ハイコバールカプセルの効果と副作用【ビタミン剤】

ハイコバールカプセル(一般名:コバマミド)は、1976年から発売されているビタミン剤です。ビタミンの中でも「ビタミンB12」になります。

ビタミンB12が不足すると身体には様々な支障が生じますが、特に多いものとしては貧血や神経障害(しびれや痛みなど)などが挙げられます。

ビタミンB12は基本的には食事から摂取できるものです。そのため、まずは規則正しい食生活によって摂取していただきたいのですが、どうしても十分なビタミンを食事から摂取できなかったり、何らかの疾患によってビタミンB12が失われてしまう場合、ハイコバールのようなお薬でビタミンB12を補うことがあります。

ビタミンB12であるハイコバールは、どのような効果が期待できるお薬なのでしょうか。

ここではハイコバールの特徴や効果・副作用について紹介していきます。

 

1.ハイコバールカプセルの特徴

まずはハイコバールの全体的な特徴についてみてみましょう。

ハイコバールはビタミンB12になります。そのためビタミンB12が欠乏している時に投与されます。

ビタミンB12には様々なはたらきがありますが、基本的な作用は核酸・たんぱく質・脂質といった身体を作るのに必要なものの合成を促進する作用を持ちます。これに関連して赤血球を作る作用や、神経を修復する作用があり、貧血(ビタミンB12欠乏性貧血)や神経障害の改善に用いられます。

ハイコバールの主成分は「コバマミド」というビタミンB12になります。

ちなみにビタミンB12は体内でどのようなはたらきをしているのでしょうか。

ビタミンB12には様々なはたらきがありますが、主なものとしては、

  • 核酸・たんぱく質・脂質の合成を促進する
  • 赤血球の合成を促進する
  • 神経の修復を促進する

といった作用が挙げられます。

私たちは日々、食事から炭水化物・たんぱく質・脂質といった栄養素を摂取し、これら摂取した栄養素をもとに身体に必要な物質を合成しています。

ビタミンB12は身体を構成する成分のうち、

  • 核酸(いわゆるDNA、RNAといった遺伝情報)
  • たんぱく質(筋肉などを構成する成分)
  • 脂質(細胞膜やホルモンなどの成分)

などの合成を助ける役割があります。

ビタミンB12が欠乏するとこれらの合成がしにくくなります。

核酸には遺伝情報が入っており、細胞が分裂する際はこの核酸の中にある情報を元に細胞分裂が行われます。核酸を十分に合成できなくなると、必要な時に細胞分裂ができなくなり、成長の障害が生じます。また組織が破壊されたときに新たな細胞を合成できなくなるため組織を修復する能力も低下します。

たんぱく質や脂質は身体を構成するために不可欠な物質です。たんぱく質・脂質が十分に合成できないと筋肉量が減って体力が低下したり、ホルモンバランスの崩れて心身に不調が生じる可能性もあります。

ビタミンB12は赤血球を作るためにも必要です。通常、赤血球は骨髄の中に存在する赤芽球という血球細胞から作られますが、ビタミンB12が欠乏すると赤芽球が正常に作られなくなり、巨赤芽球という巨大な赤芽球が作られてしまいます。

巨赤芽球は異常な血球であるため、赤血球に成長できずにそのまま死んでしまいます(これを無効造血と呼びます)。

ビタミンB12が欠乏すると巨赤芽球が多くなり、その結果正常な赤血球が作られなくなるために貧血が進行してしまいます。これを「巨赤芽球性貧血」「ビタミンB12欠乏性貧血」と言います。

またビタミンB12は神経組織を作ったり修復するためにも必要です。ビタミンB12がたんぱく質や脂質の合成を促進する事は神経組織の合成も促進する事になるためです。ビタミンB12が欠乏すると神経組織が正常に作られず、神経痛やしびれといった症状が生じやすくなります。また神経障害が生じた際もその修復がされにくくなります。

ビタミンB12は私たちが普段口にするような食べ物から十分摂取できます。ビタミンB12を特に多く含む食事には、「魚介類」「レバー」「乳製品」などがあります。

これらは特殊な食品ではなく、日常で普通に摂取できるものです。そのため通常のバランスの取れた食生活を送っていればビタミンB12が欠乏する事はほとんどありません。

しかし極端な偏食が続いていたり、ビタミンB12が失われやすい状況にあると、ビタミンB12欠乏が生じ、上記のような症状が出現する事があります。

そのような時にハイコバールのようなビタミン剤が検討されます。

ちなみに人工的に合成されたビタミンB12にはいくつか種類があり、

  • 補酵素型B12(DBCC)
  • メチル型B12(CH13-B12)

などがあります。このうちハイコバールはDBCCになります。一方でCH13-B12は「メチコバール(一般名:メコバラミン)」というお薬があります。

DBCCはビタミンB12のはたらきの中でも特に「赤血球の合成を促進する作用」にはたらき、一方でCH13-B12は主に「核酸・たんぱく質・脂質の合成を促進する作用」「神経の修復を促進する作用」にはたらきます。

そのため同じビタミンB12でもハイコバールは主に貧血に対して適応を持ち、メチコバールは主に神経障害に対して適応を持っているという違いがあります。

ビタミンB12が失われやすい状況としては、具体的には、

  • 慢性的な炎症を伴う疾患
  • 妊婦・授乳婦
  • 内因子欠乏
  • 寄生虫の感染

などが挙げられます。

慢性的に身体に炎症が生じていると、身体は多くの栄養素やビタミンを必要をするため、ビタミンは欠乏しやすくなります。

また妊婦さん・授乳婦さんは自分の栄養だけでなく赤ちゃんにも栄養を送らないといけないため、通常の栄養摂取だけでは栄養不足に陥りがちになります。

またビタミンB12は胃から分泌される「内因子」という物質と結合する事で体内に吸収されます。という事は内因子がないといくらビタミンB12をとっても体内に吸収されないわけです。

内因子が欠乏してしまう原因としては、胃摘出後(胃を手術で取ってしまった状態)や、胃の萎縮などが挙げられます。

また腸管に寄生虫が感染していると、ビタミンB12の吸収を邪魔してしまう事があります。

ハイコバールはお薬ではありますが、食品にも含まれているビタミンB12が主成分ですので副作用はほとんどありません。安全性は極めて高いお薬になります。

以上から、ハイコバールの特徴として次のようなことが挙げられます。

【ハイコバールカプセルの特徴】

・ビタミンB12である
・核酸(DNAやRNA)、たんぱく質、脂質の合成を促進する作用がある
・赤血球の合成を促進する作用がある
・神経組織の成長・修復を促進する作用がある
・ビタミンB12はレバー、魚介類や乳製品に多く含まれており、通常の食生活で十分摂取できる
・妊婦さんや授乳婦さん、慢性炎症が続いている方や内因子欠乏の状態にある方はビタミンB12が欠乏しやすい
・副作用はほとんどなく、安全性に優れる

 

2.ハイコバールカプセルはどのような疾患に用いるのか

ハイコバールはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

1.ビタミンB12欠乏症の予防及び治療
2.ビタミンB12の需要が増大し、食事からの摂取が不十分な際の補給(消耗性疾患、甲状腺機能亢進症、妊産婦、授乳婦等)
3.巨赤芽球性貧血
4.広節裂頭条虫症
5.悪性貧血に伴う神経障害
6.吸収不全症候群(スプルー等)

以上3.~6.の効能・効果及び胃切除後の貧血に対して用いる場合、経口投与によると吸収が悪いのでやむを得ぬ場合以外は注射によることが望ましい。

7.下記疾患のうち、ビタミンB12の欠乏又は代謝障害が関与すると推定される場合

(1)栄養性及び妊娠性貧血
(2)胃切除後の貧血
(3)肝障害に伴う貧血
(4)放射線による白血球減少症
(5)神経痛
(6)末梢神経炎、末梢神経麻痺
(7)筋肉痛、関節痛
(8)中枢神経障害(脊髄炎、変性疾患等)

7.の効能・効果に対して、効果がないのに月余にわたって漫然と使用すべきでない。

まず当たり前ですがハイコバールはビタミンB12ですので、ビタミンB12が足りていない時に投与されるお薬になります。

逆に言えばいくら適応疾患であっても、その病態がビタミンB12不足と無関係のものであれば服用しても意味はありません。

では、ハイコバールはこれらの疾患に対してどのくらいの有効率があるのでしょうか。

ハイコバールの有効率に関しては詳しい調査は行われていませんが、肝障害に伴う貧血患者に対してハイコバールを経口投与したところ、投与2週目から赤血球数が増加し、貧血の改善が認められた事が報告されています。

また、妊娠貧血に対してハイコバールと鉄剤を経口投与したところ、血色素量(ヘモグロビン量)が増加した事も報告されています。

 

3.ハイコバールカプセルにはどのような作用があるのか

ハイコバールにはどのような作用があるのでしょうか。

ハイコバールはビタミンB12になります。ビタミンB12の作用というのは多岐に渡るため、ここでは代表的な作用に絞って紹介させていただきます。

 

Ⅰ.核酸・たんぱく質・脂質の合成を促進する

ハイコバールには、

  • 核酸(いわゆるDNA、RNAといった遺伝情報)
  • たんぱく質(筋肉などを構成する成分)
  • 脂質(細胞膜やホルモンなどの成分)

の合成を促進するはたらきがあります。

これらの物質は、いずれも正常な身体を作るために必須のものです。

核酸は「DNA」や「RNA」と呼ばれるもので、遺伝情報であり、細胞はこの遺伝情報をもとに細胞分裂をして増殖していきます。

子供が成長する時は、核酸の遺伝情報を元に細胞が分裂し、これによって正常な組織や器官が作られます。また何らかの原因で組織の一部が破壊されてしまった際は、残った組織の細胞が細胞分裂する事で組織を修復します。

たんぱく質は身体を作るために重要な物質です。特に筋肉を作るのに重要になります。

脂質も身体を作るために重要な物質です。脂質はホルモンや細胞膜を作るのに必要な物質になります。

ビタミンB12はこれらの物質の合成を促すはたらきがあります。

逆に言えば、ビタミンB12が欠乏してしまうと、これらの合成が不十分になってしまう可能性があるという事でもあります。

 

Ⅱ.赤血球の合成を促進する

前項でビタミンB12は核酸・たんぱく質・脂質などの合成に必要であるとお話しましたが、これに関連して赤血球の合成にも関わっています。

赤血球もこれらの物質から作られるからです。

赤血球の中には「ヘモグロビン」というたんぱく質がたくさん入っています。ヘモグロビンは酸素と結合する能力を持ったたんぱく質で、赤血球がその役割を果たすために必須のものとなっています。

赤血球の役割は肺から取り込んだ酸素を全身の細胞に届ける事ですが、肺で酸素と結合し、末梢の組織で酸素を離して細胞に引き渡すというのは、ヘモグロビンがあるからこそ可能なのです。

ヘモグロビンは「ヘム」という色素と、「グロビン」というたんぱく質から作られていますが、ビタミンB12は特に赤血球中の「ヘム」の合成に関わっている事が分かっています。

少し専門的な説明をすると、ビタミンB12は「メチルマロニルイソメラーゼ」という酵素の補酵素としてはたらきます。

メチルマロニルイソメラーゼは「メチルマロニルCoA」という物質を「サクシニルCoA」へ変換するはたらきがあります。更にサクシニルCoAはδ‒アミノレブリン酸となり、このδ‒アミノレブリン酸がヘムの合成に必要な物質なのです。

ビタミンB12はメチルマロニルイソメラーゼのはたらきを助ける事でδ‒アミノレブリン酸を増やし、ヘムの合成を促進し、ひいては赤血球の合成を促進するのです。

 

Ⅲ.神経組織の修復を促進する

ビタミンB12は核酸・たんぱく質・脂質などの合成に必要であるため、同様に神経組織の成長や修復にも関わっています。

神経組織も、神経細胞が核酸の遺伝情報をもとに増殖して形成されていくものであり、またその構成成分として脂質やたんぱく質があるためです。

実際、動物実験においてウサギの坐骨神経に人工的にダメージを与え、ハイコバールを投与したところ、神経細胞内のRNAを増やし、神経再生を促進させた事が報告されています。

 

4.ハイコバールカプセルの副作用

ハイコバールにはどのような副作用があるのでしょうか。またその頻度はどのくらいなのでしょうか。

ハイコバールはビタミンB12になり、ビタミンというのは本来食べ物などに含まれている成分になります。

元々普段から口にしている成分ですので、適正に摂取している分には大きな副作用が出ることはほとんどありません。

報告されている副作用としては、

  • 発疹等の過敏症状

などがあります。

一定の注意は必要になりますが、適正量の摂取ではほとんど問題になる事はなく、その頻度も少なく、また重篤となる事もほとんどありません。

 

5.ハイコバールの用法・用量と剤形

ハイコバールは、

ハイコバールカプセル 500μg

の1剤形のみあります。

ハイコバールの用法・用量は次のようになります。

通常成人は、1日1,500μgまでを1~3回に分けて経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

ハイコバールは食品にも含まれるビタミンが主成分であるため、その飲み方もある程度幅を持たせた服薬法となっています。

なお1日に必要なビタミンB12の量は成人で2.4μgです。妊娠中の女性で2.6μg、授乳中の女性で2.8μgとやや増えるものの、そこまで多量に必要になるビタミンではありません。

ビタミンB12は「レバー」「魚貝類」「乳製品」などに多く含まれており、これらの食事を適正に摂取していて、ビタミンB12が欠乏するような病態がなければ不足する事はありません。

 

6.ハイコバールカプセルが向いている人は?

以上から考えて、ハイコバールが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

ハイコバールの特徴をおさらいすると、

【ハイコバールカプセルの特徴】

・ビタミンB12である
・核酸(DNAやRNA)、たんぱく質、脂質の合成を促進する作用がある
・赤血球の合成を促進する作用がある
・神経組織の成長・修復を促進する作用がある
・ビタミンB12はレバー、魚介類や乳製品に多く含まれており、通常の食生活で十分摂取できる
・妊婦さんや授乳婦さん、慢性炎症が続いている方や内因子欠乏の状態にある方はビタミンB12が欠乏しやすい
・副作用はほとんどなく、安全性に優れる

というものでした。

誤解してはいけないのが、ハイコバールはそもそも食事からビタミンB12を十分に摂取できている人には不要なお薬だという事です。

十分なビタミンB12が食事で補えているのに、「もっと神経の修復力を高めたい!」と大量にハイコバールを服薬しても意味はありません。

十分なビタミンB12が摂取できていなかったり、ビタミンB12の消耗が通常より激しいと予測されるような状態において、巨赤芽球性貧血や神経障害などが生じているような場合はハイコバールを使うことで改善が得られる可能性があります。

 

7.ビタミンB12を多く含む食品・サプリメントは?

ハイコバールを服用する事で、効率的にビタミンB12を摂取する事ができますが、本来ビタミンというのは医薬品から摂取するものではなく、食事から十分に摂取できるものです。

ビタミンB12の1日必要量としては、おおよそ2.4μg前後だと言われています(性別、年齢で多少異なります)。

妊婦さんや授乳婦さんなどではもう少し多くなりますが、それでも1日3μgも摂取すれば十分です。

ではビタミンB12が豊富に含まれている食品にはどのようなものがあるでしょうか。

ビタミンB12は、

  • レバー
  • 魚貝類
  • 乳製品

などに多く含まれます。

また食事から十分にビタミンB12を摂取できていない場合は、市販のサプリメントでもビタミンB12を多く含むものがあります。

ネイチャーメイドB12は1錠でビタミンB12を50μg含んでいます。ハイコバールと比べると含有量は1/10ですが、1日に必要な量としては十分です。