ケナログ口腔用軟膏(一般名:トリアムシノロンアセトニド)は1961年から発売されている口内炎の治療薬になります。
ケナログは塗るタイプのステロイド薬であり、主に口腔内(口の中)に塗る用のお薬になります。塗り薬ですので飲み薬のように全身に作用するわけではなく病変がある部位にのみ塗るため、効かせたい部位にしっかりと効き、余計な部位に作用しないというメリットがあります。
塗り薬はたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのか一般の方にとっては分かりにくいと思います。
ケナログはどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ケナログの効能や特徴・副作用についてみてみましょう。
目次
1.ケナログ口腔用軟膏の特徴
まずはケナログ口腔用軟膏の特徴をざっくりと紹介します。
ケナログ口腔用軟膏は口の中に塗る外用ステロイド薬であり、口腔内の炎症を抑えてくれます。外用ステロイド薬の中での強さは「中等度」になります。
ステロイド外用剤(塗り薬)の主なはたらきとしては次の3つが挙げられます。
- 炎症反応を抑える
- 免疫反応を抑える
- 皮膚細胞の増殖を抑える
ステロイドは免疫反応(身体がばい菌などの異物と闘う反応)を抑える事で、塗った部位の炎症反応を抑える作用があります。これにより湿疹や皮膚炎を改善させたり、アレルギー症状を和らげたりします。
また皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあり、これによって皮膚を薄くする作用も期待できます。
ケナログ口腔用軟膏もステロイド外用剤になりますが、外用ステロイド剤は強さによって5段階に分かれています。
Ⅰ群(最も強力:Strongest):デルモベート、ダイアコートなど
Ⅱ群(非常に強力:Very Strong):マイザー、ネリゾナ、アンテベートなど
Ⅲ群(強力:Strong):ボアラ、リドメックスなど
Ⅳ群(中等度:Medium):アルメタ、ロコイド、キンダベートなど
Ⅴ群(弱い:Weak):コートリル、プレドニンなど
この中でケナログ口腔用軟膏は「Ⅳ群(中等度)」に属します。
ステロイドはしっかりとした抗炎症作用(炎症を抑える作用)が得られる一方で、長期使用による副作用の問題などもあるため、皮膚症状に応じて適切に使い分ける事が大切です。
強いステロイドは強力な抗炎症作用がありますが、一方で副作用も生じやすいというリスクもあります。反対に弱いステロイドは抗炎症作用は穏やかですが、副作用も生じにくいのがメリットです。
ステロイドはどれも長期使用すると、皮膚の細胞増殖を抑制したり、免疫力を低下させたりしてしまいます。これによって皮膚が薄くなってしまったり感染しやすくなってしまったりといった副作用が生じる可能性があります。
ケナログ口腔用軟膏もそういった副作用が生じる可能性はあるため、必要な期間のみ使用し、漫然と塗り続けないことが大切です。
またケナログ口腔用軟膏は他の外用ステロイド剤と異なり、口の中という湿潤環境(水分が多い部位)に塗るため軟膏がはがれてしまいやすいという問題があります。
そのためケナログ口腔用軟膏は湿潤環境でも創部にとどまりやすいような工夫されています。具体的には基材に粘着性の高い物質を使用する事で、口腔内に塗るのに適した剤型となっているのです。このような理由からケナログ口腔用は他の外用ステロイド剤と異なり、口腔内に特化したステロイドという位置づけになっているのです。
以上からケナログ口腔用軟膏の特徴として次のような事が挙げられます。
【ケナログ口腔用軟膏の特徴】
・Ⅳ群(中等度の強さ)に属する外用ステロイド剤である
・炎症を抑える作用、免疫反応を抑える作用、皮膚細胞の増殖を抑える作用がある
・ステロイドの中で効果は穏やか
・ステロイドであるため、長期使用による副作用に注意
・口の中でも軟膏がはがれにくいように基材に工夫がされている
2.ケナログ口腔用軟膏はどんな疾患に用いるのか
ケナログ口腔用軟膏はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
慢性剥離性歯肉炎、びらん又は潰瘍を伴う難治性口内炎及び舌炎
皮膚の炎症を抑えてくれるのが外用ステロイド剤になります。ケナログは口腔内に用いるため、主に口腔内に炎症が生じている状態に用いられます。
慢性剥離性歯肉炎とは歯肉の皮膚にびらんや潰瘍が出来てしまう事です。また口内炎・舌炎というのはそのままで、口の中や舌の炎症の事を指します。
これらの疾患にケナログを用いると、創部の炎症を抑えてくれますので、症状の改善が得られます。
注意点としてステロイドは免疫(身体が異物と闘う力)を抑制するため、ばい菌の感染に弱くなってしまいます。そのため、細菌やウイルスが皮膚に感染しているようなケースでは、そこにステロイドを塗る事は推奨されていません。
ケナログ口腔用軟膏の有効率は、
- 慢性再発性アフタへの有効率は58.8%
- ベーチェット症候群による口内炎への有効率は87.5%
- アフタ性口内炎への有効率は88.0%
- その他の口内炎への有効率は74.5%
- 舌炎・舌潰瘍への有効率は81.4%
と報告されています。
3.ケナログ口腔用軟膏にはどのような作用があるのか
皮膚の炎症を抑えてくれるケナログ口腔用軟膏ですが、具体的にはどのような作用があるのでしょうか。
ケナログ口腔用軟膏の作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.抗炎症作用
ケナログ口腔用軟膏は、ステロイド剤です。
ステロイドには様々な作用がありますが、その1つに免疫を抑制する作用があります。
免疫というのは異物が侵入してきた時に、それを攻撃する生体システムの事です。皮膚からばい菌が侵入してきた時には、ばい菌をやっつける細胞を向かわせることでばい菌の侵入を阻止します。
免疫は身体にとって非常に重要なシステムですが、時にこの免疫反応が過剰となってしまい身体を傷付けることがあります。
代表的なものがアレルギー反応です。アレルギー反応というのは、本来であれば無害の物質を免疫が「敵だ!」と誤認識してしまい、攻撃してしまう事です。
代表的なアレルギー反応として花粉症(アレルギー性鼻炎)がありますが、これは「花粉」という身体にとって無害な物質を免疫が「敵だ!」と認識して攻撃を開始してしまう疾患です。その結果、鼻水・鼻づまり・発熱・くしゃみなどの不快な症状が生じてしまいます。
同じく皮膚にアレルギー反応が生じる疾患にアトピー性皮膚炎がありますが、これも皮膚の免疫が誤作動してしまい、本来であれば攻撃する必要のない物質を攻撃してしまい、その結果皮膚が焼け野原のように荒れてしまうのです。
このような状態では、過剰な免疫を抑えてあげると良いことが分かります。
ステロイドは免疫を抑えるはたらきがあります。これによって炎症が抑えられます。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことです。今説明したように感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。皮膚に炎症が起こることを皮膚炎と呼びます。皮膚炎も外傷でも生じるし、ばい菌に感染することでも生じるし、アレルギーでも生じます。
ステロイドは免疫を抑制することで、炎症反応を生じにくくさせてくれるのです。
Ⅱ.免疫抑制作用
上記のようにケナログ口腔用何個言うをはじめとしたステロイドは免疫力を低下させる作用があります。
ケナログ口腔用軟膏を長期間塗り続けると、塗った部位の免疫力が低下します。通常はこれはステロイドの副作用となります。
強いステロイドを長期間塗り続けていると免疫力が低下するため、ばい菌(細菌やウイルス、真菌など)に感染しやすくなってしまいます。
Ⅲ.皮膚細胞の増殖抑制作用
ケナログ口腔用軟膏をはじめとしたステロイド外用剤は、塗った部位の皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあります。
これも主に副作用となる事が多く、ケナログ口腔用軟膏を長期間塗り続けていると口の中の表皮が薄くなってしまう事があります。
ケナログはステロイドの中では作用が穏やかな部類に入るため、このような副作用は頻度の多い事ではありませんが、一定の注意は必要です。
Ⅳ.湿潤環境でもはがれにくい工夫
ケナログ口腔用軟膏は、口の中に塗る外用ステロイド剤であるため、一般的な皮膚に塗る外用ステロイド剤とは異なります。
皮膚に塗るのと比べると、口の中というのは水分の多い環境であるため、せっかく軟膏を塗ってもはがれて流れてしまいやすいという問題があります。
この問題を改善するためケナログ口腔用軟膏は、軟膏基材に粘着性の高い物質を使用するという工夫をしています。
具体的には、
・ゼラチン
・プルラン
・カルメロースナトリウム
・ゲル化炭化水素(ポリエチレン、流動パラフィン)
を混合する事で、口の中という水分が多い環境でも創部に軟膏がとどまりやすいように工夫がされているのです。
4.ケナログ口腔用軟膏の副作用
ケナログ口腔用軟膏の副作用はどのようなものがあるのでしょうか。
ケナログは副作用発生率の詳しい調査は行われていません。参考までに同程度の強さのステロイド外用剤の副作用発生率を見てみましょう。
【Ⅳ群(medium)外用ステロイド剤の副作用発生率】
・アルメタ軟膏:0.56~2.86%
・ロコイド軟膏:0.3%、ロコイドクリーム:0.6%
・キンダベート軟膏:0.4~0.6%
ここから考えると、ケナログ口腔用軟膏の副作用も頻度はかなり少なく、安全性は高いと考えられます。しかしステロイド剤ですので、漫然と塗り続けないように注意は必要です。
生じる副作用もほとんどが局所の皮膚症状で、
- 口腔内のしびれ感
- 味覚異常
- 味覚減退
- 口腔の感染症(細菌性感染症、真菌性感染症)
- 下垂体・副腎皮質系機能の抑制(長期連用による)
などになります。
いずれも重篤となることは少なく、多くはケナログ口腔用軟膏の使用を中止すれば自然と改善していきます。長期間使えば使うほど発生する可能性が高くなるため、ステロイドは漫然と使用する事は避け、必要な期間のみしっかりと使う事が大切です。
ステロイド外用剤の注意点としては、ステロイドは免疫力を低下させるため免疫力が活性化していないとまずい状態での塗布はしてはいけません。具体的にはばい菌感染が生じていて、免疫がばい菌と闘わなくてはいけないときなどが該当します。
このような状態の皮膚にケナログ口腔用軟膏を塗る事は原則禁忌(基本的にはダメ)となっています。
ちなみに添付文書には次のように記載されています。
【原則禁忌】
口腔内に感染を伴う患者
→感染症の増悪を招くおそれがあるので、やむを得ず使用する必要のある場合には、あらかじめ適切な抗菌剤、抗真菌剤による治療を行うか、又はこれらとの併用を考慮すること。
これらの状態でケナログ口腔用軟膏が原則禁忌となっているのは、ステロイドを塗ってしまうと免疫力が低下するため、、口腔内にばい菌の感染があった場合にその感染を悪化させてしまうためです。
5.ケナログ口腔用軟膏の用法・用量と剤形
ケナログ口腔用軟膏には、
ケナログ口腔用軟膏 0.1% 2g
ケナログ口腔用軟膏 0.1% 5g
といった剤型があります。
口の中に塗るタイプの軟膏であるため、においや味が気になる方もいらっしゃると思いますが、ケナログ口腔用軟膏はにおいや味はほとんどありません。
ちなみに塗り薬には「軟膏」「クリーム」「ローション(外用液)」などいくつかの種類がありますが、これらはどのように違うのでしょうか。
軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。長時間の保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。また皮膚への浸透力も強くはありません。
クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。
ローションは水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。しかし皮膚への浸透力は強く、皮膚が厚い部位などに使われます。
ケナログは口腔内に塗るものであるため、粘着力が一番強い軟膏が最適であり、そのため軟膏剤しかありません。
ケナログ口腔用軟膏の使い方は、
通常、適量を1日1~数回患部に塗布する。なお、症状により適宜増減する。
と書かれています。実際は皮膚の状態や場所によって回数や量は異なるため、主治医の指示に従いましょう。
6.ケナログ口腔用軟膏の使用期限はどれくらい?
ケナログ口腔用軟膏の使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった塗り薬があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
これは保存状態によっても異なってきますので、一概に答えることはできませんが、適正な条件で保存されていたという前提だと、3年が使用期限となります。
7.ケナログ口腔用軟膏が向いている人は?
以上から考えて、ケナログ口腔用軟膏が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ケナログ口腔用軟膏の特徴をおさらいすると、
・Ⅳ群(中等度の強さ)に属する外用ステロイド剤である
・炎症を抑える作用、免疫反応を抑える作用、皮膚細胞の増殖を抑える作用がある
・ステロイドの中で効果は穏やか
・ステロイドであるため、長期使用による副作用に注意
・口の中でも軟膏がはがれにくいように基材に工夫がされている
というものでした。
ここから、主に口の中(口内や舌など)に生じた、ばい菌が原因でない炎症に用いるのに向いています。
しかし、これはステロイド全てに言えることですが、漫然と使い続けることは良くありません。ステロイドは必要な時期のみしっかりと使い、必要がなくなったら使うのを止めるという、メリハリを持った使い方が非常に大切です。
ケナログ口腔用軟膏は粘着性の高い基材を使う事で、水分が多い口腔内でも軟膏が流れにくいように工夫されています。しかしそうはいってもながれてしまう事もあります。
同系統のお薬として、シールのようなものを貼るタイプのものもあります(アフタッチなど)。これはケナログ口腔用軟膏よりも更にはがれにくくなるため、軟膏がすぐにはがれて困っている方は、このような剤型に変更してみるのも方法です。