ケタスカプセル(一般名:イブジラスト)は1989年から発売されているお薬になります。
このお薬は、
- 気管支喘息
- 脳梗塞の後遺症によるめまい
という異なる2つの病態に効果を発揮する面白いお薬です。
ケタスカプセルはどのような特徴のあるお薬で、どんな作用を持っているお薬なのでしょうか。
ケタスカプセルの効果や特徴・副作用についてみていきましょう。
目次
1.ケタスカプセルの特徴
まずはケタスカプセルの全体的な特徴についてみてみましょう。
ケタスカプセルは主に、
- 気管支喘息
- 脳梗塞の後遺症によるめまい
に対して効果を発揮するお薬です。
この2つは全く異なる病気ですが、ケタスはこのどちらにも効果を示します。
それぞれの病態への詳しい作用機序については後述しますが、ケタスカプセルは、
- ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害作用
- ロイコトリエン(LT)拮抗作用
- 血小板活性化因子(PAF)拮抗作用
などによって気管支喘息を改善させ、
- ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害作用
- 神経保護作用
などによって脳梗塞後遺症によるめまいを改善させると考えられています。
即効性はなく、ゆっくり効くお薬であるため例えば「今すぐ喘息発作を抑えたい」という時に向いているお薬ではありません。
喘息のお薬というと、アレルギーを抑えるお薬である「抗ヒスタミン薬」がありますが、抗ヒスタミン薬は眠気が出てしまうのが難点です。しかしケタスカプセルは抗ヒスタミン薬とは異なりヒスタミンへの作用がないため眠気が生じにくいのは1つのメリットになります。
以上から、ケタスカプセルの特徴として次のようなことが挙げられます。
【ケタスカプセル(イブジラスト)の特徴】
・気管支喘息に効果がある
・脳梗塞後遺症によるめまいに効果がある
・即効性はなく、ゆっくり効く。喘息発作をすぐに止める作用はない
・他の抗アレルギー薬と異なり、眠くならない
2.ケタスカプセルはどのような疾患に用いるのか
ケタスカプセルはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
1.気管支喘息
2.脳梗塞後遺症に伴う慢性循環障害によるめまいの改善
ケタスカプセルは、気管支喘息と脳梗塞後遺症によるめまいの2つの疾患に効果を発揮します。
2.への効果は適応上は「めまい」となっていますが、作用機序的にはしびれや末梢冷感などにも効果が期待できる可能性があります。
3.ケタスカプセルはどのような作用があるのか
ケタスカプセルはどのような作用機序によって、気管支喘息と脳梗塞後遺症といった異なる2つの疾患に効果を示しているのでしょうか。
ケタスカプセルの作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.ホスホジエステラーゼ阻害作用
ケタスカプセルの主な作用は、「ホスホジエステラーゼ」という酵素のはたらきを阻害(ブロック)することです。
ホスホジエステラーゼは様々な役割を持つ酵素ですが、cAMPやcGMPといった「セカンドメッセンジャー」と呼ばれる物質を分解することで、炎症を誘導したり平滑筋という筋肉を収縮させたりといった様々な作用をもたらします。
気管支喘息では、
- 気管の平滑筋が収縮してしまって息苦しくなる
- 気管に炎症が生じてしまう
ことが症状発症の一因だと考えられています。
気管においてホスホジエステラーゼを阻害すれば、平滑筋の収縮を抑え、また気管の炎症を抑えることで喘息の症状を改善させることができます。
ケタスカプセルはホスホジエステラーゼを阻害する作用を持つため、このような機序によって喘息症状の改善が得られるのです。
また脳梗塞後遺症というのは脳の血管が詰まってしまい、それによってその血管が栄養を与えていた脳部位に障害が生じるため、めまい・しびれ・冷感などの症状が後遺症として残ってしまうことです。
この症状を完全に治すことは難しいのですが、障害を受けた脳部位の血流を増やしたり、炎症を抑えることで症状は軽減させる事が可能です。
ケタスカプセルは、ホスホジエステラーゼを阻害することで、脳血管の平滑筋を拡張させ、脳の障害部位の血流を増やします。また同部位の炎症を抑えたり、血栓を予防することで脳梗塞後の様々な後遺症症状の軽減に効果を発揮するのです。
Ⅱ.ロイコトリエン拮抗作用
ケタスカプセルには、ロイコトリエン(LT)と呼ばれるアレルギー物質のはたらきをブロックする作用もあります。
ロイコトリエンは肥満細胞と呼ばれる細胞から分泌され、身体にアレルギー反応を起こしたり、気管を収縮させたりします。
ケタスカプセルは、このロイコトリエンをブロックする作用があることが知られており、これにより気管の生じたアレルギー反応を軽減させ、また気管を拡張させることで喘息の症状を和らげます。
Ⅲ.血小板活性化因子拮抗作用
血小板活性化因子(PAF)は、血小板を活性化させることで凝集させたり、血管を拡張させたりするための物質ですが、気管支喘息を誘発する物質の1つでもあります。
ケタスカプセルはPAFのはたらきもブロックすることが確認されており、これによって喘息症状を軽減させます。
Ⅳ.神経保護作用
ケタスカプセルには脳神経を保護する作用が確認されています。
脳神経に損傷を与える物質として「グルタミン酸」がありますが、ケタスはラットにおいて、グルタミン酸によって生じた神経損傷を抑制する作用があることが報告されています。
4.ケタスカプセルの副作用
ケタスカプセルにはどんな副作用があるのでしょうか。
ケタスカプセルの副作用は3.4%前後と報告されており、多くはありません。
主な副作用としては、
- 食欲不振
- 吐き気
などといった消化器系の副作用の他、
- 肝機能障害(AST、ALT、ɤGTP上昇)
- 血小板減少
といった肝機能障害、血小板の異常が報告されています。そのため、ケタスを服薬している場合は定期的に血液検査にて肝機能・血球数などをチェックすることが望ましいでしょう。
ケタスは、脳の血管を拡張させて脳血流を増やす作用があるため、
- 頭蓋内出血後、止血が完成していないと考えられる患者さん
への投与は禁忌(絶対ダメ!)となっています。頭蓋内出血の恐れがある患者さんの脳血管を拡げてしまうと、脳出血が更に悪化してしまう恐れがあるためです。
5.ケタスカプセルの用法・用量と剤形
ケタスは、
ケタスカプセル(イブジラスト) 10mg
の1剤形のみがあります。
ケタスカプセルの使い方としては、
【気管支喘息の場合】
通常、成人には1回10㎎を1日2回経口投与する。【脳血管障害の場合】
通常、成人には1回10㎎を1日3回経口投与する。なお、症状により適宜増減する。
と書かれています。
ケタスカプセルの効果は即効性はなく、緩やかに効いていくお薬です。多くは服薬開始後2週間目以降で効果が出始め、4週間で効果が明確となり、8~12週間で効果はピークになると言われています。
そのため、12週ほど使用しても全く効果が得られない場合は漫然と投与を続けても意味がない可能性があります。
ちなみにケタスカプセルは食前に服用すべきか食後に服用すべきかについては言及されていませんが、食後に服用した方が吸収はゆるやかになるものの血中濃度は高くなることが分かっています。しかし長期服薬するとどちらの飲み方でも血中濃度は安定するため、食前・食後いずれに服用しても良いことになっています。
6.ケタスカプセルが向いている人は?
以上から考えて、ケタスカプセルが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ケタスカプセルの特徴をおさらいすると、
・気管支喘息に効果がある
・脳梗塞後遺症によるめまいに効果がある
・即効性はなく、ゆっくり効く。喘息発作をすぐに止める作用はない
・他の抗アレルギー薬と異なり、眠くならない
といったものでした。
気管支喘息に用いる場合、ケタスカプセルはあまりメジャーなお薬ではありません。
現在はたくさんのお薬があるため、わざわざケタスを選ぶという状況は多くはありません。即効性はないものの、抗ヒスタミン作用がないため眠くならないという特徴を持つケタスは、他のお薬が良く効かなかったり、眠気が出てしまって合わない場合には検討しても良いお薬になります。
脳梗塞後遺症に対してはしばしば使われることがあります。というのも脳梗塞の後遺症を改善させるお薬というのはそんなに多くはないからです。
ケタスカプセルが脳梗塞後遺症を抑える効果は高くはありません。服薬しても「あまり良く分からない」とおっしゃる患者さんも少なくありません。
しかし治療手段が少ない病態ですので、患者さんがめまいやしびれなどの症状で苦しんでいる場合には試してみても良いと思われます。