ロンバニンカプセル(一般名:ロペラミド)は1990年から発売されている止瀉剤になります。止瀉剤とはいわゆる「下痢止め」のお薬のことです。
ロンバニンカプセルはジェネリック(後発医薬品)であり、1981年から発売されている「ロペミンカプセル」のジェネリック医薬品になります。
止瀉剤は種類が多くなく、昔の止瀉剤は依存性があるものも多かったのですが、その中でロンバニンは効果が高い割に安全性が比較的高いお薬であり、現在でも良く用いられているお薬です。
ロンバニンはどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているのでしょうか。
ロンバニンカプセルの効果や特徴についてみていきましょう。
目次
1.ロンバニンカプセルの特徴
まずはロンバニンの特徴について、かんたんに紹介します。
ロンバニン(一般名:ロペラミド)は下痢止めになり、主に軟便や水様便などの方に用いるお薬になります。
ロンバニンは腸管から体内へ水分を吸収する作用を後押しし、また腸管の過剰な活動を抑えることで下痢止めとしての作用を発揮します。
強い下痢止めには依存性があったり、腸管の動きを止めすぎてしまうなどの副作用もありますが、ロンバニンは通常量では依存性もなく、重篤な副作用も起こりにくいのが利点です。
ロンバニンは麻薬などが作用する部位でもあるオピオイド受容体に作用することで腸の動きを抑制します。オピオイド受容体の刺激は依存性が生じるリスクがありますが、ロンバニンは腸などの末梢には作用するけども、脳といった中枢には作用しないため、依存が生じにくいのが特徴です。
これはロンバニンが脳に行くことが出来ない物質だからです。ある物質が脳に到達するためにはBBB(Blood Brain Barrier:脳血管関門)という場所を通過しないといけません。BBBは脳に余計な物質が入らないための門番のようなものです。
ロンバニンはここを通過することが出来ないため、ほとんど末梢にだけ作用し中枢には作用しないため依存性が極めて低いのです。
しかし末梢には強力に作用するため、下痢を抑える力はかなりしっかりとしています。
デメリットとしては、下痢を抑える作用が強力であるため、時に腸の動きを抑えすぎてしまうことがあります。便秘になるくらいであればまだ様子を見れますが、極稀にイレウス(腸管が全く動かなくなってしまう)などの副作用の報告もあるため、一応の注意が必要です。
ちなみに下痢というものは、基本的には止めない方が良いもので、下痢止めもなるべくなら使わない方が良いものです。
なせならば下痢が生じている時のほとんどは、必要があって下痢になっているからです。
例えば腸管に細菌が感染してしまって下痢が生じている「感染性腸炎」の場合、身体は細菌を早く体外に流し出したいために腸管の動きを活性化させ、その結果下痢になってしまっていることがあります。
この時にロンバニンなどで無理矢理止めてしまうと、下痢自体は確かに一時的に治まるでしょうが、細菌は腸内でどんどん増殖してしまうのでしょう。
そのため、下痢をお薬で抑える時には「その下痢は本当にお薬で止めても大丈夫なのか」という事を慎重に判断しないといけず、下痢が生じたら安易に使っていいものではありません。
以上からロンバニンの特徴として次のようなことが挙げられます。
【ロンバニンカプセル(ロペラミド)の特徴】
・下痢を抑える力は強めでしっかり効果を発揮する
・腸管の水分の吸収を正常化することで下痢を改善する
・腸管の蠕動運動を正常化することで下痢を改善する
・依存性はなく、安全性も高い
・下痢止めは極力使うべきではないため、適応は慎重に
2.ロンバニンカプセルはどんな疾患に用いるのか
ロンバニンカプセルはどのような疾患に用いられるのでしょうか。ロンバニンの添付文書を見ると、次のように記載されています。
【効能又は効果】
下痢症
ロンバニンは下痢止めになりますので、主な適応は下痢症になります。
ただし注意点としては、感染を伴う下痢症への使用は推奨されていません。
細菌やウイルスが腸に感染している場合、私たちの身体は腸を活発に動かすことで菌やウイルスを体外に排泄しようとします。
その時、ロンバニンなどの下痢止めで腸管の動きを抑えてしまうと、菌やウイルスがいつまでも腸管に残ってしまい、感染がかえって長引いてしまう可能性が高くなるためです。
3.ロンバニンカプセルにはどのような作用があるのか
ロンバニンはどのような作用機序で下痢を抑えているのでしょうか。
ロンバニンの作用には次のようなものが挙げられます。
Ⅰ.腸管の水分吸収の適正化
ロンバニンは腸管粘膜に作用することで、水分やナトリウム・クロールといった電解質の腸管への分泌を抑え、体内に水分や電解質をより吸収するように作用します。
これはロンバニンがプロスタグランジンなどの物質のはたらきを抑制するために生じていると考えられています。
体内への水分の吸収が増えれば、腸管内の水分が減るため、便も硬くなり、下痢が改善させるというわけです。
Ⅱ.腸管運動の適正化
ロンバニンは、腸管の神経の集まりである「アウエルバッハ神経叢」に作用します。
アウエルバッハ神経叢の副交感神経にあるオピオイド受容体(μ受容体)に作用することで、副交感神経からのアセチルコリンの分泌を抑えます。
アセチルコリンは腸管を動かすはたらきがあるため、これが抑制されると腸管の動きが低下します。
またロンバニンは、プロスタグランジンという物質の分泌も抑えるはたらきがあります。プロスタグランジンは、腸管の平滑筋を収縮させて腸管の動きを活性化させるはたらきがあります。ロンバニンによって、プロスタグランジンの分泌が少なくなれば腸管の動きが低下します。
下痢状態の時は、腸管の動きが過剰になっていることが多いため、ロンバニンによって腸管の動きを抑えてあげることでちょうど良くなるのです。
4.ロンバニンの副作用
ロンバニンは腸管が水分を吸収するようにはたらき、また腸管の動きを抑えることで下痢症を改善させます。
そのため、時に腸管の動きを抑えすぎてしまう副作用が生じる事があります。
ロンバニンのの副作用発生率は0.8%前後と多くはありません。
頻度の多い副作用としては、
- 腹部膨満
- 嘔吐
などといった、腸管の動きを抑えすぎることによる副作用です。これらの副作用は多くの場合でロンバニン量を適切に調整すれば改善します。
また、
- 発疹
- 眠気
- AST、ALT(肝機能酵素)上昇
などが生じることもあります。長期的にロンバニンを使う場合は定期的に肝機能などを測定しておく方が良いでしょう。
重篤なものとして、
- イレウス
- 巨大結腸(国内では報告なし)
- ショック
- アナフィラキシー様症状
- 中毒性表皮壊死融解症(国内では報告なし)
- 皮膚粘膜症候群(国内では報告なし)
などが生じる可能性があります。ただしこれらは日本では報告がなく、海外でしか報告がないものもあり、適正に使用している限りは生じる頻度は極めて低いと考えられます。
なお下痢止めには依存性があるものもあります。
しかしロンバニンは規定された用量内であれば依存は生じないことが確認されています。しかし動物実験においては大量に使用すると依存性が確認されていることから、決められた用量内で使用することが大切です。
注意点として、ロンバニンは感染が疑われるような下痢(感染性胃腸炎など)に用いてはいけません。感染性腸炎にロンバニンを用いて下痢を抑えたり腸管の動きを低下させたりしてしまうと、病原菌(細菌・ウイルスなど)がいつまでも腸管から排出されなくなってしまうからです。
また腸管の動きを抑えるはたらきがあることから、元々腸管の動きが悪い方(便秘傾向の方や腸疾患を持っている方など)に使用する場合は特に注意が必要です。
5.ロンバニンの用法・用量と剤形
ロンバニンは、
ロンバニンカプセル(ロペラミド) 1mg
の1剤形のみがあります。ちなみに先発品の「ロペミン」には細粒(粉薬)もありますので、もし粉薬が良ければ、ロペミンを選択するのも1つの手です。
ロンバニンの使い方は、
通常成人に1日1~2mgを1~2回に分割経口投与する
と書かれています。
6.ロンバニンカプセルが向いている人は?
以上から考えて、ロンバニンカプセルが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ロンバニンの特徴をおさらいすると、
・下痢を抑える力は強めでしっかり効果を発揮する
・腸管の水分の吸収を正常化することで下痢を改善する
・腸管の蠕動運動を正常化することで下痢を改善する
・依存性はなく、安全性も高い
・下痢止めは極力使うべきではないため、適応は慎重に
というものでした。
ロンバニンは下痢止めですが、下痢は基本的にはお薬で無理矢理抑えない方が良いものです。特に腸管の感染症によって下痢となっている時は、下痢は止めてはいけません。
そのため、ロンバニンを使うのは「やむをえないケース」に限られるべきで、ただ下痢があるというだけで処方してよいお薬ではありません。
下痢がひどくて、その下痢を止めるメリットが止めないメリットよりも大きい場合にのみ、服薬するようにしましょう。
例えば、このまま下痢が続けば脱水になってしまいそう、電解質のバランスが崩れてしまいそう、という時には検討しても良いでしょう。
安易に使ってしまうと、腸管の感染であった場合に病原菌の感染を長引かせてしまったり、便秘に転じた時に腸管の動きを更に悪くしてしまってイレウスなどに至ってしまうリスクもあります。
ロンバニンは痢止めの中でも効果がしっかりしています。そのため確実に下痢を抑えたい時には頼れるお薬です。
適応を主治医に慎重に見極めてもらい、必要な時にのみ使用するようにしましょう。