キネダック錠(一般名:エパルレスタット)は、1992年から発売されているお薬で、糖尿病治療薬の1つです。
糖尿病治療薬といってもキネダックは糖尿病自体を改善させるお薬ではありません。糖尿病で生じる合併症を改善させるお薬になります。具体的には糖尿病の合併症の1つである末梢神経障害(しびれや感覚異常・痛みなど)に対して効果が確認されています。
糖尿病治療薬にもたくさんの種類があります。これらの中でキネダックはどのような位置付けになるのでしょうか。
ここではキネダックの特徴や効果・副作用、どのような方に向いているお薬なのかについてみていきましょう。
目次
1.キネダックの特徴
まずはキネダックの全体的な特徴について紹介します。
キネダックは神経にダメージを与える「ソルビトール」の量を減らす事で神経障害を改善させます。糖尿病が原因の神経障害にのみ効果が得られます。効果は穏やかで、劇的な効果を期待できるお薬ではありませんが、副作用も少なく安全性に優れます。
キネダックは「アルドース還元酵素阻害薬」と呼ばれる種類のお薬になります。これは一体どのようなお薬なのでしょうか。
私たちは糖分(炭水化物)を食べ物から摂取し、それを元にエネルギー(ATP)を産生する事で様々な生体活動を行っています。ここから分かるように糖分は生きていくためのエネルギーを産生するためにとても重要なものです。
しかし、一方で糖分は過剰になると害にもなります。過剰な糖分は、血管や神経・臓器などにダメージを与える事が分かっています。その結果、脳梗塞や心筋梗塞といった血管系の疾患や腎障害、神経障害、網膜障害といった全身の臓器障害を引き起こすリスクとなります。
また病原菌(細菌やウイルス)に対する抵抗力も低下する事が知られています。
このような糖分による全身の障害は、血糖(グルコース)がソルビトールに変化し、これが細胞内に溜まってしまう事が一因だという事が分かってきています。
そしてグルコースをソルビトールに変化させるのが、アルドース還元酵素という酵素です。
実際、糖尿病の合併症が生じやすい末梢神経や網膜、腎臓などにはアルドース還元酵素の存在が確認されています。
このアルドース還元酵素のはたらきをブロックしてしまえば、ソルビトールが細胞内に蓄積されにくくなり、糖尿病の合併症も低下するだろうという考えで生まれたのが、アルドース還元酵素阻害薬であるキネダックです。
キネダックは糖尿病が原因で発症した末梢神経障害の改善に用いられるお薬です。神経細胞にソルビトールを蓄積させにくくする事で、細胞に障害が生じるのを防ぐのです。
この薬理から考えればキネダックは糖尿病性の末梢神経障害だけでなく、網膜障害や腎障害にも効果が得られると考えられます。しかし臨床研究においては末梢神経障害の効果に対してのみしか効果が報告されていないため、その他合併症に対する適応は保険上はありません。
キネダックの効果は強くはありません。「気持ち程度の効き」「飲んでも飲まなくても変わらない」と評する方もいらっしゃいます。ただ、その分副作用も少なく安全性には優れます。
注意点としてキネダックはあくまでも糖尿病の合併症を生じさせにくくしているお薬に過ぎないという事を理解しておく必要があります。
糖尿病そのものを治療しているわけではないため、ただキネダックだけを服用していても根本の改善を得る事は出来ません。
糖尿病の治療は、必要に応じてキネダックを服用しつつも、食事療法や運動療法をしっかり行ったり、血糖値を改善させるお薬を服用する事で根本の治療も行う必要があります。
以上からキネダックの特徴として次のようなことが挙げられます。
【キネダック錠の特徴】
・アルドース還元酵素阻害薬であり、ソルビトールの生成を抑える作用を持つ |
2.キネダックはどんな疾患に用いるのか
キネダックはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
糖尿病性末梢神経障害に伴う自覚症状(しびれ感、疼痛)、振動覚異常、心拍変動異常の改善(糖化ヘモグロビンが高値を示す場合)
キネダックはソルビトールの量を減らす事で末梢神経障害を改善させるお薬です。
ソルビトールは血糖(グルコース)から作られるため、基本的にキネダックは血糖高値が原因で生じている末梢神経障害にしか効果は期待できません。つまり糖尿病による末梢神経障害に特化したお薬だという事です。
薬理上は腎臓や網膜といった他の臓器・器官のソルビトールも減らすため、糖尿病性腎症や糖尿病性網膜症にも効く可能性がありますが、保険的には糖尿病性の末梢神経障害にのみ適応があります。
ソルビトールの蓄積によって末梢神経が障害を受けると、神経性のしびれや痛み、感覚異常が生じる事があり、キネダックはこれらの症状を改善させる事が期待できます。
では糖尿病性神経障害に対してキネダックはどのくらいの効果があるのでしょうか。
糖尿病性神経障害を発症している患者さんにキネダックを投与したところ、
- 自覚症状の改善率は39.4%
- 機能試験の改善率は27.5%
- 全般改善率は39.0%
と報告されています。
また研究においてキネダックの投与により、神経細胞内のソルビトールの蓄積が抑制される事、神経伝導速度が改善が得られる事が確認されています。
このような症状の改善は、糖尿病の中でも特に糖化ヘモグロビン(Hba1c)が高値である症例において特に有効であると報告されています。
3.キネダックにはどのような作用があるのか
キネダックは、どのような作用機序によって糖尿病によって生じた末梢神経障害を改善させているのでしょうか。
キネダックの作用はアルドース還元酵素という酵素のはたらきをブロックする事です。アルドース還元酵素は血糖(グルコース)をソルビトールに変えるはたらきをもちます。
このソルビトールが血管や神経・臓器にダメージを与えるため、キネダックはアルドース還元酵素のはたらきをブロックする事でソルビトールの生成を減らすのです。
ソルビトール量を減少させる事により次のような効果が得られます。
Ⅰ.末梢神経保護作用
糖尿病は血糖が高くなりすぎてしまう疾患です。
血糖(グルコース)は身体の栄養分としてとても重要です。私たちの身体の細胞はグルコースを元にエネルギー(ATP)を産生し、このエネルギーを元に様々な生体活動を行っています。
全身の細胞がエネルギーを作るために糖分を必要とするため、糖分は血糖として血液に乗って血管をめぐり、全身に届けられています。
この血糖が多すぎると、血管や全身の臓器に障害を与えてしまいます。
早い段階で障害を受けるのが「神経」です。
糖分が過剰だと、アルドース還元酵素のはたらきによって神経細胞内にソルビトールが溜まり、これが神経細胞を傷付けます。
また神経に栄養を与えている血管にもソルビトールが溜まり、神経への血流が悪化する事も神経障害を更に悪化させます。
ソルビトールによる糖尿病性の末梢神経障害が生じると、手足の末端のしびれや痛み、感覚異常などが生じます。
キネダックは神経細胞に存在するアルドース還元酵素のはたらきをブロックする事で、血糖がソルビトールになりにくくなるようにします。すると神経細胞内にソルビトールが蓄積しにくくなるため、末梢神経障害が進行しにくくなるのです。
Ⅱ.血管保護作用
上記で説明したようにキネダックは神経細胞のみならず、全身の細胞のアルドース還元酵素のはたらきをブロックしてくれます。
血管に存在するアルドース還元酵素のはたらきをブロックすると、血管内皮細胞にソルビトールが蓄積しにくくなるため、血管の障害も防ぐことができます。
これによって全身への血流が改善する他、脳梗塞・心筋梗塞といった脳血管・心血管系イベントの発症リスクを減らす事が期待できます。
Ⅲ.臓器保護作用(腎臓など)
キネダックは全身のアルドース還元酵素のはたらきをブロックするため、薬理学的には神経のみならず、全身の臓器のソルビトールの蓄積を抑えられるはずです。
末梢神経障害以外にも糖尿病で注意すべき代表的な合併症としては、
- 腎障害
- 網膜障害
などが挙げられます。
キネダックは腎細胞や網膜細胞へのソルビトールの蓄積も減少させるため、これらの臓器障害も生じにくくさせる事が期待できます。
4.キネダックの副作用
キネダックにはどのような副作用があるのでしょうか。またそれらはどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
キネダックは安全性に優れ、副作用は少ないお薬です。副作用発生率は1.4%と報告されており多くはありません。
生じうる副作用としては、
- 肝機能異常(AST、ALTの上昇など)
- 腹痛
- 嘔気
- 倦怠感
などで、主に肝臓あるいは消化器系の副作用になります。
あまりに症状がひどい場合は減量あるいは中止となりますが、症状が軽度である事も多く、その場合は経過観察でも問題ありません。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- 血小板減少
- 劇症肝炎、肝機能障害、黄疸、肝不全
などが報告されています。
このような症状が出現したらキネダックの服用を中止し、すぐに医療機関にて適切な医療を受けてください。
また副作用とは少し異なりますが、キネダックを服用すると尿が黄褐色~赤色に変色する事があります。これはキネダックが体内で代謝されて尿に排泄される際に、ロダニン骨格を有する物質になり、これが尿を黄褐色から赤色にするためです。
実際に尿から血が出ていたり、何か身体に問題が生じていたりという事はなく、あくまでも色が変色するだけですので、様子をみて問題ありません。
5.キネダックの用法・用量と剤形
キネダックには、
キネダック錠 50mg
の1剤型のみがあります。
キネダックの使い方は、
通常、成人には1回50mgを1日3回毎食前に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
となっています。
食後ではなく「食前」の服用になりますので間違えないように注意しましょう。
6.キネダックが向いている人は?
以上から考えて、キネダックが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
キネダックの特徴をおさらいすると、
【キネダック錠の特徴】
・アルドース還元酵素阻害薬であり、ソルビトールの生成を抑える作用を持つ |
というものでした。
キネダックは糖尿病に罹患しており、それによって何らかの合併症が生じてしまっている際に、その合併症の進行を抑えるために効果が期待できます。
ただし注意点としては、すでに臓器障害がかなり進んでしまった段階で、それを元通りに改善させるという事は難しく、主な作用としては臓器障害をこれ以上進まないように予防するというものです。
そのため合併症が生じる可能性がある場合は早めに投薬を検討した方が良いでしょう。
また服用を一定期間(3か月ほど)続けても全く効果が得られない場合は、それ以上続けても効果が得られない事が多いため、漫然と継続する事は避けましょう。前述の通りキネダックは神経細胞障害を「予防」する効果が主で、すでに損傷された細胞を修復する効果はないからです。
保険適応上は糖尿病性の末梢神経障害への投与になりますので、基本的には末梢神経障害の方が対象になります。
7.お薬以外の糖尿病の治療法
お薬は疾患を治療するために重要な方法の1つです。
しかし糖尿病をはじめとした生活習慣病は、お薬だけでなく日々の生活を工夫する事も大切です。むしろこのような生活習慣の改善が主であり、お薬は補助的な役割だと考えるべきです。
実際に、糖尿病治療薬の添付文書には次のように書かれています。
本剤の適用はあらかじめ糖尿病治療の基本である食事療法、運動療法を十分に行った上で効果が不十分な場合に限り考慮すること。
「まずは食事・運動療法を行って、それでも効果が不十分な時のみお薬は使ってね」という事です。
では糖尿病を改善させるためには、どのように食生活・運動習慣を気を付けていけばいいのでしょうか。大切なポイントをお話します。
Ⅰ.規則正しく・バランスの良い食事を
食事は規則正しく食べる事が大切です。朝食・昼食・夕食と1日3食規則正しく食べましょう。
「1日1食しか食べない」
「朝食を抜いている」
このような不規則な食生活をすると糖尿病をむしろ悪化させる事もあります。
1日に食べる量が同じでも、3食に分けて少しずつ食べるのと、1食でドカッと食べるのとでは血糖値の上がり方が異なります。一気に大量に食べると血糖値が急激に上昇するため、全身の臓器も痛みやすくなります。
また食事回数が少ないと、間食で補ってしまう事が多々あります。アメやチョコレート、スナックなど、間食には糖質を多く含むものが多く、これも糖尿病をかえって悪化させます。
食事は、よく噛んでゆっくり食べる事も大切です。ゆっくり食べればゆっくり血糖値が上昇していきますので、急いで食べるよりも臓器への負担も少なくなります。
また食事内容のバランスも大切です。
近年は糖質制限などがもてはやされていますが、糖質はエネルギーとしてある程度は必要になります。極端な偏食をするのではなく、バランス良く摂取するようにしましょう。
推奨されているバランスは、
炭水化物:たんぱく質:脂質=45~60%:10~20%:25~35%
程度と言われています。
一人暮らしなどで食事バランスを十分に考えられないという方は、配食を利用するのも手です。近年はバランスが考えられた食事を冷凍で自宅まで送ってくれる業者もあります。
▽ ウエルネスダイニング【低糖質・低カロリーご飯を配食してくれます】
ウエルネスダイニングでは、低糖質のご飯を配送してくれます。普通の米飯は1膳で250kcal(糖質55g)ほどありますが、こちらの米飯は1膳192kcal(糖質43.2g)に抑えられています。1日(3食)で考えれば約180kcalほど違ってきます。
彩ダイニングでは、糖尿病の方に向けた副食(おかず)を配送してくれます。1食240kcalに抑えて作られており、炭水化物・タンパク質・脂質も理想的なバランスになるよう考えられています。
種類もたくさんあるため、飽きずに続ける事が出来ます。
Ⅱ.野菜を先に食べよう
食事を食べる際に、普通に食べるのと、野菜を先に食べて糖質を後で食べるのとでは後者の方が糖尿病が改善しやすいという報告があります。
これは野菜を先に食べる事で血糖値の上昇が緩やかになるためだと考えられています。
食事は野菜から先に食べるようにしましょう。
生活習慣上なかなか野菜を先に食べれないという方は、サプリメントを利用するという方法もあります。
ベジファスは野菜に含まれる食物繊維を多く含んだゼリーで食事前に簡単に服用する事できます。ベジファスを最初に取る事で、血糖値の上昇を抑え、糖尿病を改善させやすくします。
Ⅲ.カロリー制限を
自分が1日に摂取してよいカロリーの上限を意識しておきましょう。
成人であればおおよそ1200~2000kcal/日になりますが、どのくらいのカロリーを摂取して良いかはその人の身長や活動量によって異なります。
摂取カロリーの決め方は「BMI×身体活動量」で簡易的に計算できます。
BMIは身長によって設定されている標準体重(理想的な体重)の事で、「BMI=身長(m)×身長(m)×22」で計算できます。
身体活動量は、日常で身体をどれくらい動かしているかで、
・軽労作:デスクワークが主・主婦など:25~30kcal
・中等度労作:立ち仕事が多い:30~35kcal
・重労作:力仕事が多い:35kcal~
と分けられます。
下表で自動で計算できますので、自分の1日摂取カロリーの上限を計算してみましょう。
[CP_CALCULATED_FIELDS id=”6″] |
どうしても甘いものや炭水化物食を食べてしまうという方は、最近はカロリーゼロスイーツや低糖質食など工夫された食事もありますので、無理な制限をするのではなく、このような食べ物を上手に利用するのも手です。
糖尿病で食事制限をしているけど、ラーメンが食べたい、という時にお勧めです。一般的なとんこつラーメンは800kcal程度ありますが、このラーメンは糖質を極限までカットしており麺とスープを合わせても約300kcalと超低カロリーになっています。
味は、やはり一般的なラーメンと比べるとやや物足りなさを感じる方もいらっしゃいますが、アンケートでも高い満足度が得られています。
くずもち、わらびもち、あんみつ、ようかん、おしるこなど、年配の方が好まれる和菓子を超低カロリーで作っています。
Ⅳ.適度な運動を
血糖値を下げるためには適度な運動も必要です。
理想は毎日ですが、毎日まで行かなくても週3回以上、1回30分以上の運動習慣を目指しましょう。
無理な運動習慣は長続きしませんので、無理なく続けられる程度の運動を設定する事が大切です。
- 毎日公園を散歩する
- プールでゆっくり泳ぐ
- ゆっくりジョギングやサイクリングする
などの負荷の低い運動でも十分に効果があります。日々続けていく事が何よりも大切です。