ヘプロニカート(一般名:ヘプロニカート)は1972年から発売されているお薬で「血行改善薬」と呼ばれています。
元々は「メグリン」というお薬として発売されたのですが、販売会社の承継などを経て現在は一般名である「ヘプロニカート」という名称になっています。
ヘプロニカートは血管を広げる事によって血行を良くする作用があり、主に足先などの血流が悪くなってしまっている方に用いられます。
血行を改善させるお薬にはいくつかの種類がありますが、その中でヘプロニカートはどのような位置づけのお薬となるのでしょうか。今日はヘプロニカートの特徴や効果・副作用について紹介します。
目次
1.ヘプロニカートの特徴
まずはヘプロニカートの全体的な特徴を紹介します。
ヘプロニカートはニコチン酸系の血行改善薬で、穏やかに末梢の血流を改善させてくれます。効果は強くはありませんが、副作用も軽いお薬になります。
ニコチン酸と聞くと、タバコに含まれている「ニコチン」を想像する方もいらっしゃるかもしれません。「タバコの成分を含むという事は身体に悪いのでは?」と誤解される事がありますが、ニコチンとニコチン酸は全く別の異なる物質だと考えて頂いて問題ありません。
ニコチン酸はビタミンに含まれる栄養素で、別名「ビタミンB3」とも呼ばれています。
ビタミンB3(ニコチン酸)は、
- 栄養素(炭水化物・たんぱく質・脂質など)の代謝
- 血管を広げて血流を改善
- 皮膚や粘膜の正常化
- アルコールの分解
- 脳神経の活性化
など様々な作用を持っています。
ヘプロニカートはニコチン酸に類似した物質であり、ニコチン酸と同様に血管を広げて血流を改善させる作用があります。
その効果は弱く、末梢の血流が悪くなっている方に対して主力選手としては用いられるようなお薬ではありません。しかし副作用も少なく安全に血流を改善させてくれるお薬になります。
血流が増えますので、ほてりや熱感などが生じたり皮膚がむずむずする事がありますが重篤となる事はまずありません。
また胃腸の血流を増やすことにより胃腸症状(胃部不快感など)を生じることもありますが、こちらも大きな問題となる事はありません。
以上からヘプロニカートの特徴として次のような点が挙げられます。
【ヘプロニカートの特徴】
・ニコチン酸系のお薬であり、ビタミンB3と似た作用を持つ
・血管を広げて血流を増やすはたらきがある
・効果は穏やかで弱いが、副作用も少ない
2.ヘプロニカートカプセルはどんな疾患に用いるのか
ヘプロニカートはどのような疾患に用いられるのでしょうか。ヘプロニカートの添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
・レイノー病・バージャー病・閉塞性動脈硬化症などの末梢循環障害
・凍瘡・凍傷
ヘプロニカートは主に末梢(手足の先など身体の末端側)の血流が悪い際に用いられます。
レイノー病とは、レイノー現象が生じるような状態でその原因が不明なものを指します。レイノー現象とは、寒いときなどに手足の末梢が冷たく青白くなることです。これは末梢血管の血流が不足で生じています。
バージャー病とは、手足の末梢の動脈に炎症が生じてしまう事で末梢の血流が不足してしまう疾患です。原因は特定されていませんが、喫煙との関連が指摘されています。
閉塞性動脈硬化症とは動脈硬化によって末梢の血管が狭くなってしまい、末梢の血流が不足してしまう疾患です。
凍瘡・凍傷とはいわゆる「しもやけ」のことで、寒さによって血液が末梢に十分に届かなくなり、皮膚にも障害が生じます。
いずれも四肢末梢の血流が悪化する事で生じる疾患です。ヘプロニカートは血管を拡張させることにより末梢の血流を増やし、これらの疾患を改善させます。
ヘプロニカートの有効率は、
- レイノー病、バージャー病、閉塞性動脈硬化症などの末梢循環障害における有効率は64.0%
- 凍瘡・凍傷における有効率は76.4%
と報告されています。
3.ヘプロニカートカプセルにはどのような作用があるのか
ヘプロニカートは主に末梢の血流が悪くなってしまった方に用いられますが、どのような機序によって血流を改善させているのでしょうか。
ヘプロニカートは「ニコチン酸系」と呼ばれる物質になります。
ニコチン酸というのはビタミンの一種で「ビタミンB3」とも呼ばれています。ビタミンB3は血管を広げる事で血流を増やす作用があります。ヘプロニカートも、ビタミンB3と同様に血管を広げて血流を増やします。
血管には「平滑筋」という筋肉があります。平滑筋は筋肉ですから、収縮したり弛緩したりします。平滑筋が収縮すると血管内が狭くなるため、血流は少なくなります。反対に平滑筋が弛緩すると血管内が広がり、血流が増えます。
ヘプロニカートは、この平滑筋に作用します。平滑筋を弛緩させる作用があり、これにより血管を拡張させ、血流を増やすのです。
またヘプロニカートは、この平滑筋の弛緩作用以外にも血流を増やす作用がある可能性が指摘されています。
またウサギを用いた実験において、血小板凝集抑制作用・繊維素溶解作用も報告されており、これも血流を改善させる作用に貢献している可能性があります。
血小板凝集抑制作用というのは、血小板という血球の作用を抑えるはたらきになります。血小板は血を固まらせる作用のある血球で、本来であれば血管に傷が出来てしまった時にその部位を固める事で出血を防ぐ役割を持っています。
しかし時に血小板は血管内で固まってしまう事があります。特に動脈硬化など血管壁が痛んでいる時に生じやすいのですが、血管内で血小板が血の塊(血栓)を作ってしまうと、その部位が狭くなり、その先の血流が悪くなってしまいます。
ヘプロニカートは、血小板が血栓を作りにくくするため、これも血流を改善させる作用になります。
また繊維素溶解作用というのは、繊維素を溶かす作用の事です。繊維素というのはフィブリンなどの事を指し、これも血液を固まらせる元となる物質です。ヘプロニカートは、これらを溶かす事でも血流を改善させているのです。
4.ヘプロニカートの副作用
ヘプロニカートにはどんな副作用があるのでしょうか。またその頻度はどのくらいなのでしょうか。
ヘプロニカートの副作用発生率は7.10%と報告されています。発生率だけを見れば少なくはありませんが、いずれも軽微なものがほとんどで大きく困るような副作用はあまり生じません。
生じる副作用としては、
- 発赤
- 熱感
- 食欲不振
- 胃部不快感
- 掻痒感(かゆみ)
などが報告されています。
多くは軽度のものにとどまり、様子を見れる程度になります。
またヘプロニカートは妊婦さんへの投与に対しての安全性が確認されていません。そのため、
- 妊婦さん、妊娠している可能性のある方
への投与は禁忌(絶対にダメ)になっています。
5.ヘプロニカートの用法・用量と剤形
ヘプロニカートには、
ヘプロニカート 100mg
の1剤型のみが発売されています。
ヘプロニカートの使い方は、
通常成人には1日量300~600mgを毎食後3回に分け経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
と書かれています。
6.ヘプロニカートが向いている人は?
以上から考えて、ヘプロニカートが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ヘプロニカートの特徴をおさらいすると、
・ニコチン酸系のお薬であり、ビタミンB3と似た作用を持つ
・血管を広げて血流を増やすはたらきがある
・効果は穏やかで弱いが、副作用も少ない
などがありました。
強い効果は見込めないものの、安全に血流を改善させてくれるため、慢性的に四肢が軽度の血流不足になりやすく方には向いているお薬になります。
一方で本格的に血管が詰まりかけているような重症度が高い方には、ヘプロニカートだけでは十分な改善は得られないかもしれません。