ルプラック錠(一般名:トラセミド)は1999年から発売されている利尿剤です。
利尿剤とは尿量を多くするお薬で、尿の量を増やす事で身体の水分を減らます。これによりむくみを改善させるはたらきがあり、心不全や肝不全、腎不全などに伴うむくみなどに用いられています。
利尿剤の中でルプラックはどのような特徴を持つお薬で、どのような方に向いているお薬なのでしょうか。
ルプラックの特徴や効果・副作用についてみていきましょう。
1.ルプラックの特徴
ルプラックはどのような特徴を持つお薬なのでしょうか。
ルプラックは利尿剤です。利尿剤とは、尿の量を増やす事で体内の水分を減らすお薬になります。
この作用から、利尿剤は身体に余分な水が溜まってしまった時に用いられます。具体的には浮腫(むくみ)などを改善させるの他、肺に水が溜まってしまう「胸水」やお腹に水が溜まってしまう「腹水」を改善させるためにも用いられます。
ルプラックは利尿剤の中でも「ループ利尿薬」という種類に属します。
利尿剤にはループ利尿薬の他にも、「カリウム保持性利尿剤」「チアジド系(サイアザイド系)」「チアジド類似薬」などいくつかの種類があり、それぞれ特徴が異なります。
まずは利尿剤の中でのループ利尿薬がどんな特徴を持ったお薬なのかを紹介しましょう。
【ループ利尿薬の特徴】
・尿量を増やす事でむくみを改善させる利尿剤である |
ループ利尿薬は、尿を作る器官である「尿細管」にある「ヘンレのループ」という部位に作用するお薬になります。ヘンレのループに作用するから「ループ利尿薬」というわけです。
尿細管でループ利尿薬がどのように作用するのかといった詳しい機序については後述しますが、まずは簡単に、尿細管(ヘンレのループ)に作用して尿量を増やすのがループ利尿薬だと覚えてください。
ルプラックをはじめとしたループ利尿薬は、利尿作用(尿量を増やす作用)が強い事が特徴です。利尿剤にはいくつかの種類がありますが、利尿作用だけでみればループ利尿薬が圧倒的に強力です。
しかし他の利尿薬(カリウム保持性利尿薬、チアジド系など)は、利尿作用のみならず降圧作用(血圧を下げる作用)などもあります。しかしループ利尿薬は降圧作用は極めて弱く、尿量を増やす事に特化したお薬です。
そのため、「むくみを取りたい」「胸水を抜きたい」「腹水を抜きたい」など、身体に余計な水分が溜まっていて、それを改善させたいような時に適しています。
では次にループ利尿薬の中でのルプラックの特徴を紹介します。
【ループ利尿剤の中でのルプラックの特徴】
・抗アルドステロン作用により低カリウム血症を起こしにくい |
ループ利尿薬にもいくつかのお薬がありますが、その中でルプラックは、低カリウム血症を起こしにくいお薬になります。
低カリウム血症はループ利尿薬で生じうる副作用ですが、倦怠感や脱力感、不整脈などを引き起こします。重篤な低カリウム血症となると命に関わるような重篤な不整脈を起こす事もあり、この副作用は決してあなどれません。
詳しい機序は後述しますが、ルプラックは抗アルドステロン作用(アルドステロンというホルモンのはたらきをブロックする作用)を持つ事によって、低カリウム血症が生じにくくなっており、これがルプラックの利点になります。
以上からルプラックの特徴を挙げると次のようになります。
【ルプラックの特徴】
・尿量を増やす事でむくみを改善させるループ利尿薬である |
2.ルプラックはどんな疾患に用いるのか
ルプラックはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫
ルプラックは利尿剤に属し、尿量を増やす事で身体の水分を減らす作用があります。そのため身体に余分な水分が溜まっているような方に用いられます。
心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫というのは、それぞれ「心臓が原因で生じる浮腫」「腎臓が原因で生じる浮腫」「肝臓が原因で生じる浮腫」の事です。
心臓は血液を全身に送り出すはたらきをしていますので、心臓のはたらきが弱くなると血液が送り出せない分、心臓の手前の血管(静脈)に血液が溜まっていきます。この状態が続くと血管にたまった水分は次第に血管外に漏れ出していくため、肺に水がたまったり(肺うっ血、胸水など)、身体に浮腫(むくみ)が生じます。
また腎臓は尿を作るはたらきをしていますので、腎臓のはたらきが弱まると尿を作りにくくなり、尿として排泄できない分だけ血管に水分が溜まっていきます。この状態が続くと、同様に血管にたまった水分は次第に血管外に漏れ出していくため、浮腫が生じます。
肝臓は解毒作用をもつ臓器で、全身を巡り終わった血液は門脈という静脈を通じて肝臓に入っていきます。肝臓のはたらきが悪くなり肝硬変になると、門脈から肝臓に血液が入りにくくなります。すると門脈より手前の血管(静脈)に血液が溜まっていき、この状態が続くと血管にたまった水分は次第に血管外に漏れ出していくため、お腹に水がたまったり(腹水)、浮腫が生じます。
ルプラックはこれらの疾患に対してどのくらい効果があるのでしょうか。
上記疾患に対してルプラックを投与した調査では、
- 心性浮腫に対する有効率は90.2%
- 腎性浮腫に対する有効率は84.1%
- 肝性浮腫に対する有効率は83.8%
であったと報告されています。
ちなみに有効率は、ルプラックを投与した際の上記疾患の改善度を、「改善」「軽度改善」「不変」「悪化」「判定不能」の5段階で評価し、改善あるいは軽度改善と評価された率となります。
3.ルプラックにはどのような作用があるのか
ルプラックにはどのような作用があるのでしょうか。ルプラックの作用機序について紹介します。
Ⅰ.尿中に電解質を排泄し、尿量を増やす
ルプラックの主な作用は、尿の量を増やす事です。
尿量が増えれば身体の水分の量が減りますので、身体に溜まってしまった余計な水分を抜く事が出来ます。
ルプラックの作用機序を更に深く理解するためには、尿がどのように作られるのかを知る必要があります。
尿は腎臓で作られます。腎臓に流れてきた血液は、腎臓の糸球体という部位でろ過され、尿細管に移されます。このように尿細管に移された尿の素(もと)は、「原尿」と呼ばれます。
糸球体は血液をざっくりとろ過しておおざっぱに原尿を作るだけですので、原尿には身体にとって必要な物質がまだたくさん含まれています。
原尿をそのまま尿として排泄してしまうと、身体に必要な物質がたくさん失われてしまいます。それでは困るため、尿細管には原尿から必要な物質を再吸収する仕組みがあります。
つまり糸球体でざっくりと血液がろ過されて原尿が作られ、尿細管によって原尿から必要な物質が体内に戻され、最終的に排泄される尿が出来上がるわけです。
原尿から必要な物質が再吸収されて最終的に作られた尿は、腎臓から尿管を通り膀胱に達し、そこで一定時間溜められます。膀胱に尿がある程度溜まって膀胱が拡張してくると、その刺激によって尿意をもよおし、排尿が生じます。
これが尿が作られる主な機序になります。
ループ利尿薬は、原尿から必要な物質を再吸収する尿細管の仕組みの1つをブロックするお薬になります。
尿細管は糸球体に近い方から「近位尿細管」「ヘンレのループ(ヘンレ係蹄)」「遠位尿細管」「集合管」の4つの部位に分けられています。
このうち「ヘンレのループ」に作用するのがループ利尿薬です。ループ利尿薬の「ループ」という名称はヘンレのループから来ているのです。
ヘンレのループにはNa+(ナトリウムイオン)、K+(カリウムイオン)、Cl-(クロールイオン)を体内に再吸収する仕組みがあります。
ルプラックをはじめとしたループ利尿剤は、この仕組みをブロックします。つまりNa+、K+、Cl-が体内に再吸収されるのをブロックするという事です。これにより、Na+、K+、Cl-は尿としてそのまま排泄されてしまいます。
ちなみにNa+には一緒に水分も引っ張る性質があります。Na+が増えると、その液体の浸透圧が上がるため、水を引き寄せるようになるのです。難しい説明はここでは省略しますが、体内では水はNa+と一緒に動く性質があると覚えてください。
つまり、ルプラックは尿中のNa+(とK+、Cl-)を増やす事によって尿中の水分も増やすという事です。これによって尿量が増えます。
これがルプラックをはじめとしたループ利尿剤の基本的な作用機序になります。
Ⅱ.抗アルドステロン作用
上記以外の作用としてルプラックは、「アルドステロン」というホルモンのはたらきをブロックする作用もあります。
アルドステロンは副腎皮質(腎臓の上にある臓器)から分泌されるホルモンで、尿細管に作用し、原尿からNa+(ナトリウムイオン)を体内に再吸収するはたらきがあります。
ルプラックはアルドステロンのはたらきをブロックするため、これによりNa+(と水分)が尿として排泄されやすくなります。
ルプラックは他のループ利尿薬と比べて、抗アルドステロン作用が強いという特徴があります。
前項Ⅰ.のヘンレのループでのブロック作用は、尿中のNa+、K+、Cl-(と水分)を増やしますが、抗アルドステロン作用は尿中のNa+(と水分)しか増やしません。
抗アルドステロン作用の割合が高ければ高いほど、尿中のカリウムの量は少なくなるため体内にカリウムが残りやすくなり、低カリウム血症が起きにくくなります。
そのためにルプラックはループ利尿薬でありながら、低カリウム血症を比較的起こしにくいのです。
4.ルプラックの副作用
ルプラックにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
ルプラックの副作用発生率は4.84%と報告されています。
生じうる副作用としては、
- 低カリウム血症
- BUN、Cr上昇
- 高尿酸血症
- 頭痛・頭重感
- 倦怠感
- 口渇
- めまい・立ちくらみ
などが報告されています。
ルプラックは身体の水分を減らす事で脱水状態にしてしまうリスクがあります。これによりめまいや立ちくらみ、口の渇き(口渇)、倦怠感や頭痛などが生じる事があります。
また脱水になると検査値の異常としてBUN、Cr(クレアチニン)といった腎臓系の酵素を上昇させてしまう事があります。脱水になると尿酸値も上昇してしまいます。
ルプラックはNa+、K+、Cl-といった電解質の再吸収をブロックしますから、これらの電解質が少なくなってしまう副作用が生じえます。
ループ利尿薬の中では低カリウム血症は起こしにくくはありますが、絶対に起こさないわけではありません。
このような副作用の可能性から、ルプラックを長期にわたって服用する際は定期的に血液検査を行う事が望ましいでしょう。
ルプラックで生じうる重篤な副作用としては、
- 肝機能障害、黄疸
- 血小板減少
- 低カリウム血症、高カリウム血症
が報告されています。
ルプラックは作用機序上、Na+(ナトリウムイオン)、K+(カリウムイオン)、Cl-(クロールイオン)をたくさん尿に出すため、体内のこれらのイオン量が少なくなる事があります。
ナトリウムイオンがあまりに少なくなると、倦怠感、食欲不振、嘔気、嘔吐、痙攣、意識障害などといった症状が出現します。カリウムイオンが少なくなると、倦怠感、脱力感、不整脈などが生じます。
ルプラックを長期にわたって使用する際は定期的に血液検査でナトリウム、カリウムなどの電解質をチェックする必要があります。
ルプラックを投与してはいけない方(禁忌)としては、
- 無尿の方
- 肝性昏睡の方
- 体液中のナトリウム・カリウムが明らかに減少している方
- スルフォンアミド誘導体に対し過敏症の既往歴のある方
が挙げられています。
ルプラックは尿の排泄を増やす事で血圧を下げるお薬ですので、尿が出ない状態にある方(無尿)に投与しても意味がありません。
またルプラックは血中の脱水状態を誘発する事によりアンモニアを上昇させる可能性があるため、肝性昏睡(肝不全によってアンモニアが蓄積し、意識レベルが低下する状態)の方に投与すると、状態をより悪化させる可能性があります。
ルプラックはナトリウム、カリウムといった電解質の排泄をお薬によって増やしてしまうお薬です。そのため低ナトリウム血症、低カリウム血症など、元々電解質に異常がある方が服用すると更に電解質の異常を悪化させてしまう危険があります。
またルプラックはスルフォンアミド誘導体の1つであるため、似た化学構造を持つスルフォンアミド誘導体のお薬が合わない方は投与する事は出来ません。
5.ルプラックの用法・用量と剤形
ルプラックは、
ルプラック錠 4mg
ルプラック錠 8mg
の2剤形があります。
ルプラックの使い方は、
通常、成人には1日1回4~8mgを経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
となっています。
ルプラックの作用時間は中くらいの長さで、具体的には服用してから6~8時間ほど利尿作用が続くと報告されています。
ルプラックは服用する時間は厳密には決められてはいませんが、基本的には日中の服用が推奨されています。これは夜に服用してしまうと、夜間眠っている時に利尿作用が最大となってしまい、何度もトイレで起きるようになってしまうためです。
日中に服用すれば就寝時の頃には利尿作用は弱まっていますので、夜間の睡眠に悪影響をきたす可能性は低くなります。
6.ルプラックが向いている人は?
以上から考えて、ルプラックが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ルプラックの特徴をおさらいすると、
【ルプラックの特徴】
・尿量を増やす事でむくみを改善させるループ利尿薬である |
というものでした。
ループ利尿薬であるルプラックは、身体の余分な水分(浮腫や胸腹水など)を取りたいというケースにおいて有用です。
ただしルプラックに限らずループ利尿薬は水分を抜く力が強いため、漫然と使っていると脱水状態を引き起こしてしまう事があります。そのため、定期的に身体所見や血液検査を見て脱水に至っていないか注意する必要があります。
ルプラックは他のループ利尿薬と比べると抗アルドステロン作用を持つのが特徴です。
そのためアルドステロンのはたらきが過剰となっている状態の方や低カリウム血症になりやすい方に向いています。