リポバスの効果と副作用【高脂血症治療薬】

リポバス(一般名:シンバスタチン)は1991年から発売されているお薬で「スタチン系(HMG-CoA還元酵素阻害薬)」という種類に属します。

主に悪玉(LDL)コレステロールを下げる作用に優れ、LDLが高い高コレステロール血症の患者さんに用いられています。また善玉(HDL)コレステロールを上げたり中性脂肪(TG)を下げる作用も持ちます。

リポバスはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに使うお薬なのでしょうか。今回はリポバスの特徴や効果・副作用について紹介します。

 

1.リポバスの特徴

まずはリポバスの全体的な特徴を紹介します。

リポバスはスタチン系と呼ばれる脂質異常症治療薬で、主に悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を下げる作用に優れます。スタチン系の中での強さは中等度で「スタンダートスタチン」に分類されています。

リポバスをはじめとしたスタチン系(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は、主に悪玉コレステロールを下げる作用に優れます。

スタチン系にもいくつかお薬はあるのですが、大きく分けると、

  • スタンダードスタチン:LDLを下げる力は中等度
  • ストロングスタチン:LDLを下げる力が強力

の2種類があります。

このうち、リポバスはスタンダードスタチンに属し、LDLを下げる力としては中等度になります。

またリポバスには善玉コレステロール(HDL)を上げたり、中性脂肪(TG)を下げる作用もあります。しかしこの作用は強くはありません。

副作用としては、肝臓に作用するお薬であるため肝臓に負担をかけ、肝機能が悪化してしまう事があります。また腎臓が悪い方が使うと、腎臓を更に傷めたり横紋筋融解症という重篤な副作用が出現してしまう可能性が高くなるため、注意が必要です。

以上からリポバスの特徴として次のような点が挙げられます。

【リポバスの特徴】

・スタンダートスタチンであり、効果の強さは中等度
・悪玉コレステロール(LDL)を下げる作用に優れる
・善玉コレステロール(HDL)を上げてくれる
・中性脂肪(TG)を下げてくれる

 

2.リポバスはどんな疾患に用いるのか

リポバスはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

高脂血症
家族性高コレステロール血症

リポバスは主にLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を下げる作用に優れ、高脂血症の患者さんに用いられます。

リポバスは高脂血症に対してどれくらいの効果があるのでしょうか。

リポバスを高脂血症の方に投与した調査では、リポバスの有効率は85%と報告されています。また最長で27カ月まで投与を続けた際、有効率は88.7%まで上昇した事も報告されています。

リポバス5mg/日を12週間投与した調査では、

  • 総コレステトールが21%低下
  • 悪玉(LDL)コレステロールが29%低下
  • トリグリセリド(TG)が20%低下

した事が報告されています。さらに脂質低下が不十分であったケースは20mg/日に増量すると、

  • 総コレステトールは更に13%低下
  • 悪玉(LDL)コレステロールは更に19%低下
  • トリグリセリド(TG)は更に23%低下

した事が報告されており、投与量が多ければ効果も大きくなる事が分かります。

また善玉(HDL)コレステロールが異常値であった患者さんにリポバス5mg/日を投与した調査では、HDLコレステロールが23%上昇した事が報告されています。

 

 

3.リポバスにはどのような作用があるのか

高コレステロール血症の患者さんの血中コレステロールを下げるために投与されるリポバスですが、どのような機序で高コレステロール血症を改善させるのでしょうか。

リポバスは「HMG-CoA還元酵素阻害薬」と呼ばれるお薬で、その名の通りHMG-CoA還元酵素という酵素のはたらきをブロックし、これがコレステロールを下げる作用になります。

リポバスの具体的な作用機序を紹介します。

 

Ⅰ.悪玉(LDL)コレステロールを下げる

リポバスをはじめとしたスタチン系は、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を下げる作用に優れます。

HMG-CoA還元酵素というのは、どのような酵素なのでしょうか。

ざっくりと言ってしまうと、HMG-CoA還元酵素は肝臓においてコレステロールを合成する酵素になります。

HMG-CoA還元酵素のはたらきがブロックされると、コレステロールが合成されにくくなりますので、コレステロールが下がるというわけです。

更にコレステロールが少なくなると、コレステロールは重要なエネルギー源でもあるため、身体は「エネルギーが少ないから蓄えなくては!」と考えます。すると肝臓に存在するLDL受容体という悪玉コレステロールを肝臓に取り込む受容体の数を増やし、肝臓に悪玉コレステロール(LDL)をため込もうとします。

これにより血液中の悪玉コレステロールも低下します。

このような機序により、リポバスは悪玉コレステロールを低下させます。

 

Ⅱ.善玉コレステロールを多少増やす

リポバスはHDLコレステロール、通称「善玉コレステロール」を増やす作用を持ちます。

善玉コレステロールは、動脈硬化を抑えるはたらきを持ちます。具体的には動脈にこびりついてしまっているコレステロールを回収して、肝臓に運ぶはたらきがあるのです。

動脈のコレステロールがこびりついていると、動脈硬化や狭窄の原因になるためHDLコレステロールは高いことが良いと考えられています。

リポバスは善玉コレステロールを増やす作用も報告されています。しかしその程度は弱く、あくまでも補助的な作用にとどまります。

 

Ⅲ.中性脂肪(TG)を多少下げる

リポバスは中性脂肪(TG:トリグリセリド)を多少下げる作用もあります。

これはHMG-CoA還元酵素のはたらきをブロックする事によってコレステロールの合成が低下すると、VLDL(超低密度リポタンパク質)を合成しにくくなくなるためだと考えられています。

VLDLは末梢組織に中性脂肪(TG)を運ぶはたらきがあるため、VLDLが少なくなれば中性脂肪(TG)も少なくなるというわけです。

 

Ⅳ.脳梗塞・心筋梗塞のリスクを下げる

高コレステロール血症は、脳梗塞・心筋梗塞といった心血管系イベントの危険因子になります。

これらの疾患はいずれも血管が詰まる事で生じます。脳の血管が詰まれば脳梗塞が生じ、心臓を栄養する冠動脈が詰まれば心筋梗塞が生じます。

血管が詰まる原因はいくつかありますが、その1つとして血管内壁にコレステロールが沈着してしまう事が挙げられます。

コレステロールが沈着すれば、その分だけ血管の内腔が狭くなるため血管が詰まりやすくなってしまうのです。また付着したコレステロールは血栓などを誘発しやすいため、これも血管を詰まらせる原因になります。

リポバスをはじめとしたスタチン系はコレステロールを下げることで、血管内壁にコレステロールが沈着する事も予防してくれます。これにより脳梗塞・心筋梗塞を予防する事ができるのです。

実際にリポバスを投与した患者さんでは、冠動脈の動脈硬化の進行を抑制する事、死亡リスクを低下させることが示されています。

 

Ⅴ.コレステロールの吸収を抑える

リポバスは腸から身体にコレステロールを吸収しにくくするはたらきがあるのではないかと考えられています。

動物実験でリポバスを投与する事で、食事から体内に吸収されるコレステロールが65.9%→30.2%と半分程度にまで低下した事が報告されています。

ヒトにおいても同様の作用がある可能性は十分に考えられます。

 

4.リポバスの副作用

リポバスにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。

副作用発生率は2.68%と報告されています。リポバスをはじめとしたスタチン系は副作用は少なく安全性に優れるお薬です。

生じうる副作用としては、

  • 掻痒(かゆみ)
  • 腹痛
  • 嘔気・嘔吐
  • 筋肉痛
  • 頭痛
  • 倦怠感
  • 下痢

などが報告されています。

また検査値の異常として、

  • CK(CPK)上昇
  • 肝胆道系酵素の上昇(AST、ALT、LDH、γGTP上昇)
  • 尿酸値上昇

などが報告されています。

リポバスをはじめとしたスタチン系は肝臓に負担をかけてしまうことがあります。また頻度は稀ですが、横紋筋融解症という筋肉を壊してしまう副作用が生じる事もあり、これにより筋肉中のCK(CPK)が血液中に放出され、上昇する事があります。

スタチンを服用中は、定期的に血液検査などで肝臓の数値を確認しておく事が望まれます。特に投与初期は投与開始後3か月前後を目安に必ず確認するようにしましょう。

頻度は稀ですが、注意すべき重篤な副作用として、

  • 横紋筋融解症
  • 肝炎、肝機能障害、黄疸
  • 末梢神経障害
  • 血小板減少
  • 過敏症候群(血管浮腫やアナフィラキシーなど)
  • 間質性肺炎

などが報告されています。

横紋筋融解症は、筋肉が破壊されて筋肉中の酵素(CK)が腎臓に流れて腎障害を生じる疾患です。特に腎機能が元々悪い方に生じやすいため、腎機能が悪い方は慎重に投与する方が良いでしょう。

リポバスを使ってはいけない患者さん(禁忌)としては、

  • リポバスの成分に対し過敏症の既往のある方
  • 重篤な肝障害のある方
  • 妊婦さん又は妊娠している可能性のある方
  • 授乳婦
  • イトラコナゾール、ミコナゾール、アタザナビル、サキナビルメシル酸塩、テラプレビル、コビシスタットを含有する製剤を投与中の方

が挙げられています。

リポバスは主に肝臓に作用し、肝臓で代謝されます。そのため肝臓に負担をかける可能性があるため肝機能がきわめて悪い方には使う事ができません。

またリポバスは動物実験において出生児数の減少や発育への影響、生存率の低下などが報告されています。人間で同様の副作用が生じるかは不明ですが、このような報告から妊婦さんへの投与は禁忌となっております。

リポバスは乳汁中に移行する事が分かっているため、授乳中の方が服用するとお薬の成分が乳汁を通じて赤ちゃんにまで届いてしまいます。そのためリポバスは授乳婦さんも服用は禁忌となっております。

イトラコナゾール、ミコナゾールは抗真菌薬(真菌をやっつけるお薬)、アタザナビル、サキナビルメシル酸塩、テラプレビル、コビシスタットはHIV治療薬(エイズに対する治療薬)です。

リポバスはこれらのお薬と併用する事で血中濃度が上がりすぎてしまい、横紋筋融解症が発症するリスクが上昇するため、併用は禁忌となっています。

また原則禁忌(基本的には使ってはいけないが、やむを得ない場合のみ慎重に使用できる)として、

  • 腎機能に異常を認める方にリポバスとフィブラート系を併用する事

が挙げられています。

リポバスをはじめとしたスタチン系とフィブラートはともに横紋筋融解症を稀ながら生じるリスクがあるお薬です(フィブラート系も脂質異常症の治療薬です)。

両者を併用する事で横紋筋融解症のリスクが高まる可能性があり、また腎機能が悪いとお薬が身体から抜けにくいため、よりリスクが高まる可能性があるため、原則として腎機能が悪い方に両者を併用する事は出来ません。やむを得ず使用する場合も10mg/日までとなっています。

しかし最近の研究では両者を併用しても横紋筋融解症の発症リスクは上がらないという報告もあり、必要な症例においては両者を慎重に併用することもあります。

 

5.リポバスの用法・用量と剤形

リポバスには、

リポバス錠 5mg
リポバス錠 10mg
リポバス錠 20mg

といった剤型が発売されています。

リポバスの使い方は、

通常、成人には5mgを1日1回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、LDL-コレステロール値の低下が不十分な場合は1日20mgまで増量できる。

と書かれています。

リポバスのようなスタチン系は原則として夕方の服用が推奨されています。

その理由は、コレステロールの合成は主に夜間に行われるためです。夕方に投与した方が夜間にしっかりと効かせる事が出来るため、コレステロールの合成を効率よく抑える事が出来るのです。

 

6.リポバスが向いている人は?

以上から考えて、リポバスが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

リポバスの特徴をおさらいすると、

・スタンダートスタチンであり、効果の強さは中等度
・悪玉コレステロール(LDL)を下げる作用に優れる
・善玉コレステロール(HDL)を上げてくれる
・中性脂肪(TG)を下げてくれる

などがありました。

ここから、

・特に悪玉(LDL)コレステロールが高い方

に向いているお薬になります。

更に脳梗塞・心筋梗塞といった心血管イベントを抑えてくれる作用がありますので、脳梗塞や心筋梗塞の既往があり、悪玉コレステロールも高値である方は服用が強く望まれます。

リポバスは調査上は、他のスタンダードスタチンよりもHDLを上げる作用やTGを下げる作用が強いと報告されているため、単にLDLが高いだけでなく、HDLが低い方やTGが高い方も良いかもしれません(ただし臨床的には他のスタンダートスタチンと比べてそこまで効果が異なる印象はありません)。

ちなみに脂質というと、血液検査で中性脂肪(TG:トリグリセリド)とコレステロール(Chol)の2つがありますが、この2つはどう違うのでしょうか。

中性脂肪は、俗に言う「体脂肪」の脂肪分が血液中に流れているもので、これはエネルギー源として使われます。中性脂肪は体脂肪として貯蔵される事で、いざという時に活動するためのエネルギーになるのです。

一方コレステロールはというと「身体を作るための材料」として使われています。コレステロールは細胞を構成する材料となったり、体内で様々なはたらきをしているホルモンを作る材料となったり、胆汁酸やビタミンの材料となったりします。

中性脂肪もコレステロールも、どちらも身体にとって必要なものですが、過剰になりすぎれば害となります。