フォルテオ(一般名:テリパラチド)は2010年から発売されているお薬で、骨粗しょう症の治療薬になります。
自分で自分の身体に注射する製剤という事で、使用に際して抵抗を持つ方が多いのですが、実際はやり方も簡単で痛みもほとんど感じません。他の骨粗しょう症治療薬と比べると強力な効果があるため、骨粗しょう症による骨折や痛みで苦しんでいる方にはぜひ検討頂きたいお薬になります。
骨粗しょう症のお薬にもいくつかの種類があり、それぞれメリット・デメリットがあります。骨粗しょう症治療薬の中でフォルテオはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここではフォルテオの効能や特徴、副作用などを紹介していきます。
1.フォルテオの特徴
まずはフォルテオの特徴を紹介します。
フォルテオは骨芽細胞(骨を作る細胞)のはたらきを高める事で、骨を丈夫にする効果があります。骨粗しょう症のお薬の中でも、「骨を強くする」効果は現時点ではNo.1と言って良いお薬です。
注射であるため投与時にわずかに痛みがある事、その強力な作用のため一生のうちで24か月間しか使用できない事、薬価が高いというデメリットがあります。
フォルテオは骨粗しょう症治療薬です。骨粗しょう症というのは、主に加齢などによって骨がもろくなってしまい、骨折しやすい状態になってしまう事です。
フォルテオは遺伝子組み換えによって作られた副甲状腺ホルモン(PTH)です。副甲状腺ホルモンは骨芽細胞(骨を作る細胞)と破骨細胞(骨を分解する細胞)のバランスを変化させる作用があり、フォルテオのように注射でワンポイント投与をすると骨形成(骨を作る)を活性化させる作用がある事が知られています。
これを骨粗しょう症の治療薬として利用したのがフォルテオです。
フォルテオは骨粗しょう症治療薬の中でも「骨形成促進剤」と呼ばれ、骨を作る作用に優れるお薬です。一方で有名な骨粗しょう症治療薬であるボナロン(一般名:アレンドロン酸ナトリウム)は「骨吸収抑制剤」と呼ばれ、こちらは主に骨の分解・吸収を抑えるお薬になります。
簡単に言えば、フォルテオは「骨を作る」という積極的な治療、ボナロンは「骨がこれ以上壊れないように守る」という防戦重視の治療と言えます。
フォルテオは皮下に注射する事で骨形成を活性化させ、骨を丈夫にし、骨の老化による痛みや骨折を防ぐ効果があります。
その作用は強力であり、様々な骨粗しょう症のお薬の中で、現時点では骨を丈夫にする効果はNo.1だと言ってよいでしょう。
デメリットとしては、骨の形成を強力に活性化するため、骨肉腫(骨の癌)を生じるリスクがあるという点です。これは人間では認められておらず動物実験において認められたのみですが、人間でも同様の可能性がないとは言えないため注意が必要です。
このような理由からフォルテオは一生の中で24カ月間までしか使えないこととなっています。
また経済的なデメリットとしてはフォルテオの薬価の高さが挙げられます。フォルテオは1カ月分で43,334円と非常に高額です。3割負担だと約13,000円、1割負担でも4,300円となり決して安くはありません。
以上からフォルテオの特徴として次のような点が挙げられます。
【フォルテオの特徴】
・骨の形成を促進する事により骨を丈夫にする
・骨粗しょう症による骨折を予防したり、痛みの改善が期待できる
・骨粗しょう症の治療薬の中でも効果は高い
・自己注射製剤であり、自分で毎日注射しないといけない
・薬価が高い
2.フォルテオはどのような疾患に用いるのか
フォルテオはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
骨折の危険性の高い骨粗鬆症
フォルテオは骨粗しょう症の治療薬になりますので、その適応はもちろん「骨粗しょう症」です。
フォルテオは骨を強くする効果に優れるため、骨粗しょう症の中でも特に骨折の危険性の高い患者さんに向いているお薬になります。
そぁそ効果が強い分、安易に開始をする事は避けるべきです。骨粗しょう症の診断をしっかりと確定させてから開始すべきです。
骨折リスクの高い骨粗しょう症患者さんを対象に行った日本の試験では、フォルテオ治療によって腰椎の骨密度の平均変化率が、
- 12か月で10.04%
- 18か月で11.93%
- 24か月で13.42%
の上昇であったと報告されており、フォルテオによって骨密度の改善が得られた事が示されています。
また骨折のリスクが高い骨粗しょう症患者さんを対象に行った海外の試験では、
- 新規の椎体の骨折の発生を65%抑制した
- 非外傷性、非椎体骨折の発生を53%抑制した
と報告されており、フォルテオ投与によってその後の骨折リスクが低下する事が示されています。
骨粗しょう症の治療薬として代表的な「ボナロン(一般名:アレンドロン酸ナトリウム)」と比較しても、フォルテオは優位に骨密度を改善させたという報告もあります。
この試験では、18か月間の追跡調査で骨密度平均変化率が、それぞれ
フォルテオ:10.92%
ボナロン:5.51%
と上昇しており、どちらも骨粗しょう症に効果は認めるものの、フォルテオの方が優位に改善している事が分かります。他の骨粗しょう症治療薬よりも一段階効果が強力だと考えて良いでしょう。
3.フォルテオにはどのような作用があるのか
フォルテオは骨粗しょう症治療薬です。
骨粗しょう症は加齢などによって骨がもろくなってしまい、骨折しやすくなってしまう疾患です。
骨粗しょう症の治療薬は大きく分けると2つの種類があります。
- 骨形成促進薬:骨の形成を促進する事で骨を強くする
- 骨吸収抑制薬:骨が分解されるのを抑える事で骨を弱くしないようにする
このうち、フォルテオは「骨形成促進薬」になります。
ではフォルテオはどのような機序によって骨の形成を促進しているのでしょうか。
フォルテオは副甲状腺ホルモン(PTH)という副甲状腺から出ているホルモンの遺伝子組み換え製剤になります。
PTHは私達の体内でも分泌されているホルモンですが、このホルモンは血液中のカルシウムを増やすはたらきを持ちます。どのようにしてカルシウムを増やすかというと、骨を分解する事でカルシウムを血中に放出させるのです。
また腎臓においてカルシウムが尿とともに排泄されるのを抑えるはたらきや、腸管のカルシウム吸収能を高める事で食べ物からのカルシウムを吸収しやすくするはたらきもあります。
このPTHはちょっと不思議な性質を持っています。
PTHのはたらきは「骨を溶かしてカルシウムを血中に放出させる」ことですので、普通に考えればPTHが増えれば骨粗しょう症はより進行してしまいそうです。
しかしPTHは持続的に分泌されると骨を溶かしてカルシウムを血中に放出させる作用を発揮しますが、面白い事に間欠的(一定時間のみ)に分泌させるとむしろ反対に骨を形成する作用を発揮するのです。
なぜ持続的と間欠的にこのような作用の違いが出るのかはまだ良く分かっていませんが、PTHを体内で一定時間のみ増やすと骨の形成が促進され、骨が丈夫になります。
より正確に説明すると、骨を形成する細胞は「骨芽細胞」と呼ばれ、骨を分解する細胞は「破骨細胞」と呼ばれます。骨の形成・分解のバランスは骨芽細胞と破骨細胞の綱引きによって決まります。
PTHの持続的投与を行った場合、骨芽細胞も破骨細胞も活性化するのですが、破骨細胞の方がより活性化するため、骨は分解させる方向になります。
一方でPTHの間欠的投与を行った場合、骨芽細胞も破骨細胞も活性化するのですが、骨芽細胞の方がより活性化するため、骨は形成させる方向になるのです。
フォルテオはこの点に注目して作られたお薬です。
フォルテオは半減期(血中濃度が半分に下がるまでの時間)が約1時間未満と短く、皮下に注射しても、短時間でその作用は消えてしまいます。
しかしこの短時間のみ作用するという特徴が間欠的作用となり、骨芽細胞(骨を作る細胞)のはたらきを強める事で骨粗しょう症に効果を発揮します。
ちなみにこのような作用機序から、フォルテオは1日に1回の投与が効果的で、頻回に投与すべきものではない事が分かります。仮に1日に頻回に注射をすると持続的投与となってしまうため、むしろ骨粗しょう症を進行させてしまうと考えられます。
フォルテオは用法を守って正しく使用する事が非常に重要なお薬なのです。
4.フォルテオの副作用
フォルテオにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
フォルテオの副作用発生率は、19.8%と報告されています。これだけ聞くと多いように感じられるかもしれませんが、フォルテオは注射であるため気持ち的に抵抗を感じる方が多く、それにより副作用を感じやすくなっていると考えられます。
その証拠に対象試験としてプラセボ(何の成分も入っていない偽薬)を注射した場合にも、偽薬にも関わらず10.5%の副作用が発生したと報告されています。
お薬の成分による実際の副作用はこの分を差し引いて考える必要があるでしょう。
フォルテオで生じる主な副作用としては、
- 血中尿酸上昇
- 頭痛
- 悪心
- ALP上昇
- 筋痙縮
- 食欲不振
- 血中尿素上昇
などがあります。
これらはフォルテオを投与する事で一過性に血中カルシウムの濃度が変動するために生じると考えられています。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- ショック、アナフィラキシー
が記載されています。
また、フォルテオは次のような方には禁忌(絶対に使ってはダメ)となっていますので注意しましょう。
1. 高カルシウム血症の方
2. 次に掲げる骨肉腫発生のリスクが高いと考えられる方
(1)骨ページェット病の方
(2)原因不明のアルカリフォスファターゼ(ALP)高値を示す患者
(3)小児等及び若年者で骨端線が閉じていない方
(4)過去に骨への影響が考えられる放射線治療を受けた方
3.原発性の悪性骨腫瘍もしくは転移性骨腫瘍のある方
4.骨粗鬆症以外の代謝性骨疾患の方(副甲状腺機能亢進症等)
5.妊婦又は妊娠している可能性のある方、授乳婦
6.本剤の成分又に対し過敏症の既往歴のある方
フォルテオは使い方によっては血中カルシウム濃度を高めてしまう可能性があるため、高カルシウム血症の方に使用する事はできません。
また動物実験において骨肉腫を発生させたという報告がありますので、骨肉腫発生のリスクが高いと考えられる方、骨の腫瘍を認める方にも使用する事はできません。
フォルテオは副甲状腺ホルモンの遺伝子組み換え製剤ですので、副甲状腺ホルモンが多くなっている方(副甲状腺機能亢進症など)には使う事が出来ません。
また動物実験で妊娠中に使用する事で、胎児数の減少、全胚吸収、膣出血などが認められたため、妊婦の方は使う事ができません。フォルテオは乳汁へ移行するかどうかが不明であるため授乳婦の方も使用する事はできません。
5.フォルテオの用法・用量と剤形
フォルテオは次の剤型が発売されています。
フォルテオ皮下注キット 600μg
フォルテオの使い方は、
通常、成人には1日1回20μgを皮下に注射する。なお、本剤の投与は24ヵ月間までとすること。
と書かれています。
フォルテオは1回に20μgを注射しますので、600μgのキットは30日分あるという事になります。つまり1本で1か月持つという計算になります(ただし添付文書には28日を超えて使用しない事となっています)。
フォルテオは自分で注射する自己注射製剤であるため、「自分にできるだろうか」と抵抗を感じる方も多いと思いますが、実際のやり方はそんなに難しいものではありません。
フォルテオはペンのような形をしており、その先端に毎回細い針を付けます。
打つ前にペンの背中にあるレバーを赤い線が出てくるまで引いてから、針を垂直に皮膚に刺し、引いたレバーを押します。刺す皮膚の部位は、腹壁(おなか)か大腿部(ふともも)となっています。これはこれらの部位が皮下脂肪が厚い部位であるためです。
これで終了で、注射といえども非常に簡単です。一回練習すればほとんどの方は問題なく出来るようになります。またフォルテオを処方された方には製薬会社さんより説明の詳しいパンフレットや、使い方が分からなくなったと際などに連絡できる電話番号なども用意されていますから安心して使う事ができます。
フォルテオは一本を1か月間使うため、適切な場所に保管しておく必要があります。適切な場所というのは「2~8℃」「遮光」を満たす場所であり、一般的には冷蔵庫の中で保管しておく事が望まれます。
ちなみにフォルテオはなぜ、「24か月間まで」と使用期限に制限があるのでしょうか。それはいくつかの理由がありますが、一つはフォルテオは骨形成を促進する事により、骨肉腫(骨の癌)を誘発してしまう事が動物実験で報告されたからです。
人において同様の副作用が生じる可能性は低いと考えられているものの一定の注意は必要ですので、投与期間に制限がかけられています。
また高額な薬剤であるため、漫然と長期間使い続ける事は医療費的にも好ましくないという側面もあると思われます。
6.フォルテオが向いている人は?
フォルテオはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
フォルテオの特徴をおさらいすると、
・骨の形成を促進する事により骨を丈夫にする
・骨粗しょう症による骨折を予防したり、痛みの改善が期待できる
・骨粗しょう症の治療薬の中でも効果は高い
・自己注射製剤であり、自分で毎日注射しないといけない
・薬価が高い
といった特徴がありました。
フォルテオの最大の特徴は、その効果の高さです。現時点では骨粗しょう症の治療薬として効果はトップクラスだと言っても良いでしょう。
デメリットには
- 薬価の高さ
- 注射で投与時に多少の痛みがある
と言った点が挙げられ、これは安く簡便に服用できる経口剤には劣る点です。
ここからフォルテオを使用するのは、骨粗しょう症の方で、
- 骨折のリスクが高い方
- 骨折を何度もしているような方
に向いているお薬だと考えられます。特に効果を何よりも優先したい場合にはフォルテオは候補に挙がるお薬になるでしょう。