フラボキサートの効果と副作用【過活動膀胱治療薬】

フラボキサート塩酸塩は、1979年から発売されている「ブラダロン」というお薬のジェネリック医薬品になります。

フラボキサートは膀胱の収縮を抑えることで頻尿を改善します。そのため、膀胱が過剰に収縮してしまっており、それによる頻尿で困っている方(過活動膀胱など)に役立つお薬です。

頻尿を改善するお薬にもいくつかの種類があります。どれも頻尿を改善してくれるものですが、その作用や特徴はそれぞれ多少の違いがあります。

フラボキサートはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。

ここではフラボキサートの特徴や効果・副作用を詳しく説明していきます。

 

1.フラボキサートの特徴

まずはフラボキサートの全体的な特徴を紹介します。

フラボキサートは、カルシウムチャネルをブロックする事で膀胱平滑筋が収縮しすぎないようにして、頻尿を改善させてくれるお薬になります。

頻尿によく使われる「抗コリン薬」と比べると効果は弱めですが、副作用も少ないお薬になります。

フラボキサートは「カルシウム拮抗薬」という種類になります。平滑筋という筋肉に存在するカルシウムチャネルというカルシウムイオンが通る穴に「フタをしてしまう」事によってカルシウムイオンが流入できないようにします。

本来、平滑筋はカルシウムイオンが流入する事によって収縮します。膀胱の平滑筋もカルシウムイオンの流入によって収縮し、これが膀胱を収縮させるため排尿が生じます。一方でこの収縮が過剰になってしまうと頻尿になってしまいます。

フラボキサートは膀胱平滑筋のカルシウムチャネルにフタをする事でカルシウムが流入できないようにし、膀胱を収縮させにくくするお薬になります。

効果は穏やかで強くはありません。その代わり副作用も少なめです。

現在の頻尿・過活動膀胱治療薬の中心は「抗コリン薬」と呼ばれるお薬です。これは膀胱に存在するムスカリン受容体をブロックする事で膀胱を収縮しにくくするお薬になります。

抗コリン薬は効果は比較的しっかりしていますが、抗コリン作用と呼ばれる副作用(口喝、便秘、眠気など)も生じやすいお薬です。

一方でフラボキサートのようなカルシウム拮抗薬は効果は強くはないものの、副作用も少なめです。また作用機序が異なるため、抗コリン薬が効かなかった頻尿でもカルシウム拮抗薬であるフラボキサートであれば効く可能性があります。

古いお薬で薬効は短いため、1日3回に分けて服用しなければいけません。これは人によっては多少手間になります。

またフラボキサートはジェネリック医薬品ですので、先発品の「ブラダロン」と比べて薬価が安いというメリットもあります。

以上からフラボキサートの特徴として次のような点が挙げられます。

【フラボキサートの特徴】

・膀胱のカルシウムチャネルをブロックする事で膀胱の収縮を抑えて頻尿を改善する
・代表的な頻尿治療薬である「抗コリン薬」と比べると、効果は弱いが副作用も少ない
・抗コリン薬と作用機序が異なるため、抗コリン薬が効かない頻尿にも効く可能性がある
・1日3回服用しないといけない
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

 

2.フラボキサートはどのような疾患に用いるのか

フラボキサートはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

〇 下記疾患に伴う頻尿、残尿感

神経性頻尿、慢性前立腺炎、慢性膀胱炎

難しい病名が書かれていますが、ざっくりと言えば「おしっこの回数が多かったり、残尿感がある方」に対して、膀胱の収縮を抑える事でこれらの症状を改善させるお薬だということです。

神経性頻尿というのは明らかな身体的な原因がないのに生じている頻尿の事で昔の病名です。神経性頻尿の中には、現在でいう「過活動膀胱」の方も多くいらっしゃると考えられてます。

過活動膀胱(OAB:OverActive Bladder)という疾患は、膀胱の本来のはたらきである「おしっこを溜めるはたらき(蓄尿能)」が低下してしまう状態です。主に高齢者に多く、少し尿が溜まっただけで排尿筋が収縮してしまい、尿意を感じるため頻尿になってしまうのです。

フラボキサートは、膀胱の異常な収縮を抑えることで蓄尿能を改善させ、過活動膀胱の頻尿に対して効果を発揮します。

ただし、頻尿であれば何にでも効果があるわけではありません。あくまでも膀胱の過剰な収縮によって生じている頻尿を改善させるというお薬になります。

別の原因で頻尿が生じているのであれば、フラボキサート以外のお薬の方が適切なこともありますので注意が必要です。

例えば、男性の頻尿であれば過活動膀胱ではなく、前立腺肥大症に伴って生じていることもあります。この場合はまずはα1遮断薬と呼ばれる、尿道の拡がりを良くするお薬から使用することが推奨されています。

前立腺肥大症に伴う頻尿にフラボキサートが使われる事もありますが、前立腺肥大症で尿道が狭くなっているのに、フラボキサートで更に排尿しにくくしてしまうと、かえって症状が悪化してしまう可能性もありますので注意が必要です。

また尿路感染症に伴って頻尿となっているのであれば、一番の治療は抗生物質でばい菌をやっつけたり、水分をたくさん取ってばい菌を洗い流すことになります。もちろんフラボキサートを使う事もありますが、安易な使用によって尿の出を少なくしてしまうと、かえってばい菌が膀胱に留まりやすくなってしまい、病状が悪化してしまうこともあります。

フラボキサートは過活動膀胱に伴う頻尿には有効なお薬ですが、頻尿全般に使える万能薬ではありません。フラボキサートを使うべき頻尿であるのかどうかは主治医にしっかりと診察してもらい判断してもらいましょう。

ではフラボキサートはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。

フラボキサートはジェネリック医薬品ですので、有効性に対する詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「ブラダロン」では行われており、上記疾患に対する有効率は、

  • 神経性頻尿における頻尿・残尿感に対する有効率は56.8%
  • 膀胱炎における頻尿・残尿感に対する有効率は60.5%
  • 前立腺炎における頻尿・残尿感に対する有効率は47.3%

と報告されています。

ちなみに有効率とは、効果を「著効」「有効」「やや有効」「不変」「悪化」の5段階で評価し、有効以上と判定された割合になります。

同じ主成分からなるフラボキサートの有効率もこれと同程度だと考えられます。

 

3.フラボキサートにはどのような作用があるのか

フラボキサートは主に過活動膀胱の症状(頻尿)の改善に用いられます。つまり、尿の回数を少なくする作用があるということです。

ではどのような作用によって尿の回数を少なくしているのでしょうか。

フラボキサートは現在の過活動膀胱の代表的な治療薬である「抗コリン薬」とは異なる作用機序を持ちます。通常の抗コリン薬(ベシケア、ステーブラ、ウリトスなど)は、膀胱に存在するムスカリン受容体という部位をブロックする事で膀胱が収縮しないようにし、頻尿を改善させます。

これに対してフラボキサートは、膀胱を収縮させる筋肉である「膀胱平滑筋」に存在するカルシウムチャネルのはたらきをブロックします。

同じように膀胱の収縮を抑えるお薬でも抗コリン薬とカルシウム拮抗薬とでは、作用点が異なるのです。

通常、筋肉が収縮するためには筋肉内にカルシウムイオンが流入する必要があります。これによって排尿の際にも膀胱平滑筋にこのような機序が生じているのですが、これをブロックするのがフラボキサートになります。

 

4.フラボキサートの副作用

フラボキサートにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。

フラボキサートはジェネリック医薬品ですので、副作用発生率の詳しい調査はあまり行われていません。しかし先発品の「ブラダロン」では行われており、副作用発生率は2.94%と報告されています。

同じ主成分からなるフラボキサートの副作用発生率も同程度だと考えられ、副作用は少なく安全性に優れる事が分かります。

報告されている副作用としては、

  • 胃腸障害、胃部不快感
  • 悪心
  • 肝機能障害(AST、ALT上昇)

などが挙げられます。

副作用としてもっとも多いものは、胃腸症状になります。これはフラボキサートにわずかに抗コリン作用があるためだと考えられています。

抗コリン作用というのは、アセチルコリンをブロックするために生じてしまう作用のことです。

フラボキサートがアセチルコン(ムスカリン)受容体のはたらきをブロックしてしまうと胃腸の動きが低下するため、便秘や胃部不快感、吐き気などが生じる可能性があります。

また頻度は低いですが重篤な副作用としては、

  • ショック、アナフィラキシー様症状
  • 肝機能障害、黄疸

などが挙げられています。

ショック、アナフィラキシーはお薬に対する急性の重篤なアレルギー反応で、フラボキサートに限らずあらゆるお薬で生じる可能性があります。

具体的な症状としては、蕁麻疹や冷汗、呼吸困難、咽頭浮腫、血圧低下などが生じます。

フラボキサートは肝臓に負担をかける事があるため、服用が長期に渡る場合は定期的に血液検査で肝機能を診ていく必要があります。軽度の肝機能障害であれば症状がないこともありますが、進行すると倦怠感や食欲不振、発熱やかゆみ、黄疸(身体や目が黄色くなる事)が生じるようになります。

またフラボキサートを使用してはいけない方(禁忌)として、

  • 幽門、十二指腸及び腸管が閉塞している患者
  • 下部尿路に高度の通過障害のある患者

が挙げられます。

フラボキサートは主にカルシウムチャネルに作用するお薬ですが、前述したようにわずかにアセチルコリンをブロックする事によって副交感神経のはたらきを抑えてしまう事があります。

副交感神経のはたらきが抑えられると胃腸の動きが悪くなったり下部尿路の通りが悪くなったりする事があります。

元々胃腸や下部尿路の通りが悪い方に更にこのような作用をもたらしてしまうと危険であるため、これらの状態の方にはフラボキサートの投与は禁忌となっています。

 

5.フラボキサートの用法・用量と剤形

フラボキサートは次の剤型が発売されています。

フラボキサート錠 200mg

またフラボキサートの使い方は、

通常成人1回200mg、1日3回経口投与する。年齢、症状により適宜増減する。

と書かれています。

フラボキサートは古いお薬で薬効が短いため、1日3回に分けて服用しないといけません。最近の過活動膀胱治療薬は1日1回の服用で良いものもある事を考えると、1日3回も服用しなくてはいけないのはやや手間になります。

 

6.フラボキサートが向いている人は?

以上から考えて、フラボキサートが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

フラボキサートの特徴をおさらいすると、

【フラボキサートの特徴】

・膀胱のカルシウムチャネルをブロックする事で膀胱の収縮を抑えて頻尿を改善する
・代表的な頻尿治療薬である「抗コリン薬」と比べると、効果は弱いが副作用も少ない
・抗コリン薬と作用機序が異なるため、抗コリン薬が効かない頻尿にも効く可能性がある
・1日3回服用しないといけない
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

などがありました。

フラボキサートは古いお薬であり、その最大の弱点は効果の弱さと服用回数の多さになります。

1日3回も服用しないといけないのに効果は穏やかで、人によっては「飲んでも全然変わらない」という事もあります。

そのため現在ではより新しい過活動膀胱治療薬である抗コリン薬(ベシケア、ウリトス、ステーブラなど)が使われる事から多くなってきています。

しかしフラボキサートは抗コリン薬とは全く異なる機序で頻尿を改善させてくれます。これは抗コリン薬が効かないような方にも効く可能性があるという事です。

また効果は弱いのですが、その分副作用も少ないというメリットもあります。ジェネリック医薬品であり薬価が安いというのもメリットです。

そのためフラボキサートは、

・抗コリン薬があまり効かないような方
・効果は弱くてもいいから、なるべく副作用少なく頻尿を改善させたい方
・なるべく薬価を安く済ませたい方

などといった方に対して向いているお薬になります。