イサロパン外用散(一般名:アルミニウム・クロルヒドロキシアラントイネート)は、1984年から発売されている外用剤で、主に褥瘡や皮膚の潰瘍の治療薬として用いられます。
皮膚の創傷(いわゆる傷)の修復を促す作用や、創傷表面を保護する作用があり、これらによって創傷の治癒を改善させてくれます。
外用剤にもたくさんの種類があります。これらの中でイサロパンはどのような位置付けのお薬になるのでしょうか。
ここではイサロパン外用散の特徴や効果・副作用をはじめ、どのような作用機序を持つお薬でどのような方に向いているお薬なのかについて紹介していきます。
1.イサロパンの特徴
まずはイサロパンの全体的な特徴について、かんたんに紹介します。
イサロパンは「アラントイン」と「アルミニウム」という2つの成分を含む外用剤です。アラントインには創傷の治りを促す作用があり、アルミニウムには創傷を保護する作用や細菌の発育を抑制する作用があります。
注意点として、基剤に含まれる炭酸マグネシウムの水分を吸収する作用によって創部を乾燥させる傾向があるため、傷の状態によっては適さない事もあります。
イサロパンは主に皮膚のびらんや潰瘍の治療に用いられる外用剤になります。
外用剤というと軟膏などの塗り薬が一般的ですが、イサロパン外用散は粉末であり、粉を創部にふりかけるような使い方をします。
イサロパンにはいくつかの作用があります。
1つは皮膚の創傷(いわゆる傷)の治りを促す作用です。これを創傷治癒作用と言います。
イサロパンはアラントイン化合物の一種ですが、アラントインは元々は1900年代の初めにヒレハリソウという植物から抽出された成分です。元々ヒレハリソウは創傷治癒作用がある事が知られており、昔から民間療法で傷の治療に使われていました。現在でも化粧品や皮膚の塗り薬・坐薬などに配合されています。
またイサロパンに含まれているアルミニウムはバリアのように傷に被膜を形成してくれる性質があり、これによって物理的に傷を保護する作用も有しています。またアルミニウムは細菌が繁殖するのを抑える作用もあるため、創部で細菌が増殖しないように予防する作用も期待できます。
更にイサロパンに含まれる基剤(炭酸マグネシウム)は水分を吸収する作用があります。そのため浸出液が過剰に分泌されているような傷に対しては、適度に創部の浸出液を吸収してくれる作用も期待できます。
ただし傷は乾燥させ過ぎると治りが悪くなります。傷を綺麗に早く治すためには適度に湿潤環境にある事が大切ですので、創部を乾燥させる傾向のあるイサロパンはどのような傷にも適した外用剤であるとは言えません。
イサロパンは副作用の多いお薬ではないのですが、注意点としてはやはり創部を乾燥させる性質がある点が挙げられます。傷は乾燥すると治りが悪くなりますし、皮膚は乾燥すると刺激に敏感になり、痛みなどを感じやすくなります。
そのため浸出液の少ない創部にイサロパンを使用する事はあまり適していません。
以上からイサロパン外用散の特徴として次のようなことが挙げられます。
【イサロパン外用散の特徴】
・皮膚のびらん・潰瘍に対する治療薬である |
2.イサロパンはどのような疾患に用いるのか
イサロパンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
褥瘡、手術創、熱傷・外傷における皮膚のびらん・潰瘍
イサロパンは主に皮膚のびらんや潰瘍に対して用いられます。「びらん(糜爛)」というのは表皮の欠損で、皮膚の一番上の皮が浅くえぐれてしまっているような状態です。
その作用機序はいくつかありますが、
- 創部の修復を促す作用
- 創部を被膜で覆って、創部を保護する作用
- 創部で細菌が繁殖するのを抑える作用
- 創部の浸出液を吸収する作用
が挙げられます。
ではイサロパン外用散はこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
イサロパンの有効性をみた詳しい調査はありませんが、73例を対象にした小規模な調査において、イサロパンはプラゼボ(何の成分も入っていない偽薬)と比較して、治療経過や肉芽形成において有意に有効性を示したという報告があります。
【肉芽(組織)】
皮膚に傷が出来ると、そこに繊維芽細胞がきて同部は結合組織で補充され、更にそこに血管が新生されていきます。この毛細血管と結合組織からなるものを肉芽といいます。肉芽は傷が治る過程において必要なものです。傷が治るにつれて肉芽組織は瘢痕組織となっていき、肉芽組織の上に表皮組織が形成されていき、傷は徐々に小さくなって治っていきます。
3.イサロパンにはどのような作用があるのか
イサロパンの持つ作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.創傷の治りを早める
イサロパンはアラントイン化合物になります。アラントインというのは「ヒレハリソウ」という植物や「蛆(うじ)」に含まれている成分で、傷の治りを早める作用があり、古来より民間療法として傷の処置に使われてきました。
現在でも化粧品などにはアラントインを配合しているものがあります。
アラントインには、
- 肉芽組織の増生
- 表皮細胞の再生の促進
- 微小血管の新生促進
など、組織の修復を促す作用がある事が確認されております。
イサロパンにもこれらの作用があり、創傷の治癒を促進してくれます。
Ⅱ.創部を保護する
イサロパンには、アルミニウムが含まれています。
アルミニウムは創部に被膜を形成する性質があり、これによって創部がこれ以上傷付かないように保護してくれます。
バリアのように創部(潰瘍部や炎症部)を覆うことで、様々な刺激から創部を守ってくれるのです。
アルミニウムは潰瘍などから顔を出している基質タンパク質と結合することにより被膜を形成します。そのため、傷が出来ているところに集中的に膜をはってくれるという性質があります。
Ⅲ.創部の細菌の繁殖を抑える
イサロパンに含まれるアルミニウムは、細菌の繁殖を抑える作用があります。
正常な皮膚は、表皮がバリア機能を持っており、これによって細菌などの異物が容易に体内に侵入しないよう防御しています。
しかし表皮が損傷によって欠損してしまうと、このバリア機能が失われるため、びらん部や潰瘍部というのは細菌が体内に侵入してしまいやすい状態になっています。
アルミニウムはこれを防ぐために役立ちます。
ただし創部にアルミニウムを塗布するという事は、アルミニウムの体内への吸収も高めてしまう事でもあるため、その適応は医師と相談して慎重に判断すべきです。
Ⅳ.浸出液を吸収し創部を乾燥させる
イサロパン外用散の基剤(炭酸マグネシウム)には液体を吸着する作用があります。
これによって創部から出てくる滲出液を吸収してくれる作用が期待できます。
このイサロパンの作用は良い作用となる事もありますが、かえって創部の治癒を遅らせてしまう作用になる事もあるため注意が必要です。
創部の滲出液があまりに多量に分泌されており、それによって創部の状態が悪化しているような場合では、イサロパンによって適度に滲出液を吸収する事はある程度の意味があります。
しかし本来滲出液というのは創部を治すために分泌されているものであり、その中には創部の治癒を促進する物質がたくさん含まれています。
そのためイサロパンが浸出液を過剰に吸収してしまうと、創部の治りをかえって遅めてしまう可能性もあるのです。
また創部というのは適度な湿潤環境下に置く事で綺麗に・早く治ります。創部が乾燥しすぎていると創部の治りが遅れる他、感覚も過敏になり痛みも感じやすくなります。
そのためイサロパンのこの作用は、創部の滲出液があまりに過剰な時には良い作用になる事もありますが、滲出液の量が適量であった場合にはかえって悪い作用になってしまう事もあります。
4.イサロパンの副作用
イサロパンにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
イサロパン外用散は副作用発生率に対する詳しい調査が行われていません。しかし臨床的な印象としては副作用の多いお薬ではありません。
生じうる副作用としては、
- 掻痒感
- 疼痛
- 刺激感
などが報告されています。
これらの副作用はイサロパンに創部を乾燥される作用があるために生じます。創部は過度に乾燥してしまうと、感覚が過敏になり痛みや刺激を感じやすくなるためです。
5.イサロパンの用法・用量と剤形
イサロパンには、
イサロパン外用散6% 20g
の1剤型のみがあります。
イサロパン外用散の使い方は、
1日1~3回患部に適量を散布する。
となっています。
6.イサロパンが向いている人は?
最後にイサロパンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
イサロパンの特徴をおさらいすると、
【イサロパンの特徴】
・皮膚のびらん・潰瘍に対する治療薬である |
というものでした。
イサロパンは創部を乾燥させる性質のある外用剤ですが、近年の皮膚科治療においては創部は適度な湿潤環境下で治すべきというのが基本です。
そのため創部を乾燥させる性質を持つ外用剤は、創部において積極的には用いられません。
ただし、
- 滲出液が過剰な創部
に対してはイサロパンを用いる事で、滲出液の量を適度に抑える事が出来る可能性があり、このような場合は検討される事もあります。