フェネルミン錠(一般名:クエン酸第一鉄ナトリウム)は、1986年から発売されている「フェロミア」のジェネリック医薬品です。
ジェネリック医薬品とは、先発品(フェロミア)の特許が切れた後に他社から発売された同じ成分からなるお薬の事です。お薬の開発・研究費がかかっていない分だけ、先発品よりも薬価が安くなっているというメリットがあります。
フェネルミンは鉄製剤になります。鉄製剤というのはいわゆる「鉄分」の事です。つまりフェネルミンは身体の中の鉄分が不足している時にそれを補うお薬だという事です。
私たちの身体において鉄分は主に「赤血球」という血球を作る原料になりますので、鉄製剤の事を「造血剤(血を作るためのお薬)」と呼ぶ事もあります。
鉄分は食事を規則正しく、バランス良く摂取していれば不足する事はほとんどありません。しかし偏った食生活が続いていたり、出血量が多かったりすると体内の鉄分は不足してしまい、赤血球を十分に作れなくなります。
このように赤血球が少ない状態は「貧血」と呼ばれ、そのような時はフェネルミンのようなお薬が役立ちます。
ここではフェネルミンの特徴や効果・副作用について説明していきます。
目次
1.フェネルミンの特徴
まずはフェネルミンというお薬の全体的な特徴についてみていきましょう。
フェネルミンは鉄製剤であり、体内の鉄分が不足している時にそれを補うお薬になります。体内の鉄分が足りないと貧血になるため、そのような時に用いられます。
貧血というのは、身体の中の「赤血球」が少なくなってしまう状態の事です。赤血球は、血液中に存在している血球の1つで、肺から取り込まれた酸素を全身の組織に届けるはたらきがあります。赤血球が全身に酸素を届けてくれるからこそ、私たちの身体は活発に活動する事が出来るのです。
この赤血球が少なくなってしまうと(=貧血)、全身に十分な酸素が届かないため、身体のだるさや息切れ、動悸などが生じるようになります。
赤血球は「鉄」を原料にして作られています。つまり鉄分が不足してしまうと、赤血球が十分に作れずに貧血になってしまうという事です。ちなみに貧血のうち、鉄が足りない事で貧血になってしまう事を「鉄欠乏貧血」と呼び、このような時にフェネルミンのような鉄製剤が役立ちます。
鉄剤にもいくつかの種類があります。また病院で処方される鉄製剤以外にもドラッグストアなどにも鉄のサプリメントが売られています。これらとフェネルミンはどのように異なるのでしょうか。
どちらも鉄分を含んでいる事には変わりませんが、まず病院で処方される鉄製剤の方が鉄の含有量が多いという違いがあります。
一般的な鉄剤サプリメントに含まれている鉄分は1錠中3mg~10mg程度です。しかしフェネルミンは1錠中に50mgもの鉄分を含んでいます。
しかし高濃度の鉄分を摂取すると問題もあります。高濃度の鉄は胃腸に負担をかけてしまうため、胃腸症状(胃痛や吐き気、便秘など)を引き起こしたり、胃腸を障害することで逆に鉄の吸収率を下げてしまう事があります。鉄剤サプリメントが高用量の鉄を含んでいないのはこのためです。
しかしフェネルミンは高用量でありながら、胃腸に負担をなるべくかけないように工夫されています。
フェネルミンは非イオン型のまま吸収されるように工夫されており、これによって消化管内のpHの上下に関わらず吸収されやすく胃腸への負担も少なくなっています。
とは言っても胃腸に全く負担をかけないわけではありません。胃腸症状はフェネルミンを服用している方に生じやすい副作用ではありますので、一定の注意は必要です。
またフェネルミンをはじめとした鉄製剤は、あくまでも「鉄が足りない事が原因で生じている貧血」に用いられるお薬であり、すべての貧血に対して有効なお薬ではありません。そのため、鉄が欠乏している事で生じている貧血である事をしっかりと確認した上で開始する必要があります。
フェネルミンはジェネリック医薬品ですので、先発品の「フェロミア」と比べて薬価が安いというメリットもあります。
以上からフェネルミンの特徴として次のような事が挙げられます。
【フェネルミンの特徴】
・高濃度の鉄分を含有したお薬である |
2.フェネルミンはどのような疾患に用いるのか
フェネルミンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
鉄欠乏性貧血
フェネルミンは鉄製剤ですので、体内の鉄分が不足している時に用いられます。具体的には「鉄欠乏性貧血」に用いられるお薬になります。
鉄欠乏性貧血は鉄分の摂取量が少なかったり、鉄分の必要量が増えたり、鉄分の排泄が多かったりする事で生じます。
鉄分の摂取量が少ないのは、偏った食事や胃酸分泌低下(ピロリ菌感染など)などが挙げられます。ピロリ菌に感染して胃が萎縮してしまい胃酸が出なくなると鉄分の吸収率が落ちるため、身体は鉄欠乏になりやすくなります。
鉄分の必要量が増える状態としては、妊娠や成長期などが挙げられます。妊娠すると赤ちゃんにまでしっかり血液を届ける必要があるため、血液量を増やさないといけません。そのため鉄分の必要量も多くなります。また成長期は身体をどんどん大きくするために全身にたくさんの酸素を届ける必要があり、やはり必要な鉄の量が増えます。
鉄分の排泄が多くなる原因としては「出血」が挙げられます。血液中の赤血球は鉄を原料に作られていますので、出血によって赤血球がたくさん失われれば身体の中の鉄分は減少します。
出血として多いのは女性の月経(生理)による出血です。また中高年の方が注意すべき事としては「胃がん」「大腸がん」からの出血も挙げられます。これは「血便」という形で排泄されますが、少しずつ出血している場合は発見が遅れる事も少なくありません。
ではこのような原因で生じる鉄欠乏性貧血に対してフェネルミンはどのくらいの効果が見込めるのでしょうか。
フェネルミンはジェネリック医薬品ですので、有効性に関する詳しい調査は行われておりません。しかし先発品の「フェロミア」では行われており、その結果が参考になります。
フェロミアの服用によって、貧血症状(倦怠感、動悸、息切れ、めまいなど)や、血液検査所見(ヘモグロビン、血清鉄など)が改善した割合は、
- 貧血症状が改善した率は89.1%
- 血液検査所見が改善した率は72.7%
と報告されています。
また血液検査所見の改善は、1日100mg投与よりも200mg投与のようが有意に改善度が高かった事も示されています。
同じ主成分からなるフェネルミンもこれと同程度の有効率があると考えられます。
ただしフェネルミンによる鉄欠乏性貧血の治療は、あくまでも鉄分を補っているだけで根本的な治療をしていない事もあります。
例えば大腸がんで出血が続いていて鉄欠乏性貧血になっている場合、フェネルミンを投与すれば確かに貧血は改善するでしょう。しかしそれで治療が終わってしまうと大腸がんはどんどん進行してしまいます。この場合、フェネルミンも必要ですが、一番大切なのは大腸がんの治療です。
鉄欠乏性貧血がある場合は、単に治療をするだけでなく、しっかりと原因と調べる事も大切です。
3.フェネルミンの作用機序
貧血を改善させるはたらきを持つフェネルミンですが、どのような作用機序を持っているのでしょうか。
貧血は、血液中の「赤血球」が少なくなる状態です。そしてフェネルミンが効果を発揮する「鉄欠乏性貧血」は体内の鉄分が少なくなっている事で赤血球を十分に作れなくなってしまう状態です。
赤血球は肺から取り込んだ酸素を全身の組織に送るはたらきがあるため、赤血球が少なくなると全身が酸素不足となり、十分な生体活動が行えなくなります。その結果、だるさやめまい、動悸、息切れなどが生じます。
フェネルミンの作用機序を知るために、まずは赤血球が作られる過程について見ていきましょう。
赤血球をはじめとした血球のほとんどは、骨髄(こつずい)という場所で作られています。骨髄というのは「骨の中」です。実は血球というのは骨の中で作られているのです。
骨髄ではまず「造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)」と呼ばれる細胞が造られます。造血幹細胞はあらゆる血球の「元」となる細胞で、ここから「赤血球」「白血球」「血小板」などに成長していきます(これを「分化する」と言います)。
造血幹細胞の一部は赤血球に成長していきますが、まずは造血幹細胞から「赤芽球(せきがきゅう)」という赤血球の前段階の細胞になります。赤芽球はまだ未熟な赤血球ですので酸素を運搬する能力を備えていません。
酸素を運搬するには「ヘモグロビン」というたんぱく質が必要です。なぜならばヘモグロビンは酸素分子と結合できる性質を持っている物質だからです。そのため赤芽球は細胞内でたくさんのヘモグロビンを合成します。
ヘモグロビンは「ヘム」と「グロビン」からなります。ヘムは赤色の色素であり、血が赤く見えるのはヘムがあるからです。ヘムを作るためには鉄分が必要です。一方でグロビンはたんぱく質です。
私たちは鉄分を主に食事から摂取します。食べ物中に含まれる鉄分は小腸(特に十二指腸)から吸収され、血液中の「トランスフェリン」というたんぱく質にくっついて骨髄に連れていかれます。そして骨髄で赤芽球に取り込まれ、ヘムの原料となるのです。
細胞内にたくさんのヘモグロビンが合成されると赤芽球は赤血球に成長していきます。赤血球になると骨髄から血液中に放たれ、酸素を全身に運搬する役割を担うようになります。
これが赤血球が作られる機序になります。
では次に身体の中の鉄分が少なくなっている時を考えてみましょう。身体の中に十分な鉄がないと赤芽球がヘモグロビンを十分に合成できなくなります。そうなれば当然、血液中の赤血球が減少する事になります。
赤血球が減少すれば、全身の組織に酸素を運搬できなくなるため、生体活動を十分に行えなくなり、疲れやすさや動悸、息切れなどが生じます。
これが鉄欠乏性貧血で、このような状態を改善させるのがフェネルミンです。
フェネルミンに含まれる鉄は、服用すると小腸から吸収されてトランスフェリンにくっついて骨髄に運ばれます。そこで赤芽球に取り込まれヘモグロビンの原料となるため、赤血球が活発に作られるようになります。
4.フェネルミンの副作用
フェネルミンにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
フェネルミンはジェネリック医薬品ですので、副作用発生率に関する詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「フェロミア」では行われており、副作用発生率は8.2%と報告されています。同じ主成分からなるフェネルミンも同程度の副作用発生率だと考えられます。
フェネルミンは通常の食べ物にも含まれる「鉄」が主成分ですので、危険性の高いお薬ではありません。しかし鉄を高濃度で配合しているため、注意すべき副作用はあります。
生じうる副作用としては、
- 嘔気・嘔吐
- 腹部不快感
- 胃痛・腹痛
- 食欲不振
- 胸やけ
- 便秘
- 肝機能障害(AST、ALT上昇)
などが報告されています。
鉄は消化器(胃腸など)に負担をかけるため、フェネルミンでは胃腸症状が比較的多く生じます。
また体内の鉄が過剰になると、鉄は肝臓に沈着するのため、肝機能障害を引き起こす事もあります。
いずれも症状がひどければフェネルミンを減量・中止しなければいけませんが、程度が軽ければ少し様子を見ても構いません。服用を続けていると自然と改善していく事もあります。
副作用ではありませんが、フェネルミンを摂取すると便に含まれる鉄分も多くなるため、便が黒色になります。これはびっくりされる方が多いのですが、鉄分が多量に便中に含まれるためですので心配はありません。
また歯に酸化鉄が沈着して茶色っぽくなる事もあります。この場合、歯磨き時に重曹などを使う事で取る事が出来ます。
フェネルミンを投与してはいけない方(禁忌)としては、
- 鉄欠乏状態にない方
が挙げられています。
フェネルミンは鉄分であり、あくまでも体内の鉄分が少ない方に鉄分を補充するお薬です。
鉄分が少なくない方に服用されてしまうと意味がないばかりが副作用や鉄過剰の症状が出現する可能性もあり、デメリットが大きくなります。
体内に鉄が過剰に蓄積されると、肝障害や心不全などが引き起こす危険があります。
5.フェネルミンの用法・用量と剤形
フェネルミンは、
フェネルミン錠 50mg
の1剤形のみがあります。
先発品の「フェロミア」には顆粒(粉剤)もありますので、粉が良い方は先発品にするのも方法です。
フェネルミンの使い方は、
通常成人は、鉄として1日100~200mgを1~2回に分けて食後経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
となっています。
6.フェネルミンが向いている人は?
以上から考えて、フェネルミンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
フェネルミンの特徴をおさらいすると、
【フェネルミンの特徴】
・高濃度の鉄分を含有したお薬である |
というものでした。
フェネルミンは鉄欠乏性貧血に用いられるお薬です。
本来、鉄分は食事を規則正しく・バランス良くすることで摂取する事が基本です。そのため鉄欠乏性貧血では安易にフェネルミンを始めるのではなく、まずは食生活の工夫にて改善させるべきです。
しかし食生活の工夫でも貧血が改善しなかったり、食生活の改善が困難である場合はフェネルミンのような鉄剤が有用です。
フェネルミンはジェネリック医薬品ですので、先発品の「フェロミア」と比べて薬価が安くなっています。そのため経済的負担を軽くしたい方にもおすすめしやすいお薬になります。
鉄欠乏性貧血は、背景に胃がん・大腸がんなどの出血性の悪性疾患が隠れている事があります。そのため単に貧血の治療をして終わってしまうのではなく、貧血の原因は何で生じているのかを出来る限り特定するようにしましょう。
7.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?
フェネルミンは「フェロミア」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリックは薬価も安く、剤型も工夫されているものが多く患者さんにとってメリットが多いように見えます。
しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。
ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。
結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。
ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。
発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、
ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。
しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば飲み心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。
これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。
では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。
先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。
しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。
先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。
つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。