ルビプロストンは、2012年から発売されている「アミティーザ」という下剤の主成分になります。
下剤は1980年以降、新薬がほとんど発売されていませんでした。ルビプロストンは実に約30年ぶりに発売された新しい下剤という事で発売当初は注目されました。
ルビプロストンは排便を促す効果も強く、従来の下剤とは異なる作用機序で排便を促すため、今までの下剤では効果不十分であった方にも役立つ可能性があります。一方で人によっては効きすぎてしまう事もあり、慎重に使用する必要もあります。
ルビプロストンはどのような特徴を持つ下剤で、どのような患者さんに向いているのでしょうか。
ここではルビプロストンの特徴や効果・副作用についてみていきましょう。
目次
1.ルビプロストンの特徴
まずはルビプロストンの全体的な特徴について紹介します。
ルビプロストンは、便に水を含ませて柔らかくする下剤になります。効果に個人差はありますが下剤の中でも効果が強く、しっかりと排便を促してくれます。
その他に大腸の動きを促進させたり、腸管粘膜を修復するはたらきも持ち、これも排便に補助的に役立っていると考えられます。
便秘の方の排便を改善させる方法としては、主に2つの方法があります。
それは、
- 腸内の水分を増やすことで便を柔らかくする
- 大腸の動きを活性化させる
の2つです。下剤のほとんどはこの2つのどちらかの作用を持っています。
ルビプロストンはというと、その主なはたらきは便に水分を含ませることで便を柔らかくする事です。
つまりルビプロストンは水分不足によって便が硬くなって便秘になっている方に向いている下剤になります。
このように便に水分を含ませるような作用機序を持つ下剤は、他にも「酸化マグネシウム」などのマグネシウム製剤があります。ルビプロストンとマグネシウムはどちらも「便に水を含ませて柔らかくする」という作用は同じですが、その作用機序は異なります。
そのためマグネシウム製剤では効果が不十分な方でもルビプロストンは効く可能性があります。
また個人差はありますがマグネシウム製剤と比べてルビプロストンは効果も強く、しっかりと便秘を改善させてくれます。
一方で、効きすぎてしまい下痢や腹痛が生じてしまう事もありますので注意も必要です。そのため体重の軽い方や高齢者などでは、主治医と相談の上、通常の半分量くらいから始める事もあります。
ルビプロストンの主な作用は「便に水を含ませる事で便を柔らかくする」事ですが、補助的な作用として、
- 大腸の動きを促進させる
- 腸管粘膜を修復する
といった作用も持ち、これも便秘改善に役立っていると考えられます。
ルビプロストンは重篤な副作用も少なく安全性は高いのですが、妊婦に対しては禁忌(絶対に使ってはいけない)となっていますので、妊婦の方は注意が必要です。また古い下剤と比べると、薬価が高いのもデメリットになります。
以上からルビプロストンの特徴として次のようなことが挙げられます。
【ルビプロストンの特徴】
・腸管内に腸液を分泌して、便に水を含ませ柔らかくする |
2.ルビプロストンはどのような疾患に用いるのか
ルビプロストンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。ルビプロストンを主成分とする下剤である「アミティーザ」の添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
慢性便秘症
(器質的疾患による便秘を除く)
ルビプロストンは下剤であり、使用する疾患は「便秘症」になります。
下剤は作用機序によって2種類に分けることが出来ます。
1つはルビプロストンのように便を柔らかくする事で排便を改善するお薬、そしてもう1つは大腸を刺激することで大腸の動きを活性化させ排便を改善させるお薬です。
前者はルビプロストンの他、酸化マグネシウム(商品名:マグミット)、カルメロース(商品名:バルコーゼ)などの成分があり、主に便が硬いタイプの便秘に用いられます。
後者にはセンノシド(商品名:プルゼニド)、センナ・センナ実(商品名:アローゼン)、ダイオウ、ビコスルファートナトリウム(商品名:ラキソベロン)などがあり、主に腸の動きが悪くなっているタイプの便秘に用いられます。
ルビプロストンは下剤の中でも便を柔らかくする下剤になるため、便が硬くて便秘となっている方に用いる下剤となります。
ちなみに「器質性疾患による便秘を除く」という記載の意味は、例えば腸管に腫瘍などの器質的異常が生じていて、それで便が出ないような場合には効果が望めませんよ、という意味です。このような腸管の器質的閉塞によって便秘になっている場合は、便に水分を含ませすぎてしまうと更に腸管内圧が上がってしまいますので、効果がないばかりか危険です。
このような状態では、ルビプロストンに限らずあらゆる下剤を使用することが危険となります。
ではルビプロストンは便秘症に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
慢性的な便秘症患者さんにルビプロストンを主成分とする下剤である「アミティーザ」を服用してもらい、プラセボ(偽薬)を服用した群と比較した調査では、
- プラセボ服用群の1週間の排便回数は2.93回
- アミティーザ服用群の1週間の排便回数は5.27回
と排便回数の改善が得られた事が確認されています。
3.ルビプロストンの作用機序
便秘症に対して用いられるルビプロストンですが、どのような機序で便秘を改善させているのでしょうか。ルビプロストンは、今までの下剤とは異なる機序で便秘を改善させてくれます。
具体的には、腸液の分泌を増加させることで便を柔らかくして、排便を促進します。
ルビプロストンが発売されるまでに用いられていた下剤は、次のようなはたらきを持つものが主でした。
・便を柔らかくする(酸化マグネシウムなど)
・大腸を刺激して腸を動かす(センノシド、ピコスルファートナトリウムなど)
どれも便秘には効果があるのですが、ルビプロストンはこれらとは異なるはたらきで排便を促してくれます。これはつまり、上記の作用機序を持つ下剤で効かない患者さんにもルビプロストンは効く可能性があるということです。
ルビプロストンは小腸上皮に存在する クロライドチャネル(クロライドというイオンが通る穴)を活性化することで、腸管内への水分分泌を促進します。腸管内に水分が多くなれば便が柔らかくなるため、便秘症に対して効果を発揮します。
またルビプロストンはクロライドチャネルを活性化させることで、腸管の輸送能を高めたり腸管粘膜上皮の修復作用もあることが確認されており、これも便通改善に役立っていると考えられています。
4.ルビプロストンの副作用
ルビプロストンにはどのような副作用があるのでしょうか。またその頻度はどのくらいなのでしょうか。
ルビプロストンを主成分とする下剤である「アミティーザ」で行われた調査では、アミティーザの副作用発生率は62%と報告されています。
ルビプロストンは基本的には安全性は高い下剤になります。しかし排便を促す効果が強いため、時に効きすぎてしまう事があります。
生じうる主な副作用としては、
- 下痢
- 悪心・吐き気
- 腹痛
など消化器系の症状が報告されています。これらはいずれもルビプロストンが効きすぎてしまった結果生じているものであり、ルビプロストンの量を適正に調整すれば改善が得られます。
また、
- 頭痛
なども時に出現する事があります。
ルビプロストンは下剤ですので、効き過ぎれば下痢が起こります。この際はルビプロストンを減量するのが方法になります。悪心や吐き気・頭痛が生じた場合、様子をみても改善が得られない場合は減薬や中止をする必要があります。
また、ルビプロストンは動物実験においてルビプロストンを大量投与したラットの胎児の死亡が確認されたため、妊婦への投与は禁忌となっています。
5.ルビプロストンの用法・用量と剤形
ルビプロストンを主成分とした下剤には「アミティーザ」があり、
アミティーザカプセル 24μg
の1剤形のみがあります。
アミティーザカプセルの使い方は、
通常、成人には1回24μgを1日2回、朝食後及び夕食後に経口投与する。なお、症状により適宜減量する。
となっています。
ルビプロストンは効果が強めの下剤であるため、人によっては効きすぎてしまう事もあります。
1日2カプセル飲むと下痢になってしまうという方は、主治医と相談の上で1日1カプセルに減量することも可能です。
6.ルビプロストンの作用時間
ルビプロストンは一時的に頓用で用いる下剤ではなく、毎日定期的に飲み続けることで便通を改善していく下剤です。そのため服薬してからどのくらいで排便が得られるか、という作用時間についてはあまり重視されません。
ルビプロストンについて詳しく説明されているインタビューフォームにおいては、
国内第II相用量反応性試験及び国内第III相比較試験において、ルビプロストン24μg1日2回投与により、投与後24時間以内に、それぞれ、75.0%及び58.1%の患者で自発排便が観察されている。
と記載されています。
ここからは、半数以上の例で、服薬してから翌日までには排便が得られると考えることができます。即効性のある下剤ではありませんが、効果が出るまでに何日も待たないといけないわけではなさそうです。
7.ルビプロストンが向いている人は?
以上から考えて、ルビプロストンが向いている人はどのような人なのかを考えてみましょう。
ルビプロストンの特徴をおさらいすると、
【ルビプロストンの特徴】
・腸管内に腸液を分泌して、便に水を含ませ柔らかくする |
というものでした。
ルビプロストンは優れた下剤ですが、約30年ぶりに発売された下剤ということでまだ薬価がかなり高いのは大きな欠点です。ちょっと高いというものではなく、他の古くて安い下剤と比べると数十倍の差になります。
そのため経済的に考えるのであれば、まずは既存の下剤で試してみて、それでも効果が得られない場合にルビプロストンを試す、という方針が良いかもしれません。
ルビプロストンは腸管内の水分を多くすることで、便を柔らかくすることで排便を促します。そのため、便が硬くて出にくいというタイプの便秘の方に向いているお薬となります。
また、妊婦の方には禁忌(絶対に使用してはいけない)となっていますので、妊婦の方は使用しないよう気を付けてください。妊婦に使えない理由は、ラットを用いた研究でルビプロストンが胎児に移行していることが認められたからです。また高用量のルビプロストンを投与した妊娠ラットにおいて、胎児の死亡も確認されています。
8.お薬以外の便秘の改善法
便秘がひどい場合、下剤を服用するのは有効な方法の1つです。
しかし便秘をお薬だけで解決しようとするのはあまり良い方法とは言えません。本来、便というのは自然と出るものです。下剤の中には耐性があるものもありますので、漫然と下剤に頼り続けていると、いずれよりひどい便秘に悩む事にもなってしまいます。
下剤を服用するよりも大切なのは、まず日常の生活習慣や食事の工夫で改善をはかることです。
では排便を促すような生活習慣にはどのようなものがあるのでしょうか。
最後に便秘を改善するために有効な生活習慣の工夫を紹介します。
Ⅰ.規則正しい生活を
基本的な事ですが、胃腸を正常に動かすためには規則正しい生活が必須です。
胃腸というのは、自分たちで意識的に動かせる臓器ではありません。では胃腸はどのように動かされているのかというと、「自律神経」という神経が状況に応じて適切に胃腸の動きをコントロールしてくれているのです。
自律神経には交感神経と副交感神経があります。
交感神経は興奮の神経で日中に仕事をしている時など、集中力が必要な時に活性化します。副交感神経はリラックスの神経で、ゆっくりしているような時に活性化します。
そして胃腸は交感神経が活性化している時は動きが抑えられ、副交感神経が活性化している時に活発に動きます。
規則正しい生活を送っていると、交感神経と副交感神経のバランスが保たれるため、規則正しく排便が行われるようになります。
しかし生活が不規則だとこのバランスが乱れます。イライラしがちであったり、夜更かし・睡眠不足が多いと交感神経が活性化する比率が高くなるため、胃腸の動きは低下し、便秘傾向となります。
便秘で悩んでいる方は、
- 睡眠をしっかりとる
- 心身をリラックスする時間を必ず毎日取り入れる
など、副交感神経が正常に活性化するような生活習慣を意識するようにしましょう。
Ⅱ.適度な運動を
ウォーキングやジョギングなど、適度な運動は腸管を動かすために有効です。身体を動かすと胃腸も動きます。反対に身体を動かさないと胃腸の動きも低下します。
例えば病気で入院して1日中寝たきりになると、必ずといっていいほど皆さん便秘になります。身体を全く動かさなくなった結果、胃腸も動かなくなってしまったからです。
便秘で悩んでいる方は、適度な運動をしているかも見直してみましょう。運動不足なのであればそれも便秘の一因かもしれません。
- 毎日職場まで歩いてみる
- 車を使わずなるべく徒歩や自転車で買い物に行く
など、ちょっとした工夫で構いません。日常に適度な運動を取り入れるようにしてみて下さい。
Ⅲ.食物繊維
野菜や果物に含まれている食物繊維は、便秘の改善にとても有効です。便秘の方の食生活を聞くと野菜の摂取量が少ない方が非常に多く見受けられます。
このような場合は野菜をしっかりと取れば、便秘の改善が得られるでしょう。
野菜や果物に含まれる食物繊維は主に「セルロース」が主成分となっています。このセルロースは、腸管内で水分を含んで膨張する性質があります。
セルロースが水分を含んで膨張すると、腸管を刺激して腸管の動きを活発にしてくれます。また膨張したセルロースが便も取り込むため、固い便が柔らかくなるという作用もあります。
食物繊維は成人であれば1日20gの摂取が推奨されています。しかし1日20gの食物繊維を取るには野菜を300~400g摂取する必要があり、これはなかなか大変です。
食事だけではどうしても食物繊維を十分に取れないという方は、食物繊維を配合したサプリメントや健康食品を利用するのも方法の1つです。
ただし市販のサプリメント・健康食品は、「便秘に有効な食物繊維を配合!」と謳っているのに食物繊維の含有量が極めて低いものも多くあります。
食物繊維をしっかりと補うのであれば、最低でも1回で3g程度の食物繊維を摂取できるものにしましょう。含有量が1g以下のサプリメントでは、1回服用しただけではあまり効果は得られません。
食物繊維を高用量摂取できるサプリメントには次のようなものがあります。
食事前に食べる野菜ゼリー「ベジファス」
ベジファスは1包で食物繊維を5g摂取できます。ゼリー状ですので食べやすく、食事前に手軽に食べる事が出来ます。
イージーファイバー
イージーファイバーは1パックで食物繊維を4.2g摂取できます。粉末状ですのでお茶やコーヒーなどに溶かす事ができ、日常の中で無理なく摂取できるのが利点です。
Ⅳ.乳酸菌
乳酸菌は細菌の一種で、私たちの腸内にも存在している常在菌であり、いわゆる「善玉菌」として知られています。
乳酸菌は糖分を酪酸と酢酸に分解するはたらきがあります。これらの酸を作る事で腸内のpHを適正に保ち、また酢酸の殺菌作用によって有害菌の発育を抑えてくれます。
腸内細菌のバランスが乱れて便秘になっている場合は、乳酸菌を摂取する事で腸内環境を改善させる事で便秘の改善も得られます。
食品で乳酸菌を多く含むものには、ヨーグルトやチーズなどがあります。
また病院で処方してもらえるお薬の中にも、乳酸菌を含んでいるものはいくつかあります(商品名:ビオフェルミン、ミヤBM、ビオスリーなど)。主治医と相談し、必要に応じて処方してもらっても良いでしょう。
乳酸菌は「オリゴ糖」を栄養として増殖していきますので、併せてオリゴ糖を摂取するのも有効です。オリゴ糖が十分に腸内に届けば、それだけ乳酸菌が増殖しやすくなるためです。
乳酸菌を含むサプリメントを利用する場合は、次のようなものがお勧めです。
新ビオフェルミンS
武田コンシューマーヘルスケア 新ビオフェルミンS錠 540錠 【指定医薬部外品】
ビオフェルミンは代表的な乳酸菌製剤で、長い実績があり安心して使えるのが利点です。
・コンク・ビフィズス菌
・コンク・フェーカリス菌
・コンク・アシドフィルス菌
という3つの乳酸菌を含み、これらが腸内環境を整えてくれます。
4種類の生菌で腸内バランスを整える医薬品【ファスコン整腸錠プラス】
「ファスコン整腸剤プラス」は京都薬品より発売されている乳酸菌錠剤です。
・フェリカス菌
・ラクトミン
・ビフィズス菌
・納豆菌
の4種の生菌に加え、消化酵素である「ビオヂアスターゼ」も含まれています。
「フェリカス菌」「ラクトミン」「ビフィズス菌」は乳酸菌になります。また納豆菌は有害菌(病原性大腸菌など)の増殖を抑える作用があります。
Ⅴ.水分
水分は便を柔らかくし、排便させやすくする作用があります。
便がコロコロに硬い場合は、水分量が足りなくて便秘になっている可能性があります。毎日の水分摂取量が足りているかどうかを見直してみましょう。
個人差もありますが、1日に必要な水分の量はおおよ1.5Lほどと言われています。
ただし心臓の持病がある方などは摂取できる水分量の制限がある事がありますので、主治医と相談の上で水分摂取量は決めてください。
Ⅵ.ストレスをためない
実はストレスでも便秘になるという事をご存知でしょうか。
先ほども説明したように腸管というのは、自律神経(交感神経と副交感神経)によって動かされています。
ストレスなどによって自律神経のバランスが崩れた状態を「自律神経失調症」と呼びますが、自律神経が失調状態になれば、腸管の動きも不安定になります。
すると便秘や下痢が生じやすくなります。
ストレスが原因で便秘になっている方はなるべくストレスを溜め込まないような生活を意識する事が大切です。
仕事などでどうしてもストレスが溜まってしまうという方は、仕事後や休日にしっかりとストレス発散の時間を持つようにしましょう。