リピディルの効果と副作用【脂質異常症治療薬】

リピディル(一般名:フェノフィブラート)は、2005年から発売されているお薬です。

脂質異常症(高脂血症)の治療薬で、その中でも「フィブラート系」という種類に属します。脂質異常症の治療薬にもいくつかの種類がありますが、リピディルのようなフィブラート系は主に中性脂肪を下げ、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を上げる作用に優れます。

発売当初は「リピディルカプセル」として発売されていましたが、2011年より「リピディル錠」となり、それに伴いカプセル剤は販売中止となりました。現在は錠剤のみが販売されています。

脂質異常症の治療薬はリピディルのようなフィブラート系よりも、「スタチン系」と呼ばれるお薬の方が有名で多く処方されています。スタチン系に属するお薬には、クレストール、リピトール、メバロチンなどがあります。

リピディルはスタチン系とは異なった作用を持ちます。同じ脂質異常症の治療薬でもお互い長所や短所があるため、脂質異常症のタイプによって適切に使い分ける事が大切です。

リピディルはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに使うお薬なのでしょうか。ここではリピディルの特徴や効果・副作用について紹介していきます。

 

1.リピディルの特徴

まずはリピディルの全体的な特徴を紹介します。

リピディルは、脂質の中でも特に中性脂肪(トリグリセリド)を下げ、善玉コレステロール(HDL)を上げる作用に優れます。

一口に「脂質」といっても、私たちの身体の中には、

  • 中性脂肪(トリグリセリド)
  • コレステロール

の2種類の脂質があります。

これらはどう違うのでしょうか。

中性脂肪は、いわゆる「体脂肪」の脂肪分が血液中に流れているものです。体脂肪は、いざという時にエネルギーとして使えるように普段はは皮下や内臓に蓄積されています。この体脂肪が血液中に流れているものが中性脂肪になります。

コレステロールはというと「身体を作るための材料」として使われる脂質の事です。コレステロールは細胞を構成する材料となったり、ホルモンを作る材料となったり、胆汁酸やビタミンの材料となったりします。

コレステロールには「善玉コレステロール(HDL-C)」と「悪玉コレステロール(LDL-C)」がありますが、善玉コレステロールは血管壁などにこびりついてしまった余分なコレステロールを回収して肝臓に運ぶはたらきがあります。

一方で悪玉コレステロールは肝臓で合成されたコレステロールを身体の様々なところへ運ぶはたらきがあります。

中性脂肪もコレステロールもどちらも身体にとって必要なものですが、過剰になりすぎれば害となります。

脂質異常症治療薬は、脂質のバランスが異常になってしまっている方に用います。具体的には、

  • 中性脂肪が多すぎる
  • 悪玉コレステロール(LDL-C)が多すぎる
  • 善玉コレステロール(HDL-C)が少なすぎる

というパターンがあります。

リピディルは中性脂肪を下げ、善玉コレステロールを上げる作用を持つため、脂質異常症の中でも、

  • 中性脂肪(トリグリセリド)が高い
  • 善玉コレステロール(HDL-C)が低い

というタイプに用いられる事の多いお薬になります。

リピディルには悪玉コレステロール(LDL-C)を下げる作用もあります。しかしこの作用は弱いため、悪玉コレステロールだけを下げたいのであれば他のお薬(スタチン系など)の方が適しています。

またリピディルの意外な作用として尿酸値を下げてくれるはたらきがあります(尿酸は痛風の原因になる物質です)。そのため中性脂肪が高くて、かつ尿酸値もやや高いという方にとってリピディルは一石二鳥の効果が期待できます。

副作用としては、肝臓に作用するお薬であるため肝臓の酵素が上昇してしまう事があります。また腎臓が悪い方が使うと更に腎臓を傷めてしまったり、横紋筋融解症という重篤な副作用が出現してしまう可能性が高くなるため、注意が必要です。

リピディルは作用時間が長いため、1日1回の服薬で良い点もメリットになります。

以上からリピディルの特徴として次のような点が挙げられます。

【リピディルの特徴】

・中性脂肪を下げる作用に優れる
・善玉コレステロールを上げる作用に優れる
・悪玉コレステロールを下げる作用は弱い
・尿酸値を少し下げてくれる
・肝臓・腎臓の機能が悪い方は使用に注意が必要
・横紋筋融解症の副作用に注意(特に腎臓の悪い方)
・薬効が長いため、1日1回の服薬で良い

 

2.リピディルの適応疾患と有効率

リピディルはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

高脂血症(家族性を含む)

高脂血症というのは、現在でいう「脂質異常症」とほぼ同じだと考えて頂いて問題ありません。

またリピディルの注意事項として、次のような記載があります。

1.総コレステロールのみが高い高脂血症(Ⅱa 型)に対し、第一選択薬とはしないこと。
2.カイロミクロンが高い高脂血症(Ⅰ型)に対する効果は検討されていない。

1.の理由は、リピディルをはじめとしたフィブラート系はコレステロールよりも中性脂肪を下げる作用に優れるお薬であるためです。

コレステロールのみが高いタイプにもリピディルが効かないわけではありませんが、スタチン系を使った方がより効率的にコレステロールを下げることができますので、わざわざリピディルを第一選択とする理由はありません。

2.ですが、Ⅰ型高脂血症は主にカイロミクロン(CM)という中性脂肪を多く含んだタンパク質(リポ蛋白)が増えてしまう疾患です。そのため一見フィブラート系が効きそうなのですが、Ⅰ型の多くは先天性(生まれつき)の遺伝子異常が原因であることがあります。

具体的にはLPL(リポ蛋白リパーゼ)という酵素が欠損していることがあり、これは「LPL欠損症」と呼ばれています。詳しくは後述しますがフィブラートはLPLの活性を高めるお薬であるため、そもそもLPLを欠損している症例においては効果が十分に出ない可能性があるのです。

もちろんリピディルが絶対に効かない、とまでは言えませんが、Ⅰ型高脂血症に対しては、お薬の効果は限定的であり、食事を工夫することが大切だと考えられています。一般的にⅠ型に対する治療は、食事療法が最重要だと考えられているため、お薬はあまり使いません。

Ⅰ型は非常に稀な疾患であり、LPL欠損症の頻度は100万人に1人と言われています。そもそも十分な患者さんを集めて効果を検証するのも困難な疾患なのです。そのようなことから、「Ⅰ型における効果は検証されていない」となっています。

Ⅰ型は先天性(生まれつき)の疾患であり、中性脂肪も1000mg/dl以上(正常値は150mg/dl未満)など著明に上昇するため、多くは幼少期に健康診断で気付かれます。成人してから高脂血症になった方はⅠ型の可能性は極めて低いため、「自分はⅠ型ではないか」と心配する必要はないでしょう。

ではリピディルは高脂血症に対してどのくらいの効果が期待できるのでしょうか。

高脂血症(脂質異常症)の患者さんを対象に、リピディル106.6mg~160mgを8週間~1年以上投与した調査では、中等度以上改善した率は81%であったと報告されています。

またそれぞれの数値の変化としては、

  • 中性脂肪(TG)が33~54%低下
  • 悪玉コレステロール(LDL-C)が17~29%低下
  • 善玉コレステロール(HDL-C)が25~67%上昇

したと報告されています。

 

3.リピディルの作用

高脂血症の患者さんに対して、中性脂肪を下げたり、善玉コレステロールを上げる目的で投与されるリピディルですが、どのような機序で脂質異常症を改善させるのでしょうか。

リピディルの作用機序について紹介します。

リピディルは「フィブラート系」と呼ばれるお薬です

フィブラート系は、肝臓に存在するPPARα(peroxisome proliferator-activated receptor α)いう受容体を活性化することが主なはたらきで、これによって脂質異常症を改善させます。

PPARαは「ペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体α」と訳されており、読み方は「ピーパーアルファ」と読みます。

PPARαが活性化されると次のような作用が発揮されます。

  • 中性脂肪(トリグリセリド)を下げる
  • 善玉コレステロール(HDL)のコレステロールを増やす
  • 悪玉コレステロール(LDL)を少し下げる

これらの作用により脂質代謝を総合的に改善させてくれるのです。

またリピディルの意外な作用として

  • 尿酸値を少し下げる

というはたらきもあります。

それぞれの具体的な作用機序を紹介します。

 

Ⅰ.中性脂肪を下げる

リピディルをはじめとしたフィブラート系は、中性脂肪を下げる作用に優れます。

リピディルはPPARαを活性化する事により、LPL(リポ蛋白リパーゼ)という酵素の活性を高めます。LPLは中性脂肪を脂肪酸に分解する酵素であるため、LPLの活性が高まると血中の中性脂肪が分解されて少なくなるのです。ちなみに分解されてできた脂肪酸は、各臓器に取り込まれてエネルギーとして使われます。

またPPARαが活性化すると、脂肪酸輸送タンパク質(FATP)という蛋白質が増えます。FATPは脂肪酸を肝臓に取り込んだり、脂肪酸からエネルギーを生成するはたらきがあります。これによって脂肪酸から中性脂肪が再合成されにくくなり、これも中性脂肪の低下に貢献します。

つまり、リピディルはPPARαを活性化する事で、

  • 中性脂肪を分解する
  • 中性脂肪を作りにくくする

という作用があるのです。

ちなみに中性脂肪って高いとなぜ問題となるのでしょうか。

中性脂肪は脂肪酸に分解されることでエネルギー源になるため、ある程度の量は身体にとって必要です。しかし過剰になってしまうと、様々な問題を引き起こす事が知られています。

具体的には、慢性的に中性脂肪が高い状態が続いていると炎症が引き起こされ、ここから膵炎が発症したり、動脈硬化を徐々に進行させ心筋梗塞や脳梗塞の原因となったりするのです。

このような事態を避けるため、中性脂肪を適正値にしておく必要があるのです。

 

Ⅱ.善玉コレステロールを増やす

リピディルはHDLコレステロール、通称「善玉コレステロール」を増やす作用を持ちます。

善玉コレステロールは、動脈硬化を抑えるはたらきを持ちます。

具体的には動脈にこびりついてしまっているコレステロールを回収して、肝臓に運ぶはたらきがあるのです。動脈のコレステロールがこびりついていると、動脈硬化や血液の流れが悪くなる原因になるため、HDLコレステロールは高いことが良いと考えられています。

リピディルはPPARα を活性化することで、 善玉コレステロールの主要な構成蛋白質である「アポA-I」「アポA-II」を増やす作用があります。これにより善玉コレステロールが作られやすくなり、善玉コレステロールが上昇するのです。

 

Ⅲ.悪玉コレステロールを少し減らす

リピディルは、動物実験において肝臓内に取り込まれるコレステロールを増やすこと、コレステロールの合成を抑制することが確認されています。これにより悪玉コレステロールの低下が得られます。

ただし悪玉コレステロールを下げる力はそこまで強くはありません。

 

Ⅳ.尿酸値を少し下げる

リピディルは脂質異常症(高脂血症)を改善させるお薬なのですが、意外な作用として「尿酸値を下げる」という作用があります。

これはリピディルが、腎臓にある「尿細管」で尿酸を体内に再吸収させないように作用するためだと考えられています。

この特徴から、リピディルは脂質異常症と高尿酸血症を合併している患者さんに有用だと考えられています。

 

4.リピディルの副作用

リピディルにはどんな副作用があるのでしょうか。副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。

リピディルの副作用をみた調査では、リピディルの副作用発生率は13.29%と報告されています。

もっとも多い副作用は「検査数値の異常」で、特にAST、ALTといった肝臓の酵素の上昇が認められることがあります。リピディルは肝臓に存在するPPARαに作用するため、肝臓に負担をかけてしまいやすいのです。

そのためリピディルを長期服薬している方は、定期的に血液検査で肝機能の悪化がないかをチェックする必要があります。

ただし検査値の異常が認められても一過性で自然と改善する例も多く認められますので、異常があっても慌てず、主治医にどうすべきかを適切に判断してもらいましょう。

また、

  • 胃腸系の副作用(胃部不快感、嘔気等)
  • 皮膚症状(かゆみなど)

も時に認められます。

頻度は稀ですが、注意すべき重篤な副作用として、

  • 横紋筋融解症
  • 肝障害
  • 膵炎

などが報告されています。

横紋筋融解症は、筋肉が破壊されて筋肉中の酵素が腎臓に流れて腎障害を生じる疾患です。特に腎機能が元々悪い方に生じやすいと考えられており、腎機能が悪い方はリピディルの使用は慎重に考えなくてはいけません(Crが2.5mg/dl以上の方はリピディルは使う事が出来ません)。

また同じ脂質異常症の治療薬であるスタチン系も、稀ですが横紋筋融解症を引き起こすという報告があります。スタチン系とフィブラート系を併用すると横紋筋融解症のリスクは更に高まると考えられており、できる限り両者は併用しないようにと注意されています。

しかし最近の研究では両者を併用しても横紋筋融解症の発症リスクは上がらないという報告もあり、必要な症例においては両者を併用することもあります。

リピディルを使ってはいけない患者さん(禁忌)としては、

  • 肝障害のある患者さん
  • 中等度以上の腎機能障害のある患者さん(Crが2.5mg/dL以上)
  • 胆のう疾患のある患者さん( 胆石形成が報告されているため)
  • 妊婦、授乳婦

が挙げられています。

 

5.リピディルの用法・用量と剤形

リピディルには、

リピディル錠 53.3mg
リピディル錠 80mg

といった剤型が発売されています。

以前はカプセル剤のみの発売だったのですが、2011年に錠剤が発売となり、以降は錠剤のみとなりました。

リピディルの使い方は、

通常、成人には1日1回106.6mg~160mgを食後経口投与する。なお、年齢、症状により適宜減量する。1日160mgを超える用量は投与しないこと

となっています。

更にリピディルは脂質異常症のタイプによって使用する用量に若干の違いがあります。

総コレステロール及び中性脂肪(トリグリセリド)の両方が高い高脂血症には、1日投与量を106.6mgより開始すること。なお、これらの高脂血症患者において、高血圧、 喫煙等の虚血性心疾患のリスクファクターを有し、より高い治療目標値を設定する必要の ある場合には1日投与量を159.9mg~160mgとすること。

中性脂肪(トリグリセリド)のみが高い高脂血症には、1日投与量53.3mgにおいても低下効果が認められているので、1日投与量を53.3mg より開始すること。

リピディルはコレステロールよりも中性脂肪(トリグリセリド)を下げる力が強いため、中性脂肪のみが高い場合は低用量でも十分に効くことがありますが、コレステロールも高い場合は、高用量が必要となるということです。

またリピディルの半減期は20〜24時間ほどと報告されています。半減期とはお薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、そのお薬の作用時間の1つの目安になる値です。

リピディルはその半減期からもー1日1回の服薬で1日を通して効果が十分持続すると考えられるため、1日1回服用すれば十分に効果が持続します。

またリピディルは食事の影響を受けるお薬であるため、食後の服薬となっています。空腹時に服薬してしまうと吸収が悪くなり、お薬の効果も弱まってしまいますので、必ず食後に服用するようにして下さい。

 

6.リピディルが向いている人は?

以上から考えて、リピディルが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

リピディルの特徴をおさらいすると、

【リピディルの特徴】

・中性脂肪を下げる作用に優れる
・善玉コレステロールを上げる作用に優れる
・悪玉コレステロールを下げる作用は弱い
・尿酸値を少し下げてくれる
・肝臓・腎臓の機能が悪い方は使用に注意が必要
・横紋筋融解症の副作用に注意(特に腎臓の悪い方)
・薬効が長いため、1日1回の服薬で良い

などがありました。

ここから、

・特に中性脂肪が高い方
・特に善玉(HDL)コレステロールが低い方
・脂質異常症と高尿酸血症を合併している方
・1日1回の服薬が良い方

などには向いているお薬だと言えます。反対に

・特に悪玉(LDL)コレステロールが高い方
・肝障害や腎障害がある方

などはリピディルのようなお薬ではない方がよいでしょう。