リンゼス錠(一般名:リナクロチド)は2017年から発売されている下剤(瀉下薬、便秘薬)です。
下剤にもいくつかの種類がありますが、リンゼスは従来のどの下剤とも異なる作用機序で排便を促す全く新しい作用機序を持つお薬になります。そのため従来の下剤ではあまり効果が得られなかったような方でも効果が期待できます。
リンゼスはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここではリンゼスの特徴や効果・副作用についてみていきましょう。
目次
1.リンゼスの特徴
まずはリンゼスの全体的な特徴について紹介します。
リンゼスは腸管内の水分量を増やしたり、腸管の動きを活性化する事で便秘を改善させるお薬です。
メリットとしては、体内にほとんど吸収されないため安全性に優れ、また便秘に伴う腹部症状(腹痛など)も和らげる作用を持ちます。
一方でデメリットとしては薬価の高さが挙げられます。
リンゼスは、今までの下剤とは異なる作用機序を持つ、新しい下剤です。そのためリンゼスは、従来の下剤では十分な効果が得られなかった方にも効く可能性があります。
例えば下剤としてよく用いられているお薬に「酸化マグネシウム」があります。マグネシウムは腸管内の水分が体内に吸収されてしまうのを抑えるはたらきがあり、これによって腸管の水分を増やし、便を柔らかくします。
酸化マグネシウムは安価で長い実績を持つお薬ですが、高用量の服用を続けているとマグネシウムが体内に吸収されてしまい高マグネシウム血症になってしまうリスクが指摘されています。
また「大腸刺激性下剤」と呼ばれる下剤も良く用いられています。これらは大腸を刺激する事で大腸の動きを活性化させる作用があります。具体的には、プルゼニド(一般名:センノシド)、ラキソベロン(一般名:ピコスルファートナトリウム)、大黄甘草湯などがあります。
大腸刺激性下剤はしっかりした効果が期待できるという利点がありますが、連用を続けていると耐性(次第にお薬が効かなくなっていくこと)を認めるため、漫然とした使用には注意が必要です。
リンゼスはというと、これらの従来の代表的な下剤とは全く異なる作用機序で便秘を改善させます。詳しくは後述しますが、腸管の表面にあるグアニル酸シクラーゼC受容体という部位にくっつく事で腸管の水分を増やしたり、腸管の動きを活性化させてくれます。
リンゼスの長所は、安全性に優れる点です。身体にほとんど吸収されないため、酸化マグネシウムと異なり体内に吸収されて副作用を起こす事もほぼありませんし、大腸刺激性下剤のように耐性が生じる事もありません。
更にリンゼスは、単に便秘を改善するだけでなく、便秘に伴って生じる腹部症状(腹痛や腹部不快感など)をも和らげてくれるという利点もあります。
ここまで聞くと、リンゼスが良いところづくめのお薬のように聞こえますが、残念ながらリンゼスにもデメリットはあります。
ではどのようなデメリットがあるでしょうか。
一番のデメリットは薬価の高さです。前述した酸化マグネシウムや大腸刺激性下剤はかなり古いお薬ですので、1錠10円未満と非常に安価です。
対してリンゼスは1錠92.40円です。通常は1日2錠使うため180円ほどかかり、従来の古いお薬と比べると10倍以上の薬価になります。
また一概にデメリットとは言えませんが、リンゼスは食前に投与しないといけません。多くのお薬は食後投与になっていますが、リンゼスは食後に投与する事ができないため、これも人によっては手間になります。
以上からリンゼスの特徴として、次のようなことが挙げられます。
【リンゼスの特徴】
・腸管に水分を分泌して便を柔らかくする作用がある
・腸管の動きを活性化させる作用がある
・腹痛や腹部不快感などの腹部症状を和らげる作用がある
・体内にほとんど吸収されないため、安全性が高い
・薬価が高い
2.リンゼスはどのような疾患に用いるのか
リンゼスはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
便秘型過敏性腸症候群
リンゼスは便を柔らかくしたり腸の動きを活性化させるお薬ですので、使用する疾患は「便秘」になります。
そのため「便がなかなか出ない便秘症の方がお通じをスムーズにするために用いるお薬」という認識で問題ありません。
しかし現状で適応が取れている病名は、便秘症の中でも「便秘型過敏性腸症候群」のみになります。難しい病名ですが、これはどのような便秘なのでしょうか。
過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)は、腸に明らかな器質的な異常(診察や検査などによって確認できる異常)がないのにも関わらず、腹痛や腹部違和感、便秘や下痢といった胃腸症状を来たす疾患です。
原因としてはストレスなどによる自律神経の崩れなどがありますが、原因不明で発症する事もあります。
過敏性腸症候群では、様々な胃腸症状が現れますが、主に次の4つのタイプに分類されます。
- 便秘型IBS(IBS-C):主に便秘症状を来たす
- 下痢型IBS(IBS-D):主に下痢症状を来たす
- 混合型IBS(IBS-M):下痢や便秘の両方を来たす
- 分類不能型IBS(IBS-U):上記いずれにも該当しない
リンゼスはIBSのうち、便秘型IBSに適応があります。便秘型を改善させるわけですので、便を出しやすくするお薬となります。
しかしリンゼスの作用機序から考えると、リンゼスは便秘型IBSだけでなく一般的な便秘、いわゆる「慢性便秘症」にも効果は期待できそうにも見えます。
実はその通りで、リンゼスは薬理的に考えれば一般的な便秘にも効果があります。便秘型過敏性腸症候群にしか適応がないのは、保険上の問題に過ぎません。そのため、現在「便秘症」に対する保険適応も申請中との事で、近い将来、慢性便秘症にも保険適応が取れる可能性は十分にあります。
ではリンゼスは便秘型IBSに対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
リンゼスおよびプラセボ(何の成分も入っていない偽薬)をそれぞれ12週間服用してもらい、症状の改善度をみた調査では、
- リンゼス服用群での症状改善率は、33.7%
- プラセボ服用群での症状改善率は、17.5%
と、リンゼスはプラセボに比べて高い効果が得られた事が確認されています。
ちなみにこの調査での「症状改善」は、次のように判定されています。
まず1週間の間でのIBS症状の全般的な改善の程度を7段階で評価してもらいます(1が非常に良くなった、2が良くなった、3が少し良くなった、4が変わらない、5が少し悪くなった、6が悪くなった、7が非常に悪くなった)。
このうち、1あるいは2に該当する人のみを「週間改善」とし、更にこの週間改善が、全12週のうち6週以上ある方のみを「症状改善」と判定しています。
かなり厳しい判定基準ですが、この判定基準を持っても30%以上の改善が得られており、ここからリンゼスはしっかりした効果があるお薬である事が分かります。
3.リンゼスの作用機序
主に便秘症に対して用いられるリンゼスですが、どのような機序で便秘を改善させているのでしょうか。
リンゼスは、今までの下剤とは異なる機序で便秘を改善させてくれるお薬になります。
リンゼスは腸管上皮の細胞表面に存在する「グアニル酸シクラーゼ C(GC-C)受容体」を刺激するという作用を持ちます。
GC-C受容体が刺激されると、腸管上皮の細胞内でサイクリックGMP(cGMP)という物質が増えます。cGMPは「セカンドメッセンジャー」と呼ばれる物質で、細胞内で情報を伝達する事により様々な作用をもたらします。
腸管上皮細胞内でcGMPは、
- 腸管に水分を分泌する(腸管分泌促進作用)
- 腸の動きを活性化させる(小腸輸送能促進作用)
といった作用をもたらし、これにより固い便が水分を含んで柔らかくなったり、動きが低下している腸の動きが活性化される事で便が下に降りてきやすくなり、便秘症状が改善されます。
また、
- 過敏に痛みを感じるのを和らげてくれる(痛覚過敏改善作用)
といった作用ももたらし、これにより腹痛や腹部不快感を改善させてくれます。
これらの作用によりリンゼスは便秘を改善させ、また便秘に伴って生じる腹部症状(腹痛や腹部不快感など)を改善してくれるのです。
4.リンゼスの副作用
リンゼスにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
リンゼスは基本的には安全性の高い下剤になります。リンゼスは腸管からほとんど体内に吸収されないため、成分が体内に入って悪さをするという事が起こりにくいからです。
副作用発生率としては21.5%と報告されており、数値だけ見ると低くは感じられないかもしれません。
しかし、報告されている副作用の多くは、
- 下痢
- 腹痛
など消化器系の症状になります。
リンゼスに便を柔らかくしたり腸の動きを活性化させる効能があるお薬ですので、このような副作用がある程度出てしまうのは仕方がないところがあります。
ただしあまりに程度が強い場合はリンゼスを減量したり中止する必要があります。
頻度は稀ですが重篤な副作用としても、
- 重度の下痢
が報告されています。
下痢も重度になると脱水や電解質異常、それに伴う意識障害などを来たす事もあるため、下痢の程度がひどい場合には早急にリンゼスの中止を検討しなければいけません。
また、リンゼスを使用してはいけない方(禁忌)としては、
- 機械的消化管閉塞又はその疑いがある方
- リンゼスの成分に対し過敏症の既往歴のある方
が挙げられています。
リンゼスは腸管に水分を含ませ、便を柔らかくします。また腸の動きを活性化させるはたらきがあります。
そのため、何らかの理由で(癌など)消化管が詰まってしまっている方はリンゼスを使えません。このような状態でリンゼスを使うと、腸管の内圧がどんどんと高まってしまい、嘔吐や腹痛が生じ、ひどい場合は腸管が穿孔(穴が開いてしまう)してしまう事もあるためです。
また当然ですがリンゼスが身体に合わず、服用によって過敏反応が出てしまう方はリンゼスは使えません。
5.リンゼスの用法・用量と剤形
リンゼスは、
リンゼス錠 0.25mg
の1剤形のみが発売されています。
リンゼスの使い方は、
通常、成人には0.5mgを1日1回、食前に経口投与する。なお、症状により0.25mgに減量する。
と記載されています。
リンゼスは1錠が0.25mgですので、通常は1回に2錠服用します。ただし効果が強すぎる場合には1錠に減薬しても問題ありません。
またお薬は食後に服用するものが多いのですが、リンゼスは「食前」の服用になりますので間違えないように注意しましょう。
6.リンゼスは服用してどれくらいで効くのか
リンゼスは服用してどのくらいで効果が得られるのでしょうか。
調査によると、72.3%の方がリンゼスを服用してから24時間以内に排便が見られたと報告されています(プラセボでは45.8%)。
ここから少なくとも服用後24時間以内には効果が発現するお薬だと考えられます。
即効性のある下剤ではありませんが、効果が出るまでに何日も待たないといけないような下剤ではなさそうです。
7.リンゼスが向いている人は?
以上から考えて、リンゼスが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
リンゼスの特徴をおさらいすると、
・腸管に水分を分泌して便を柔らかくする作用がある
・腸管の動きを活性化させる作用がある
・腹痛や腹部不快感などの腹部症状を和らげる作用がある
・体内にほとんど吸収されないため、安全性が高い
・薬価が高い
というものでした。
リンゼスは腸管内の水分を多くすることで、便を柔らかくすることで排便を促します。更に腸管の動きを活性化する事で排便を促します。
複数の作用があるため、
- 便が硬くて出にくいという方
- 腸管の動きが低下している方(高齢者や寝たきり状態の方など)
など、多くの方に向いている下剤になります。
更に腹痛や腹部不快感といった腹部症状を和らげる作用もあるため、便秘のみならず、便秘に伴う腹部症状でも困っている方にも良い適応となります。
更に体内にほとんど吸収されないため、腎臓が悪い方などでも安全に使えるお薬になります。
このようにリンゼスは優れた下剤ですが、薬価がかなり高いのは大きな欠点です。ちょっと高いというものではなく、古い従来の下剤と比べると10倍以上の薬価になります。
そのため経済的に考えるのであれば、まずは既存の下剤で試してみて、それでも効果が得られない場合にリンゼスを試す、という方針が良いかもしれません。
下剤は、大きく分けると作用機序によって2つに分けることが出来ます。1つ目は便を柔らかくする作用で便通を改善するお薬、そして2つ目は大腸を刺激することで大腸の動きを活性化させ便通を改善させるお薬です。
前者は酸化マグネシウム、バルコーゼ(カルメロース)、アミティーザ(ルビプロストン)などがあり、主に便が硬いタイプの便秘に用いられます。
後者にはプルゼニド(センノシド)、アローゼン(センナ・センナ実)、ダイオウ、ラキソベロン(ビコスルファートナトリウム)などがあり、主に腸管の動きが悪くなっているタイプの便秘に用いられます。
リンゼスはこの両者のはたらきを持つ万能型の下剤になりますが、強いて言えば前者の作用が強い下剤になります。