フルカムカプセル（一般名：アンピロキシカム）は1994年から発売されているお薬で、非ステロイド性消炎鎮痛剤（NSAIDs）という種類に属します。
「非ステロイド性消炎鎮痛剤」とは、いわゆる「痛み止め」「熱さまし」のお薬のことです。ステロイドでないお薬で、炎症を和らげる事で痛みや発熱を抑えるはたらきを持つものを非ステロイド性消炎鎮痛剤と呼びます。
NSAIDsにはたくさんの種類があります。どれも大きな違いはありませんが、細かい特徴や作用には違いがあり、医師は痛みの程度や性状に応じて、その患者さんに一番合いそうな痛み止めを処方しています。
NSAIDsの中でフルカムはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここでは、フルカムの特徴や効果、副作用などを紹介していきます。
１．フルカムの特徴
まずはフルカムがどのような特徴を持つお薬なのかを簡単に紹介します。
フルカムは炎症を抑える事で熱を下げたり（解熱）、痛みを和らげる（鎮痛）はたらきがあります。作用時間が長く1日1回の投与で良いのが利点ですが、胃腸障害の副作用には注意が必要です。
フルカムはNSAIDs（非ステロイド性消炎鎮痛剤）と呼ばれるお薬で、炎症を抑える作用（消炎作用）を持つお薬です。炎症が抑えられると熱が下がったり痛みが和らいだりするため、フルカムは解熱（熱を下げる）、鎮痛（痛みを鎮める）ために用いられます。
フルカムはNSAIDsの中でも「オキシカム系」という種類に属し、解熱・鎮痛作用の強さは「やや強め」になります（お薬の効きは個人差があるためあくまでも目安です）。
NSAIDsの中でのフルカムの特徴としては、
- 作用時間が長く1日1回の服用で効果が持続する
- バキソ（ピロキシカム）の胃腸障害を軽減した改良型
という点が挙げられます。
多くのNSAIDsが1日複数回服用しないと1日を通して効果を持続できないのに対して、フルカムは1日1回服用するだけで1日中効果が持続します。フルカムの半減期（お薬の血中濃度が半分に落ちるまでにかかる時間）は約41時間であり、これはNSAIDsの中でもかなり長い部類になります。
またほとんどのNSAIDsは副作用として胃腸を痛めてしまうリスクがあります。NSAIDsのうち「バキソ（一般名：ピロキシカム）」というお薬は胃腸への負担が特に強く、欧州医薬品庁（EMA)もバキソの使用はやむを得ない場合に限るべきだという提言を出すほどでした。
しかしバキソは胃腸への負担は強いのですが、作用時間が長かったり、効果が強かったりと良い面もありました。そのため、バキソの作用時間や強さを保ったまま、副作用の軽減を目的に開発されたのがフルカム（一般名：アンピロキシカム）です。
フルカムはバキソのプロドラッグになります。
プロドラッグというのは身体に吸収されてすぐには作用を発揮せず、作用を発揮したい部位に達した時に作用を発揮するように工夫されたお薬の事です。
これにより「効かせたい部位にのみ効き（効果は維持され）、それ以外に部位ではあまり効かない（副作用が少ない）」という事が可能になります。
フルカムの主成分であるアンピロキシカムは胃腸内では作用はほとんど発揮されません。しかし体内に吸収されるとピロキシカムに変化し、消炎鎮痛作用を発揮するようになります。
これにより胃腸障害は少なく、かつ鎮痛効果はしっかりと得られるようになるわけです。
フルカムは、このようにプロドラッグにする事で効果はしっかりとしたままで、副作用の胃腸障害を軽減したNSAIDsになります。しかしあくまでも多い胃腸障害を軽減しただけで、胃腸障害が絶対に生じないわけではありませんので注意はやはり必要になります。
またフルカムをはじめとしたNSAIDsは喘息を誘発しやすくすることが知られており、喘息の方にはできるだけ服用しない方が良いでしょう。
以上からフルカムの特徴として次のような点が挙げられます。
【フルカムカプセルの特徴】
・鎮痛作用（痛みを抑える作用）、解熱作用（熱を下げる作用）はやや強め
・作用時間が長く1日1回の服用で1日中効果が持続する
・副作用の胃腸障害に注意（他のNSAIDsと同様）
・喘息の方は使用に注意（他のNSAIDsと同様）
２．フルカムはどのような疾患に用いるのか
フルカムはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
下記疾患並びに症状の鎮痛、消炎
関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群
フルカムは消炎鎮痛剤ですから、炎症によって生じる症状を抑えるために用いられます。
炎症が抑えられると、熱が下がり（解熱）、痛みが和らぐ（鎮痛）ため、NSAIDsは痛みがある疾患や発熱を来たす疾患に用いられるお薬になります。
このうち、フルカムは主に痛みを抑える作用についての調査が行われているお薬であるため、主に痛みを来たす疾患に対しての適応を持っています（発熱をきたす疾患に対しても薬理上は効果がありますが、調査が詳しく行われていないため保険的な適応はありません）。
適応疾患には難しい病名がたくさん書かれていますが、おおまかな理解としては「痛みを来たす状態に対して、その症状の緩和に用いる」という認識で良いでしょう。
関節リウマチは自己免疫性疾患の1つです。自己免疫性疾患とは、本来であれば外部から侵入してきた有害な異物（ばい菌など）を攻撃するはずの免疫システムが誤作動してしまい、自分の身体を攻撃してしまう疾患です。
関節リウマチでは、関節を免疫システムが攻撃してしまう事により関節の炎症が生じ、関節が痛むようになります。
変形性関節症は加齢などにより関節がすり減ったり変形したりしてしまい、それにより関節に痛みが生じる疾患です。
肩関節周囲炎はいわゆる「五十肩」の事で、主に中高齢者に生じる肩の炎症です。
頸肩腕症候群は首・肩・腕の痛みを生じる病態のうち、検査で明らかな異常が認められないものの事です。主に長時間の事務作業やストレスなどが原因になります。
フルカムの有効率(中等度以上に改善した率)は、
- 関節リウマチへの有効率は33.6%
- 変形性膝関節症への有効率は67.2%
- 腰痛症への有効率は75.3%
- 肩関節周囲炎への有効率は71.6%
- 頸肩腕症候群への有効率は52.6%
と報告されています。
調査においてフルカムは改良前のお薬である「バキソ」と比べても、ほぼ同等の消炎鎮痛効果がある事が確認されています。
ただし上記疾患にフルカムが有効なのは間違いありませんが、フルカムを始めとするNSAIDsは根本を治す治療ではなく、あくまでも対症療法に過ぎないことを忘れてはいけません。
対症療法とは「症状だけを抑えている治療法」で根本を治しているわけではない「その場しのぎの」治療です。
例えば腰の筋力低下によって腰痛が出現している方に対してフルカムを投与すれば、確かに痛みは軽減します。しかしこれは原因である腰部の筋肉低下を治しているわけではなく、あくまでも発痛を起こしにくくしているだけに過ぎません。
対症療法が悪い治療法だということではありませんが、対症療法だけで終わってしまうのは良い治療とは言えません。対症療法と合わせて、根本を治すような治療も併用することが大切です。
例えば先ほどの腰痛であれば、フルカムを使用しつつも、
- 適度な運動・リハビリをする
- 栄養をしっかり取る
などの根本的な治療法も併せて行う必要があるでしょう。
３．フルカムにはどのような作用があるのか
主に「痛み止め」として使われているフルカムですが、どのような機序によって鎮痛作用を発揮しているのでしょうか。
フルカムは「非ステロイド性消炎鎮痛剤（NSAIDs）」という種類に属しますが、NSAIDsの作用はその名のとおり消炎（炎症を抑える）によって鎮痛する（痛みを抑える）事になります。
炎症とは、
- 発赤 （赤くなる）
- 熱感 （熱くなる）
- 腫脹（腫れる）
- 疼痛（痛みを感じる）
の4つの徴候を生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。
フルカムは炎症の原因が何であれ、炎症そのものを抑える作用を持ちます。つまり、発赤・熱感・腫脹・疼痛を和らげてくれるという事です。
具体的にどのように作用するのかというと、フルカムなどのNSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)という物質のはたらきをブロックするはたらきがあります。
COXは、プロスタグランジン(PG)が作られる時に必要な物質であるため、COXがブロックされるとプロスタグランジンが作られにくくなります。
プロスタグランジンは炎症や痛み、発熱を誘発する物質です。そのため、フルカムがCOXをブロックすると炎症や痛み、発熱が生じにくくなるのです。
フルカムはCOXのはたらきをブロックする事で炎症を抑え、これにより
- 熱を下げる
- 痛みを抑える
といった効果が期待できます。そのためフルカムのようなお薬を「COX阻害薬」と呼ぶ事もあります。
ちなみにCOXにはCOX1とCOX2の2種類があります。両者の違いは、生理機能（胃粘液分泌など正常時に行われている活動）に主に関係するのがCOX1で、炎症に主に関係しているのがCOX2になります。
フルカムは「非選択的COX阻害薬」と呼ばれ、COX1にもCOX2にもどちらにも作用してしまいます。そのため効果は強めである一方で胃腸への負担も大きくなってしまうのですが、フルカムはプロドラッグという形をとる事で胃腸への負担を軽減させています。
フルカム（アンピロキシカム）は、そのままでは消炎鎮痛作用がほとんどない物質です。そのため服用して胃腸内を通過しても、あまり胃腸を痛めません。
フルカムは主に小腸壁で吸収されますが、吸収される際にエステラーゼという酵素によってピロキシカムに変化し、血液内に入ります。
ピロキシカムは「バキソ」というNSAIDsの成分であり、消炎鎮痛作用を持つ物質です。
ここで初めて消炎鎮痛作用が発揮されるため、フルカムは胃腸への負担が少ないながらもしっかりと消炎鎮痛作用が得られるのです。
４．フルカムの副作用
フルカムの副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。また副作用はどのくらい多いのでしょうか。
フルカムの副作用発生率は4.78%と報告されております。
主な副作用としては、
- 胃・腹部痛
- 胃・腹部不快感
- 浮腫
- 発疹
などががあります。
フルカムをはじめとしたNSAIDsには共通する副作用があります。
もっとも注意すべきなのが「胃腸系の障害」です。これはNSAIDsがプロスタグランジンの生成を抑制するために生じます。
プロスタグランジンは胃粘膜を保護するはたらきを持っており、実際にプロスタグランジンを誘導するようなお薬は胃薬として用いられています。そのため、NSAIDsによってこれが抑制されると胃腸が荒れやすくなってしまうのです。
腹部不快感や胃痛・腹痛などをはじめとして、胃炎や胃潰瘍などになってしまうこともあります。このため、NSAIDsは漫然と長期間使用し続けないことが推奨されています。
フルカムはプロドラッグにする事で胃腸系の副作用を軽減しているものの、活性代謝物であるピロキシカムは胃腸障害が生じやすいお薬ですので、注意は必要です。必要な期間、必要な量のみ使い、漫然と使い続けないようにしましょう。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- 消化性潰瘍（穿孔を伴うことがある）、吐血、下血等の胃腸出血
- ショック、アナフィラキシー様症状（蕁麻疹、潮紅、血管浮腫、呼吸困難など）
- 中毒性表皮壊死症（TEN）、皮膚粘膜眼症候群（Stevens-Johnson症候群）
- 急性腎不全
- 肝機能障害、黄疸
が報告されています。
またフルカム（アンピロキシカム）の活性代謝物であるバキソ（ピロキシカム）には、
- 再生不良性貧血、骨髄機能抑制
- ネフローゼ症候群
の副作用の報告もあるため、同じく体内でピロキシカムに変化するフルカムもこれらの副作用が生じる可能性はあります。
重篤な副作用は稀ではあるものの絶対に生じないわけではありません。フルカムの服薬がやむを得ず長期にわたっている方は定期的に血液検査にて肝機能・腎機能などのチェックを行う必要があります。
また、フルカムは次のような方には禁忌（絶対に使ってはダメ）となっていますので注意しましょう。
１．消化性潰瘍のある方
２．重篤な血液の異常のある方
３．重篤な肝障害のある方
４．重篤な腎障害のある方
５．重篤な心機能不全のある方
６．重篤な高血圧症の方
７．妊娠末期の方
８．フルカムまたはバキソに対して過敏症の既往歴のある方
９．アスピリン喘息の方
１０．ノービア（リトナビル）を投与中の方
胃を荒らす可能性のあるお薬ですので、胃腸に潰瘍がある方はそれを更に増悪させる可能性があり用いてはいけません。
また心臓、肝臓、腎臓といった臓器にダメージを与える可能性がありますので、これらの臓器に重篤な機能不全がある場合もフルカムは用いてはいけません。
また動物実験においてフルカムを妊娠中に投与すると、胎児の動脈管収縮や分娩遅延が生じる可能性がある事が報告されています。ヒトにおいても同様の副作用が生じる可能性はあり、ここから妊婦さんに使用する事はできません。
ノービア（一般名：リトナビル）はHIVウイルス治療薬です。ノービアとフルカムを併用するとフルカムの血中濃度が顕著に上昇してしまい、副作用が生じやすくなってしまうため両者を併用する事は出来ません。
５．フルカムの用法・用量と剤形
フルカムは次の2剤型が発売されています。
フルカムカプセル 13.5mg
フルカムカプセル 27mg
フルカムの使い方は、
通常、成人には27mgを1日1回食後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜減量する。
と書かれています。
フルカムは作用時間が非常に長いため、1日1回の投与で効果が持続します。半減期（お薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間で、作用時間の1つの目安になる値）は約41時間であり、NSAIDsの中でも最長クラスのお薬になります。
またフルカムを初めとしたNSAIDsは空腹時に投与すると、胃腸へのダメージが更に生じやすくなるため、なるべく食後に服用するようにしましょう。
６．フルカムが向いている人は？
フルカムはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
フルカムの特徴をおさらいすると、
・鎮痛作用（痛みを抑える作用）、解熱作用（熱を下げる作用）はやや強め
・作用時間が長く1日1回の服用で1日中効果が持続する
・副作用の胃腸障害に注意（他のNSAIDsと同様）
・喘息の方は使用に注意（他のNSAIDsと同様）
といった特徴がありました。
基本的にNSAIDsはどれも大きな差はないため、処方する医師が使い慣れているものを処方する傾向があります。
フルカムはNSAIDsの中でも効果が強く、その割に胃腸障害が生じる程度は中等度です。また、作用時間が長い事から、
- 痛みの程度が強い方
- 一日を通して慢性的に痛みが続いている方
には向いているお薬になります。
ただし胃腸障害は、改良前のバキソよりは減っていますが生じないわけではなく、他のNSAIDsと同様に生じますので、慎重に使用していく必要があります。