ユベラ軟膏(一般名:トコフェロール・ビタミンA油)は1961年から発売されている塗り薬です。
ユベラ軟膏はビタミンAとビタミンE(トコフェロール)を含有しています。ビタミンAは角質を柔らかくする作用を持ち、ビタミンEが血行を改善する作用を持ちます。そのためユベラ軟膏は皮膚が硬くなっている疾患や皮膚の血流が悪くなっている疾患に対して用いられます。
塗り薬はたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのか分かりにくいものです。
ここではユベラ軟膏がどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのか、ユベラ軟膏の高価・効能や副作用などを紹介していきたいと思います。
目次
1.ユベラ軟膏の特徴
まずはユベラ軟膏の特徴をざっくりと紹介します。
ユベラ軟膏の特徴は、
- 塗った部位の皮膚の肥厚を柔らかくする
- 塗った部位の血流を促進する
といった作用があります。含まれている成分はビタミンであり、安全性にも優れます。
ユベラ軟膏1g中には次の2つの成分が含まれています。
・ビタミンA油 5mg(5,000ビタミンA単位)
・ビタミンE(トコフェロール) 20mg
ビタミンAは、皮膚のケラチン形成(細胞の骨格を作るたんぱく質)を抑制することで角質を柔らかくする作用があります。そのため、硬くなった皮膚を柔らかくするのに適しています。
ビタミンEは、血管を広げる事で血流を改善させる作用があります。そのため、血流が悪くなっている部位に塗ればその部位の血流を改善させることができます。
ユベラ軟膏には重篤な副作用はほとんどありません。塗った場所が赤くなったり、湿疹ができたりということは時に認めますが、塗布をやめれば改善する程度のものがほとんどで、安全性に優れる軟膏になります。
ビタミンAの大量投与は催奇形性(赤ちゃんに奇形が起こる)が報告されているため、妊婦さんは大量に使ってはいけませんが、塗布したユベラが血中に移行するのはわずかであるため、普通量を使う程度であれば妊婦の方が使っても問題はないことがほとんどです(とは言っても一応、主治医の確認を取ってください)。
以上からユベラ軟膏の特徴を挙げると、次のようになります。
【ユベラ軟膏の特徴】
・硬くなった皮膚を柔らかくする作用がある
・塗った部位の血流を改善する作用がある
・副作用はほとんどない
・大量投与で催奇形性があるが、普通量を塗る分にはまず問題ない
2.ユベラ軟膏はどのような疾患に用いるのか
ユベラ軟膏はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
凍瘡、進行性指掌角皮症、尋常性魚鱗癬、毛孔性苔癬、単純性粃糠疹、掌蹠角化症
難しい専門用語が並んでいますが、
- 皮膚の血流が悪くなっている状態
- 皮膚(角質)が硬くなっている状態
にユベラ軟膏は使われます。
凍瘡はいわゆる「しもやけ」です。冷たい外気に長期間当たっていると、血管が収縮してしまい、その部位の血流が悪くなってしまいます。
特に末梢(四肢の先端や耳など)は元々血液が届きにくい部位ですので凍瘡が生じやすく、皮膚の色が暗赤色になったり、赤く腫れたり、痛みが生じたりします。
凍瘡には、ユベラ軟膏の血流を改善する作用が効果を発揮します。
進行性指掌角皮症とはいわゆる「手荒れ」の事で、水仕事などで手を酷使する事により発症します。手の皮膚が傷つくため、炎症を起こしたり、角質が肥厚したりしてしまいます。
尋常性魚鱗癬は遺伝性の疾患で、皮膚の角質が硬くなり、まるで魚の鱗(うろこ)のようになってしまう疾患です。
掌蹠角化症は手足の皮膚が硬くゴツゴツと角化してしまう疾患です。
これらの疾患にはユベラ軟膏の皮膚を柔らかくする作用が効果を発揮します。
毛孔性苔癬は毛孔(毛穴)を角質が塞いでしまう事で毛孔の部位が腫れてしまい、皮膚にぶつぶつが出来たようになる疾患です。発症する人は多いのですが、特に問題となる症状は来たさないため積極的に治療される事はありません。以前はビタミンAが有効であるという報告があったためユベラの適応疾患に入っていますが、実際はあまり用いられる事はありません。
単純性粃糠疹は主に未成年の顔に認められる白っぽく色が抜けたように見える皮膚病変です。自然と治癒するため治療が行われない事もありますが、ユベラ軟膏にて保湿・血行促進を促す事で改善も期待できます。
3.ユベラ軟膏にはどのような作用があるのか
ユベラ軟膏にはどのような作用があるのでしょうか。詳しい作用について説明します。
Ⅰ.皮膚(角質)を柔らかくする作用
ユベラ軟膏はビタミンAを含有します。このビタミンAは、表皮に存在するムコ多糖類の新陳代謝を高める事でケラチンの形成を抑制することが分かっています。
ケラチンというのは細胞骨格を形成するタンパク質のことで、皮膚の強度を保つために役立っています。しかし何らかの原因でケラチンが過剰になってしまうと皮膚が硬くなりすぎてしまいます。
研究においては、モルモットにおいてビタミンAを塗布することで表皮の新陳代謝促進・ケラチン抑制が確認されています。またネズミを用いた研究で、ビタミンAが欠乏すると膣粘膜などの角化が著明に認められるようになることも報告されています。
ここからビタミンAが少なくなると角質が厚くなり、ビタミンAが多くなると角質が柔らかくなるということが分かります。
ユベラ軟膏はビタミンAを含むため、角質を柔らかくする作用が期待できます。
またビタミンAは脂溶性(脂に溶ける性質)であるため、皮膚から吸収されやすく軟膏として用いるのに適しています。
Ⅱ.血行改善作用
ユベラ軟膏に含まれるビタミンE(トコフェロール)は血管を拡張させ、血流を増やす作用を持ちます。
ビタミンEは脂溶性(脂に溶ける性質)であるため皮膚から吸収されやすいという特徴を持ちます。そのため皮膚に塗れば、皮膚近くを走っている血管に作用して血流を改善させ、皮膚温を高めてくれます。
この作用はビタミンEが平滑筋という筋肉を緩めるはたらきを持っているためだと考えられています。平滑筋は血管を収縮させる筋肉であるため、平滑筋が緩むと血管が拡張するのです。
Ⅲ.保湿作用
これは他の軟膏でも同様なのですが、ユベラ軟膏を塗ることによって皮膚が軟膏で覆われるため、皮膚の保湿作用も期待できます。
4.ユベラ軟膏の副作用
ユベラ軟膏にはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
ユベラ軟膏の副作用発生率は2.26%と報告されています。重篤な副作用はほとんどなく、安全性は非常に高いお薬だと言えます。
生じうる副作用としては、
- 紅斑
- 掻痒(かゆみ)
- 疼痛
- 小水疱
など皮膚局所の症状がほとんどです。また程度もほとんどが軽度にとどまります。
ちなみにビタミンAの大量投与は催奇形性(妊婦さんが使うと赤ちゃんに奇形が生じやすくなる)が報告されているため、妊婦さんが使用する場合は一応の注意は必要です。
しかし塗布したビタミンAのうち、血中に入り赤ちゃんに届く量はかなり少ないため、よほど大量に塗りたくるわけでなければ妊婦の方が使用してもほとんど問題はありません。一応、妊娠中の方は主治医に指示を仰ぐようにしてください。
5.ユベラ軟膏の用法・用量と剤形
ユベラ軟膏は、
ユベラ軟膏 56g(チューブ)
ユベラ軟膏 500g(ポリ容器)
の2剤型が発売されています。
ユベラ軟膏の使い方は、
通常1日1~数回適量を患部に塗布する。
と書かれています。実際は皮膚の状態や場所によって回数や量は異なるため、主治医の指示に従いましょう。
ちなみに塗り薬には「軟膏」「クリーム」「ローション(外用液)」などいくつかの種類がありますが、これらはどのように違うのでしょうか。
軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。長時間の保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。また皮膚への浸透力も強くはありません。
クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。
ローションは水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。しかし皮膚への浸透力は強く、皮膚が厚い部位などに使われます。
ユベラ軟膏は剤型としては軟膏のみが発売されています。
6.ユベラ軟膏の使用期限はどれくらい?
ユベラ軟膏の使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった軟膏があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問を患者さんから時々頂く事があります。
保存状態によっても異なってきますので一概に答えることはできませんが、ユベラ軟膏は「15℃以下の冷所」で「暗所」の保存であれば、
・チューブに入っているものは21カ月
・ポリ容器に入っているものは15カ月
が使用期限となります。
7.ユベラ軟膏が向いている人は?
以上から考えて、ユベラ軟膏が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ユベラ軟膏の特徴をおさらいすると、
・硬くなった皮膚を柔らかくする作用がある
・塗った部位の血流を改善する作用がある
・副作用はほとんどない
・大量投与で催奇形性があるが、普通量を塗る分にはまず問題ない
というものでした。
ビタミン剤からなるユベラ軟膏は安全性に優れるお薬ですので、安全性を重視しつつ、
- 皮膚の肥厚を改善させたい
- 皮膚の血流を改善させたい
と考える場合、適したお薬となります。
ただし強力な作用はありません。皮膚が過剰に肥厚している場合などではユベラでは不十分である事があります。その際は主治医と相談し、より強い・適切なお薬を使用するようにしましょう。