アストミン錠・アストミン散(一般名:ジメモルファンリン酸塩)は、1974年から発売されているお薬です。いわゆる「咳止め」であり、専門的には「鎮咳薬(ちんがいやく)」と呼ばれます。
鎮咳薬には「麻薬性」と「非麻薬性」があり、アストミンは非麻薬性鎮咳薬に属します。非麻薬性は麻薬性と比べると効果は弱めであるものの、耐性や依存性もなく副作用も少なく安全性の高い咳止めになります。
古いお薬ですが、咳が生じる疾患がとても多いため、現在でも一般内科を中心に広く処方されているお薬です。
アストミンはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに使うお薬なのでしょうか。ここではアストミンの特徴や効果・効能・副作用などについて紹介していきたいと思います。
1.アストミンの特徴
まずはアストミンの全体的な特徴を見ていきましょう。
アストミンは非麻薬性の鎮咳薬になります。全体的に非麻薬性は効果が穏やかですが、アストミンは非麻薬性の中ではしっかりと咳を抑えてくれます。副作用も少なく安全性に優れ、バランスの優れた鎮咳薬になります。
咳止め(鎮咳薬)は、
- 麻薬性鎮咳薬
- 非麻薬性鎮咳薬
の2つに分けられます。
両者の違いをかんたんに言うと、
- 麻薬性は咳を抑える効果は強いが、耐性や依存性があり、便秘などの副作用も起こりやすい
- 非麻薬性は咳を抑える効果は麻薬性には劣るが耐性や依存性はなく、副作用も少ない
という特徴があります。
このうち、アストミンは非麻薬性に属します。
アストミンは非麻薬性ではありますが、非麻薬性の中では咳を抑える作用はしっかりしています。また依存性や副作用も少なく安全性の高い咳止めになります。
ちなみに耐性というのは、お薬を連用していると身体がお薬に慣れてしまって徐々に効きが悪くなってくる現象です。また依存性というのは、そのお薬に依存してしまう事でお薬を止められなくなってしまう現象の事を言います。
いずれも麻薬性の鎮咳薬には認められます。例えば、代表的な麻薬性鎮咳薬に「コデイン」がありますが、「コデイン中毒」という病名もあり、麻薬性鎮咳薬の依存性は時に問題となります。
一方でアストミンは非麻薬性ですので、耐性・依存性もなく、その他の副作用も少なめで、総合的にみても安全性に優れる咳止めになります。
一応の注意点として、動物実験においてわずかに血糖に影響を与える可能性が確認されているため、糖尿病の方が長期使用する場合は念のため主治医と相談するようにしましょう。
糖尿病の方はアストミンを使えないという事ではありませんが、糖尿病の方がアストミンを処方された際は、処方医に自分が糖尿病である事を一応伝えておくべきでしょう。
とはいっても人を対象にした研究では血糖に対する影響はほとんどない事が確認されているため、一時的な服用であれば問題ない事がほとんどです。
以上からアストミンの特徴として次のような点が挙げられます。
【アストミンの特徴】
・非麻薬性の鎮咳薬である |
2.アストミンはどのような疾患に用いられるのか
アストミンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
下記疾患に伴う鎮咳
上気道炎、肺炎、急性気管支炎、肺結核、珪肺および珪肺結核、肺癌、慢性気管支炎
難しい病名がたくさん並んでいますが、要するに「咳を生じる呼吸器疾患」の咳を抑えるために用いる、という認識で良いと思います。
よく用いられるのが、風邪(急性上気道炎)や気管支炎、肺炎などに伴う咳ですね。
ただし咳止めを服用する方に理解しておいていただきたいのですが、「咳」という症状は必ず抑えなくてはいけないものではありません。基本的に咳というのは「痰を除去する」「ばい菌を体外に追い出す」ために必要な生理反応であり、本来は止めない方がいいものなのです。
気管で細菌やウイルスが繁殖していて、それを追い出すために身体が咳を生じさせているのに、お薬で咳を止めてしまったらどうなるでしょうか。
細菌やウイルスが体外になかなか排出されないため、病気の治りも悪くなってしまいますよね。
咳を止める必要があるのは、
- 咳があまりにひどくて、かえって気管を傷付けてしまっている場合
- 咳があまりにひどくて、体力を消耗したり睡眠が障害されている場合
など、咳によって細菌やウイルスを排出するメリットよりも、上記のデメリットが上回っている場合に限られます。
ではアストミンは、具体的にどれくらい咳を改善してくれるのでしょうか。
上記疾患の咳に対してアストミンを用いた調査では、その総合的な有効率は77.2%であったと報告されています。
内訳としては、
- 急性呼吸器疾患に対する有効率は84.6%
- 慢性呼吸器疾患に対する有効率は72.4%
と報告されています。
ちなみに急性呼吸器疾患は、上気道炎、肺炎、急性気管支炎が該当します。一方で慢性呼吸器疾患は肺結核、珪肺、珪肺結核、肺癌、慢性気管支炎が該当します。
3.アストミンにはどのような作用があるのか
咳止め(鎮咳薬)として用いられるアストミンですが、どのような機序で咳を抑えているのでしょうか。
私たちが咳をするのは、脳の延髄と呼ばれる部位にある「咳中枢」が深く関わっています。
咽頭や気管に異物が入りこむと、その信号は咳中枢に送られます。信号がある閾値以上に達すると、咳中枢は「咳をして異物を排出する必要がある」と判断し、呼吸筋や横隔膜などに信号を送り、「咳」をするように指示するのです。
私たちの身体はこのような咳中枢のはたらきによって、異物が体内に侵入しないようにしているのです。
アストミンは延髄の咳中枢の感度を鈍くする(閾値を上げる)はたらきがあります。
これにより、咳中枢は「咳をしなさい」という信号を送りにくくなり、咳が発生しにくくなるというわけです。
4.アストミンの副作用
アストミンにはどのような副作用があるのでしょうか。またその頻度はどのくらいなのでしょうか。
アストミンは非麻薬性の鎮咳薬に属するため、副作用は少なく安全性に優れます。
アストミンの副作用発生率を見た調査では、副作用発生率は8.6%と報告されています。数値だけをみれば低くはないのですが、アストミンの副作用は軽いものがほとんどであり、重篤なものはほぼ生じません。
生じうる副作用としては、
- 食欲不振
- 眠気
- めまい
- 悪心
- 口渇(口の渇き)
などがあります。
いずれも重症化することは稀で、程度は軽度である事がほとんどです。
また、一応の注意として、
- 血糖上昇
が動物実験で認められたため、糖尿病の方は一応知っておきましょう。
ラットを用いた動物実験で大量のアストミンの投与によって血糖に影響が出ることが報告されています。
しかしヒトやマウス、ウサギ、イヌを用いた実験では血糖への影響は認められていません。また臨床上もアストミンを普通量投与したからといって血糖に大きな影響が出るという事はまず経験しません。
一応頭の片隅に置いておくべき注意事項ではありますが、糖尿病の人は絶対使えないなどということはなく、大きな心配はしなくてもよいでしょう。
ちなみに麻薬性の鎮咳薬では、
- 耐性
- 依存性
- 便秘
などの副作用に注意が必要ですが、アストミンは非麻薬性でありこれらの副作用は生じません。
5.アストミンの用法・用量と剤形
アストミンは次の剤型が発売されています。
アストミン錠 10mg
アストミン散 10%
アストミンシロップ 0.25%
風邪や気管支炎・肺炎などといった呼吸器疾患は、子どもからお年寄りまで幅広い年代の方がかかる疾患です。
そのためアストミンもそれに合わせて錠剤だけではなく、小児やお年寄りでも飲みやすい散剤やシロップも用意されています。
アストミンの使い方は、
【錠剤】
成人(15才以上)には1回1~2錠を1日3回経口投与する。 但し、年齢、症状により適宜増減する。【散剤】
通常、成人(15才以上)には、1回0.1~0.2gを1日3 回経口投与する。 小児(8~14才)には、1回0.1gを1日3回経口投与する。 但し、年齢・症状により適宜増減する。
となっています。
1日を通して咳を抑えたいのであれば、1日3回毎食後に服薬します。
しかし特定の時間だけの咳を抑えたいのであれば、主治医と相談の上で、1日1回投与などになる事もあります。
例えば「夜横になると特に咳がひどいから、その時だけ抑えたい」という事であれば、主治医が許可してくれれば、1日1回就寝前投与でも問題はありません。
先ほども書いた通り、本来咳というのは身体にとって必要な生理反応です。そのため、過度に咳を抑える必要はないのです。
6.アストミンが向いている人は?
以上から考えて、アストミンが向いている人はどのような人なのかを考えてみましょう。
アストミンの特徴をおさらいすると、
【アストミンの特徴】
・非麻薬性の鎮咳薬である |
などがありました。
非麻薬性でありながらしっかりと咳を抑える作用があり、また安全性も高いことから、アストミンは咳を止めたい時に最初に用いられることも多いお薬です。
まずはアストミンなどの非麻薬性の鎮咳薬から開始し、それでも咳が抑えられない時のみ、麻薬性鎮咳薬などのより強力な鎮咳薬を試すのがよいでしょう。