タケプロンカプセル・OD錠の効果と副作用【胃薬】

タケプロン(一般名:ランソプラゾール)は1992年から発売されている胃薬になります。

胃酸の分泌を抑えるお薬で、「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」という種類に属します。胃に存在するプロトンポンプのはたらきを抑えることで、胃酸の分泌が少なくなるようにします。

胃炎・胃潰瘍の治療に使われる他、ピロリ菌(H.pylori)の除菌にも役立ちます。

タケプロンはどのようなお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここではタケプロンの効果や副作用、特徴について紹介していきます。

 

1.タケプロンの特徴

まずはタケプロンの特徴について、かんたんに紹介します。

タケプロンは 胃酸の分泌を抑えるお薬になります。

タケプロンは 胃酸を分泌する「プロトンポンプ」のはたらきをブロックする事が主な作用であるため、「プロトンポンプ阻害薬」とも呼ばれています。

プロトンポンプ阻害薬は胃酸の分泌を強力に抑える作用を持ちます。そのため胃潰瘍・十二指腸潰瘍を治療するためにまず最初に用いられるお薬として適しています。

デメリットとしては、

  • 効果発現までにやや時間がかかること
  • 夜間の胃酸分泌抑制効果が弱い事
  • 効きに個人差があること
  • 疾患によっては投与日数の制限があること

などがあります。

一方で、胃酸の分泌を抑えるお薬にはH2ブロッカーと呼ばれるものもあります。H2ブロッカーは胃酸を抑える強さはPPIにはかなわないものの、即効性・夜間の効きなどはPPIよりも優れ、また投与日数制限もないというメリットがあります。

状況によってPPIとH2ブロッカーが使い分けられていますが、全体的な効果としてはH2ブロッカーの方が弱めであるため、胃潰瘍の治療にはまずはPPIから用いることが一般的です。

また近年では「カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)」と呼ばれる、新しいタイプのPPIも登場しています(タケキャブ参照)。このPPIは即効性、持続性があり、効きの個人差も少ないと考えられており、タケプロンなどの従来のPPIの弱点を補ったPPIとして注目されています。

タケプロンは副作用の頻度自体は少なくありませんが、ほとんどが便秘などの軽めの副作用であり、安全性も高いお薬であると考えられています。

以上からタケプロンの特徴として次のようなことが挙げられます。

【タケプロンの特徴】

・強力な胃酸分泌抑制効果
・効くまでにやや時間がかかる
・主に日中の胃酸の分泌抑制に効果的で夜間は効果が弱い
・疾患によっては投与制限がある

 

2.タケプロンはどんな疾患に用いるのか

タケプロンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

<タケプロン15mg>
〇 胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群、非びらん性胃食道逆流症、低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制、非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制

〇 下記におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助
胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎

<タケプロン30mg>
〇 胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群

〇下記におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助
胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎

難しく書かれているため分かりにくいのですが、臨床でタケプロンを用いる疾患のほとんどは、胃潰瘍・逆流性食道炎の治療とピロリ菌の除菌になります。

胃や十二指腸に潰瘍が生じてしまうと、本来であれば胃に入ってきたばい菌をやっつけるために分泌されている胃酸が、潰瘍部を刺激してしまい、傷の治りが遅くなってしまいます。

このような場合は、胃酸の分泌を弱めてあげた方が潰瘍を刺激しにくくなるため、PPIを投与する事で潰瘍の治りを早める事が期待できます。

また、胃潰瘍を生じる可能性がある薬物(アスピリン、NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)など)を長期服用している方が、胃潰瘍を起こさないために予防的にPPIを服用することもあります。

Zollinger-Ellison症候群は難しい名前の病気ですが、ガストリンというホルモンを分泌する腫瘍が出来てしまう疾患です。ガストリンも胃酸を分泌させるはたらきがあるため、胃酸の分泌を抑えるPPIが効果を示します。ただし腫瘍ですので根本的な治療としては手術が必要です。

タケプロンのような胃酸の分泌を抑えるようなお薬は、ピロリ菌の除菌に用いられることもあります。タケプロンは胃酸の分泌を抑えるだけでピロリ菌をやっつける作用はないため、通常はタケプロンと抗生物質を併用した治療が行われます。

タケプロンは胃内の酸性度を下げることによって、抗生物質がよりしっかりと胃内でピロリ菌に対する殺菌効果を発揮できるように補助するはたらきがあると考えられています。

 

3.タケプロンにはどのような作用があるのか

タケプロンは主に胃酸の分泌を抑えることで胃を守る作用があります。これはどのような作用機序になっているのでしょうか。タケプロンの主な作用とその機序について詳しく紹介します。

 

Ⅰ.胃酸の分泌抑制作用

タケプロンはプロトンポンプ阻害薬に属するお薬で、プロトンポンプという胃酸を分泌するポンプのはたらきをブロックするはたらきがあります。

タケプロンをはじめとしたプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、胃薬なのに胃内で胃酸に触れると失活(作用が無くなってしまう)というちょっと困った特徴があります。

そのためPPIは胃では溶けず、腸で溶けて体内に吸収されるように作られています(これを専門的には腸溶剤と呼びます)。

腸から吸収されたタケプロンは、血液を通って胃に到達します。胃に到達するとプロトンポンプに結合し、プロトンポンプをはたらかせる酵素である「H+,K+-ATPase」の作用をブロックすることで胃酸を分泌させないようにするのです。

タケプロンのようなPPIは胃酸を分泌する「プロトンポンプ」に直接作用するため、その効果は強力です。しかし腸で吸収されてそこから胃に到達しやっと効果を発揮するため、即効性にはやや欠け、効果を得るまでに時間がかかるという欠点があります。

 

Ⅱ.ヘリコバクター・ピロリ菌の除去の補助

ヘリコバクター・ピロリ菌(通称ピロリ菌)は、胃に存在する細菌で、様々な胃疾患の原因となります。全ての人に存在するわけではありません。

胃は胃酸で酸性に保たれているため(pH1~2)、普通の細菌は胃内で生存する事は出来ません。しかしピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を分泌する事で、胃内で生存できてしまうという特徴があります。

ウレア―ゼは尿素からアンモニアを作り出す酵素です。アンモニアはアルカリ性ですので、胃酸を中和するはたらきがあるのです。

ピロリ菌はこのようにウレアーゼを分泌することで、自分の身体の周りの胃酸を中和します。これにより酸性の環境下でも生存が可能となります。

ピロリ菌は、

  • 胃炎
  • 胃潰瘍、十二指腸潰瘍
  • 胃がん
  • 胃MALTリンパ腫
  • 特発性血小板減少性紫斑病

など様々な疾患の原因となります。そのためピロリ菌の感染が分かったら、除菌を行う必要があります。

除菌は抗生剤(細菌をやっつけるお薬)によって行われますが、胃内の除菌を行う際は胃内のpHを下げ、なるべく酸性度を弱めた方が除菌効率が高くなる事が分かっています。

そのため、ピロリ菌の除菌を行う際は抗生剤投与に加えて、胃酸の分泌を抑えるPPIが用いられます。

実際、抗生剤にPPIを併用する事でピロリ菌の除菌率が高まる事が確認されており、現在ピロリ菌の除菌にはタケプロンのようなPPIは必ず併用されています。

 

4.タケプロンの副作用

タケプロンにはどのような副作用があるのでしょうか。またその頻度はどのくらいなのでしょうか。

タケプロンの副作用発生率は10~15.0%前後と報告されています。

副作用の発生率だけを見ると多く感じられますが、生じうる副作用の多くは、

  • 便秘
  • 下痢

などで重篤なものではありません。安全性は高いお薬だと考えて良いでしょう。

また検査値異常として、

  • 肝機能障害(AST、ALT、ɤGTP等の上昇)

などが報告されています。長期的にタケプロンを使用する場合は、定期的に血液検査等を行うのが望ましいと言えます。

稀ですが重篤な副作用の報告もあり、

  • ショック
  • 汎血球減少、無顆粒球症、溶血性貧血
  • 血小板減少
  • 中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)
  • 間質性肺炎、間質性自然
  • 重篤な大腸炎

が報告されています。臨床で見かける事は滅多にありませんが、一応の注意は必要です。

最後の大腸炎は、ピロリ菌除菌中に抗生物質と併用した際に報告されたものです。除菌療法中に腹痛、ひどい下痢等が生じた場合はただちに主治医に相談する必要があります。

 

5.タケプロンの用法・用量と剤形

タケプロンは、

タケプロンカプセル 15mg
タケプロンカプセル 30mg

タケプロンOD錠 15mg
タケプロンOD錠 30mg

の2剤型、4種類のお薬があります。

OD錠というのは「口腔内崩壊錠」の事で、これは唾液で溶けるタイプのお薬になります。水が無くても服用できるため、外出先で服用する機会の多い方や、飲み込む力が低下している高齢者などに使いやすい剤型です。

タケプロンの使い方は、用いる疾患によって異なってきます。

【胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群】
通常成人には1回30mgを1日1回経口投与する。なお、通常、胃潰瘍、吻合部潰瘍では8週間まで、十二指腸潰瘍では6週間までの投与とする。

【逆流性食道炎】
通常成人には1回30mgを1日1回経口投与する。なお、通常8週間までの投与とする。さらに、再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法においては、1回15mgを1日1回経口投与するが、効果不十分の場合は、1日1回30mgを経口投与することができる。

【非びらん性胃食道逆流症】
通常成人には1回15mgを1日1回経口投与する。なお、通常4週間までの投与とする。

【低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制】
通常成人には1回15mgを1日1回経口投与する。

【非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制】
通常成人には1回15mgを1日1回経口投与する。

【ヘリコバクター・ピロリの除菌の補助】
通常成人にはランソプラゾール(タケプロン)として1回30mg、アモキシシリン水和物として1回750mg(力価)及びクラリスロマイシンとして1回200mg(力価)の3剤を同時に1日2回、7日間経口投与する。なお、クラリスロマイシンは、必要に応じて適宜増量することができる。ただし、1回400mg(力価)1日2回を上限とする。プロトンポンプインヒビター、アモキシシリン水和物及びクラリスロマイシンの3剤投与によるヘリコバクター・ピロリの除菌治療が不成功の場合は、これに代わる治療として、通常、成人にはランソプラゾールとして1回30mg、アモキシシリン水和物として1回750mg(力価)及びメトロニダゾールとして1回250mgの3剤を同時に1日2回、7日間経口投与する。

となっています。

他のPPIでも同じですが、投与日数に上限がある使い方が多いため、注意が必要です。

 

6.H2ブロッカーとPPIの違い

タケプロンはPPI(プロトンポンプ阻害薬)に属しますが、同じように胃酸の分泌を抑えるものとしてH2ブロッカーもあります。

「H2ブロッカーとPPIはどのような違いがあるのか」というのは、患者さんからも多い質問です。

H2ブロッカーは胃壁のヒスタミン2(H2)受容体をブロックすることで、胃酸の分泌を抑制するはたらきを持つお薬です。代表的なものに、

などがあります。

一方でPPIは、プロトンポンプという胃酸を分泌するポンプを直接ブロックすることで、胃酸の分泌を抑制するはたらきを持ちます。

この2つはどう違うのでしょうか。

まず強さとしては、PPIの方が強力です。その理由はPPIの方が胃酸を分泌する部位であるプロトンポンプを直接的にブロックするためです。一方でH2ブロッカーはH2受容体をブロックすることにより、間接的に胃酸の分泌を抑えるため、その強さはPPIよりは弱くなります。

そのため、急性期の胃潰瘍などではまずはPPIを使うことが多くなっています。

しかし即効性で言えば、H2ブロッカーの方が速く効きます。おおよそですが、H2ブロッカーは効くまでに約2~3時間、PPIは約5~6時間ほどと言われています。

また効く時間帯にも特徴があり、PPIは主に日中の胃酸分泌を強く抑え、H2ブロッカーは主に夜間の胃酸分泌を強く抑えると言われています。

医療保険的な話になってしまうのですが、PPIは投与制限がかけられているものも多く(4週間までしか投与してはいけませんよ、など)、長くは使えないものも少なくありません。一方でH2ブロッカーは投与制限のない使い方がほとんどです。

そのため胃潰瘍の治療では、まずは効果の高いPPIから初めて、保険が通らなくなる時期が来たらH2ブロッカーに切り替えるというのが良く行われている方法になります。

 

7.タケプロンが向いている人は?

以上から考えて、タケプロンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

タケプロンの特徴をおさらいすると、

・強力な胃酸分泌抑制効果
・効くまでにやや時間がかかる
・主に日中の胃酸の分泌抑制に効果的で夜間は効果が弱い
・疾患によっては投与制限がある

というものでした。

タケプロンは代表的なPPIの1つで、胃潰瘍・逆流性食道炎などを始め、ピロリ菌の除菌にも良く用いられています。PPIの中でもクセのない万能型というスタンダードな位置づけで、このような疾患にまず用いるお薬としてよいでしょう。

強力に胃酸の分泌を抑えてくれるタケプロンは、症状がひどい急性期にまず用いるお薬として向いています。一方で、効果発現までにやや時間がかかること、夜間の効果が不十分であることから、即効性が欲しい時や夜間の酸を抑えたい時にはH2ブロッカーを用いた方が良い場合もあります。

またタケプロンをはじめとしたPPIには投与制限があるものも多いため、漫然と用いることはできません。適切な時期が来たら服薬終了するか、H2ブロッカーに切り替えるなどが必要になります。