グリメサゾン軟膏(一般名:デキサメタゾン・グリテール)は1968年から発売されているステロイド剤になります。
グリメサゾンは皮膚に塗るタイプの外用ステロイド剤であり、主に皮膚の炎症を抑える作用に優れます。またグリテールというタール剤を含み、これもかゆみを抑えたり菌をやっつけたりする作用があるため、幅広い効果が期待できます。
外用剤は飲み薬のように全身に作用せず病変がある部位にのみ作用するため、効かせたい部位にしっかりと効き、余計な部位に作用しにくいというメリットがあります。
塗り薬はたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのか一般の方にとっては分かりにくいと思います。
グリメサゾンはどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。グリメサゾンの効能や特徴・副作用についてみてみましょう。
目次
1.グリメサゾン軟膏の特徴
まずはグリメサゾン軟膏の特徴をざっくりと紹介します。
グリメサゾンは2つの成分が入っているお薬になります。
1つ目が「デキサメタゾン」というステロイドです。ステロイドは皮膚の炎症を抑える作用に優れ、皮膚の炎症による荒れを抑えたり、炎症で生じるかゆみを抑えてくれます。
2つ目が「グリテール(脱脂大豆乾溜タール)」というタール剤です。グリテールも炎症を抑える作用、痒みを抑える作用や抗菌作用などを有しています。
グリテールとデキサメタゾンの2つが入っているため、「グリメサゾン」という名前になります。
つまりグリメサゾンはステロイド薬とタール剤の配合薬であり、皮膚の炎症を抑えたり、痒みを抑えたりしてくれ、抗菌作用も有しています。外用ステロイド薬の中での強さは「弱め」です。
ちなみに外用ステロイド剤は強さによって5段階に分かれています。
Ⅰ群(最も強力:Strongest):デルモベート、ダイアコートなど
Ⅱ群(非常に強力:Very Strong):マイザー、ネリゾナ、アンテベートなど
Ⅲ群(強力:Strong):ボアラ、リドメックスなど
Ⅳ群(中等度:Medium):アルメタ、ロコイド、キンダベートなど
Ⅴ群(弱い:Weak):コートリル、プレドニンなど
グリメサゾンの強さは、この中では「Ⅴ群(弱い)」に属します。
グリメサゾンはステロイド単体として見た抗炎症作用は弱いのですが、同じく抗炎症作用を持つグリテールを配合する事で、炎症を抑える作用を増強しています。これにより炎症をしっかり抑えてくれつつ、ステロイドで問題になる副作用は少なくするという事を可能にしています。
ステロイドはしっかりとした抗炎症作用(炎症を抑える作用)が得られる一方で、長期使用による副作用の問題があります。
強いステロイドは強力な抗炎症作用がありますが、一方で皮膚を薄くしてしまったり、皮膚がばい菌に感染しやすくなってしまうという副作用もあります。反対に弱いステロイドは抗炎症作用は穏やかですが、このような副作用も生じにくいのがメリットです。
ステロイドは皮膚の症状に応じて適切な強さのものを上手に使い分ける事が大切です。
グリメサゾンはステロイドとしての強さは弱めであるため、ステロイドの副作用のリスクは少な目にはなります。そのため顔面や陰部、子供の皮膚といった皮膚が薄い部位にも塗りやすいものになります。しかし副作用が生じる可能性はあるため、必要な期間のみ使用し、漫然と塗り続けないことは大切です。
以上からグリメサゾンの特徴として次のような事が挙げられます。
【グリメサゾンの特徴】
・ステロイドとタールの配合剤である
・Ⅴ群(弱め)に属する外用ステロイド剤である
・顔や陰部などの皮膚が薄い部位にも使いやすい
・炎症を抑える作用、痒みを抑える作用、抗菌作用などがある
・ステロイドを含むため、長期使用による副作用に注意
(感染に弱くなる、皮膚がうすくなる、乾燥するなど)
2.グリメサゾンはどんな疾患に用いるのか
グリメサゾンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
湿疹・皮膚炎群(進行性指掌角皮症、ビダール苔癬、放射線皮膚炎、日光皮膚炎を含む)、皮膚瘙痒症、尋常性乾癬、虫さされ
難しい専門用語がたくさん並んでいますが、
- ステロイドによる炎症やかゆみを抑える作用
- グリテールによる炎症やかゆみを抑える作用、抗菌作用
が有効な疾患に使われます。
進行性指掌角皮症とはいわゆる「手荒れ」の事で、水仕事などで手を酷使する事により手の皮膚が傷つき、炎症を起こしてしまいます。
ビダール苔癬とはストレスなどが原因となり皮膚の一部に痒みや苔癬(小さな丘疹が融合し、盛り上がって皮膚が厚くなる状態)が生じる疾患です。主に首の後ろや大腿部などに生じます。
放射線皮膚炎は放射線を浴びた事によって生じる皮膚炎、日光皮膚炎は強い日光(紫外線)を浴びた事によって生じる皮膚炎です。
これらの疾患はグリメサゾンの炎症を抑えるはたらきが効果を発揮します。
尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)とは皮膚の一部の細胞増殖が亢進していしまい、赤く盛り上がってしまう疾患です。
ステロイドは皮膚細胞の増殖を抑え、皮膚を薄くする作用があるため、尋常性乾癬にはグリメサゾンのようなステロイド剤が効果を発揮します。
注意点としてステロイドは免疫(身体が異物と闘う力)を抑制するため、ばい菌の感染に弱くなってしまいます。そのため、皮膚に細菌やウイルスが皮膚に感染しているような場合は、そこにステロイドを塗る事は推奨されていません。
グリメサゾンの有効率は、
- 急性湿疹・皮膚炎群(湿潤型)への有効率は83.0%
- 慢性湿疹・皮膚炎群(浸潤・苔癬化型)への有効率は78.8%
と報告されています。
3.グリメサゾン軟膏にはどのような作用があるのか
皮膚の炎症を抑えてくれるグリメサゾンですが、具体的にはどのような作用があるのでしょうか。
グリメサゾンの作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.抗炎症作用
グリメサゾンは、ステロイド剤が含まれています。
ステロイドには様々な作用がありますが、主な作用に抗炎症作用(炎症を抑える作用)があります。
この抗炎症作用は、免疫反応を抑制することで得られる作用になります。
免疫というのは異物が侵入してきた時に、それを攻撃する生体システムの事です。皮膚からばい菌が侵入してきた時には、ばい菌をやっつける細胞を向かわせることでばい菌の侵入を阻止します。
免疫は身体にとって非常に重要なシステムですが、時にこの免疫反応が過剰となってしまい身体を傷付けることがあります。
代表的なものがアレルギー反応です。アレルギー反応というのは、本来であれば無害の物質を免疫が「敵だ!」と誤認識してしまい、攻撃してしまう事です。
代表的なアレルギー反応として花粉症(アレルギー性鼻炎)がありますが、これは「花粉」という身体にとって無害な物質を免疫が「敵だ!」と認識して攻撃を開始してしまう疾患です。
その結果、免疫がアレルギー物質を攻撃した部位に炎症が生じ、鼻水・鼻づまり・発熱・くしゃみなどの不快な症状が生じてしまいます。
同じく皮膚にアレルギー反応が生じる疾患にアトピー性皮膚炎がありますが、これも皮膚の免疫が誤作動してしまい、本来であれば攻撃する必要のない物質を攻撃してしまい、その結果皮膚に炎症が生じてしまうのです。
このような状態では、過剰な免疫を抑えてあげると良いことが分かります。
ステロイドは免疫を抑えることで、免疫が異物を攻撃しないようにします。これによって炎症が生じにくくなります。
炎症では、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
という4つの徴候が生じます。
みなさんも身体をぶつけたりばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあるでしょう。これが炎症です。皮膚に炎症が起こることを皮膚炎と呼びます。皮膚炎は外傷でも生じるし、ばい菌に感染することでも生じるし、アレルギーでも生じます。
ステロイドは免疫を抑制することで、炎症反応を生じにくくさせてくれるのです。
Ⅱ.免疫抑制作用
上記のようにグリメサゾンをはじめとしたステロイドは免疫力を低下させる作用があります。
グリメサゾンは塗り薬であるため、塗った部位の皮膚の免疫力が低下します。通常はこれはステロイドの副作用となります。
強いステロイドを長期間塗り続けていると免疫力が低下するため、ばい菌(細菌やウイルス、真菌など)に感染しやすくなってしまいます。
Ⅲ.皮膚細胞の増殖抑制作用
グリメサゾンをはじめとしたステロイド外用剤は、塗った部位の皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあります。
これも主に副作用となる事が多く、強いステロイドを長期間塗り続けていると皮膚が薄くなっていき毛細血管が目立って赤みのある皮膚になってしまう事があります。
しかし反対に皮膚が肥厚してしまうような疾患(乾癬など)においては、ステロイドを使う事で皮膚細胞の増殖を抑え、皮膚の肥厚を改善させることも出来ます。
Ⅳ.グリテールの作用
上記Ⅰ~Ⅲは、グリメサゾンに含まれるステロイドの作用について紹介しました。
それ以外にもグリメサゾンはグリテールというタール剤が含まれています。
グリテールは、
- 抗炎症作用(炎症を抑える作用)
- 止痒作用(かゆみを抑える作用)
があります。これはステロイドの作用と共通しており、ステロイドの抗炎症作用、止痒作用を増強してくれます。
それ以外にも
- 乾燥作用(皮膚を乾燥させる作用)
- 抗菌作用(ばい菌をやっつける作用)
があります。創部を乾燥させる作用は副作用となってしまう事もありますが、浸出液の多い創部には向いている事もあります。また抗菌作用は、ステロイドで感染に弱くなっている皮膚を守るはたらきが期待できます。
4.グリメサゾン軟膏の副作用
グリメサゾン軟膏の副作用はどのくらいの頻度で生じ、どのようなものがあるのでしょうか。
実は、グリメサゾンは副作用発生率の詳しい調査は行われていません。
しかしグリメサゾン軟膏はⅤ群の外用ステロイド剤であり、また塗り薬で全身に投与するものではないため、副作用は少なく安全性が高いと考えられます。
生じる副作用もほとんどが局所の皮膚症状で、
- 皮膚の感染症
- 過敏症
- 下垂体・副腎皮質系機能の抑制
- 眼症状(後嚢白内障、緑内障など)
- ステロイドざ瘡(ステロイドの副作用で生じるにきび)
などの報告があります。
いずれも重篤となることは少なく、多くはグリメサゾンの使用を中止すれば自然と改善していきます。長期間使えば使うほど発生する可能性が高くなるため、ステロイドは漫然と使用する事は避け、必要な期間のみしっかりと使う事が大切です。
ステロイド外用剤の注意点としては、ステロイドは免疫力を低下させるため免疫力が活性化していないとまずい状態での塗布はしてはいけません。具体的にはばい菌感染が生じていて、免疫がばい菌と闘わなくてはいけないときなどです。
このような状態の皮膚にグリメサゾンを塗る事は禁忌(絶対にダメ)となっています。
ちなみに添付文書には次のように記載されています。
【禁忌】
(1)皮膚結核、単純疱疹、水痘、帯状疱疹、種痘疹
(2)本剤に対して過敏症の既往歴のある患者
(3)鼓膜に穿孔のある湿疹性外耳道炎
(4)潰瘍(ベーチェット病は除く)、第2度深在性以上の熱傷・凍傷
これらの状態でグリメサゾンが禁忌となっているのは、皮膚の再生を遅らせたり、感染しやすい状態を作る事によって皮膚を重篤な状態にしてしまう恐れがあるためです。
5.グリメサゾンの用法・用量と剤形
グリメサゾンには、
グリメサゾン軟膏 0.1% 5g (チューブ)
グリメサゾン軟膏 0.1% 10g (チューブ)
グリメサゾン軟膏 0.1% 100g (瓶)
といった剤型があります。
ちなみに塗り薬には「軟膏」「クリーム」「ローション(外用液)」などいくつかの種類がありますが、これらはどのように違うのでしょうか。
軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。長時間の保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。また皮膚への浸透力も強くはありません。
クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。
ローションは水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。しかし皮膚への浸透力は強く、皮膚が厚い部位などに使われます。
このうちグリメサゾンは軟膏剤のみがあります。
グリメサゾンの使い方は、
通常、1日1~数回直接患部に塗布又は塗擦するか、あるいは無菌ガーゼ等にのばして貼付する。なお、症状により適宜増減する。
と書かれています。実際は皮膚の状態や場所によって回数や量は異なるため、主治医の指示に従いましょう。
またグリメサゾンに含まれるグリテールは特異なにおいがあります。
6.グリメサゾンの使用期限はどれくらい?
グリメサゾンの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった塗り薬があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
これは保存状態によっても異なってきますので、一概に答えることはできませんが、適正な条件で保存されていたという前提(室温保存)だと、「5年」が使用期限となります。
7.グリメサゾン軟膏が向いている人は?
以上から考えて、グリメサゾン軟膏が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
グリメサゾン軟膏の特徴をおさらいすると、
・ステロイドとタールの配合剤である
・Ⅴ群(弱め)に属する外用ステロイド剤である
・顔や陰部などの皮膚が薄い部位にも使いやすい
・炎症を抑える作用、痒みを抑える作用、抗菌作用などがある
・ステロイドを含むため、長期使用による副作用に注意
(感染に弱くなる、皮膚がうすくなる、乾燥するなど)
というものでした。
ステロイドの強さとしては最弱であるため、軽度の炎症を抑えるのに向いています。またステロイドの副作用が出やすい方にも適したお薬になるでしょう。
効果が穏やかであるため、皮膚が過敏な部位(皮膚が薄い顔や陰部)にも使いやすいお薬になります。
しかし、これはステロイド全てに言えることですが、漫然と使い続けることは良くありません。ステロイドは必要な時期のみしっかりと使い、必要がなくなったら使うのを止めるという、メリハリを持った使い方が非常に大切です。
またステロイドを過剰に怖がる方もいらっしゃいますが、ステロイドは正しく使えば怖いものではありません。弱い効果のステロイドは安全性には優れますが効果が不十分となりやすい事もあり、弱いものが一概に良いと言う事はできません。
弱いステロイドでは不十分な皮膚状態なのに、「ステロイドが怖いから」と弱いステロイドを漫然と使っていると、いつまでも皮膚が治らずかえって問題が生じてしまう事もあります。
作用と副作用をしっかりと理解し、皮膚の状態に合わせて適切な強さのステロイドを使う事が大切です。