フェロベリン配合錠(ベルベリン塩化水和物・ゲンノショウコエキス配合錠)は1985年から発売されている止瀉剤になります。止瀉剤とはいわゆる「下痢止め」のお薬のことです。
止瀉剤の中でフェロベリン配合錠は 様々な作用を持つお薬です。それぞれの作用は強くはありませんが、多くの作用で総合的に下痢症状を改善してくれます。
フェロベリン配合錠はどんな作用のあるお薬で、どんな患者さんに向いているのでしょうか。
フェロベリン配合錠の効果や特徴についてみていきましょう。
目次
1.フェロベリン配合錠の特徴
まずはフェロベリン配合錠(ベルベリン塩化水和物・ゲンノショウコエキス配合錠)の特徴について、かんたんに紹介します。
フェロベリン配合錠は下痢止めになり、主に軟便や水様便といった下痢症を改善させるために用います。
フェロベリン配合錠は「配合錠」という名前の通り、「ベルベリン塩化水和物」と「ゲンノショウコエキス配合錠」という2つの成分が配合されたお薬になります。
これらはどちらも植物由来の成分です。ベルベリンはキハダ(黄柏)と呼ばれるミカン科の植物やオウレン(黄連)と呼ばれるキンポウゲ科の植物に含まれる成分です。ゲンノショウコはフウロソウ科の植物です。どちらも古くから下痢止めの薬草として用いられていたそうです。
ちなみにオウレン(黄連)は消炎作用や健胃作用、整腸作用、抗菌作用を持つ生薬として、漢方薬にも使われています。
フェロベリン配合錠の具体的な作用としては、
- 腸管の動きを抑える作用
- 抗菌作用
- 腸内の発酵抑制作用
- 胆汁分泌促進作用
- 収斂作用(組織を収縮させることにより炎症を抑える)
などがあり、これらが総合的にはたらき、下痢を抑えるのに役立ってくれます。
様々な作用がありますが植物由来の成分であるフェロベリンは、全体的に効果は穏やかで、それぞれの作用も強くはありません。穏やかに効き、安全性にも優れるお薬になります。
ちなみに下痢というものは、基本的には止めない方が良いものです。そのため下痢止めもなるべくなら使わない方が良いものです。
なせならば下痢が生じている時は、必要があって下痢になっていることが多いからです。
例えば腸管に細菌が感染してしまって下痢が生じている「感染性腸炎」の場合、身体は細菌を早く体外に流し出したいために腸管の動きを活性化させ、その結果下痢になってしまっていることがあります。
この時にフェロベリンなどで腸管の動きを抑えて細菌を排出させにくくしてしまうと、下痢自体は確かに一時的に治まるでしょうが、細菌は腸内でどんどん増殖してしまうでしょう。
そのため、下痢をお薬で抑える時には「その下痢は本当にお薬で止めても大丈夫なのか」という事を慎重に判断しないといけず、下痢が生じたら安易に使っていいものではありません。
ここからフェロベリン配合錠の特徴として次のようなことが挙げられます。
【フェロベリン配合錠の特徴】
・2つの成分によって下記作用を発揮し、総合的に下痢を改善させる |
2.フェロベリン配合錠はどんな疾患に用いるのか
フェロベリン配合錠はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
下痢症
フェロベリン配合錠は下痢止めになりますので、主な適応は下痢症になります。
ただし注意点としては、感染を伴う下痢症への使用は推奨されていません。
細菌やウイルスが腸に感染している場合、私たちの身体は腸を活発に動かすことで菌やウイルスを体外に排泄しようとします。
その時、フェロベリン配合錠などの下痢止めで腸管の動きを抑えてしまうと、菌やウイルスがなかなか排泄されなくなり、感染がかえって長引いてしまう可能性が高くなるためです。
ではフェロベリン配合錠は下痢症に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
フェロベリンの有効率をみた調査では、
- フェロベリン配合錠を急性下痢に用いた際の有効率は84.9%
- フェロベリン配合錠を慢性下痢に用いた際の有効率は56.4%
と報告されています。
3.フェロベリン配合錠にはどのような作用があるのか
フェロベリン配合錠はどのような作用機序で下痢を抑えているのでしょうか。
フェロベリンには、
- ベルベリン塩化水和物
- ゲンノショウコエキス
の2つの成分が配合されており、これらがそれぞれ下痢を改善させる作用を持ちます。配合錠であるため、多くの作用を持つことがフェロベリンの大きな特徴で、複数の作用によって総合的に下痢を改善させます。
それぞれの作用についてみていきましょう。
Ⅰ.腸管の動きを抑える
フェロベリンは腸管の動きを抑える作用があります。
下痢になっている時というのは、腸管の動きが活性化されすぎていることがあります。腸管がいつもより早く蠕動してしまうと、十分な栄養や水分を吸収できないまま便が排泄されてしまうため、下痢になってしまうのです。
このような状態の時に腸管の動きを抑える作用のあるお薬を投与すると、腸管の動きがちょうど良くなります。
Ⅱ.抗菌作用
フェロベリンには抗菌作用(細菌に抵抗する作用)があります。
細菌の感染によって下痢になっている場合、基本的に下痢止めは使いずらいものなのですが、フェロベリンはこの抗菌作用があるため、下痢止めの中では細菌感染による下痢にも比較的使いやすいお薬になります。
具体的には、食中毒の原因として多いビブリオ菌やカンピロバクター菌、ブドウ球菌などを初め、赤痢菌、チフス菌などに殺菌作用(菌を殺す作用)があることが確認されています。
しかし抗菌作用があるとはいっても、他の下痢止めと同じで下痢に安易に使っていいものではなく、その適応は慎重に判断する必要があります。
Ⅲ.腸内容物の腐敗を防止する
腸の調子が悪くなった時に、腸内で異常発酵が起こってしまうことがあります。
胃腸の調子が悪くなった時、放屁の臭いがいつもと違うことがありますが、これは腸内で異常発酵が生じてしまっているのです。
これが生じると、腸内環境が更に悪くなってしまい、病気の治りも遅くなってしまいます。
腸内発酵が生じる一因として、大腸菌が産生するインドールという有害物質が増えることが挙げられます。
フェロベリンに含まれるベルベリン塩化水和物は、大腸菌がインドールを産生するのを抑制します。その結果、腸内環境を整えるはたらきがあるのです。
Ⅳ.胆汁の分泌を促進する
胆汁は肝臓で作られ、食事から取った脂肪を体内に吸収しやすくしてくれます。
胆汁がしっかりと分泌されていると脂肪がしっかりと吸収されるため、腸内環境も良好に保たれます。反対に胆汁が少ないと脂肪が体内に吸収されず、腸管内に残ってしまいます。
腸内に残った脂肪は腸内細菌のバランスを崩したり、腸内環境を悪化させてしまうことがあります。
フェロベリンは肝臓で胆汁が作られるのを促進するはたらきがあります。胆汁を作りやすくすることで、腸内環境を良好に保ってくれるのです。
Ⅴ.収斂作用
フェロベリンに含まれるゲンノショウコエキスは、主成分が「タンニン」というポリフェノールになります。
このタンニンには収斂作用があります。収斂作用とは、組織や血管を縮めて炎症を抑える作用の事です。
下痢止めの1つに「タンナルビン(タンニン酸アルブミン)」というお薬がありますが、タンナルビンもタンニン酸の収斂作用によって下痢を抑えます。
フェロベリンにもそれと同じような作用があるのです。
収斂作用とは「組織を引き締める作用」の事ですが、腸管における収斂作用というのはもっと広い概念であり、腸管組織を引き締めることで分泌物を抑制したり、粘膜に被膜を作ることで腸管を保護するはたらきのことを指します。
4.フェロベリン配合錠の副作用
フェロベリンは、2つの成分によって総合的に下痢症状を改善させてくれます。
フェロベリンの各成分は植物由来の成分であり、そのためフェロベリンは安全性の高いお薬になります。
フェロベリンの副作用発生率は0.3%と報告されており多くはありません。
可能性のある副作用としては、
- 便秘
が挙げられます。これはフェロベリンが腸管の動きを抑えすぎてしまう事による副作用です。この副作用は多くの場合でフェロベリンの量を適切に調整すれば改善します。
また感染が疑われるような下痢(感染性胃腸炎など)にはフェロベリンをはじめとした止瀉薬は原則として用いてはいけません。感染性腸炎にフェロベリンを用いて腸管の動きを抑えてしまうと、腸管内で悪さをしている病原菌(細菌・ウイルスなど)が増殖しやすくなり、いつまでも腸管から排出されなくなってしまうからです。
現状では感染がある場合でも、抗菌作用のあるフェロベリンは使われることもあります。使うメリットの方が高いと判断されれば用いられることもありますが、少なくとも安易に用いていいものではないのです。
ちなみに副作用ではありませんが、フェロベリンは苦味のあるお薬になります。
5.フェロベリンの用法・用量と剤形
フェロベリンは、
フェロベリン配合錠
の1剤形のみがあります。
フェロベリン配合錠1錠中には、
ベルベリン塩化水和物 37.5mg
ゲンノショウコエキス 100.0mg
が配合されています。
フェロベリン配合錠の使い方は、
通常、成人1日3回経口投与する。なお、症状により適宜増減する
と書かれています。
6.フェロベリン配合錠が向いている人は?
以上から考えて、フェロベリン配合錠が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
フェロベリン配合錠の特徴をおさらいすると、
【フェロベリン配合錠の特徴】
・2つの成分によって下記作用を発揮し、総合的に下痢を改善させる |
というものでした。
フェロベリンは植物由来の成分であり、安全性の高さが特徴として挙げられます。また多くの作用があるため、様々なタイプの下痢に効果を発揮する可能性があります。
抗菌作用を有している点も大きな特徴で、基本的に感染によって生じている下痢に対して下痢止めは使ってはいけないのですが、抗菌作用のあるフェロベリンは細菌性の下痢にも比較的使いやすいお薬になります。