ネオドパストン配合錠L(一般名:レボドパ・カルビドパ配合)は、1979年から発売されているお薬です。
主にパーキンソン病の治療薬として用いられています。
ネオドパストン配合錠Lは、「レボドパ」と「カルビドパ」という2つの成分を配合したお薬になります。パーキンソン病の治療として主にはたらくのはレボドパの方で、カルビドパはレボドパが効率的に作用できるように、またレボドパの副作用を軽減させるように補助する役割になります。
レボドパはドーパミンの前駆物質になります。「前駆物質」というのはドーパミンになる前の物質だという意味で、レボドパは脳で「レボドパ脱炭酸酵素」という酵素によってドーパミンに変換されます。
パーキンソン病は脳(主に中脳黒質-線条体)のドーパミンが減少する事で生じるため、レボドパを投与すると脳のドーパミン量が増え、パーキンソン病の改善が得られるのです。
レボドパはパーキンソン病における重要な治療薬ですが、レボドパだけを使用し続けていると様々な副作用が出現してくるリスクもあるため、現在ではレボドパと副作用を抑える物質を配合したネオドパストンのようなお薬を使うのが一般的となっています。
パーキンソン病の治療薬にはたくさんの種類があり、どのようなお薬をどのような時に用いるのが適切なのかは分かりにくいものです。
パーキンソン病治療薬の中でネオドパストンはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではネオドパストンの特徴や効果、副作用などを紹介していきたいと思います。
目次
1.ネオドパストン配合錠Lの特徴
まずはネオドパストンの全体的な特徴を紹介します。
ネオドパストンは、パーキンソン病患者さんで減少している脳内のドーパミンを効率良く増やしてくれるお薬になります。
ネオドパストンに含まれるレボドパが脳内でドーパミンに変換され、パーキンソン症状を改善させます。一方でカルビドパは、脳以外の部位(末梢)でレボドパがドーパミンに変わらないようにする事でレボドパが脳に届く効率を上げ、また末梢でドーパミンが増える事によって生じる副作用を軽減させます。
ネオドパストンの主成分は、ドーパミンの前駆体「レボドパ」であり、これは脳でドーパミンに変換されます(「前駆体」というのは、ドーパミンになる前の物質のことです)。
そのためネオドパストンは脳のドーパミン量を増やし、パーキンソン病を改善させるはたらきがあります。
パーキンソン病は脳(主に中脳黒質-線条体系)のドーパミン量が減少する事で生じると考えられています。ネオドパストンは足りなくなっているドーパミンを直接補うはたらきがあるのです。
「ドーパミンが足りないのであればドーパミンの前駆体ではなくドーパミンそのものを投与すればいいじゃないか」と考える方もいらっしゃると思いますが、実はドーパミンというのは脳に入ることができない物質なのです。
血液は脳に入る時、BBB(Blood-Brain Barrier、血液脳関門)という関所のようなところを通りますが、BBBは血液中に脳に害を与える物質が混入していないかチェックをしています。
脳は大切な臓器であるため、悪い物質が入ってこないようBBBが厳しくチェックをしており、害があると判断された物質は脳に入ることはできません。
そしてドーパミンはBBBでブロックされてしまう物質になるため、脳に入ることができないのです。
しかしドーパミンの前駆体である「レボドバ」はBBBを通過することができます。そして脳に入ったレボドパは脳内で「レボドパ脱炭酸酵素」によってドーパミンに変換されます。そのため、ドーパミンではなくレボドパを投与しないと脳内のドーパミンを増やすことができないのです。
ネオドパストンは少なくなっているドーパミンを直接的に補うはたらきがあるため、パーキンソン病をダイレクトに改善させる効果があるのが利点です。
更にネオドパストン配合錠Lにはカルビドパという成分も配合されています。カルビドパは「末梢性脱炭酸酵素阻害薬」というもので、末梢(脳などの中枢神経以外の部位)においてレボドパがドーパミンに変換されないようにはたらくお薬です。
パーキンソン病は脳のドーパミンが足りない疾患です。そのため脳のドーパミンだけを増やしてあげたいのですが、レボドパを服用してしまうと全身のドーパミンが増えてしまいます。
特に胃や腸といった消化管にはドーパミン受容体が多く存在するため、全身のドーパミンが増えてしまうと、吐き気や食欲低下などの副作用が起こってしまいます。
ネオドパストンはカルビドパを配合することにより、脳以外の部位ではレボドパがドーパミンに変わらないようにします。こうするとレボドパは効率よく脳に送られるため、レボドパの量が少なくても十分な効果が発揮できるようになります。
また、脳以外の末梢でドーパミンが増えないため、末梢でドーパミン量が増える事で生じる副作用も軽減できるのです。
ネオドパストンのデメリットとしては、ドーパミンを薬で補うことを続けていると様々な副作用が出てきてしまうリスクが挙げられます。レボドパ製剤の長期使用により「wearing-off現象」「delayed-on現象」「on-off現象」などの問題が生じます(これらの現象についての詳細は後述します)。
ネオドパストンは、カルビドパを配合することでこれらの副作用のリスクを軽減してはいますが、そうはいっても長期使用していると副作用は出現してしまう可能性は十分あります。
以上からネオドパストンの特徴として次のような点が挙げられます。
【ネオドパストン配合錠Lの特徴】
・ドーパミンの前駆体であるレボドパを含み、レボドパは脳でドーパミンに変換される |
2.ネオドパストン配合錠Lはどんな疾患に用いるのか
ネオドパストンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
パーキンソン病、パーキンソン症候群
ネオドパストンはドーパミン製剤であるため、投与すると体内のドーパミン濃度が増えます。
パーキンソン病は、主に中脳黒質-線条体系という部位のドーパミン不足で生じると考えられているため、ドーパミンを増やすネオドパストンはパーキンソン病を改善させることができます。
ちなみにパーキンソン病とパーキンソン症候群は何が違うのでしょうか。
パーキンソン症候群とは、パーキンソン病とは別の原因によって中脳黒質のドーパミンが減ってしまう状態を言います。
例えば、
- お薬の副作用によって、脳のドーパミンが不足し、パーキンソン症状が出てしまった
- 脳炎や脳腫瘍などで脳が障害され、ドーパミン不足となりパーキンソン症状が出てしまった
などが挙げられます。
原因は異なれど、どちらも脳のドーパミン不足で生じていることに変わりはないため、ネオドパストンはパーキンソン病でもパーキンソン症候群でも使用することができます。
しかしパーキンソン症候群の場合、脳のドーパミンが減ってしまっている原因があるのであれば、まずはそちらの原因除去が第一になりますす。例えばお薬の副作用でパーキンソン症候群になっているのであれば、まずすべき事はネオドパストンのようなお薬を投与することではなく、パーキンソン症候群の原因となっているお薬を中止することです。
ではネオドパストンはパーキンソン病・パーキンソン症候群に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
パーキンソン病・パーキンソン症候群を対象にネオドパストンを投与した調査では、パーキンソン病症状が「改善」以上と判定された率は83.8%と報告されています。
またパーキンソン病の代表的な症状である、「振戦」「筋固縮」「無動」に対する症状改善率は、
- 振戦の改善率は77%
- 筋固縮の改善率は75.4%
- 無動の改善率は66.7%
と報告されています。
3.ネオドパストン配合錠Lにはどのような作用があるのか
ネオドパストンはどのような機序によってパーキンソン病を改善させるのでしょうか。
ネオドパストンは、主にパーキンソン病の治療薬として用いられています。
パーキンソン病は、主に中脳黒質-線条体系という部位の神経細胞が変性してしまうことによって、ドーパミンが少なくなってしまう疾患です。
ドーパミンが少なくなる事によって、
- 振戦(手足のふるえ)
- 筋固縮(筋肉が固まったように動かしにくくなる)
- 無動(表情が乏しくなったり、動きが乏しくなる)
- 姿勢反射障害(身体のバランスを保ちにくくなる)
などの症状が出現します。
ネオドパストンはドーパミンの前駆体である「レボドパ」が主成分であり、これは脳に到達するとドーパミンに変換されます。この機序により中脳黒質-線条体系のドーパミンを増やしてあげる事でパーキンソン病症状を改善させてくれるのです。
また配合されているカルビドパは「末梢性脱炭酸酵素阻害薬」というもので、脳以外の末梢でレボドパがドーパミンに変換されることを防ぎます。
パーキンソン病では脳のドーパミンが少なくなっているため、脳のドーパミンを増やしたいのですが、レボドパを服用すればお薬は血液に乗って全身を回るため、全身のドーパミン量が増えてしまいます。
脳以外の末梢でドーパミンが増えると吐き気・食欲低下などの副作用を引き起こしてしまいます。
これを軽減するのが配合されている「カルビドパ」です。
カルビドパは末梢においてレボドパがドーパミンに変換されることを防ぎ、これによってレボドパは脳に届きやすくため、より少ないお薬の量でパーキンソン病を改善させることが期待できます。
具体的にはカルボドバを配合することで、レボドパ単体で使用した時と比べて、レボドパの脳内濃度は4~5倍にまで上昇することが報告されています。これはつまりカルビドパを併用すると、必要なレボドパ量が1/5で済むという事です。
ちなみにカルビドパは脳に到達しない物質であるため、カルビドパを投与することで脳に到達するドーパミンも減ってしまうという事はありません。
ネオドパストンは、レボドパとカルビドパを約10:1の比率で配合しており、これにより効率的にパーキンソン病患者さんの脳内ドーパミンを増やし、副作用を軽減することを可能にしています。
4.ネオドパストン配合錠の副作用
ネオドパストンにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
ネオドパストンの副作用をみた調査では、ネオドパストンの副作用発生率は23.73%と報告されています。
主な副作用としては、
- 悪心
- 食欲不振
- 嘔吐
- 不随意運動(身体が勝手に動いてしまう)
- 起立性低血圧
などが報告されています。
ネオドパストンはドーパミン製剤ですので、投与すると体内にドーパミンが増えることになります。
パーキンソン病の方の脳はドーパミンが少ない状態ですのでドーパミンが増えるとちょうどいいのですが、その他の臓器においてはドーパミンが増えすぎてしまう事で副作用が出現してしまう事があります。
比較的多いのが気分不良・嘔吐・食欲低下などの消化器症状です。胃や腸といった消化管にもドーパミン受容体があるため、ネオドパストンがそこに作用してしまって生じると考えられています。
ネオドパストンはカルボドパの作用により末梢のドーパミンが増えにくくなっているため、末梢の副作用はレボドパ単剤よりは大分軽減されてはいますが、全く生じないわけではありません。
不随意運動は手足がクネクネ動いてしまったり、口をモグモグ動かしてしまったりといった、自分の意志と関係なく身体が動いてしまう現象です。ドーパミン受容体の感受性バランスが崩れる事で生じると考えられており、ドーパミン受容体をブロックするはたらきを持つ統合失調症の治療薬(抗精神病薬)の副作用でもよく認められます。
ネオドパストンもドーパミン濃度を変動させるお薬であるため、時に不随意運動が出現してしまう事があるのです。ネオドパストンの不随意運動の出現頻度は、ドパストン(レボドパのみの製剤)よりも若干多いとの報告があります。
また精神症状も時に認められ、幻覚・興奮・不眠などが生じる事があります。重篤な場合は異常行動による事故や錯乱、自殺企図などに至る可能性も稀ながらありえます。
ドーパミンは興奮・快楽に関係する物質であり、その量が増えすぎると興奮したり幻覚が生じたりすることがあります。例えば覚せい剤を使用した人には幻覚が生じますがこれは脳内ドーパミン量が増えたためだと考えられています。また、幻覚が生じる統合失調症の原因もドーパミンの過剰ではないかとも指摘されています(ドーパミン仮説)。
これらの例から分かるように、ドーパミンは増えすぎると幻覚・興奮などの精神症状を引き起こす可能性があるのです。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- 悪性症候群
- 錯乱・幻覚・抑うつ
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍の悪化
- 溶血性貧血、血小板減少
- 突発性睡眠
- 閉塞隅角緑内障
なども報告されています。
悪性症候群は高熱や筋固縮、筋破壊などが生じる疾患で、命に関わる事もある重篤な状態です。ドーパミン量が急激に変動すると生じやすくなる事が知られており、ドーパミン量を増やすネオドパストン以外にも、ドーパミンのはたらきをブロックする抗精神病薬でも生じる事があります。
また貧血や血小板減少といった血球系の異常もしばしば認められるため、定期的に血液検査をしたり、身体所見を診察してもらう必要があります。
これ以外にもネオドパストンのようなドーパミン製剤は長期服用していると、いくつかの問題が出てくることがあります。代表的なものとしては、
【wearing-off現象】
レボドパによるドーパミンの補充を続けていると、次第にレボドパの薬効が短くなっていき、お薬が切れたときの症状が強まってしまう現象
【delayd-on現象】
レボドパによるドーパミン補充を続けていると、、次第にお薬の効きが悪くなり、お薬の効果発現に時間がかかるようになってしまう現象
【on-off現象】
レボドパによるドーパミン補充を続けていると、服薬時間に関わらず急に症状が改善したり悪化したりが出現する現象
などがあります。
これらの副作用は特にレボドパを単剤で使用していると発症リスクが上がります。
ネオドパストンはレボドパにカルボドパを配合することで効率的にドーパミンを脳に到達させるように工夫されており、その工夫からレボドパ単剤よりはこれらの副作用の発症リスクは低くなっています。しかし発症しないわけではなく、長期使用していると発症してしまう可能性は十分あります。
このような問題から、現在ではパーキンソン病を治療する際の第一選択薬として、レボドパではなく「ドーパミンアゴニスト」を使うように推奨する専門家もいます。
しかしレボドパがパーキンソン病に有効な治療薬であることに間違いはありません。どのお薬にも一長一短あるため、パーキソン病治療薬を上手に使い分け、なるべく問題が生じないように工夫していくことが大切です。
5.ネオドパストン配合錠Lの用法・用量と剤形
ネオドパストンは次の剤型が発売されています。
ネオドパストン配合錠L 100mg
ネオドパストン配合錠L 250mg
の2剤型が販売されています。
ネオドパストンをパーキンソン病に用いる際には、既にレボドパ(商品名:ドパストンなど)を服用している方かどうかで服用方法が異なってきます。ネオドパストンもレボドパを含むお薬であるためです。
【レボドパ未服用の患者さん】
通常成人には1回100~125mg、1日100~300mg経口投与よりはじめ、毎日又は隔日にレボドパ量として100~125mgずつ増量し、最適投与量を定め維持量(標準維持量としてはレボドパ量として1回200~250mg、1日3回)とする。なお、症状により適宜増減するが、レボドパ量として1日1500mgを超えないこととする。【レボドパ服用中の患者さん】
通常成人には、レボドパ単味製剤の服用後、少なくとも8時間の間隔をおいてから、レボドパ1日維持量の約1/5量に相当するレボドパ量を目安として初回量を決め、1日3回に分けて経口投与する。以後、症状に適宜増減して最適投与量を定め維持量(標準維持量としてはレボドパ量として1回200~250mg、1日3回)とするが、レボドパ量として1日1500mgを超えないこととする。
と書かれています。
ネオドパストンはドーパミンを直接体内に補充するため、ダイレクトな効果が期待できます。そのため服薬を始めてから効果を感じるまでの時間も短く、早い人だと1週間以内に効果が認められることもあります。患者さんの半数以上は2週間以内に効果が認められます。
レボドパは半減期が約1.5時間ほどのお薬です。またカルビドパの半減期は約2時間とされています。半減期とは、お薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、そのお薬の作用時間の1つの目安になる数値です。
ネオドパストンは半減期が短いため、1日3回の投与が指示されています。しかしネオドパストンは神経に作用するお薬であるため、血中濃度の変動よりも脳脊髄液濃度が重要だと考えられており、血中半減期は1つの目安にしかすぎません。
注意点として、ネオドパストンをはじめとしたレボドパ製剤は、
- バナナジュース
- 牛乳
- ヨーグルト
- アミノ酸を含むスポーツ飲料
などと一緒に服用するとレボドパの含有量が顕著に低下する事が報告されています。
特に朝食時にヨーグルト、バナナ、牛乳などを摂取する方は少なくありませんので、レボドパ製剤を服用している方は注意しましょう。
6.ネオドパストンが向いている人は?
ネオドパストンはどのような時に検討されるお薬なのでしょうか。
ネオドパストンの特徴をおさらいしてみましょう。
【ネオドパストンの特徴】
・ドーパミンの前駆体であるレボドパを含み、レボドパは脳でドーパミンに変換される |
現在、ネオドパストンのような「レボドパ配合剤」はパーキンソン病治療薬の第一選択となっています。他にも「ドーパミンアゴニスト」と呼ばれるお薬も同様に第一選択とされており、どちらから使うかは患者さんの症状や経過、年齢によって異なります。
レボドパ製剤はしっかりした効果が期待できる反面、長期使用によって上記で説明したような問題が生じる可能性があります。一方ドーパミンアゴニストはレボドパほどしっかりした効果はないのですが、長期使用による問題はレボドパよりは少なくなっています。
基本的には、
・70~75歳以下の非高齢者で
・精神症状や認知機能障害がない
といった場合は、ドーパミンアゴニストから開始する事が推奨されています。
ネオドパストンはパーキンソン病の治療薬として非常に重要な位置づけのお薬なのですが、上記の長期使用に伴う副作用の問題があります。そのため、長期間用いる場合は、ネオドパストンに副作用を穏やかにするお薬を併用することもあります。
例えばコムタン(一般名エンタカポン)という、レボドパの分解を抑えるお薬があります。レボドパとコムタンを併用すれば、レボドパの薬効が長くなり、上記のwearing-off現象の改善が期待できます。
またスタレボというお薬が2014年に発売されましたが、このお薬は「ドパストン(レボドパ)」と「レボドパ脱炭酸酵素阻害薬」と「コムタン(エンタカポン)」の3つのお薬を配合したお薬であり、これも副作用の軽減が期待できます。