イトプリド錠の効果と副作用【胃薬】

イトプリド塩酸塩は胃薬で、1995年から発売されている「ガナトン」というお薬のジェネリック医薬品になります。

主に胃などの上部消化管に作用し、胃腸の動きを活性化させることで、胸やけや上腹部症状を改善させたり吐き気を抑えたりしてくれます。

胃薬にも様々な種類がありますが、その中でイトプリドはどんなお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。イトプリドの効果や特徴・副作用についてみていきましょう。

 

1.イトプリド錠の特徴

まずはイトプリドの特徴について、かんたんに紹介します。

イトプリドは胃の動きを活性化させるお薬になります。

イトプリドはいわゆる胃薬で、主に「胃」に作用します。

その具体的なはたらきは、消化管に存在するドーパミン2受容体をブロックすることです。消化管のドーパミン2受容体がブロックされると、アセチルコリンという消化管を動かす物質が相対的に増えます。

つまりイトプリドが消化管のドーパミン受容体をブロックすることで、胃の動きが活発になるのです。

胃の動きが悪いと、胃もたれや吐き気、胃痛などが生じます。

イトプリドは胃の動きを活発にさせることによって、このような症状を改善させる効果が期待できます。

注意点としては、稀に神経系の副作用が生じる事があります。イトプリドは主に消化管などの末梢(脳以外)でドーパミンをブロックしますが、極一部は中枢(脳)に入り、脳でドーパミンをブロックしてしまいます。

中枢神経(脳)でのドーパミン受容体のブロックは、震え・不随意運動といった錐体外路症状やホルモンバランスの崩れ(高プロラクチン血症)などの副作用を起こすことがあります。

そのためイトプリドを長期・多量に使用している場合は、錐体外路症状・高プロラクチン血症に注意する必要があります。

またイトプリドはジェネリック医薬品であるため、先発品と比べて薬価が安いという点もメリットになります。

以上からイトプリドの特徴として次のようなことが挙げられます。

【イトプリド錠の特徴】

・主に胃の動きを亢進させる
・胃の動きを良くすることで、吐き気や胃部不快感・胃痛を改善
・ドーパミン系の副作用(錐体外路症状、高プロラクチン血症など)に注意
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

 

2.イトプリドはどんな疾患に用いるのか

イトプリドはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

慢性胃炎における消化器症状(腹部膨満感、上腹部痛、食欲不振、胸やけ、悪心、嘔吐)

イトプリドは、胃のドーパミン受容体に作用することで、胃の動きを促進させます

そのため、胃の動きが悪くなっていて胸やけ、悪心(吐き気)、嘔吐、胃通などが生じている方には効果が期待できます。

イトプリドはジェネリック医薬品であるため有効性の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「ガナトン」における改善率(中等度以上改善した率)は、

  • 慢性胃炎に対する改善率は77.6%
  • 腹部膨満感に対する改善率は64.2%
  • 食欲不振に対する改善率は66.7%
  • 悪心に対する改善率は69.8%
  • 嘔吐に対する改善率は71.0%
  • 胸やけに対する改善率は62.2%
  • 上腹部痛に対する改善率は66.5%

と報告されており、イトプリドも同程度だと考えられます。

 

3.イトプリドにはどのような作用があるのか

イトプリドにはどのような作用があるのでしょうか。イトプリドの主な作用について紹介します。

 

Ⅰ.胃の動きを活性化させる

イトプリドは、胃に存在するドーパミン2受容体をブロックするはたらきがあります。

胃のドーパミン2受容体がブロックされるとアセチルコリンという物質のはたらきが相対的に活性化される事が知られています。

アセチルコリンは胃腸の動きを活性化させる物質であるため、これによって胃の動きが活性化します。

またイトプリドにはアセチルコリンエステラーゼという酵素のはたらきをブロックする作用もあります。

アセチルコリンエステラーゼはアセチルコリンを分解する酵素ですので、イトプリドによってアアセチルコリンが分解されなくなると、これも胃の動きを活性化させることにつながります。

 

4.イトプリドの副作用

イトプリドにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。

イトプリドはジェネリック医薬品であるため副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「ガナトン」における副作用発生率は1.25~2.45%と報告されており、イトプリドも同程度だと考えられます。

生じうる副作用としては、

  • 下痢
  • 腹痛
  • 頭痛
  • 便秘

などがあります。これらは消化管の動きを亢進させすぎてしまって生じてるものが多く、ほとんどは様子をみるかイトプリドの投与量を適量に調節すれば改善させることができます。

また検査値の異常として、

  • 肝酵素(AST、ALT)上昇
  • 白血球減少
  • プロラクチン上昇

などが報告されています。長期間イトプリドを服用する場合は、定期的に血液検査でこれらの数値を確認しておく方が安全でしょう。

イトプリドはドーパミンのはたらきをブロックしますが。脳でドーパミンのはたらきがブロックされるとプロラクチンというホルモンが増えてしまう事があります。

プロラクチンは本来は出産後に上昇するホルモンで、乳汁を分泌するはたらきがあります。軽度であれば特に症状は出現しませんが、プロラクチンが高値となると乳汁分泌や胸の張りが出現することもあります。

慢性的なプロラクチン高値は骨粗しょう症や乳がんのリスクを高める事が指摘されていますので、高プロラクチン血症を認めたらすぐに対処を行う必要があります。

また重篤な副作用としては、

  • ショック、アナフィラキシー
  • 肝機能障害、黄疸

などが報告されています。

イトプリドは主に肝臓で分解されるため、肝臓への負担がかかってしまう事があります。

 

5.イトプリドの用法・用量と剤形

イトプリドは、

イトプリド錠 50mg

の1剤形のみがあります。

イトプリドの使い方は、

通常、成人には1日150mgを3回に分けて食前に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜減量する

となっています。

イトプリドは基本的には食前に服用するお薬になります。これは吐き気や上腹部痛といった症状は食事の前に取ってあげた方が良いからです。

ちなみに薬物動態的には食前でも食後でも問題となるほどの大きな差は生じないと考えられています。強いて言えば食後投与は多少お薬の吸収が遅くなりますが、そこまで大きな差ではありません。

薬物動態的には食前投与でも食後投与でも良いのですが、食事によって悪化しやすい症状を抑えるお薬であるため、食前投与が推奨されているのです。

 

6.イトプリドが向いている人は?

以上から考えて、イトプリドが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

イトプリドの特徴をおさらいすると、

・主に胃の動きを亢進させる
・胃の動きを良くすることで、吐き気や胃部不快感・胃痛を改善
・ドーパミン系の副作用(錐体外路症状、高プロラクチン血症など)に注意
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

というものでした。

イトプリドは、消化管の中でも主に胃などの「上部消化管」に作用します。そのため、胃の動きが低下していて、吐き気・不快感・胸やけ・胃痛などが出ている場合に適したお薬となります。

反対に腸に原因がある場合は、効果はあまり得られないでしょう。

ドーパミン系の副作用(錐体外路症状、高プロラクチン血症など)に一応の注意は必要ですが、適切な量を適切な期間使っている限りでは、生じることは滅多にありません。

イトプリドは先発品の「ガナトン」と比べるとジェネリック医薬品であるため薬価が安い点もメリットです。経済的負担をなるべく少なく治療したい方は、ガナトンではなくイトプリドを選択すると良いでしょう。

 

7.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?

イトプリドは「ガナトン」というお薬のジェネリック医薬品になります。

ジェネリックは薬価も安く、患者さんにとってメリットが多いように見えます。

しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。

同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。

ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。

結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。

ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。

発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、

ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。

しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば飲み心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。

これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。

では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。

先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。

しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。

先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。

つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。