イコサペント酸エチルは1999年から発売されている「エパデール」というお薬のジェネリック医薬品になります。「オメガ3脂肪酸製剤」という種類に属し、主に高脂血症の治療に用いられます。
オメガ3脂肪酸は「DHA」や「EPA」などといった物質の総称であり、これらには中性脂肪を下げたり、血液をサラサラにしたりという作用があります。オメガ3脂肪酸は魚などの食品にも含まれている成分であり、食事からも摂取することができます。
中性脂肪は脂質の一種になりますが、脂質を下げるお薬には他にも「スタチン系」や「フィブラート系」などがあります。
これらと比べてイコサペント酸エチルはどのような位置づけのお薬となるのでしょうか。今回はイコサペント酸エチルの特徴や効果・副作用について紹介します。
目次
1.イコサペント酸エチルの特徴
まずはイコサペント酸エチルの全体的な特徴を紹介します。
イコサペント酸エチルは、脂質の中でも特に中性脂肪(トリグリセリド)を下げる作用に優れます。また食べ物にも含まれている成分であり、安全性の高いお薬となります。
そのため、脂質異常症の中でも
・中性脂肪(トリグリセリド)が高い
というタイプに処方されるお薬になります。
イコサペント酸エチルの主成分はEPA(イコサペント酸)ですが、これは主に魚に多く含まれるオメガ3脂肪酸になります。
またイコサペント酸エチルには悪玉コレステロール(LDL)も少し下げてくれる作用があります。同種のお薬である「ロトリガ(DHA・EPA製剤)」はLDLをほとんど下げず、むしろ一部の患者さんでは上げてしまうこともあると報告されており、報告に違いがあります。
ちなみに同じ高脂血症の治療薬との違いをおおまかに紹介すると、スタチン系は主にLDLを下げる作用に優れます。フィブラート系は中性脂肪(TG)を下げる作用とHDLを上げる作用を持ちます。対してイコサペント酸エチルをはじめとするオメガ3脂肪酸製剤は主に中性脂肪を下げる作用に優れます。
同じ高脂血症の治療薬でもそれぞれ作用機序が異なるため、得られる効果もこのように異なってきます。
イコサペント酸エチルの主成分はオメガ3脂肪酸と呼ばれるもので、これは食べ物(主に魚)にも含まれている成分になります。DHAやEPAというのはみなさんも聞いたことがあるかもしれませんが、これらを総称してオメガ3脂肪酸と呼びます。
元々が食べ物に含まれているものですので安全性は高く、重篤な副作用はほとんど生じません。ただし血液をサラサラにして固まりにくくする作用があるため、出血している方は服用することができません。また出血リスクが高い方も服薬は慎重に考える必要があります。
ちなみにDHAなどのオメガ3脂肪酸は、「食べると頭が良くなる」と一時期もてはやされましたが、実はこれにはしっかりとした根拠はありません。オメガ3脂肪酸が欠乏すれば、脳の機能が落ちる可能性はありますが、たくさん摂取したからといって知能が上がるとは言えません。
またイコサペント酸エチルはジェネリック医薬品ですので薬価が安く設定されているというメリットもいます。
以上からイコサペント酸エチルの特徴として次のような点が挙げられます。
【イコサペント酸エチルの特徴】
・中性脂肪を下げる作用に優れる
・悪玉コレステロールも多少下げてくれる
・魚に含まれる成分であり、安全性が高い
・血液を固まりにくくするため、血管の詰まりを改善してくれる
・出血しやすくなるため、出血リスクの高い方は注意
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
2.イコサペント酸エチルはどのようなな疾患に用いるのか
イコサペント酸エチルはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善
高脂血症
イコサペント酸エチルは主に高脂血症に対して用いられます。
高脂血症にも様々なタイプがありますが、イコサペント酸エチルのようなオメガ3脂肪酸製剤は、特に中性脂肪(TG)が高いタイプの高脂血症に向いているお薬になります。
またイコサペント酸エチルは、血小板の作用を抑えることで血液を固まりにくくするはたらきがあります。そのため、閉塞性動脈硬化症の症状を和らげる効果も期待できます。
閉塞性動脈硬化症とは、動脈硬化や血栓などによって四肢(主に下肢)の末梢に血液が十分に行かなくなってしまい、痛みや冷感などが生じる疾患です。ひどい場合は末梢の手足に潰瘍が出来たり壊死したりしてしまうこともあります。
イコサペント酸エチルは血液を固まりにくくすることにより血管の詰まりを改善させ、これらの症状を改善させる作用があります。
イコサペント酸エチルはジェネリック医薬品のため、有効性に対する詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「エパデールS」では、長期(24~52週)服用したところ
- 中性脂肪(TG)を14~20%下げる
- 総コレステロール(T-Chol)を3~6%下げる
ことが報告されており、イコサペント酸エチルも同程度の効果がある事が考えられます。
3.イコサペント酸エチルにはどのような作用があるのか
イコサペント酸エチルは高脂血症の患者さんの治療に用いられます。高脂血症の中でも中性脂肪(TG)を下げる作用に優れるため、中性脂肪が高い方に向いているお薬になります。
しかし実はイコサペント酸エチルな中性脂肪を下げる以外にも様々な作用があります。
イコサペント酸エチルの作用やそれぞれの作用機序について紹介します。
Ⅰ.中性脂肪(トリグリセリド)を下げる
イコサペント酸エチルの最大の特徴は、脂質の中でも中性脂肪(TG:トリグリセリド)を下げる作用に優れることです。
ではイコサペント酸エチルはどのようにして中性脂肪を下げてくれるのでしょうか。
イコサペント酸エチルは「オメガ3脂肪酸」の一種であるEPA(エイコサペンタエン酸)からなっています。
EPAは肝臓で中性脂肪(TG)が作られるのを抑えるはたらきがあります。また中性脂肪を分解する酵素であるLPL(リポ蛋白リパーゼ)を活性化させることで、中性脂肪の分解を促進させます。
ちなみに、中性脂肪って何故高いと問題で、下げる必要があるのでしょうか。
中性脂肪は脂肪酸に分解されることでエネルギー源になるため、ある程度の量は身体にとって必要です。しかし過剰になってしまうと、様々な問題を引き起こす事が知られています。
具体的には、慢性的に中性脂肪が高い状態が続いていると炎症が引き起こされ、ここから膵炎が発症したり、動脈硬化を徐々に進行させ心筋梗塞や脳梗塞の原因となったりするのです。
このような事態を避けるため、中性脂肪を適正値にしておく必要があるのです。
Ⅱ.LDL(悪玉コレステロール)を少し下げる
イコサペント酸エチルはLDL(悪玉コレステロール)も少し下げてくれる作用があります。
これはどのような機序によるものでしょうか。
これは恐らくイコサペント酸エチルに含まれるEPAがPPARαという酵素を活性化させる作用があるためだと考えられています。PPARαの活性化は中性脂肪を下げる作用がある他、LDLも下げてくれる作用があります。
またイコサペント酸エチルは腸管からコレステロールが吸収されるのを抑える作用があることが動物実験で確認されており、これもLDLの低下に関係している可能性があります。
Ⅲ.コレステロールの質を改善する
EPAにはコレステロールの質を改善させる作用があります。具体的には、LDLの粒子のサイズを大きくしてくれるのです。
実はLDLにも様々な種類があり、大きく言えば「小型LDL(small dense LDL)」と「大型LDL」があります。
このうち、特に身体に害を与えるのは小型LDLの方です。
小型LDLは大型LDLと比べてLD受容体に結合しにくいため、長く血液中に留まる事が知られています。長く血液中にいるということは、それだけ血管壁と触れる機会が多くなり、血管を傷付けやすいという事になります。
また小型LDLはサイズが小さいために血管壁に侵入して悪さをしやすかったり、酸化されやすく身体に有害な酸化LDLになりやすかったりという特徴もあります。
イコサペント酸エチルに含まれるEPAは小型LDLを減らし大型LDLを増やしてくれる作用があります。
Ⅳ.血小板凝集抑制作用
イコサペント酸エチルに含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)は、血小板凝集抑制作用(血液が固まるのを防ぐ作用)があります。
血小板というのは、集まる(凝集)することで血を固まらせる作用を持ちます。私たちが普段、皮膚から出血しても自然と止まるのは、血小板が血を固まらせて止めてくれるからなのです。
イコサペント酸エチルはこの血小板のはたらきを低下させる作用があります。
これは出血をした時に血が止まりにくくなるというデメリットにもなりますが、一方で血液中に血栓ができにくくなるというメリットにもなり、閉塞性動脈硬化症の治療などにも用いられます。
閉塞性動脈硬化症では血管が細くなったり、血栓が詰まってしまうことで末梢の血流が悪くなってしまう疾患です。イコサペント酸エチルは血栓を出来にくくする作用によってこれらの症状を改善させてくれるという事です。
Ⅴ.抗うつ作用
オメガ3脂肪酸は、うつ病を改善させる作用があるのではないかと言われています。
しかしこれはまだ議論中であり、しっかりと確認されている効果ではありません。
うつ病とオメガ3脂肪酸の関係に対しては複数の研究が行われていますが、高用量のEPAがうつ病の改善に効果があるとする報告もあれば、オメガ3脂肪酸の抗うつ作用は明らかでないとするものもあります。
うつ病で苦しんでいる患者様は多いため、今後の研究の成果が待たれるところです。
4.イコサペント酸エチルの副作用
イコサペント酸エチルにはどんな副作用があるのでしょうか。
イコサペント酸エチルはジェネリック医薬品であるため、副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「エパデールS」では副作用発生率は約3.7~4.4%程度と報告されており、イコサペント酸エチルも同程度だと考えられます。
生じる副作用としては、
- 悪心、吐き気
- 腹部不快感
- 下痢
- 便秘
- 発疹
- 掻痒(かゆみ)
- 鼻出血
- 皮下出血
などが報告されています。
頻度は稀ですが、注意すべき重篤な副作用として、
- 肝機能障害、黄疸
などが報告されています。イコサペント酸エチル服用中は定期的に血液検査で肝機能などをチェックすることが望ましいでしょう。
またイコサペント酸エチルは前述のように、血小板凝集抑制作用があります。これは「血が止まりにくくなる」ということです。そのため、イコサペント酸エチルは、
- 出血している方
への投与は禁忌(絶対にダメ)になっています。
5.イコサペント酸エチルの用法・用量と剤形
イコサペント酸エチルには、
イコサペント酸エチルカプセル 300mg
イコサペント酸エチルカプセル 600mg
イコサペント酸エチルカプセル 900mgイコサペント酸エチル粒状カプセル 300mg
イコサペント酸エチル粒状カプセル 600mg
イコサペント酸エチル粒状カプセル 900mg
といった剤型が発売されています。
それそれ、
イコサペント酸エチル300mgにはEPAが300mg
イコサペント酸エチル600mgにはEPAが600mg
イコサペント酸エチル900mgにはEPAが900mg
含まれています。
ちなみにイコサペント酸エチルカプセルとイコサペント酸エチル粒状カプセルは何が違うのでしょうか。
実はイコサペント酸エチルカプセルもイコサペント酸エチル粒状カプセルもお薬としての効能は変わりません。
イコサペント酸エチルカプセルはカプセル剤なのですが、大きくて飲みにくいというデメリットがありました。またEPAは独特の魚の臭いがあり、カプセルだとその臭いが漏れてしまうという欠点もありました。
そこで小さな剤型にしてスムーズに飲めるようにし、継ぎ目のない粒状カプセルにすることで臭いが漏れないように改良されたのがイコサペント酸エチル粒状カプセルになります。
イコサペント酸エチルの使い方は、
【閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善】
通常成人1回600mgを1日3回、毎食直後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。【高脂血症】
通常成人1回900mgを1日2回又は1回600mgを1日3回、食直後に経口投与する。ただし、トリグリセリドの異常を呈する場合には、その程度により、1回900mg、1日3回まで増量できる。
と書かれています。
イコサペント酸エチルは噛んでしまうと、独特の臭みがありますので、できれば噛まずに飲み込んでください。オメガ3脂肪酸製剤は、魚の油から作られているため、独特の臭みがあるのです。イコサペント酸エチル粒状カプセルは成分を封じることで臭みを発しないように工夫がされています。
またイコサペント酸エチルは食事の影響を受けるお薬であり、食後の服薬となっています。空腹時に服薬してしまうと吸収が悪くなり、お薬の効果も弱まってしまいますので、必ず食直後に服用するようにして下さい。
6.イコサペント酸エチルが向いている人は?
以上から考えて、イコサペント酸エチルが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
イコサペント酸エチルの特徴をおさらいすると、
・中性脂肪を下げる作用に優れる
・悪玉コレステロールも多少下げてくれる
・魚に含まれる成分であり、安全性が高い
・血液を固まりにくくするため、血管の詰まりを改善してくれる
・出血しやすくなるため、出血リスクの高い方は注意
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
などがありました。
ここから、
・特に中性脂肪が高い方
に推奨される治療薬となります。
同じ種類のお薬として「ロトリガ」がありますが、両者は中性脂肪に対する効果は変わらないものの、イコサペント酸エチルはLDLを多少下げてくれるという作用が報告されており、ここが両者の1つの違いになります。
またイコサペント酸エチルもロトリガもどちらも血液をサラサラにする作用はあるのですが、保険的に「閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善」対して適応を有しているのはイコサペント酸エチルだけであり、ここも違いになります。
イコサペント酸エチルはジェネリック医薬品であり薬価が安く、経済的負担少なく治療が行なえる事もメリットになります。
ちなみに脂質というと、血液検査で中性脂肪(TG:トリグリセリド)とコレステロール(Chol)の2つがありますが、この2つはどう違うのでしょうか。
中性脂肪は、俗に言う「体脂肪」の脂肪分が血液中に流れているもので、これはエネルギー源として使われます。中性脂肪は体脂肪として貯蔵される事で、いざという時に活動するためのエネルギーになるのです。
一方コレステロールはというと「身体を作るための材料」として使われています。コレステロールは細胞を構成する材料となったり、体内で様々なはたらきをしているホルモンを作る材料となったり、胆汁酸やビタミンの材料となったりします。
中性脂肪もコレステロールも、どちらも身体にとって必要なものですが、過剰になりすぎれば害となります。
7.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?
イコサペント酸エチルは「エパデール」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリックは薬価も安く、患者さんにとってメリットが多いように見えます。
しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。
ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。
結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。
ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。
発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、
ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。
しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば使い心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。
これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。
では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。
先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。
しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。
先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。
つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。