支に炎症が生じてしまいます。すると気管支が腫れて内腔が狭くなり、十分に酸素を吸えなくなってしまいます。

また有害物質は肺胞(肺の先端にある小さな袋)を徐々に破壊します。一度肺胞が壊れてしまうと、それは二度と元には戻らないため、これによっても十分に酸素を体内に取り込めなくなっていきます。

一度壊れた肺胞を元に戻す事は出来ませんから、COPDの治療で出来る事は炎症によって狭くなった気管支を広げてあげる事になります。

エンクラッセは抗コリン薬という種類のお薬で、アセチルコリンという物質のはたらきをブロックするはたらきがあります。

アセチルコリンは気管支を収縮させる作用があるため、これをブロックすると気管支は収縮できなくなり、広がりやすくなります。すると気管支の中を空気が通りやすくなるため、呼吸苦が改善されるというわけです。

エンクラッセのような吸入剤は飲み薬と比べて副作用が少ないというのが大きなメリットです。吸入したエンクラッセはほぼ気管のみに塗布されます。飲み薬のように全身にお薬が回りにくいため、全身性の副作用が生じにくいのです。

実際にエンクラッセも全身性の副作用はほとんどありません。

抗コリン吸入薬の中でのエンクラッセの特徴は、「吸入が簡単に行える」事が挙げられます。

抗コリン吸入薬の中には、吸入する成分が入っているカプセルと吸入器が別々になっており、吸入の度に毎回カプセルを吸入器にセットしなければいけないものもあります。毎日の吸入においてこれはちょっと手間です。

それに対してエンクラッセは吸入器の中に成分がすでにセットされているため、簡単にお薬を吸入する事ができます。

抗コリン吸入薬は長期に渡って使用するものですので、このように毎日の吸入の手間が少ない事は患者さんにとって非常に助かります。

またエンクラッセは持続力にも優れ、1日1回の吸入で24時間以上効果が持続する事が確認されています。

ちなみにCOPD・気管支喘息に用いる吸入剤には、エンクラッセのような抗コリン薬の他、

  • β2刺激薬
  • ステロイド吸入薬

などもあります。

これらはどのように使い分けられるのでしょうか。

簡単にいうと、抗コリン薬は即効性はないものの、ゆっくり長く気管支を広げる事に優れます。COPDは発作的に気管支が狭くなるわけではなく、タバコによって徐々に狭くなるため、抗コリン薬がもっとも気管支拡張作用に優れます。そのため、抗コリン薬がCOPDではまず用いられるのが一般的です。

β刺激薬は抗コリン薬と比べると即効性に優れますが、COPDに対する気管支拡張作用は抗コリン薬よりも劣ります。そのためCOPDよりも気管支喘息などで用いられています。

ステロイド吸入薬も、COPDよりも主に気管支喘息で用いられる吸入薬になります。ステロイドは炎症を抑える作用があるため、タバコによる気管の慢性炎症が生じているCOPDでも効果は期待できます。

しかしステロイドは感染しやすい状態を作ってしまうというデメリットがあります。COPDの方の気管支・肺は弱っており、ただでさえ感染に弱い状態にあるため、ステロイドで更に感染させやすい状態を作ってしまう事は好ましくありません。

そのため、ステロイドは積極的にはCOPDには用いられていません。

以上から、エンクラッセの特徴として次のようなことが挙げられます。

【エンクラッセの特徴】

・主に慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療薬として用いられる
・アセチルコリンのはたらきをブロックし、気管を広げる
・即効性はなく、今すぐに苦しさを取るお薬ではない
・持続性に優れ、1回の吸入で24時間以上効果が持続する
・お薬の成分と吸入器が一体になっており、手間が少なく吸入が行える
・気管にのみ作用するため、全身への副作用が少ない

 

2.エンクラッセはどのような疾患に用いるのか

エンクラッセはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】
慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)の気道閉塞性障害に基づく諸症状の緩解

エンクラッセは気管を広げる作用を持ち、その主な適応は「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」になります。

慢性閉塞性肺疾患は、タバコなどの有害物質を長期間に吸入することで、肺に慢性的な炎症が生じてしまっている疾患の事です。

慢性閉塞性肺疾患において、エンクラッセのような抗コリン薬はまず最初に推奨されるお薬(第一選択薬)になります。

またエンクラッセのような抗コリン吸入薬は、気管支喘息に用いられる事もあります(保険適応はありません)。しかしこれは他の吸入薬(β2刺激薬やステロイド)では効果が不十分であった場合などに限られ、最初から積極的に用いられる事はあまりありません。

なぜならば気管支喘息に対しては抗コリン吸入薬よりも、β2刺激薬やステロイド吸入薬の方が高い効果が得られるからです。

エンクラッセは慢性閉塞性肺疾患に対してどのくらい有効なのでしょうか。

気管支の狭窄の程度を反映する呼吸機能検査値として「1秒率」があります。これは息を思いっきり吐いてもらった時の最初の1秒に吐き出された息の量になり、この数値が下がっていれば下がっているほど、気管支の狭窄の程度は大きいと推定できます。

エンクラッセはCOPD患者さんの1秒率を有意に改善させる事が報告されています。

 

3.エンクラッセはどのような作用があるのか

エンクラッセはどのような機序によって、気管を広げてくれるのでしょうか。

エンクラッセの気管への作用について詳しく紹介します。

 

Ⅰ.気管支を広げる

エンクラッセの主成分であるウメクリジニウム臭化物は「抗コリン薬」と呼ばれ、アセチルコリンという物質のはたらきをブロックする作用を持ちます。

アセチルコリンは体内で様々なはたらきをしている物質なのですが、気管においては気管を収縮させる作用がある事が知られています。

気管にはムスカリン3(M3)受容体というものがあり、ここにアセチルコリンがくっつくと気管が収縮します。そしてこの作用をブロックするのがエンクラッセのはたらきになります。

口から吸い込まれたエンクラッセは気管にたどり着くと、アセチルコリンがM3受容体にくっつこうとするのをブロックします。

具体的には、アセチルコリンよりも先にM3受容体にくっついてしまい、M3受容体に蓋をしてしまうのです。するとアセチルコリンはM3受容体にくっつけなくなってしまいます。

これにより気管支が収縮できなくなるため、気管支は広がりやすくなります。

気管支が広がると、たくさんの空気を肺に送りやすくなるため、呼吸がしやすくなるというわけです。

ちなみにアセチルコリンがくっつく部位であるムスカリン受容体というのはM1~M5までありますが、そのうち特に気管の収縮に関係しているのがM3受容体です。

エンクラッセはM1~M5のすべてのムスカリン受容体にくっつくのですが、特にM3受容体(とM4受容体)に選択性が比較的高いという特徴があるため、気管支を広げるのに適したお薬なのです。

 

4.エンクラッセの副作用

エンクラッセにはどんな副作用があるのでしょうか。

エンクラッセは吸入剤であり飲み薬と違って全身にほとんど作用しません。そのため安全性は高いお薬だと言って良いでしょう。

ただし吸入することで口腔内や咽喉頭、気管にはお薬が塗布される可能性があるため、これらの部位に副作用が生じることはあります。

エンクラッセの副作用発生率は7.4%と報告されています。

生じる副作用としては、

  • 咳嗽
  • 呼吸困難
  • 口腔咽頭痛
  • 味覚異常
  • 上気道感染
  • 口渇
  • 便秘

などがあります。

咳嗽や呼吸困難、口腔咽頭痛などはエンクラッセを上手に吸入できなかった時に咽喉頭などが刺激されて生じると考えられます。重篤になる事は稀で、多くは適切に吸入できるように慣れれば改善していきます。

上気道感染は咽喉頭などに細菌やウイルスが感染してしまう事ですが、エンクラッセの成分が感染させやすくしているわけではありません。これもエンクラッセを上手に吸入できなかった事で咽喉頭を刺激してしまい、それで咽喉頭に傷がつくとばい菌が感染しやすくなるという事でしょう。

口渇はエンクラッセの持つ「抗コリン作用」が原因です。抗コリン作用とはアセチルコリンのはたらきをブロックする作用なのですが、口腔内では唾液の分泌を減らす作用になるため、これにより口の中の乾燥が生じてしまいます。

また抗コリン作用は胃腸の動きを低下させてしまうはたらきもあるため、これによって便秘になる事もありますが、エンクラッセは体内にほとんど吸入されないため、頻度は多くありません。

頻度は稀ながら重篤な副作用としては、

  • 心房細動

が報告されています。

この副作用も抗コリン作用によるものです。

抗コリン作用は心臓においては心拍数を上げ、心臓の負担を高める方向に作用します。これにより心臓系の副作用が認められる事があります。

エンクラッセを使用してはいけない方(禁忌)としては、

  • 閉塞隅角緑内障の方(眼内圧を高め、症状を悪化させるおそれがある)
  • 前立腺肥大等による排尿障害のある方(更に尿を出にくくすることがある)
  • エンクラッセの成分に対し過敏症の既往歴のある方

が挙げられています。

抗コリン作用は眼圧を上げる作用があるため、元々眼圧が高い緑内障の方は用いてはいけません。

また前立腺肥大症の方は前立腺が大きくなって尿道を圧迫しているため、尿が出にくい状態になっています。エンクラッセはその状態で更に抗コリン作用で尿道を収縮させてしまう可能性があるため、前立腺肥大症の方にも用いてはいけません。

 

5.エンクラッセの用法・用量と剤形

エンクラッセにはどのような剤型があるのでしょうか。

エンクラッセには、

エンクラッセ62.5μgエリプタ 7吸入用
エンクラッセ62.5μgエリプタ 30吸入用

の2剤形があります。

「エリプタ」というのは、エンクラッセを発売しているGSK社(グラクソスミスクライン社)が作った吸入器の名称の事です。

GSK社はエンクラッセ以外にも、

  • レルベア
  • アローノ

などの吸入薬を発売しており、これらも「エリプタ」という吸入器で吸入します。

エリプタは簡単に吸入できるように吸入器の中にお薬の成分が入っており、吸入器のカバーを開ける事でお薬が自動でセットされる、という工夫がされた吸入器です。

これにより毎回吸入器にお薬をセットする必要もなく、またカバーを開けるというワンアクションで吸入を行う事が出来ます。

エンクラッセの使い方としては、

通常、成人に1吸入を1日1回吸入投与する。

となっています。

エンクラッセは作用時間が長い事が利点で、そのため1日1回の吸入で24時間以上効果が持続します。

24時間以上効果が持続する代表的な抗コリン吸入薬に「スピリーバ」がありますが、エンクラッセはスピリーバと同等の持続性がある事が確認されています。

 

6.エンクラッセが向いている人は?

以上から考えて、エンクラッセが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

エンクラッセの特徴をおさらいすると、

・主に慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療薬として用いられる
・アセチルコリンのはたらきをブロックし、気管を広げる
・即効性はなく、今すぐに苦しさを取るお薬ではない
・持続性に優れ、1回の吸入で24時間以上効果が持続する
・お薬の成分と吸入器が一体になっており、手間が少なく吸入が行える
・気管にのみ作用するため、全身への副作用が少ない

といったものでした。

エンクラッセは長時間作用型の抗コリン薬になります。これを専門的にはLAMA(Long Acting Muscarinic Antagonist)と呼ばれます。

LAMAは即効性はないものの、慢性閉塞性肺疾患の方の気管支を広げるのに最も優れるお薬になります。

エンクラッセはLAMAの中でも即効性に優れ、かつ1日1回で24時間以上効果が持続します。また吸入方法も簡単であり、長期間吸入を続けるのに適しています。

即効性・持続性のバランスに優れるため、慢性閉塞性肺疾患の方がまず用いるお薬として向いていると言えるでしょう。

また吸入剤というのは、しっかりと気管や肺に届くまで吸い込まないと効果が得られません。正しい吸入法が出来るように医師や薬剤師からしっかりと指導を受けるようにしましょう。ネットでも吸入法の動画なども製薬会社から配布されていますので、ぜひご覧になってください。