フェノフィブラート錠の効果と副作用【高脂血症治療薬】

フェノフィブラートカプセルは「リピディル」「トライコア」というお薬のジェネリック医薬品になります。「フィブラート系」という種類に属し、主に中性脂肪を下げ、善玉(HDL)コレステロールを上げる作用を持ち、脂質異常症(高脂血症)の治療薬として用いられています。

脂質異常症の治療薬はフェノフィブラートのようなフィブラート系よりも、「スタチン系」と呼ばれるお薬が有名で多く処方されています(スタチン系:クレストール、リピトール、メバロチンなど)。しかしフェノフィブラートはスタチン系とは異なった作用を持つため、脂質異常症のタイプによってはスタチン系よりもフェノフィブラートを服薬した方が良い場合があります。

フェノフィブラートはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに使うお薬なのでしょうか。今回はフェノフィブラートの特徴や効果・副作用について紹介します。

 

1.フェノフィブラートの特徴

まずはフェノフィブラートの全体的な特徴を紹介します。

フェノフィブラートは、脂質の中でも特に中性脂肪(トリグリセリド)を下げ、善玉コレステロール(HDL)を上げる作用に優れます。

そのため、脂質異常症の中でも

・中性脂肪(トリグリセリド)が高い
・善玉コレステロール(HDL)が低い

というタイプに処方される事の多いお薬になります。

もちろんフェノフィブラートには悪玉コレステロール(LDL)を下げる作用もあります。しかしこの作用は弱いため、悪玉コレステロールだけを下げたいのであればスタチン系の方が適しています。

またフェノフィブラートの意外な作用として、尿酸値を下げてくれるはたらきがあります。そのため中性脂肪が高くて、尿酸値もやや高いという方にとってフェノフィブラートは一石二鳥の効果が期待できます(尿酸は痛風の原因になる物質です)。

副作用としては、肝臓に作用するお薬であるため肝臓の酵素が上昇してしまう事があります。また、腎臓が悪い方が使うと、腎臓を更に傷めたり横紋筋融解症という重篤な副作用が出現してしまう可能性が高くなるため、注意が必要です。

フェノフィブラートは作用時間が長いため、1日1回の服薬で良い点もメリットになります。

またフェノフィブラートはジェネリック医薬品であるため薬価が安いのもメリットになります

以上からフェノフィブラートの特徴として次のような点が挙げられます。

【フェノフィブラートの特徴】

・中性脂肪を下げる作用に優れる
・善玉コレステロールを上げる作用に優れる
・悪玉コレステロールを下げる作用は弱い
・尿酸値を少し下げてくれる
・肝臓・腎臓が悪い人は要注意
・横紋筋融解症の副作用に注意(特に腎臓の悪い方)
・薬効が長いため、1日1回の服薬で良い
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

 

2.フェノフィブラートはどんな疾患に用いるのか

フェノフィブラートはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

高脂血症(家族性を含む)

また注意事項として、次のような記載があります。

1.総コレステロールのみが高い高脂血症(Ⅱa 型)に対し、第一選択薬とはしないこと。
2.カイロミクロンが高い高脂血症(Ⅰ型)に対する効果は検討されていない。

1.は、フェノフィブラートをはじめとしたフィブラート系はコレステロールよりも中性脂肪を下げる作用に優れるお薬だから、というのが理由です。コレステロールのみが高いタイプにもフェノフィブラートが効かないわけではありませんが、スタチン系を使った方がより効率的にコレステロールを下げることができます。

2.ですが、Ⅰ型高脂血症は主にカイロミクロン(CM)という中性脂肪を多く含んだタンパク質(リポ蛋白)が増えてしまう疾患です。そのため一見フィブラート系が効きそうなのですが、Ⅰ型の多くは先天性(生まれつき)の遺伝子異常が原因です。

具体的にはLPL(リポ蛋白リパーゼ)という酵素が欠損していることがあり、これは「LPL欠損症」と呼ばれています。詳しくは後述しますがフィブラートはLPLの活性を高めるお薬であるため、そもそもLPLを欠損している症例においては効果が十分に出ない可能性があるのです。

もちろん「フェノフィブラートが全く効かない」とまでは言えませんが、Ⅰ型高脂血症の治療法としてお薬というのは限定的であり、食事を工夫することが一番大切だと考えられています。一般的にⅠ型に対する治療は、食事療法が最重要だと考えられているため、お薬はあまり使いません。

Ⅰ型は非常に稀な疾患であり、LPL欠損症の頻度は100万人に1人と言われています。そもそも十分な患者さんを集めて効果を検証するのも困難な疾患なのです。そのようなことから、「Ⅰ型における効果は検証されていない」となっています。

Ⅰ型は先天性(生まれつき)の疾患であり、中性脂肪も1000mg/dl以上(正常値は150mg/dl未満)など著明に上昇するため、多くは幼少期に健康診断で気付かれます。成人してから高脂血症になった方はⅠ型の可能性は極めて低いため、「自分はⅠ型ではないか」と心配する必要はないでしょう。

フェノフィブラートはジェネリック医薬品であるため有効率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「リピディル」「トライコア」を高脂血症患者さんに投与した時の改善率は81%と報告されており、フェノフィブラートも同程度だと考えられます。

またそれぞれの数値の低下の程度としては、

  • 総コレステロールは9~22%低下
  • LDLコレステロールは17~29%低下
  • HDLコレステロールは25~67%上昇
  • 中性脂肪(トリグリセリド)は33~54%低下

と報告されています。

 

3.フェノフィブラートにはどのような作用があるのか

高脂血症の患者さんに対して、中性脂肪やコレステロールを下げる目的で投与されるフェノフィブラートですが、どのような機序で高脂血症を改善させるのでしょうか。

フェノフィブラートは、「フィブラート系」と呼ばれるお薬です。フィブラート系は、肝臓にあるPPARα(peroxisome proliferator-activated receptor α)いう受容体を活性化することが主なはたらきで、それによって脂質異常症を改善する作用を発揮します。

PPARαは、「ペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体α」と訳されており、読み方は「ピーパーアルファ」と読みます。

PPARαが活性化されると次のような作用が発揮されます。

・中性脂肪(トリグリセリド)を下げる
・善玉コレステロール(HDL)のコレステロールを増やす
・悪玉コレステロール(LDL)を少し下げる

これらの作用により脂質代謝を総合的に改善させてくれるのです。

またフェノフィブラートの意外な作用として

・尿酸値を少し下げる

というはたらきもあります。

それぞれの具体的な作用機序を紹介します。

 

Ⅰ.中性脂肪(トリグリセリド)を下げる

フェノフィブラートをはじめとしたフィブラート系は、中性脂肪を下げる作用に優れます。

フェノフィブラートはPPARαを活性化する事により、LPL(リポ蛋白リパーゼ)という酵素の活性を高めます。LPLは中性脂肪を脂肪酸に分解する酵素であるため、LPLの活性が高まると血中の中性脂肪が分解されて少なくなるのです。ちなみに分解されてできた脂肪酸は、各臓器に取り込まれてエネルギーとして使われます。

またPPARαが活性化すると、脂肪酸輸送タンパク質(FATP)という蛋白質が増えます。FATPは脂肪酸を肝臓に取り込んだり、脂肪酸からエネルギーを生成するはたらきがあります。これによって脂肪酸から中性脂肪が再合成されにくくなり、これも中性脂肪の低下に貢献します。

つまり、フェノフィブラートはPPARαを活性化する事で、

  • 中性脂肪を分解する
  • 中性脂肪を作りにくくする

という作用があるのです。

ちなみに、中性脂肪って何故高いと問題で、下げる必要があるのでしょうか。

中性脂肪は脂肪酸に分解されることでエネルギー源になるため、ある程度の量は身体にとって必要です。しかし過剰になってしまうと、様々な問題を引き起こす事が知られています。

具体的には、慢性的に中性脂肪が高い状態が続いていると炎症が引き起こされ、ここから膵炎が発症したり、動脈硬化を徐々に進行させ心筋梗塞や脳梗塞の原因となったりするのです。

このような事態を避けるため、中性脂肪を適正値にしておく必要があるのです。

 

Ⅱ.善玉コレステロールを増やす

フェノフィブラートはHDLコレステロール、通称「善玉コレステロール」を増やす作用を持ちます。

善玉コレステロールは、動脈硬化を抑えるはたらきを持ちます。具体的には動脈にこびりついてしまっているコレステロールを回収して、肝臓に運ぶはたらきがあるのです。動脈にコレステロールがこびりついていると、動脈硬化や狭窄の原因になるため、HDLコレステロールは高いことが良いと考えられています。

フェノフィブラートはPPARα を活性化することで、 善玉コレステロールの主要な構成蛋白質である「アポA-I」「アポA-II」を増やす作用があります。これにより善玉コレステロールが作られやすくなり、善玉コレステロールが上昇するのです。

 

Ⅲ.悪玉コレステロールを少し減らす

フェノフィブラートは、動物実験において肝臓内に取り込まれるコレステロールを増やすこと、コレステロールの合成を抑制することが確認されています。これにより悪玉コレステロールの低下が得られます。

ただし悪玉コレステロール(LDL)を下げる力は強くはありません。

 

Ⅳ.尿酸値を少し下げる

フェノフィブラートは脂質異常症(高脂血症)を改善させるお薬なのですが、意外な作用として「尿酸値を下げる」というはたらきがあります。

これはフェノフィブラートが腎臓にある「尿細管」で、尿酸を体内に再吸収させないように作用するためだと考えられています。

この特徴から、フェノフィブラートは脂質異常症と高尿酸血症を合併している患者さんに有用だと考えられています。

 

4.フェノフィブラートの副作用

フェノフィブラートにはどんな副作用があるのでしょうか。

フェノフィブラートはジェネリック医薬品であるため、副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「リピディル」「トライコア」の副作用発生率は13.29%と報告されており、フェノフィブラートも同程度だと考えられます。

もっとも多い副作用は「検査数値の異常」で、特にAST、ALTといった肝臓の酵素の上昇が見られることがあります。そのため、フェノフィブラートを服薬している場合は、定期的に血液検査を行い、検査数値の悪化がないかチェックする必要があります。

検査数値の異常が認められても、一過性で自然と改善する例も多く認められます。

また、

・胃腸系の副作用(胃部不快感、嘔気等)
・皮膚症状(かゆみなど)

も時に認められます。

頻度は稀ですが、注意すべき重篤な副作用として、

・横紋筋融解症
・肝障害
・膵炎

などが報告されています。

横紋筋融解症は、筋肉が破壊されて筋肉中の酵素が腎臓に流れて腎障害を生じる疾患です。特に腎機能が元々悪い方に生じやすいと考えられており、腎機能が悪い方はフェノフィブラートの使用は慎重に考えなくてはいけません(Crが2.5mg/dl以上の方はフェノフィブラートは使う事が出来ません)。

また同じ脂質異常症の治療薬であるスタチン系も稀ですが横紋筋融解症を起こすため、スタチン系とフィブラート系を併用すると横紋筋融解症のリスクが高まると考えられており、できる限り両者は併用しないようにと注意されています。しかし最近の研究では両者を併用しても横紋筋融解症の発症リスクは上がらないという報告もあり、必要な症例においては両者を併用することもあります。

フェノフィブラートを使ってはいけない患者さん(禁忌)としては、

・肝障害のある患者さん
・中等度以上の腎機能障害のある患者さん(Crが2.5mg/dL以上)
・胆のう疾患のある患者さん( 胆石形成が報告されているため)
・妊婦、授乳婦

が挙げられています。

 

5.フェノフィブラートの用法・用量と剤形

フェノフィブラートには、

フェノフィブラートカブセル 67mg
フェノフィブラートカプセル 100mg

の2剤型があります。

先発品の「リピディル」「トライコア」は錠剤になりますが、フェノフィブラートはカプセル剤になります。

フェノフィブラートの使い方は、

通常、成人には1日1回134mg~201mgを食後経口投与する。なお、年齢、症状により適宜減量する。1日201mgを超える用量は投与しないこと。

と書かれています。

更にフェノフィブラートは脂質異常症のタイプによって使用する用量に若干の違いがあります。

総コレステロール及び中性脂肪(トリグリセリド)の両方が高い高脂血症には、1日投与量を134mgより開始すること。なお、これらの高脂血症患者において、高血圧、 喫煙等の虚血性心疾患のリスクファクターを有し、より高い治療目標値を設定する必要のある場合には1日投与量を200mg~201mgとすること。

中性脂肪(トリグリセリド)のみが高い高脂血症には、1日投与量67mgにおいても低下効果が認められているので、1日投与量を67mgより開始すること。

トライコアはコレステロールよりも中性脂肪(トリグリセリド)を下げる力が強いため、中性脂肪のみが高い場合は低用量でも十分に効くことがありますが、コレステロールも高い場合は、高用量が必要となるということです。

フェノフィブラートは食事の影響を受けるお薬であり、食後の服薬となっています。空腹時に服薬してしまうと吸収が悪くなり、お薬の効果も弱まってしまいますので、必ず食後に服用するようにして下さい。

 

6.フェノフィブラートが向いている人は?

以上から考えて、フェノフィブラートが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

フェノフィブラートの特徴をおさらいすると、

・中性脂肪を下げる作用に優れる
・善玉コレステロールを上げる作用に優れる
・悪玉コレステロールを下げる作用は弱い
・尿酸値を少し下げてくれる
・肝臓・腎臓が悪い人は要注意
・横紋筋融解症の副作用に注意(特に腎臓の悪い方)
・薬効が長いため、1日1回の服薬で良い
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

などがありました。

ここから、

・特に中性脂肪が高い方
・特に善玉(HDL)コレステロールが低い方
・脂質異常症と高尿酸血症を合併している方
・1日1回の服薬が良い方

などには向いているお薬だと言えます。反対に

・特に悪玉(LDL)コレステロールが高い方
・肝障害や腎障害がある方

などはフェノフィブラートのようなお薬ではない方がよいでしょう。

ちなみに脂質というと、血液検査で中性脂肪(TG:トリグリセリド)とコレステロール(Chol)の2つがありますが、この2つはどう違うのでしょうか。

中性脂肪は、俗に言う「体脂肪」の脂肪分が血液中に流れているもので、これはエネルギー源として使われます。中性脂肪は体脂肪として貯蔵される事で、いざという時に活動するためのエネルギーになるのです。

一方コレステロールはというと「身体を作るための材料」として使われています。コレステロールは細胞を構成する材料となったり、体内で様々なはたらきをしているホルモンを作る材料となったり、胆汁酸やビタミンの材料となったりします。

中性脂肪もコレステロールも、どちらも身体にとって必要なものですが、過剰になりすぎれば害となります。

またジェネリック医薬品であるフェノフィブラートは、先発品よりも安いというのも大きなメリットです。経済的な負担を少なくしたい方はフェノフィブラートを選択するのも手でしょう。

 

7.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?

フェノフィブラートは「リピディル」「トライコア」というお薬のジェネリック医薬品になります。

ジェネリックは薬価も安く、患者さんにとってメリットが多いように見えます。

しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。

同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。

ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。

結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。

ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。

発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、

ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。

しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば飲み心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。

これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。

では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。

先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。

しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。

先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。

つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。