フェナゾックスカプセル(一般名:アンフェナクナトリウム水和物)は1985年から発売されているお薬です。非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)と呼ばれ、炎症を抑える事で熱を下げたり痛みを抑えたりする作用を持ちます。
NSAIDsにはたくさんの種類があります。どれも大きな違いはありませんが、細かい特徴や作用には違いがあり、医師は痛みの程度や性状に応じて、その患者さんに一番合いそうな痛み止めを処方しています。
NSAIDsの中でフェナゾックスはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここでは、フェナゾックスの効能や特徴、副作用などを紹介していきます。
目次
1.フェナゾックスの特徴
まずはフェナゾックスの特徴を紹介します。
フェナゾックスは熱を下げたり(解熱)、痛みを抑えたり(鎮痛)する作用を持ちます。即効性に優れる解熱鎮痛剤ですが、その反面、持続力はありません。
フェナゾックスはNSAIDsに属します。NSAIDsの中でも「フェニル酢酸系」という種類に属します。
NSAIDsとは「非ステロイド性消炎鎮痛剤」の事で、ステロイド作用を持たない炎症を抑えるお薬の事です。炎症が抑えられると熱を下げたり、痛みを抑えたりといった効果が期待できるため、臨床では主に熱さまし(解熱剤)・痛み止め(鎮痛剤)として用いられています。
フェナゾックスの特徴は、極めて即効性に優れるという点です。服用してから血中濃度が最大になるまでにかかる時間は15~30分程度であり、これはNSAIDsの中でも最速クラスです。個人差はありますが、体感的には服用して10分程度で効果が感じられます。
しかし持続力はありません。お薬の作用時間を知る目安として「半減期」という値があります。半減期はお薬の血中濃度が半分に落ちるまでにかかる時間の事で、半減期が短いほど作用時間は短い傾向があります。
フェナゾックスの半減期はわずか23分と報告されており、持続力はほとんど期待できません。
「飲んですぐに効くけど、すぐに身体から抜ける」これがフェナゾックスの特徴になります。
フェナゾックスの熱を下げる力・痛みを抑える力はどのくらいかというと、これはNSAIDsの中では「中等度の強さ」になります。特別に強くもなく弱くもありません。
副作用としては、長期使用による胃腸障害に注意しなければいけません。これはフェナゾックスに限らずほとんどのNSAIDsに言えることですが、NSAIDsは胃腸を痛めてしまうリスクのあるお薬になります。またNSAIDsは喘息を誘発しやすくすることが知られており、喘息の方にはできる限り用いるべきではありません。
以上からフェナゾックスの特徴として次のような点が挙げられます。
【フェナゾックスの特徴】
・解熱作用・鎮痛作用は中等度
・即効性に優れるが、持続力はない
・副作用の胃腸障害に注意(他のNSAIDsと同様)
・喘息には使えない(他のNSAIDsと同様)
2.フェナゾックスはどのような疾患に用いるのか
フェナゾックスはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇下記の疾患並びに症状の消炎・鎮痛関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、顎関節症
〇手術後、外傷後並びに抜歯後の消炎・鎮痛
フェナゾックスは解熱鎮痛剤であり、炎症を抑える事で熱を下げたり痛みを和らげる作用があります。
そのため用いる疾患は、発熱を来すようなもの、痛みを来すようなものになります。
難しい病名が書かれていますが、大きな認識としては「痛みや熱などが認められる疾患に対して、その症状の緩和に用いる」という認識で良いでしょう。
フェナゾックスはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
フェナゾックスの有効率(改善以上の率)は、
- 関節リウマチに対する有効率は48.0%
- 変形性関節症に対する有効率は57.4%
- 腰痛症に対する有効率は61.1%
- 肩関節周囲炎に対する有効率は44.0%
- 頸肩腕症候群に対する有効率は48.1%
- 顎関節症に対する有効率は61.8%
- 手術後・外傷後痛に対する有効率は64.3%
- 抜歯後痛に対する有効率は69.6%
と報告されています。
フェナゾックスを始めとするNSAIDsを使用する際は、これらは根本を治す治療ではなく、あくまでも対症療法に過ぎないことを忘れてはいけません。
対症療法とは「症状だけを抑えている治療法」の事です。あくまでも表面的な症状を感じにくくさせているだけの治療法で根本を治している治療ではない事を忘れてはいけません。
例えば腰の筋力低下によって腰痛が出現している方に対してフェナゾックスを投与すれば、確かに痛みは軽減します。しかしこれは原因である腰部の筋肉低下を治しているわけではなく、あくまでも発痛を起こしにくくしているだけに過ぎません。
対症療法が悪い治療法だということではありませんが、対症療法だけで終わってしまうのは良い治療とは言えません。対症療法と合わせて、根本を治すような治療も併用することが大切です。
例えば先ほどの腰痛であれば、フェナゾックスを使用しつつも、
- 適度な運動・リハビリをする
- 栄養をしっかり取る
などの根本的な治療法も併せて行う必要があるでしょう。
3.フェナゾックスにはどのような作用があるのか
フェナゾックスは「非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」という種類に属しますが、NSAIDsの作用は、消炎(炎症を抑える)事によって解熱(熱を下げる)と鎮痛(痛みを抑える)ことになります。
フェナゾックスも他のNSAIDsと同様に鎮痛作用と解熱作用を有しています。その作用機序について説明します。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。
フェナゾックスは、炎症の原因が何であれ、炎症そのものを抑える作用を持ちます。つまり、発赤・熱感・腫脹・疼痛を和らげてくれるという事です。
具体的にどのように作用するのかというと、フェナゾックスなどのNSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)という物質のはたらきをブロックするはたらきがあります。
COXは、プロスタグランジン(PG)が作られる時に必要な物質であるため、COXがブロックされるとプロスタグランジンが作られにくくなります。
プロスタグランジンは炎症や痛み、発熱を誘発する物質です。そのため、フェナゾックスがCOXをブロックすると炎症や痛み、発熱が生じにくくなるのです。
4.フェナゾックスの副作用
フェナゾックスにはどんな副作用があるのでしょうか。またどの頻度はどのくらいなのでしょうか。
フェナゾックスの副作用発生率は3.29%と報告されています。他のNSAIDsと比べても副作用の頻度は同じくらいになります。
生じうる副作用としては、
- 消化管障害(胃部不快感、胃痛、下痢など)
- 皮膚・皮膚付属器障害(発疹など)
- 一般的全身障害(顔面浮腫など)
- 肝臓・胆管系障害(AST上昇、ALT上昇など)
- 泌尿器系障害(BUN上昇など)
などが報告されています。
フェナゾックスをはじめとしたNSAIDsには共通する副作用があります。
もっとも注意すべきなのが「消化管の障害」です。これはNSAIDsがプロスタグランジンの生成を抑制するために生じます。
プロスタグランジンは、胃などの腸管粘膜を保護するはたらきを持っているため、NSAIDsによってこれが抑制されると胃腸が荒れやすくなってしまうのです。これにより、胃痛や胃部不快感、下痢などが生じる事があります。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- ショック
- 消化性潰瘍、胃腸出血
- ネフローゼ症候群
などが報告されています。これらの副作用は滅多に生じるものではありませんが、報告がないわけではありませんので一応の注意が必要です。
またフェナゾックスは次のような患者さんには投与する事が出来ません(禁忌)。
- 消化性潰瘍のある方(胃潰瘍・十二指腸潰瘍などをより悪化させる)
- 重篤な血液の異常のある方(血液異常を更に悪化させる)
- 重篤な肝障害のある方(肝障害をより悪化させる)
- 重篤な腎障害のある方(腎障害をより悪化させる)
- 重篤な心機能不全のある方(心機能をより悪化させる)
- フェナゾックスに対して過敏症の既往歴のある方
- アスピリン喘息またはその既往歴のある方(喘息発作を誘発する)
- 妊婦又は妊娠している可能性のある方
また、NSAIDsは喘息を誘発する危険があるため、できる限り喘息の患者さんには投与しない方が良いでしょう。
5.フェナゾックスの用法・用量と剤形
フェナゾックスは次の剤型が発売されています。
フェナゾックスカプセル 50mg
また、フェナゾックスの使い方は次のように書かれています。
通常成人は、1日200mgを4回に分け毎食後及び就寝前に経口投与する。
頓用する場合は1回50mgを経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
6.フェナゾックスが向いている人は?
フェナゾックスはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
フェナゾックスの特徴をおさらいすると、
・解熱作用・鎮痛作用は中等度
・即効性に優れるが、持続力はない
・副作用の胃腸障害に注意(他のNSAIDsと同様)
・喘息には使えない(他のNSAIDsと同様)
といった特徴がありました。
基本的にNSAIDsは、どれも大きな差はないため、処方する医師が使い慣れているものを処方されることも多々あります。
フェナゾックスは、
- 即効性に優れる事
- 作用時間が短く、持続力がない事
がメリットとして挙げられます。
ここから、現在生じている熱や痛みを出来るだけ早く抑えたいという場合には向いています。血中濃度が最大になるまでにかかる時間は15~30分程度であり、体感的には10分程度で効果が表れてきます(個人差はあります)。
しかし持続力はありません。お薬の血中濃度が半分まで落ちてしまうのにかかる時間は23分と極めて短く、しっかりとした効果は数時間しか持たないでしょう。
そのため1日を通して効果を持続させるには1日4回服用しなくてはいけず、手間になります。
上記のメリットとデメリットを理解した上で主治医と相談してフェナゾックスを使用するかどうかは判断しましょう。