ヘモレックス軟膏は病院で処方される軟膏で、「痔疾患治療薬」という種類のお薬になります。1987年から発売されています。
その名の通り、痔を治療するためのお薬です。
ヘモレックスは1966年から発売されている「プロクトセディル」というお薬のジェネリック医薬品(後発品)になります。そのため、ヘモレックスの主成分はプロクトセディルと全く同じです。
ヘモレックス軟膏は様々な効果を持つお薬であり、現在でも良く用いられている痔の治療薬になります。
ヘモレックス軟膏はどのような作用を持っていて、どのような効果が期待できるお薬なのでしょうか。
ヘモレックス軟膏の効果・効能や特徴、副作用についてみてみましょう。
目次
1.ヘモレックス軟膏の特徴
まずはヘモレックス軟膏の特徴をざっくりと紹介します。
ヘモレックス軟膏は痔が出来てしまった部位の炎症を抑えるはたらきがあり、特に痛みと出血を抑える作用に優れます。またばい菌をやっつける作用も持ち、これも痔を治すことに役立ちます。
ヘモレックス軟膏には、
ヒドロコルチゾン 5mg
フラジオマイシン 7.1mg
ジブカイン 5mg
エスクロシド 10mg
が含まれています。
ヒドロコルチゾンはいわゆる「ステロイド」であり、これは炎症を抑えるはたらきがあります。
フラジオマイシンはアミノグリコシド系という種類の抗生物質になります。ばい菌(細菌)をやっつける作用を持ちます。
ジブカインは局所麻酔薬であり痔の痛みを感じにくくさせ、エスクロシドは痔からの出血を抑えるはたらきがあります。
つまりヘモレックス軟膏は、ステロイドで痔の炎症を抑え、抗生物質でばい菌をやっつけながら痔を治してくれるお薬になります。また補助的に痛みを抑えたり、出血を抑えるはたらきもあります。
注意点としては、ヘモレックス軟膏にステロイドが含まれている事があります。ステロイドは免疫系を抑制してしまい感染させやすくしてしまうという特徴があるため、肛門部にウイルス、真菌、結核などの感染がある場合は使用を控えるべきお薬になります。
また長期間漫然と使い続けると、皮膚が薄くなったりといったステロイド特有の副作用が出現してしまう可能性があるため、長期間の使用はあまり推奨されません。
麻酔薬が配合されているため痛みは治まりやすいお薬ですが、これはあくまでもお薬で痛みを感じにくくさせているだけだという点も注意が必要です。痛みが治まったことだけに満足してしまうと、いつまで経っても根本の原因が治療できません。
以上からヘモレックス軟膏の特徴を挙げると、次のようなことが挙げられます。
【ヘモレックス軟膏の特徴】
・痔を改善させる治療薬
・傷口の炎症を抑え、傷の治りを早める作用がある
・傷口のばい菌をやっつける作用がある
・麻酔作用があり、傷口の痛みを感じにくくさせる
・傷口からの出血を抑える作用がある
・ステロイドを含むため、漫然と長期間は使うべきではない
2.ヘモレックス軟膏はどのような疾患に用いるのか
ヘモレックス軟膏はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
・痔核・裂肛の症状(出血、疼痛、腫脹、痒感)の緩解
・肛門周囲の湿疹、皮膚炎
難しく書かれていますがヘモレックス軟膏は、主に痔をはじめとした肛門周囲の炎症性疾患に対して処方されるお薬になります。
ヘモレックス軟膏は痔疾患の治療薬の中でも、抗生物質を含んでいるという特徴があるため、特に感染のリスクが高い痔や、二次的に感染を起こしている痔に対して良く用いられます。
3.ヘモレックス軟膏にはどのような作用があるのか
ヘモレックス軟膏は主に痔を治すために使われますが、どのような作用を持っているのでしょうか。
ヘモレックス軟膏には、
- ヒドロコルチゾン
- フラジオマイシン
- ジブカイン
- エスクロシド
の4つの成分が含まれています。そしてこの4つの成分がそれぞれ痔を改善させる作用を持っています。
具体的なヘモレックス軟膏の作用について紹介します。
Ⅰ.抗炎症作用
ヘモレックス軟膏にはヒドロコルチゾンが含まれており、これはステロイドになります。ステロイドは傷口の炎症を抑える作用があります。
炎症とは、
- 発赤(赤くなる)
- 熱感(熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛くなる)
といった症状を認める状態で、ヘモレックス軟膏はこれを軽減してくれます。
つまり熱感や痛み、腫れを和らげることで痔による不快な症状を軽減してくれるのです。
ただしステロイドは炎症などの症状は抑えてくれますが、身体の免疫力を抑制するため傷の治り自体は遅くしてしまう傾向があります。
炎症症状が強い場合には使うメリットの方が高いため使うこともありますが、傷に対してどんな時でも万能というお薬ではありませんので、使用すべきかは医師にしっかりと判断してもらう必要があります。
Ⅱ.抗菌作用
ヘモレックス軟膏に含まれるフラジオマイシンは、アミノグリコシド系抗生物質です。
フラジオマイシンは「ネオマイシン」とも呼ばれ、抗生物質としてグラム陽性菌・グラム陰性菌に対して幅広く効果を発揮します。
抗生物質には静菌作用(細菌の増殖を抑える)を持つものと、殺菌作用(細菌を殺す)を持つものがありますが、フラジオマイシンは殺菌作用を持つ抗生物質になります。ばい菌の細胞を作る蛋白質の合成をブロックすることによって、ばい菌をやっつけます。
肛門周囲の感染というのは、腸管の菌(大腸菌などのグラム陰性菌)と皮膚の菌(表皮ブドウ球菌などのグラム陽性菌)の両方が原因となる可能性があるため、どちらにも効くフラジオマイシンは同部に適した抗生物質だと言えます。
痔の悪化にばい菌の感染が影響している場合や、治療に当たってばい菌に感染する危険が高そうな方(免疫力が低い高齢者、感染に弱い糖尿病患者さん、免疫抑制剤を使っている方)などでは抗生物質を併用して痔の治療を行った方が良い場合もあり、その場合はフラジオマイシンを含有しているヘモレックス軟膏が役に立ちます。
Ⅲ.麻酔作用
ヘモレックス軟膏に含まれる、ジブカインは「局所麻酔薬」になります。
歯医者さんなどで抜歯をするときに「キシロカイン(一般名:リドカイン)」で麻酔をしますが、ジブカインもそれと同系統の局所麻酔薬になります。
痔の症状の1つに「痛み」があり、これはしばしば患者さんを苦しめます。
ヘモレックス軟膏はジブカインによる麻酔作用があるため、痛みを軽減してくれます。
ただし、あくまでもお薬によって痛みを感じないようにしているだけで、痛みの原因そのものを治しているわけではありません。
痛みが治まったからとそれだけで安心してしまうのではなく、根本の原因も合わせてしっかりと治すようにしなくてはいけません。
Ⅳ.出血の抑制
痔がひどくなると、傷口から出血してしまう事があります。
ヘモレックス軟膏に含まれるエスクロシドは、血管壁を強化し、毛細血管の透過性を低下させる事で出血を抑制する作用があります。
4.ヘモレックス軟膏の副作用
ヘモレックス軟膏は全身に投与するものではないのでその副作用も局所に留まる事がほとんどです。そのためヘモレックス軟膏の副作用は多くはありません。
しかし多くの成分を配合しているお薬であり、またステロイドも配合しているため一定の注意は必要です。
注意すべき副作用としては、「感作」があります。
感作とは「身体がその物質をアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)だと身体が判断してしまう」ことです。
ヘモレックスに対して感作が生じると、ヘモレックス軟膏を塗布した時にアレルギー症状が生じるようになる可能性があります。
具体的な症状としては、
- そう痒
- 発赤
- 腫脹
- 丘疹
- 小水疱
などがあり、ヘモレックスを塗る事でこれらの皮膚症状が生じた場合、感作が生じている可能性がありますので、中止して主治医に相談するようにして下さい。
またヘモレックス軟膏はステロイドを含んでいるため、長期間・大量使用を続けているとホルモンバランスが崩れたり、皮膚の菲薄化(薄くなる事)などが生じる可能性があります。そのため必要な期間のみ使用し、漫然と長期間使用し続けないように気を付けましょう。
更にステロイドは免疫力を抑制するため、感染に弱くなってしまうというデメリットもあります。
フラジオマイシン(抗生物質)を含んでいるため細菌の感染には対応できますが、フラジオマイシンが効かない菌(結核菌など)やウイルス、真菌(カビ)の感染がある場合は、ヘモレックス軟膏は用いるべきではありません(禁忌)。
5.ヘモレックスの用量・用法と剤型
ヘモレックスは、
ヘモレックス軟膏 2g
ヘモレックス軟膏 20g
の2つの規格があります。
2gは1回使い切りタイプになり、20gは何回か使えるタイプになります。
ヘモレックス軟膏の使い方は、
通常1日1~3回適量を患部に塗布または注入する
と書かれています。
軟膏は肛門内の痔に対して用いる際は、2gの使い切りタイプの場合、先端が細くなっていますので先端を肛門内に入れてから軟膏を出します。肛門に挿入する前にちょっとだけ軟膏を出しておくと、それが滑りを良くしてくれ、肛門を刺激せずに済みます。
20gのタイプはチューブになりますので、肛門内に挿入するのは2g使い切りタイプの方が適しています。20gの場合は何回か使いますので、チューブが清潔に保てるように気を付けましょう。
肛門外に使う場合は、そのまま軟膏を塗るか、ガーゼなどに軟膏を出してから患部に当てましょう。
6.ヘモレックス軟膏が向いている人は?
以上から考えて、ヘモレックス軟膏が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ヘモレックス軟膏の特徴をおさらいすると、
・痔を改善させる治療薬
・傷口の炎症を抑え、傷の治りを早める作用がある
・傷口のばい菌をやっつける作用がある
・麻酔作用があり、傷口の痛みを感じにくくさせる
・傷口からの出血を抑える作用がある
・ステロイドを含むため、漫然と長期間は使うべきではない
というものでした。
痔は軽度のものであればお薬で治すことができますが、ある程度進行しているものだと手術を行う必要があります。
そのため、基本的にはヘモレックス軟膏をはじめとしたお薬による痔の治療は、軽度の痔疾患が対象となります。
ヘモレックス軟膏はステロイドを含んでいるため、特に長期間漫然と使用を続けることは避けるべきで、ヘモレックス軟膏を塗っても改善がない場合は、医師の指示をあおぎ、手術なども検討する必要があります。
ヘモレックス軟膏の特徴としては抗生物質(フラジオマイシン)を含有しているという点が挙げられるため、
- 感染が疑われる痔疾患
- 感染のリスクが高い痔疾患
に対しては向いているお薬になります。
また、症状の中でも特に痛みを抑える作用と出血を抑える作用に優れることから
- 痛みが強い痔疾患
- 出血が多い痔疾患
に対しても良いお薬になります。
痔の治療はお薬だけでなく生活習慣の改善が一番大切です。
- 座る時間を減らす
- 食事を規則正しく、バランス良く
- 飲酒やタバコを控える
- しっかりと睡眠を取る
- 刺激物(からいものなど)の摂取を控える
など、生活習慣の改善も忘れないようにしましょう。