イソジンガーグル液(一般名:ポビドンヨード)は、1962年から発売されているお薬です。
いわゆる「うがい液」であり、専門的には「含嗽剤」と呼ばれます。イソジンには殺菌作用があるため、殺菌を目的に処方され、風邪や咽頭炎・扁桃炎など上気道の感染症などに対して用いられています。
イソジンガーグルは現在でも広く用いられていますが、どのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんが用いるべきお薬なのでしょうか。
ここではイソジンガーグル液の特徴や効果・副作用についてみていきましょう。
目次
1.イソジンガーグル液の特徴
まずはイソジンガーグル液の特徴をざっくりと紹介します。
イソジンガーグル液は、殺菌作用を持つ液体になります。うがいの際に用いる事で、主に口腔内・咽頭部といった上気道の殺菌が出来ます。
古いお薬ですが現在でも咽頭炎・扁桃炎などの喉の症状に対して現在でも広く処方されています。
イソジンガーグル液には「ポビドンヨード」という殺菌作用を持つ物質が含まれています。これは医療現場でははうがい液のみならず、皮膚の消毒や褥瘡の感染予防などにも用いられています。
口腔・咽頭部に病原体が巣食っている場合はイソジンガーグル液でうがいをする事で、これらの病原体をやっつける効果が期待できます。
イソジンは、
- 細菌
- 真菌(いわゆるカビ)
- ウイルス
など、多くの病原体に対して幅広く殺菌作用を発揮します。
副作用も少なく、臨床で処方している感覚としては「副作用がほぼない」と言っても良いようなお薬です。万が一誤って飲み込んでしまった場合でも、よほど大量でなければまず問題はありません。安全性が非常に高いところもこのお薬の良いところです。
注意点としてイソジンガーグル液はどんな時でも良い効果が期待できるわけではありません。専門家の中でも「イソジンでうがいしても意味がない」という意見はあり、何となくで使っていると意味のない治療になってしまう事もあります。
詳しくは後述しますが、専門家と相談しながら正しい知識を持って使用するようにしましょう。
以上からイソジンガーグル液の特徴として次のような点が挙げられます。
【イソジンガーグル液の特徴】
・口の中に含んでうがいをする事で口腔内の殺菌ができるお薬である |
2.イソジンガーグル液の適応疾患と有効率
イソジンガーグル液はどのような疾患に用いられているのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
咽頭炎、扁桃炎、口内炎、抜歯創を含む口腔創傷の感染予防、口腔内の消毒
イソジンガーグル液は上気道に細菌・ウイルス・真菌などの病原菌が感染している、あるいは感染している可能性が高い時に、殺菌のために用いられます。
代表的なものとしては、咽頭炎や扁桃炎といった上気道の感染症が挙げられます。
また口内炎は感染だけが原因ではなくストレスや生活習慣の悪化などで生じることもありますが、口内炎が出来てしまうとそこにばい菌が巣食いやすくなるため、それを予防するためにイソジンガーグルを使用する事は有用です。
また歯医者さんで抜歯した後などでは、口の中に傷が出来ていますのでばい菌が感染しやすい状態になっています。このような場合も感染予防のためにイソジンガーグルを使用する事は有用でしょう。
このような口腔内に傷がある際にイソジンでうがいをする際の注意点としては、あまり激しくうがいをする事は避け、優しくするようにしましょう。
激しくうがいをすれば、確かにばい菌をやっつける事はできますが、それにより傷口がより開いてしまうリスクもあるためです。
ではこれらの疾患に対してイソジンガーグルはどのくらいの効果が期待できるのでしょうか。
上記疾患に対するイソジンガーグル液の有効率は87.9%と報告されています。
3.イソジンガーグル液の作用
口腔内・咽頭などの上気道の殺菌に用いられるイソジンガーグル液ですが、どのような作用で殺菌作用を発揮するのでしょうか。
イソジンガーグル液の作用について紹介します。
Ⅰ.殺菌作用
イソジンガーグルの主成分は「ポビドンヨード」であり、これはポリビニルピロリドン(PVP)とヨウ素の複合体になります。
このうち、ヨウ素が殺菌作用を持っています。
ポビドンヨードはヨウ素を遊離しますが、遊離されたヨウ素(I2)は水(H2O)と反応します。
H2O + I2 → H2OI+ + I-
これによって生成されたH2OI+が殺菌作用を有します。
H2OI+は細菌やウイルスの表面にある膜タンパクに作用する事で、細菌・真菌・ウイルスを殺菌すると考えられています。
一般的な抗菌薬などは、漫然と使用していると耐性化(その抗菌薬が効かない菌が出来てしまう)が問題となりますが、イソジンは耐性が生じないと考えられており、これもメリットとなります。
4.イソジンガーグル液の副作用
イソジンガーグル液にはどのような副作用があるのでしょうか。またその頻度はどのくらいでしょうか。
イソジンガーグル液の副作用発生率は0.94%と報告されています。副作用の頻度は少なく安全性は高いといってよいでしょう。
生じる副作用としては、
- 嘔気
- 口内刺激
- 口内不快感
- 口内の荒れ
- 口腔粘膜びらん
- 口腔内灼熱感
などが報告されています。
また頻度は稀ですが重篤な副作用として、
- ショック、アナフィラキシー様症状(呼吸困難、不快感、浮腫、潮紅、蕁麻疹など)
が報告されています。
万が一このような症状が生じたらただちに使用を中止し、主治医に指示を仰ぐ必要があります。
またイソジンはヨウ素が成分として含まれていますので、甲状腺疾患のある方は慎重に投与する必要があります。甲状腺は甲状腺ホルモンを生成する部位ですが、甲状腺ホルモンはヨウ素を元に作られます。
という事はヨウ素を含むイソジンを甲状腺疾患がある方が使用してしまうと、甲状腺ホルモンに影響を与えてしまう可能性があるためです。
ちなみにイソジンは殺菌作用のある物質ですが、身体に大きな害をきたすものではないため、誤って飲み込んでしまってもよほど大量でなければ問題ありません。
5.イソジンガーグル液の用法・用量と剤形
イソジンガーグル液には次の剤型が発売されています。
イソジンガーグル液 7% 30ml
イソジンガーグル液 7% 250ml
イソジンガーグル液の使い方は、
用時15~30倍(2~4mLを約60mlの水)に希釈し、1日数回含嗽する。
と書かれています。
イソジンは水で薄めて使用します。1日の使用回数に明確な制限はありませんが、3回~6回程度行えば十分でしょう。
6.イソジンガーグル液が向いている人は?
以上から考えて、イソジンガーグル液が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
イソジンガーグル液の特徴をおさらいすると、
【イソジンガーグル液の特徴】
・口の中に含んでうがいをする事で口腔内の殺菌ができるお薬である |
というものでした。
一時期「イソジンによるうがいは効果が無い」という議論がされた事がありました。現在でも「イソジンは効果がある」という専門家もいれば、「あんなもの意味がない」という専門家もいます。
果たしてこれはどちらが正しいのでしょうか。
これは「状況によっては効果がある事もあるし無い事もある」というのが正しい答えになるでしょう。上気道炎や咽頭炎などの上気道の感染が生じた場合、ある状況ではイソジンによるうがいは有効だし、ある状況ではあまり意味がありません。
これはイソジンの作用機序と特徴を知れば、自ずと答えが見えてきます。
イソジンには殺菌作用があります。これは間違いありません。そしてその作用は、うがい液が直接触れたものに対して発揮されます。
そのため上気道(口腔内や咽頭部など)に菌が多く繁殖しているような状態であれば、イソジンでうがいする事は、上気道に存在する菌を殺菌する事になるため効果があります。
これは具体的には感染症の初期が該当します。
しかしある程度感染症が進行して、体内の奥にまで菌が入り込んでしまうと、この上気道外に移動してしまった菌に関してはイソジンガーグルは無力です。この場合、いくら表面の上気道を殺菌しても効果は不十分となり、効果は乏しくなります。イソジンによって生じる副作用をも加味するとむしろデメリットの方が多くなるケースもあるでしょう。
これは具体的には感染症がある程度進行した時という事が出来るでしょう。
ここから原則として、上気道の感染症の予防や初期においてはイソジンによるうがいは有効ですが、ある程度進行してしまった上気道の感染症に対しては効果が乏しくなる事があるという事が言えます。
大きな副作用のないイソジンガーグルはついつい安易に使ってしまいがちです。安易に使う事で大きな問題が出るわけではありませんが、せっかくならちゃんと効果が高い時に使いたいものです。
漫然と上気道に感染症が生じたらイソジンでうがいをする、という事ではなく、その適応をしっかりと考え、専門家の意見を聞きながら使用を検討するようにしましょう。