フェルナビオンパップ(一般名:フェルビナク)は1993年から発売されている「セルタッチパップ」という湿布剤のジェネリック医薬品になります。「非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」という種類に属します。
NSAIDsは痛み止めとして広く用いられている成分で、湿布剤以外にも飲み薬や塗り薬としても使用されています。
フェルナビオンのような湿布剤のNSAIDsは主に関節や骨・筋肉などの痛い部位に貼る事で、炎症を抑え、痛みを和らげるはたらきがあります。
痛み止めの湿布にもたくさんの種類があり、それぞれがどのような特徴を持つのか分かりにくいと思います。フェルナビオンパップがどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのか、その効果・効能や特徴、副作用についてみていきましょう。
目次
1.フェルナビオンパップの特徴
まずはフェルナビオンパップの特徴をざっくりと紹介します。
フェルナビオンパップは皮膚に貼ることで、その部位の筋肉や骨・関節の痛みを和らげるはたらきがあります。トウガラシエキスを含むため、ポカポカとした温かさを感じる温感湿布です。一方でパップ剤でメントールを含むため清涼感(ひんやり感)もあります。
伸縮性(伸び)や粘着性(皮膚にくっつく力)は弱めです。
NSAIDsは医療現場で「熱さまし」「痛み止め」として広く用いられているお薬で、湿布以外にも飲み薬や坐薬、塗り薬などの剤型でも用いられています。
例えば、風邪をひいて熱が出たりのどが痛くなったりした時に使う解熱鎮痛剤や、腰痛などの痛み止めとして使う鎮痛剤も、その多くがフェルナビオンと同じNSAIDsです。
例えば、NSAIDsの飲み薬には、
- ロキソニン
- ボルタレン
- ブルフェン(イブプロフェン)
などがあります。これらも痛みを抑えたり、熱を下げたりするために広く使われていますが、その主成分はフェルナビオンと同じNSAIDsになります。
フェルナビオンパップは貼るタイプのNSAIDsですので、主に関節や骨・筋肉の痛みを和らげる目的で使用されます。特に良く使われるのが肩・膝・腰といった関節の痛みです。ぶつけたり、関節が痛んだりした際にフェルナビオンパップを貼る事で、痛みを和らげることができます。
湿布剤であるフェルナビオンパップは飲み薬のNSAIDsと異なり、作用が局所に留まるという利点があります。これは効かせたい部位にのみ作用させ、お薬が全身に回りにくいという事です。
貼った部位にしか効かないため、全身の様々な部位が痛いという場合には向きませんが、身体の一部のみが痛いという場合にはその部位にだけ効かせることが可能です。また全身にお薬が回りにくいため、副作用が生じる頻度も少なくなります。
湿布剤は「テープ剤」と「パップ剤」があります。このうちフェルナビオンはパップ剤しかありませんが(テープ剤は2016年に発売終了となっています)、テープとパップは何が違うのでしょうか。
テープ剤は適度な伸縮性(伸び)と粘着性(くっつきやすさ)があり、膝や肩といった関節部位に貼ってもはがれにくいというメリットがあります。一方でパップは伸縮性や粘着性は低いのですが、貼った際に清涼感(ひんやり感)があるため、これが「湿布が効いている感じがする!」と好む方もいらっしゃいます。
パップ剤は清涼感を得るためにメントールなどを配合しているものも多く、これによって独特の臭いが生じてしまうのですが、貼った際のひんやりとした気持ちよさを得る事が出来ます。フェルナビオンもわずかにですが、特異的なにおいがあります。
フェルナビオンパップは成分に「トウガラシエキス」が配合されています。これは貼った部位を温める作用があるため、患部を温めた方が気持ちが良いという症例には向いています。
フェルナビオンのデメリットとしては、多くの湿布剤が1日1回の貼付で1日中効果が持続するのに対して、フェルナビオンは1日1回では効果が続かず、1日2回湿布を貼り替えないといけない点が上げられます。これをやや手間に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
以上から、フェルナビオンパップの特徴としては次のようなことが挙げられます。
【フェルナビオンパップの特徴】
・貼った部位の炎症を抑え、痛みを和らげる作用がある
・湿布であり、痛みがある部位にのみ効かせることができる
・お薬の成分が全身に回りにくいため、副作用が少ない
・清涼感(ひんやり感)があるが、伸縮性や粘着性は強くはない
・わずかに特異なにおいがある
・ポカポカ感を得られるトウガラシエキスを配合している
・1日2回貼り替えないといけず、やや手間
2.フェルナビオンパップはどのような疾患に用いるのか
フェルナビオンパップはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
下記疾患並びに症状の鎮痛・消炎変形性関節症、肩関節周囲炎、腱・腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎(テニス肘等)、筋肉痛、外傷後の腫脹・疼痛
難しい病名がたくさん出てきましたが、「関節や骨、筋肉の痛み」に対して用いるというイメージで良いと思います。
変形性関節症は加齢などにより関節がすり減ったり変形したりしてしまい、それにより関節に痛みが生じる疾患です。
肩関節周囲炎はいわゆる「五十肩」の事で、主に中高齢者に生じる肩の炎症です。
腱鞘炎は、指・手指などを繰り返し使い続ける事で同部の腱が炎症を起こしてしまう疾患です。
上腕骨上顆炎(テニス肘等)はテニスによって発症する事が多いため、「テニス肘」とも呼ばれています。肘の腱に負荷がかかる事で同部に炎症が生じてしまう疾患です。
いずれも関節や骨・筋肉・腱などに痛みが生じる疾患になります。
フェルナビオンはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
フェルナビオンはジェネリック医薬品であるため、有効性の詳細な調査は行われていません。
少数を対象に行われた調査では、
- 外傷後の打撲、捻挫、挫傷に対する改善率は85%
- 変形性膝関節症に対する改善率は65%
と報告されていますが、それぞれ対象数わずか20例と小規模な調査であるため、精度に疑問が残ります。
先発品の「セルタッチ」においては副作用発生率に対する詳しい調査が行われており、改善率(中等度改善以上)は、
- 変形性関節症での改善率は60.4%
- 肩関節周囲炎での改善率は70.4%
- 腱・腱鞘炎での改善率は73.6%
- 腱周囲炎での改善率は81.7%
- 上腕骨上顆炎での改善率は67.5%
- 筋肉痛での改善率は70.2%
- 外傷後の腫脹・疼痛での改善率は78.0%
と報告されています。ここから同じ主成分からなるフェルナビオンも同程度の有効率と考えられます。
ただし上記疾患にフェルナビオンが有効なのは間違いありませんが、注意点としてフェルナビオンを始めとするNSAIDsを使用しても、病気の根本が治るわけではなく、あくまでも対症療法に過ぎないことは忘れてはいけません。
対症療法とは、「症状だけを抑えている治療法」で根本を治している治療ではありません。
例えば筋肉痛は筋肉が酷使されて破壊される事で生じますが、激しい運動によって筋肉痛が生じている方に対してフェルナビオンを貼れば、確かに痛みは軽減します。しかしこれは筋肉を修復しているわけではなく、あくまでも痛みを感じにくくさせているだけに過ぎません。
対症療法が悪い治療法という事ではありませんが、対症療法だけで終わってしまうのは良い治療とは言えません。対症療法と合わせて、根本を治すような治療も併用することが大切です。
例えば先ほどの筋肉痛であれば、フェルナビオンを貼付しつつも、
- 栄養をしっかりとって筋肉が早く修復されるようにする
- 適度にマッサージを行い、筋肉をほぐす
- 筋肉に無理な負担がかからないように運動時のフォームを修正する
などの根本的な治療法も併せて行う必要があるでしょう。
3.フェルナビオンパップにはどのような作用があるのか
フェルナビオンパップは、どのような作用を持つお薬なのでしょうか。
フェルナビオンパップの作用機序や得られる効果について紹介します。
Ⅰ.抗炎症作用
フェルナビオンは「非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」という種類に属しますが、NSAIDsの作用はその名のとおり消炎(炎症を抑える)によって鎮痛する(痛みを抑える)事になります。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。
フェルナビオンは炎症の原因が何であれ、炎症そのものを抑える作用を持ちます。つまり、発赤・熱感・腫脹・疼痛を和らげてくれるという事です。
具体的にどのように作用するのかというと、フェルナビオンなどのNSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)という物質のはたらきをブロックするはたらきがあります。
COXは、プロスタグランジン(PG)が作られる時に必要な物質であるため、COXがブロックされるとプロスタグランジンが作られにくくなります。
プロスタグランジンは炎症や痛み、発熱を誘発する物質です。そのため、フェルナビオンがCOXをブロックすると炎症や痛み、発熱が生じにくくなるのです。
フェルナビオンの作用により、炎症が抑えられると、痛みも生じにくくなります。
フェルナビオンパップのようなお薬は俗に「痛み止め」と呼ばれていますが、この痛み止めとしての作用は、このように抗炎症作用が生じた結果によってもたらされています。
4.フェルナビオンパップの副作用
フェルナビオンパップにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
フェルナビオンパップはジェネリック医薬品ですので副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「セルタッチ」では、副作用発生率は1.41%と報告されておりフェルナビオンも同程度だと考えられます。
報告されている副作用としては湿布を貼った部位に生じるものが多く、
- 皮膚炎(発疹や湿疹を含む)
- 掻痒(かゆみ)
- 発赤(赤くなる)
- 接触性皮膚炎(かぶれる)
などが報告されています。
頻度は極めてまれですが、重篤な副作用としては、
- ショック
- アナフィラキシー(じんま疹、血管浮腫、呼吸困難など)
が報告されています。
またフェルナビオンパップは、次に該当する方は使用禁忌(絶対に使ってはいけない)となっていますので注意が必要です。
- フェルナビオンに対して過敏症の既往のある方
- アスピリン喘息またはその既往のある方
5.フェルナビオンパップの用量・用法と剤型
フェルナビオンパップは、
フェルナビオンパップ 70mg(湿布1枚10×14cm) 1袋(7枚入り)
といった剤型があります。
以前はパップ剤以外にも
フェルナビオンテープ 35mg(湿布1枚7×10cm) 1袋(湿布7枚入り)
フェルナビオンテープ 70mg(湿布1枚10×14cm) 1袋(湿布7枚入り)
という剤型もありましたが、原材料の1つである「ノニル酸ワニリルアミド」が入手困難となったため、2016年に発売中止となってしまいました。
テープ剤とパップ剤は何が違うのでしょうか。
テープ剤もパップ剤も含まれている主成分は全く同じなのですが、基材の違いがあります。
まず見た目としては、パップ剤が白色でテープが肌色という事が多く、テープ剤の方が目立たないため、目立つ部位にも比較的貼りやすいと言えます。
根本的な違いとしてはパップ剤は水溶性の基材を用いており、テープ剤は脂溶性の基材を用いているという点が挙げられます。
水分を多く含む水溶性のパップ剤は貼った時に「清涼感(ひんやりした感覚)」を得やすいため、この冷たい感覚を好む方はパップ剤が良いでしょう。中にはこのひんやり感がないと「効いている感じがしない!」という方もいらっしゃいます。
脂溶性のテープ剤は油と相性が良いため、皮膚にくっつきやすくはがれにくいというメリットがあります。そのため、剥がれやすい部位(関節など動く場所)にはテープ剤が適しています。
これらの違いを理解し、自分が使いたい部位に応じて適切な剤型を選びましょう。
フェルナビオンパップの使い方は、
1日2回患部に貼付する。
と書かれています。
湿布剤は1日1回の貼付で良いものが多いのですが、フェルナビオンは1日2回となっており、他の湿布と比べてやや手間となります。
6.フェルナビオンパップの使用期限はどれくらい?
フェルナビオンパップの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった湿布があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
これは保存状態によっても異なってきますので一概に答えることはできませんが、適切な条件(室温・遮光・気密容器)で保存されていたのであれば「3年」が使用期限となります。
フェルナビオンパップは基本的には遮光、気密容器、室温で保存するものですので、この状態で保存していたのであれば上記期間持つと考えて良いでしょう。反対に暑い場所で保管していたり、光が当たる場所で保管していた場合は、使用期限は短くなる可能性があります。
7.フェルナビオンパップが向いている人は?
以上から考えて、フェルナビオンパップが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
フェルナビオンパップの特徴をおさらいすると、
・貼った部位の炎症を抑え、痛みを和らげる作用がある
・湿布であり、痛みがある部位にのみ効かせることができる
・お薬の成分が全身に回りにくいため、副作用が少ない
・清涼感(ひんやり感)があるが、伸縮性や粘着性は強くはない
・わずかに特異なにおいがある
・ポカポカ感を得られるトウガラシエキスを配合している
・1日2回貼り替えないといけず、やや手間
というものでした。
痛み止め(NSAIDs)の湿布剤は多くの種類が発売されていますが、ざっくりと言ってしまえばどれも大きな差はなく、好みで選んで良いものです。
多くの湿布剤の中でのフェルナビオンの特徴は、
- ポカポカ感を得られる温感タイプの湿布である
- 1日2回貼り換えないといけない
という点が挙げられます。
パップ剤の特徴としては、貼った時に清涼感(ひんやり感)が得られることです。これはパップ剤は清涼剤であるメントールを配合しているからです。別に清涼感が得られるから鎮痛効果があるという事は医学的にはないのですが、患者さんによっては「ひんやりしないと効いている感じがしない」と言う方もいらっしゃいます。
フェルナビオンはメントールに加えてトウガラシエキスが配合されているため、清涼感がありながら、ポカポカした温かさも感じる事が出来ます。このため、患部を温めたいような時には良い適応となります。
また多くの湿布が1日1回の交換で良い中、フェルナビオンは1日2回の貼り換えが必要であり、これはやや手間となります。
一方で伸縮性(伸び)と粘着性(くっつき)は弱いため、関節など動く場所に貼ってしまうとはがれやすいかもしれません。またパップ剤は白色の湿布剤のため服から出ている部位に貼ってしまうと比較的目立ってしまうという事も挙げられます。
このようなケースではパップ剤しかないフェルナビオンはあまり向いていないため、テープ剤のある湿布剤が向いています。
湿布は身体の一部分のみが痛いという時に、その部位だけお薬を作用させたい時に効率よく使えるお薬です。しかし反対に全身の広い部位に痛みを感じる場合は、湿布よりも痛み止めの飲み薬の方が全身にお薬が回りますので良いかもしれません。
またフェルナビオンパップはあくまでも炎症を抑えているだけで根本を治しているわけではない事は知っておく必要があります。
例えば骨折に痛みにフェルナビオンパップを貼れば、確かに痛みは和らぎます。しかしこれは痛みの原因である骨折を治す作用はありません。あくまでも骨折で生じる痛みを感じさせにくくしているだけになります。
そのため、痛みに何らかの治療可能な原因がある場合は、安易に痛み止めで痛みを抑えるのではなく、原因を突き止め、根本を治すような治療も並行して行っていく必要があります。