ガスロンNの効果と副作用【胃薬】

ガスロンN(一般名:マレイン酸イルソグラジン)は、1989年から発売されている胃炎・胃潰瘍治療薬(いわゆる胃薬)です。

主に胃壁細胞の強度を高めたり、胃への血流を増やす作用によって胃炎や胃潰瘍を改善させます。

胃薬にもたくさんの種類があります。これらの中でガスロンNはどのような位置付けのお薬になるのでしょうか。

ここではガスロンNの特徴や効果・副作用をはじめ、どのような作用機序を持つお薬でどのような方に向いているお薬なのかについて説明していきます。

 

1.ガスロンNの特徴

まずはガスロンNの全体的な特徴について、かんたんに紹介します。

ガスロンNは胃壁細胞の細胞間の結合を強化する事で胃壁細胞の強度を高めます。また胃粘膜への血流を増やす作用もあります。

胃薬ではありますが、口内炎の治癒を早める作用もあり、口内炎の治療薬として用いられることもあります。

ガスロンNは主に胃炎や胃潰瘍に適応を持つ「胃薬」になります。

胃薬にはたくさんの種類がありますが、その作用機序は大きく分けて、

  • 胃を攻撃する因子(胃酸など)を減らすもの
  • 胃を防御する因子(胃粘液など)を増やすもの

の2種類があります。

前者にはH2ブロッカー(ガスターなど)やPPI(タケプロンなど)があります。これらの胃薬は高い胃潰瘍・胃炎改善作用が得られるため、近年の胃疾患治療において主役となっています。

一方で後者は古いお薬が多く、安全性は優れるものの、効果も穏やかで弱めという特徴があります。

この中でガスロンNは後者に属するお薬です。そのため基本的には穏やかに効くお薬になります。

ガスロンNは胃を防御する因子を増やすお薬ですが、より具体的にみると、

  • 胃壁細胞の細胞同士の結合を強める事で、胃壁がダメージを受けにくいようにする
  • 胃粘膜への血流を増やす

といった作用を持ち、これによって胃炎・胃潰瘍に効果を示します。

細胞と細胞はコネクシンというタンパク質によって結合しています。この結合力が強ければ強いほど、細胞の集合体である組織は破壊されにくくなり、また破壊されても早く修復できるようになります。

ガスロンNは細胞間の結合を強める事によって、胃壁の防御力を上げてくれます。

またガスロンは胃粘膜への血流を増やす作用も報告されています。血流が増えるとそこに血液中に含まれる様々な栄養素が届きやすくなるため、傷の修復もしっかりと行えるようになります。

意外な作用としては口内炎の治療に用いられることもあります。ガスロンNは細胞間の結合を強める作用があり、これは胃壁以外の部位の細胞にも生じるため、口腔内の細胞の修復の改善も期待できるのです。

ガスロンNのような胃の防御因子を増やすタイプの胃薬は作用時間が短いものが多く、1日3回に分けて服用するのが一般的ですが、ガスロンNの大きな特徴として「1日1回(あるいは2回)の服用で良い」点が挙げられます。

ガスロンNは作用時間が非常に長いため、1日1回の服用でも1日を通して十分効果が持続します。これは忙しくてお薬を飲む時間がなかなか取れない方にはありがたい特徴になります。

ガスロンNは効果が穏やかである分、副作用もとても少ないお薬です。稀に肝臓に負担がかかって肝機能障害が生じたり、下痢や便秘といった消化器症状が生じる事がありますが、重篤化する事はまずありません。

以上からガスロンNの特徴として次のようなことが挙げられます。

【ガスロンNの特徴】

・胃炎・胃潰瘍に用いられる胃薬である
・胃壁細胞間の結合を強化する事によって、胃壁の防御力を高める
・胃粘膜への血流を増やす作用がある
・口腔内の細胞間の結合も強化するため、口内炎の治りを早める作用も期待できる
・1日1回の服用で良い
・副作用が少なく安全性に優れる

 

2.ガスロンNはどのような疾患に用いるのか

ガスロンNはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

〇 胃潰瘍

〇 下記疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善

急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期

ガスロンNは主に胃炎や胃潰瘍の治療に用いられます。

ではガスロンNはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。

胃潰瘍と診断された症例にガスロンNを8週間投与した調査では、投与終了後に内視鏡検査(胃カメラ)にて胃潰瘍の治癒が確認された例は62.6%と報告されており、また全般的な改善度として「中等度以上改善」と判定された率は74.4%と報告されています。

ガスロンNを急性胃炎・慢性胃炎の急性増悪期に投与した調査では、胃炎が中等度以上に改善されたと判定された率は85.2%と報告されています。

 

3.ガスロンNにはどのような作用があるのか

ガスロンNは胃炎や胃潰瘍といった胃疾患に対して効果を発揮するお薬ですが、具体的にどのような作用機序を持っているのでしょうか。

ガスロンNの主な作用について詳しく紹介します。

 

Ⅰ.細胞間の結合を強化する事で防御力を高める

ガスロンNは、胃壁細胞の細胞同士の結合を強化する作用があります。

細胞と細胞はコネキシンというタンパク質によってくっついており、これを「ギャップ結合」と言います。

ギャップ結合によって細胞と細胞がしっかりとくっつく事で、胃酸などの刺激が加わっても簡単には組織が破壊されないよう、細胞同士が支えあっているのです。

ガスロンNには、

  • 細胞内のpHを上げる
  • 細胞内のcAMP濃度を上げる

といった作用があります。cAMPは「サイクリックAMP」と読み、細胞内で様々な情報を伝える役割を持つ物質です。

これらの作用によってガスロンNはギャップ結合を強化させるはたらきを発揮すると考えられています。

 

Ⅱ.胃粘膜への血流を増やす

ガスロンNは、胃粘膜への血流を増やす作用がある事も報告されています。

血液は豊富な栄養分を全身の各臓器に届ける役割を担っていますので、胃への血流が増えれば胃にたくさんの栄養が届くようになります。すると胃粘液を作りやすくなったり細胞の合成・修復もしやすくなります。

胃粘液というのは胃の表面を覆ってくれる粘液で、ヘキソサミンやムチンというたんぱく質などが成分となっています。ヘキソサミンはアルカリ性の物質であり胃酸を中和してくれるため、胃酸から胃壁を守るはたらきがあります。ムチンは粘性のある糖タンパクで、その粘性によって胃壁を保護してくれます。

ガスロンNは胃への血流を増やす事で、このような胃粘液の分泌を増やしてくれます。胃粘液が十分に分泌されると胃壁をコーティングしてくれるため、胃の防御力が高まります。

 

Ⅲ.口内炎を治りを早める

ガスロンNの意外な作用として、口内炎に対して効果がある事が知られています。

この作用はⅠ.で紹介した細胞間のギャップ結合を強化する作用が関係していると考えられています。

ガスロンによって生じるギャップ結合の強化は、胃壁細胞にだけ生じるものではありません。口腔内の細胞にも生じます。

口腔内の細胞にギャップ結合の強化が生じれば、口腔内の細胞同士がよりしっかりと結合するようになるため、刺激に対しての抵抗力が高まり、また細胞が損傷されている場合はその修復も早めてくれます。

ガスロンNは胃薬であり口内炎の薬ではないのですが、このようなはたらきから口内炎の治療に用いられる事もあるのです。

 

4.ガスロンNの副作用

ガスロンNにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。

ガスロンNの副作用発生率は0.63%と報告されています。基本的に副作用は少なく、安全性に優れるお薬です。

生じうる副作用としては、

  • 肝機能異常(AST、ALT、ALP等の上昇)
  • 便秘、下痢
  • 発疹、掻痒

などが報告されています。

ガスロンNは胃に作用するため、時に胃腸系に副作用が生じる事があります。その多くは下痢や便秘で、程度は軽いものが多く、重篤となる事は稀です。

またガスロンは稀に肝臓に負担をかけてしまい肝機能障害を起こす事もあります。

発疹や掻痒(かゆみ)はアレルギー反応の1つで、ガスロンNに限らずお薬であればどんなものであっても生じる可能性のある副作用になります。

ただしいずれも頻度は低く、また程度も軽度である事がほとんどです。

 

5.ガスロンNの用法・用量と剤形

ガスロンNには、

ガスロンN錠 2mg
ガスロンN錠 4mg

ガスロンN顆粒0.8% 0.25g
ガスロンN顆粒0.8% 0.5g
ガスロンN顆粒0.8% 100g
ガスロンN顆粒0.8% 500g

ガスロンN・OD錠 2mg

といった剤型があります。

ちなみにガスロンNの「N」は何の意味があるのでしょうか。

実はこの「N」に大した意味はありません。お薬の名前の後にアルファベットがついていると「ガスロンに何かの成分が配合されているのではないか」と期待される方もいますが、そういうものではありません。

ガスロンは日本新薬という製薬会社が発売しているお薬ですので、日本新薬の頭文字の「N」を付けているだけです。

ガスロンNの使い方は、

通常成人1日4mgを1~2回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

となっています。

胃を保護するタイプの胃薬は1日3回服用のものが多く、1日1回服用で1日効果が持続するものはほとんどありません。

しかしガスロンは1日1回でもよく、これはガスロンの大きなメリットになります。

ガスロンは薬効が極めて長く、半減期(お薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間)は約150時間と報告されています。胃の防御因子を増やす胃薬の中では、極めて長い作用時間となっているのです。

 

6.ガスロンNが向いている人は?

最後にガスロンNが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

ガスロンNの特徴をおさらいすると、

【ガスロンNの特徴】

・胃炎・胃潰瘍に用いられる胃薬である
・胃壁細胞間の結合を強化する事によって、胃壁の防御力を高める
・胃粘膜への血流を増やす作用がある
・口腔内の細胞間の結合も強化するため、口内炎の治りを早める作用も期待できる
・1日1回の服用で良い
・副作用が少なく安全性に優れる

というものでした。

ガスロンNをはじめとした、胃の防御因子を増やすタイプの胃薬は、効果は穏やかで強くはないけれども副作用も少なく安全性に優れるといった特徴があります。

ガスロンNも同様で、効果は穏やかですが、副作用も少ない胃薬です。

更にガスロンNの利点としては、

  • 1日1回の副作用で良い
  • 口内炎も治す作用が期待できる

という点が挙げられます。

ここから、

  • 服用回数をなるべく少なくしたい方
  • 安全性を重視して治していきたい方
  • 口内炎も併発している方、口内炎を起こしやすい方

などに向いている胃薬だと言えます。