フエナゾール軟膏・フエナゾールクリーム(一般名:ウフェナマート)は1983年から発売されている外用剤(塗り薬)で「非ステロイド系抗炎症剤」という種類に属します。
非ステロイド系抗炎症剤とは、
- ステロイドではなく
- 主に炎症を抑えたり痛みを和らげる作用を持つ
お薬の総称で、NSAIDsとも呼ばれています。
皮膚の生じた急性の炎症に対して、炎症を抑えたり痛みを軽減する目的で処方されますが、近年では処方される頻度が徐々に減ってきています。その理由はフエナゾール以外の優れたお薬が充実してきたため、わざわざフエナゾールを選択するようなケースが少なくなっていることと、フエナゾールは時に接触性皮膚炎という副作用が生じるからです。
皮膚に塗る外用剤はたくさんの種類があり、それぞれがどのような特徴を持つのか分かりにくいと思います。フエナゾール軟膏(クリーム)がどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのか、その効果・効能や特徴、副作用についてみていきましょう。
目次
1.フエナゾールの特徴
まずはフエナゾールの特徴をざっくりと紹介します。
フエナゾールは、主に炎症を和らげる(消炎)はたらきと痛みを和らげる(鎮痛)はたらきを持ちます。ステロイドではないため、ステロイドが使いにくいような疾患にも向いています。
フエナゾールは「非ステロイド性消炎鎮痛剤」と呼ばれますが、その名の通り「ステロイドではない」「消炎・鎮痛作用がある」ことが特徴です。
ステロイドではないため、ステロイドを塗ることが推奨されないような感染性の湿疹、酒さ性皮膚炎などにも塗ることが出来ます。
ステロイドは免疫力(ばい菌と闘う力)を下げてしまうため、感染症に用いることは推奨されていません。また酒さ性皮膚炎は、ステロイドの副作用によって皮膚炎を生じている疾患ですので、ステロイドを用いるわけにはいきません。
フエナゾールは主に急性の湿疹に対して用いられることが多く、帯状疱疹など一時的に炎症や痛みが強くなる皮膚疾患においては用いられる事があります。
デメリットとしては、フエナゾールを塗ることによって接触性皮膚炎が生じてしまう事が頻度は低いながらもある事です。ちなみにフエナゾールと作用機序が似ているアンダーム(一般名:ブフェキサマク)というお薬は、接触性皮膚炎の副作用の問題などもあり、2010年に販売中止となっています。
以上から、フエナゾールの特徴としては次のようなことが挙げられます。
【フエナゾール軟膏・フエナゾールクリームの特徴】
・消炎作用(炎症を抑える)・鎮痛作用(痛みを和らげる)がある
・ステロイドではないため、ステロイドが向かない疾患にも使える
(感染性疾患や酒さ性皮膚炎など)
・接触性皮膚炎に注意
2.フエナゾールはどのような疾患に用いるのか
フエナゾールはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
急性湿疹、慢性湿疹、脂漏性湿疹、貨幣状湿疹、接触皮膚炎、アトピー皮膚炎、おむつ皮膚炎、酒査様皮膚炎・口囲皮膚炎、帯状疱疹
たくさんの病名に対して適応を持っていますが、実際に用いるのは、
- 急性湿疹
- 酒査様皮膚炎
- 帯状疱疹
あたりです。
フエナゾールは消炎作用と鎮痛作用を有していますが、それ以外の作用は無いか極めて弱いものとなります。
抗アレルギー作用もわずかにありますが、強くはありません。そのためアトピー皮膚炎に対しては、ステロイドや保湿剤など他の塗り薬を用いることが多いのが実情です。
また創傷(キズ)の治りを早める作用に優れるわけでもないため、おむつかぶれなどに対しても別の塗り薬を用いることが多いのが現状です。
接触性皮膚炎に対しては炎症を抑える作用は有しますが、フエナゾール自体が接触性皮膚炎の原因になってしまう事もあるため、触性皮膚炎に用いられることはあまりありません。
フエナゾールの有効率は、
- 急性湿疹への有効率は、軟膏で64.6%・クリームで77.1%
- 慢性湿疹への有効率は、軟膏で42.6%・クリームで82.1%
- 脂漏性湿疹への有効率は、軟膏で76.3%・クリームで70.0%
- 貨幣状湿疹への有効率は、軟膏で50.9%・クリームで50.0%
- 接触皮膚炎への有効率は、軟膏で66.7%・クリームで71.4%
- アトピー皮膚炎への有効率は、軟膏で56.3%・クリームで50.0%
- おむつ皮膚炎への有効率は、軟膏で61.1%・クリームで40.0%
- 酒さ様皮膚炎・口囲皮膚炎への有効率は、軟膏で65.7%・クリームで58.3%
- 帯状疱疹への有効率は、軟膏で81.4%・クリームで79.4%
と報告されています。
3.フエナゾールにはどのような作用があるのか
フエナゾールは、どのような作用を持つお薬なのでしょうか。
フエナゾール軟膏には大きく分けると次の3つの作用があります。どの作用も強くはありませんが、主に「抗炎症作用」が中心であり、その他の作用は非常に弱いと考えられています。
Ⅰ.抗炎症作用
フエナゾールは、炎症を和らげる作用を持ちます。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
例えば身体をぶつけたり、身体にばい菌が入ったりすると、その部位が赤くなったり熱感を持ったり、腫れたり、痛んだりという状態になりますが、これが炎症です。
皮膚に炎症が起こることを皮膚炎と呼びます。皮膚炎も外傷でも生じるし、ばい菌に感染することでも生じるし、アレルギーでも生じます。
どのような原因であれ、炎症そのものを抑えてくれる作用が抗炎症作用です。フエナゾールは抗炎症作用があり、発赤・熱感・腫脹・疼痛といった症状を和らげてくれます。
具体的は、フエナゾールなどのNSAIDsの作用機序を見ると、シクロオキシゲナーゼ(COX)という物質をブロックするはたらきがあります。
COXは、プロスタグランジン(PG)が作られる時に必要な物質であるため、COXがブロックされるとプロスタグランジンが作られにくくなります。
プロスタグランジンは炎症や痛みを誘発する物質であるため、フエナゾールがCOXをブロックすると炎症や痛みが生じにくくなるのです。
炎症が起きると血管の透過性が亢進し、血管内から血管外へ様々な物質が移動していきます。これは炎症の原因となっているもの(ばい菌や外傷など)を修復する作用がある一方で、「発赤」「熱感」「腫脹」「疼痛」を引き起こしてしまいます。また浮腫(むくみ)の原因になることもあります。
フエナゾールは、COXの作用をブロックすることで、炎症や浮腫を和らげるはたらきがあるのです。
Ⅱ.鎮痛作用
炎症は疼痛(痛み)も引き起こします。
フエナゾールはCOXをブロックすることで炎症を和らげ、痛みを抑える作用も有しています。
ただしその効果は強くはありません。
Ⅲ.抗アレルギー作用
フエナゾールは抗アレルギー作用をわずかに有しており、そのためアトピー性皮膚炎への適応も持っています。
しかし抗アレルギー作用は非常に弱いため、アレルギー疾患に対してフエナゾールを主剤として加療を行うことはほとんどありません。
4.フエナゾールの副作用
フエナゾールにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
フエナゾールの副作用発生率は軟膏で1.66%・クリームで1.24%と報告されており、多くはありません。
しかし全体的に効果が穏やかなフエナゾールは、効果/副作用の比で考えると、効果の割には副作用が生じる印象のあるお薬です。
効果の強いお薬は副作用も強い、効果の弱いお薬は副作用も少ない。これがお薬の効果・副作用関係の基本になります。しかしフエナゾールは効果が弱い割には副作用が極めて少ないとは言えません。
もちろん副作用が多いお薬ではないのですが、これもフエナゾールが近年用いられていない理由なのではないでしょうか。
報告されている副作用としてはありふれたものが多く、
- 発赤・潮紅
- 刺激感
- かゆみ
- 丘疹
- 灼熱感
- 接触性皮膚炎
などがあります。いずれも重篤となることは少なく、フエナゾールの使用を中止すれば改善することがほとんどです。
5.フエナゾールの用量・用法と剤型
フエナゾールは、
フエナゾール軟膏5% 10g
フエナゾール軟膏5% 500gフエナゾールクリーム5% 10g
フエナゾールクリーム5% 500g
といった剤型があります。
いずれも10gはチューブに入っており、500gは壺のようなプラスチック容器に入っています。
フエナゾールの使い方は、
本品の適量を1日数回患部に塗布または貼布する。
と書かれています。
ちなみに塗り薬には、「軟膏」「クリーム」「ローション」などがありますが、これらはどう違うのでしょうか。
軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。長時間の保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。また皮膚への浸透力も強くはありません。
クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。
ローションは水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。しかし皮膚への浸透力は強く、皮膚が厚い部位などに使われます。
それぞれ一長一短あるため、皮膚の状態に応じて主治医とよく相談し、使い分ける事が大切です。
フエナゾールには軟膏剤とクリーム剤があります。
6.フエナゾールの使用期限はどれくらい?
フエナゾールの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった軟膏があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
これは保存状態によっても異なってきますので一概に答えることはできませんが、適切な条件で保存されていたのであれば「3年」は持つと報告されています。
フエナゾールは基本的には室温・遮光保存するものですので、この状態で保存していたのであれば「3年」は持つと考えて良いでしょう。反対に暑い場所で保管していたり、光が当たる場所で保管していた場合は、使用期限は短くなります。
7.フエナゾールが向いている人は?
以上から考えて、フエナゾールが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
フエナゾールの特徴をおさらいすると、
・消炎作用(炎症を抑える)・鎮痛作用(痛みを和らげる)がある
・ステロイドではないため、ステロイドが向かない疾患にも使える
(感染性疾患や酒さ性皮膚炎など)
・接触性皮膚炎に注意
というものでした。
最近ではフエナゾールを用いる機会というのは少なくなっており、ほとんど新規に処方することはありません。
理由は他に優れたお薬がたくさんあるからです。
炎症や疼痛を抑えたいのであれば、ステロイドや他のNSAIDsもたくさんあります。アレルギーを抑えるのであれば抗アレルギー作用がしっかりしているお薬がたくさんあります。
「絶対にフエナゾールでないといけない」という疾患があまりないのです。
しかしフエナゾールが悪いお薬というわけではありません。
フエナゾールはステロイドではないため、ステロイドが好ましくないような皮膚状態で、かつ消炎・鎮痛をした方が良い皮膚には向いているお薬です。
具体的には、
- 感染性の皮膚疾患(帯状疱疹など)
- 酒さ様皮膚炎
などでしょうか。
しかしフエナゾールはあくまでも炎症を抑えているだけで根本を治しているわけではありません。
例えば帯状疱疹に用いれば、帯状疱疹で生じる皮膚のピリピリした痛みは和らぎますが、原因であるヘルペスウイルスをやっつける作用はありません。フエナゾールで痛みを抑えながらも抗ウイルス薬も併用していく必要があります。