フルタイド(一般名:フルチカゾンプロピオン酸エステル)は2002年から発売されている気管支喘息の治療薬になります。
「薬」といっても飲み薬ではなく、口から粉末を吸う(吸入する)ことでお薬を直接気管に作用させる吸入剤です。
フルタイドは炎症を抑えるステロイド剤であり、気管や肺の炎症を抑えることで咳・痰・息苦しさなどの症状を和らげてくれます。
吸入剤には多くの種類があり、それぞれで配合されている成分も異なっています。各吸入薬にどのような作用があって、どの吸入剤が自分に適しているのかというのはなかなか分かりにくいものです。
吸入剤の中でフルタイドはどのような特徴のあるお薬で、どんな作用を持っているお薬なのでしょうか。
フルタイドの効果や特徴・副作用についてみていきましょう。
1.フルタイドの特徴
まずはフルタイドのざっくりとした特徴についてみてみましょう。
フルタイドは主に慢性期(維持期)の発作予防に用いる吸入剤です。ステロイドであり、吸入することで気道の炎症を抑えてくれます。飲み薬と異なり全身への作用が少ないため、副作用少なく安全に用いることができます。
通常、吸入剤というのは用途によって2種類あります。
1つ目が発作が生じた時、今生じている発作をすぐに抑えるために用いる「発作止め(レリーバー)」です。これには「メプチン」「サルタノール」などがあり、効果は長くは続かないものの即効性があります。主に即効性のβ2刺激薬が用いられます。
【β2刺激薬】
アドレナリンβ2受容体を刺激するお薬。気管の平滑筋をゆるめることで気管を拡げるはたらきを持つ
2つ目がこれからの発作を起きないようにするための「予防薬(コントローラー)」です。多くの吸入剤はこれに属し、ステロイド剤、ステロイドとβ2刺激薬が混ざったもの、抗コリン薬などがあります。即効性はありませんが、長時間作用し続け、発作が起きないように気管を守ってくれます。
この中でフルタイドは「予防薬(コントローラー)」になります。喘息の発作が起きている時に慌てて吸入しても効果は得られませんが、普段から定期的に吸入をしておくことで喘息の発作を生じにくくさせます。
フルタイドは、ステロイドであるフルチカゾンプロピオン酸エステルが主成分となります。
ステロイドは炎症を抑えるはたらきがあります。喘息では、気管に炎症が生じていることが症状を引き起こす原因になっているため、炎症を抑えると呼吸苦・咳・痰などの症状を和らげることが出来ます。
【喘息】
アレルギー反応によって気管支が収縮してしまい、呼吸苦などの症状が生じる疾患。
フルタイドに含まれるステロイドの抗炎症作用(炎症を抑える作用)は強く、同種のステロイドである「ベコタイド(現在は発売中止)」の約2倍の抗炎症作用があると報告されています。
フルタイドのような吸入剤は飲み薬と比べて副作用が少ないというのが大きなメリットです。吸入したフルタイドはほぼ気管のみに塗布されます。飲み薬のように全身にお薬が回りにくく、飲み薬のような全身性の副作用の心配が少なくなります。
ちなみに喘息に用いる吸入剤には、ステロイド剤の他、
- ステロイド剤とβ2刺激薬を配合したもの
- β2刺激薬
などがあります。
β2刺激薬はアドレナリンβ受容体を刺激することで気管を広げる作用があり、これも喘息の呼吸苦の改善に役立ちます。
ステロイド剤のみで治療するか、ステロイドとβ2刺激薬の配合剤で治療するかは喘息の程度によって異なるため、自分がどの吸入剤を使用するかは主治医とよく相談する必要があります。一般的にはステロイド吸入剤を初期から用いて、それでも改善が乏しい場合にβ2刺激薬吸入剤も併用します。
以上から、フルタイドの特徴として次のようなことが挙げられます。
【フルタイドの特徴】
・喘息の治療薬として用いられる
・ステロイド剤が主成分であり気管の炎症を抑える
・喘息発作を抑える予防薬であり、発作止めとしては使えない
・気管にのみ作用するため、全身への副作用が少ない
2.フルタイドはどのような疾患に用いるのか
フルタイドはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
気管支喘息
フルタイドは気管の炎症を抑える作用を持つお薬であるため、気管に炎症が生じている疾患に対して用いられます。
これは具体的には「気管支喘息」が挙げられます。
気管支喘息において、吸入ステロイド剤は初期から推奨される治療法になります。
フルタイドの有効率(中等度以上改善した率)は、
- 成人で79.7%
- 小児で82.4%
と報告されています。
3.フルタイドはどのような作用があるのか
フルタイドはどのような機序によって、喘息の症状を改善させてくれるのでしょうか。
フルタイドの気管での作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.抗炎症作用
フルタイドには「フルチカゾンプロピオン酸エステル」というステロイドが配合されています。ステロイドには「抗炎症作用」があり、フルチカゾンもこの作用を狙って配合されています。
ステロイドには飲み薬や塗り薬などもありますが、これらも作用は同じです。飲み薬のステロイドは全身の炎症を抑えるために用いられ、関節リウマチなどの自己免疫性疾患や重症の感染症などに用いられることがあります。
塗り薬のステロイドは皮膚の炎症を抑えるために用いられ、主に皮膚炎(アレルギー性皮膚炎など)に用いられます。
同じようにフルタイドに含まれる「フルチカゾンプロピオン酸エステル」は、気管の炎症を抑えるために用いられます。
喘息では気管にアレルギーが生じてしまい、それにより気管に炎症が生じています。炎症によって気管が腫れると気管が狭くなり、呼吸苦や咳・痰などが生じます。
このような状態の気管にステロイドを使用すると、気管の炎症が軽減します。すると気道の腫れが和らぐため、呼吸苦・咳・痰の改善が得られるのです。
ステロイドはグルココルチコイド受容体という部位に作用する事で、炎症に関係する物質(ケミカルメディエーター)の産生を抑えるはたらきがあり、これが抗炎症作用が得られる機序だと考えられています。
4.フルタイドの副作用
フルタイドにはどんな副作用があるのでしょうか。
フルタイドは吸入剤であり飲み薬と違って全身にほとんど作用しません。吸入によって気管以外の体内に入ってしまうお薬の量は1%以下だと考えられており、ここから安全性は高いお薬だと言って良いでしょう。
ただし吸入することで口腔内や咽喉頭、気管にはお薬が塗布されるため、これらの部位に副作用が生じることはあります。
フルタイドの副作用発生率は4.4%(小児は2.6%)と報告されています。
生じる副作用としては、
- 咽喉頭症状(不快感、むせ、疼痛、刺激感、違和感)
- 口腔カンジダ症
- 嗄声
- 口腔乾燥
- 悪心
- 胸痛
などがあります。
フルタイドにはステロイドが含まれています。ステロイドは炎症を抑える効果が期待できる反面で、免疫力(ばい菌と闘う力)も抑えてしまうため「感染に弱くなってしまう」というリスクがあります。それにより嗄声や口腔カンジダ症などが生じやすくなってしまいます。また、稀ですが肺炎に至る事もあり得ます。
頻度は稀ながら重篤な副作用としては、
- アナフィラキシー
が報告されています。
ちなみにフルタイドは
- 有効な抗菌剤の存在しない感染症
- 深在性真菌症
の患者様には禁忌(投与したら絶対にダメ)となっています。
また
- 結核性疾患
の患者様には原則禁忌(原則としては禁忌であるが、どうしてもやむを得ない場合は慎重に投与可能)となっています。
これはフルタイドがステロイドを含有しているためです。ステロイドは炎症を抑えてくれる効果がある反面で、免疫力を下げてしまう作用があります。免疫力とは病原菌に対して抵抗する力のことで、これが弱まるとばい菌に感染しやすくなってしまいます。
元々、難治性の感染症にかかっている方にステロイドを使用してしまうと、更にばい菌が悪さをしてしまう環境になるため、このような方への投与は認められていません。
5.フルタイドの用法・用量と剤形
フルタイドにはどのような剤型があるのでしょうか。
フルタイドは、
フルタイド50 ディスカス
フルタイド100 ディスカス
フルタイド200 ディスカスフルタイド50 ロタディスク
フルタイド100 ロタディスク
フルタイド200 ロタディスクフルタイド50μg エアゾール 120吸入用
フルタイド100μg エアゾール 60吸入用
といった剤形があります。
「ディスカス」「ロタディスク」「エアゾール」といった聞き慣れない剤型があるため、「どれを使えばいいの?」と迷ってしまうかもしれません。
しかし、どの剤型を選んでも得られる薬効に大きな変わりはありません。自分が使いやすい剤型を選ぶと良いでしょう。
ディスカスとロタディスクはドライパウダーが含まれています。一方でエアゾールはその名の通りエアゾールが含まれています。
ドライパウダーとエアゾールは、エアゾールの方が粒子径が小さいため肺の奥にまで届きやすいというメリットがあります。
また服用時を考えると、ドライパウダーは自分の力で吸うため、自分のタイミングで吸えるというメリットがありますが、吸う力の弱い小児や高齢者では吸入が難しい事があります。エアゾールは押すとお薬が噴霧されるため、吸う力が弱い方でも吸いやすいですが、吸うタイミングを噴霧のタイミングと合わせないといけないというデメリットがあります。
ディスカスとロタディスクは、ディスカスの方が薬剤の詰め替えなしで吸うだけで済みますので簡便です。ロタディスクは薬剤の詰め替えが必要ですが、その分細目に吸入口を洗う事が出来、清潔に用いることができます。
ちなみにディスカスはdisk(円盤)から来た名称で、ロタディスクはrotary(回転)とdisk(円盤)から来た名称です。いずれもこれらの剤型の見た目を表しています。
フルタイドの使い方としては、
成人には、通常1回100μgを1日2回吸入投与する。小児には、通常1回50μgを1日2回吸入投与する。なお、症状により適宜増減するが、1日の最大投与量は成人では800μg、小児では200μgを限度とする。
と書かれています。
フルタイドのようなステロイド吸入剤は吸入後にうがい・口すすぎをすることが推奨されています。ステロイドは免疫力を弱めてばい菌が感染しやすい環境にしてしまうためです。
うがいをして口の中のステロイドを洗い流すことにより、口腔内にばい菌が繁殖するのを防げます。
6.フルタイドが向いている人は?
以上から考えて、フルタイドが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
フルタイドの特徴をおさらいすると、
・喘息の治療薬として用いられる
・ステロイド剤が主成分であり気管の炎症を抑える
・喘息発作を抑える予防薬であり、発作止めとしては使えない
・気管にのみ作用するため、全身への副作用が少ない
といったものでした。
フルタイドはステロイドのみからなる吸入剤であり、喘息治療の導入に適しています。まずはフルタイドのようなステロイド吸入剤から治療を開始し、それでも不十分であれば飲み薬を併用したり、β2刺激薬吸入剤を併用すると、段階的に治療を強めていきます。
近年では2つの成分が入った配合吸入剤も増えてきましたが、どんな時でも配合吸入剤が良いというわけではありません。ステロイド単剤でコントロールできるのであればその方がいいわけです。
また吸入剤というのは当たり前ですが、しっかりと気管や肺に届くまで吸い込まないと効果が得られません。正しい吸入法が出来るように医師や薬剤師からしっかりと指導を受けるようにしましょう。ネットでも吸入法の動画なども製薬会社から配布されていますので、ぜひご覧になってください。