イブプロフェンは、1971年から発売されている「ブルフェン」というお薬のジェネリック医薬品です。非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)という種類に属するお薬になります。
非ステロイド性消炎鎮痛剤というと難しい名称ですが、これはいわゆる「熱さまし」や「痛み止め」のことです。ステロイドでないお薬で、炎症を和らげ発熱や痛みを抑えるはたらきを持つものを非ステロイド性消炎鎮痛剤と呼びます。
NSAIDsにはたくさんの種類があります。どれも大きな違いはありませんが、細かい特徴や作用には違いがあり、医師は痛みの程度や性状に応じて、その患者さんに一番合いそうな痛み止めを処方しています。
痛み止めの中でイブプロフェンはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここでは、イブプロフェンの効能や特徴、副作用などを紹介していきます。
目次
1.イブプロフェンの特徴
まずはイブプロフェンの特徴を紹介します。
イブプロフェンはNSAIDsの中では穏やかな消炎鎮痛作用を持ちます。
イブプロフェンはNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)と呼ばれるお薬で、消炎(炎症を抑える)作用を持ちます。NSAIDsの中でも「フェニルプロピオン酸系」という種類に属し、同種のNSAIDsの中で作用はやや弱めの部類に入ります。
市販薬のテレビCMで「イブプロフェン配合!」などと謳っている痛み止めがありますが、薬局で誰でも購入できる市販薬にも配合されている成分であり、穏やかな効きのお薬です。
NSAIDsの主な用途としては、炎症を抑える事で、
- 解熱(熱さまし)
- 鎮痛(痛み止め)
を得る事を目的として投与されます。
これらの効果が穏やかというと、あまりメリットのないお薬のように感じられるかもしれません。しかし効果が穏やかだという事は副作用も少ないという事であり、これは一概にデメリットとはなりません。
ほとんどのNSAIDsに言えることですが、NSAIDsは副作用としては胃腸を痛めてしまうことがあります。もちろんイブプロフェンにもこの副作用が生じる可能性はあるのですが、効果の強いNSAIDsと比べればその頻度は少なくなります。
またNSAIDsは喘息を誘発しやすくすることが知られており、喘息の方にはできるだけ服用しない方が良いでしょう。
イブプロフェンはジェネリック医薬品であるため、薬価が多少安くなっているのもメリットにはなりますが、元々NSAIDsは薬価の安いお薬のため、体感的にはあまり差は感じられません。
以上からイブプロフェンの特徴として次のような点が挙げられます。
【イブプロフェンの特徴】
・鎮痛作用(痛みを抑える)、解熱作用(熱を下げる)はやや弱め
・副作用の胃腸障害に注意(他のNSAIDsと同様)
・喘息の方は使用に注意(他のNSAIDsと同様)
2.イブプロフェンはどのような疾患に用いるのか
イブプロフェンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
1.下記疾患並びに症状の消炎・鎮痛
関節リウマチ、関節痛及び関節炎、神経痛及び神経炎、背腰痛、頸腕症候群、子宮付属器炎、月経困難症、紅斑(結節性紅斑、多形滲出性紅斑、遠心性環状紅斑)
2.手術並びに外傷後の消炎・鎮痛
3.下記疾患の解熱・鎮痛
急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)
イブプロフェンは、消炎鎮痛剤ですから、炎症によって生じる症状を抑えるために用いられます。
実臨床では、
- 痛みを抑える
- 熱を下げる
のどちらかの目的で投与される事がほとんどです。
適応疾患には難しい病名がたくさん書かれていますが、おおまかな理解としては「痛みや腫れ・熱などが出現する疾患に対して、その症状の緩和に用いる」という認識で良いでしょう。
イブプロフェンはジェネリック医薬品であるため有効率の詳しい調査は行われていませんが、先発品の「ブルフェン」の有効率は、
- 関節リウマチへの有効率は38.7%
- 関節痛及び関節炎への有効率は78.1%
- 神経痛及び神経炎への有効率は71.0%
- 背腰痛への有効率は66.1%
- 頸腕症候群への有効率は74.1%
- 子宮付属器炎への有効率は61.5%
- 月経困難症への有効率は74.4%
- 紅斑への有効率は81.8%
- 手術並びに外傷後の消炎・鎮痛への有効率は73.9%
と報告されており、イブプロフェンも同程度の有効率になると考えられます。
ちなみに上記疾患にイブプロフェンが有効なのは間違いありませんが、注意点としてイブプロフェンを始めとするNSAIDsは根本を治す治療ではなく、あくまでも対症療法に過ぎないことを忘れてはいけません。
対症療法とは、「症状だけを抑えている治療法」で根本を治している治療ではありません。
例えば急性上気道炎(いわゆる風邪)の発熱・痛みに対してイブプロフェンを投与すれば、確かに熱は下がるし、痛みも軽減します。
しかしこれは原因であるウイルスをやっつけているわけではなく、あくまでも発熱や発痛を起こしにくくしているだけに過ぎません。
対症療法が悪い治療法だということはありませんが、対症療法だけで終わってしまうのは良い治療とは言えません。対症療法と言われて、根本を治すような治療も併用することが大切です。
例えば先ほどの急性上気道炎であれば、イブプロフェンを使用しつつも、
- 栄養をしっかり取る
- 十分に休養する
- マスクで感染予防する
など、ウイルスをやっつけるための治療法も併せて行いましょう。
3.イブプロフェンにはどのような作用があるのか
イブプロフェンは「非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」という種類に属しますが、NSAIDsの作用は、その名のとおり消炎(炎症を抑える)ことで鎮痛する(痛みを抑える)事になります。
イブプロフェンも他のNSAIDsと同様に中枢性の鎮痛作用と末梢性の消炎作用を有しています。その作用機序について説明します。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。
イブプロフェンは、炎症の原因が何であれ、炎症そのものを抑える作用を持ちます。つまり、発赤・熱感・腫脹・疼痛を和らげてくれるという事です。
具体的にどのように作用するのかというと、イブプロフェンなどのNSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)という物質のはたらきをブロックするはたらきがあります。
COXは、プロスタグランジン(PG)が作られる時に必要な物質であるため、COXがブロックされるとプロスタグランジンが作られにくくなります。
プロスタグランジンは炎症や痛み、発熱を誘発する物質です。そのため、イブプロフェンがCOXをブロックすると炎症や痛み、発熱が生じにくくなるのです。
イブプロフェンはCOXのはたらきをブロックする事で炎症を抑え、これにより
- 熱を下げる
- 痛みを抑える
といった効果が期待できます。そのためイブプロフェンのようなお薬を「COX阻害薬」と呼ぶ事もあります。
4.イブプロフェンの副作用
イブプロフェンにはどんな副作用があるのでしょうか。
イブプロフェンはジェネリック医薬品であるため副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「ブルフェン」においては、副作用発生率は3.04%と報告されており、イブプロフェンも同程度だと考えられます。
主な副作用としては、
- 胃部不快感
- 食欲不振
- 腹痛
- 吐き気・嘔吐
- 発疹
- かゆみ
- 顔面浮腫
などがあります。
イブプロフェンをはじめとしたNSAIDsには共通する副作用があります。
もっとも注意すべきなのが「胃腸系の障害」です。これはNSAIDsがプロスタグランジンの生成を抑制するために生じます。
プロスタグランジンは、実は胃粘膜を保護するはたらきを持っているため、NSAIDsによってこれが抑制されると胃腸が荒れやすくなってしまうのです。
胃痛や悪心などをはじめとして、胃炎や胃潰瘍・大腸炎などになってしまうこともあります。このため、NSAIDsは漫然と長期間使用し続けないことが推奨されています。
また、腸管のバランスを崩すことで下痢や軟便などが生じることもあります。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- ショック、アナフィラキシー様症状
- 再生不良性貧血、溶血性貧血、無顆粒球症、血小板減少
- 消化性潰瘍、胃腸出血、潰瘍性大腸炎
- 中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)
- 急性腎不全、間質性腎炎、ネフローゼ症候群
- 無菌性髄膜炎
- 肝機能障害、黄疸
- 喘息発作
などが記載されています。重篤な副作用は稀ではあるものの絶対に生じないわけではありません。イブプロフェンの服薬がやむを得ず長期にわたっている方は、定期的に血液検査にて血球異常や肝機能・腎機能などのチェックを行う必要があります。
また、イブプロフェンは次のような方には禁忌(絶対に使ってはダメ)となっていますので注意しましょう。
1.消化性潰瘍のある方
2.重篤な血液の異常のある方
3.重篤な肝障害のある方
4.重篤な腎障害のある方
5.重篤な心機能不全のある方
6.重篤な高血圧症のある方
7.イブプロフェンに過敏症の既往歴のある方
8.アスピリン喘息又はその既往歴のある方
9.ジドブジン(エイズ治療薬)を投与中の方
10.妊娠後期の婦人
胃を荒らす可能性のあるお薬ですので、胃腸に潰瘍がある方はそれを更に増悪させる可能性がありますので、用いてはいけません。
また心臓、肝臓、腎臓といった臓器にダメージを与える可能性がありますので、これらの臓器に重篤な機能不全がある場合もイブプロフェンは用いてはいけません。
またイブプロフェンをはじめとしたNSAIDsは動物実験において、妊娠後期に投与すると、赤ちゃんの動脈管収縮、胎児循環持続症という状態が生じる可能性がある事が報告されています。
5.イブプロフェンの用法・用量と剤形
イブプロフェンは次の剤型が発売されています。
イブプロフェン錠 100mg
イブプロフェン錠 200mg
イブプロフェン顆粒 20% 1g
また、イブプロフェンの使い方は適応疾患によって異なります。
1.下記疾患並びに症状の消炎・鎮痛
関節リウマチ、関節痛及び関節炎、神経痛及び神経炎、背腰痛、頸腕症候群、子宮付属器炎、月経困難症、紅斑(結節性紅斑、多形滲出性紅斑、遠心性環状紅斑)
2.手術並びに外傷後の消炎・鎮痛
の場合は、
通常、成人は1日量600mgを3回に分けて経口投与する。
小児は、
5~7歳:1日量200~300mg
8~10歳:1日量300~400mg
11~15歳:1日量400~600mg
を3回に分けて経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
となっています。また、
3.下記疾患の解熱・鎮痛
急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)
の場合は、
通常、成人には1回量200mgを頓用する。なお、年齢、症状により適宜増減する。だたし、原則として1日2回までとし、1日最大600mgを限度とする。
とされています。
また、いずれの場合も
空腹時の投与は避けさせることが望ましい
と注意されています。これは空腹時に投与すると、胃腸へのダメージが更に生じやすくなるためです。
6.イブプロフェンが向いている人は?
イブプロフェンはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
イブプロフェンの特徴をおさらいすると、
・鎮痛作用(痛みを抑える)、解熱作用(熱を下げる)はやや弱め
・副作用の胃腸障害に注意(他のNSAIDsと同様)
・喘息の方は使用に注意(他のNSAIDsと同様)
といった特徴がありました。
基本的にNSAIDsは、どれも大きな差はないため、処方する医師が使い慣れているものを処方されることも多々あります。
比較的穏やかに効くイブプロフェンは、
- そこまで高くない発熱
- そこまで強くない痛み
に対して用いるお薬として向いています。
7.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?
イブプロフェンは「ブルフェン」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリックは薬価も安く、剤型も工夫されているものが多く患者さんにとってメリットが多いように見えます。
しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。
ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。
結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。
ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。
発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、
ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。
しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば飲み心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。
これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。
では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。
先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。
しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。
先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。
つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。