メジコン(一般名:デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物)は、病院で処方される鎮咳薬(ちんがいやく)の1つで、いわゆる「咳止め」になります。
古くからあるお薬ですが、安全性も高くて使い勝手が良いため、現在でも幅広い世代に対して広く用いられています。
しかし、咳を抑えるためにメジコンを服用していても、十分に効かない事もあります。
このような時は、どうすればいいのでしょうか。
少し様子を見た方が良いのか、それとももう一度受診して、詳しい検査をしたりより強い咳止めに変えてもらった方が良いのか・・・。
その判断はどのように考えればよいのでしょうか。
ここでは咳に対してメジコンが効かない時の考え方についてお話していきます。
1.私たちは何故、咳をするのか
メジコンは咳を抑えたい時に用いられます。
では、そもそも咳がどうして生じるのか、皆さんご存知でしょうか。
皆さんは今、「この咳を何とかして抑えたい」という想いから、この記事を読んでいるでしょう。しかしその前に、この咳がどうして生じているのかを知らないといけません。
私たちの身体が起こす反応には必ず何らかの意味があります。咳も同じで何らかの理由があるから咳をしているのです。
私たちはなぜ咳をするのでしょうか。
咳は「咳払い」のように自分で意識的に行う事もあります。しかし風邪などの疾患で生じる咳のほとんどは、意志とは無関係に生じるものです。
このように意志と無関係に生じる咳は「咳反射」と呼ばれ、反射の一種になります。
咳反射は、気管が刺激される事で自動的に生じます。気管が刺激されると、私たちの身体は「気管に異物が侵入してきた!」「追い出さないと!」と判断し、咳を反射的に引き起こす事で、異物を体外に排出しようとするのです。
気管をはじめとした呼吸器系は、口を通じて外界とつながっているため、ばい菌が侵入しやすい部位の1つです。風邪をはじめ、咽頭炎・喉頭炎・気管支炎・肺炎などいずれも日常的に誰もがかかりうる疾患ですが、いずれも呼吸器系へのばい菌の感染が原因なのです。
気管の先には「肺」があります。肺は酸素を身体に取り込む重要な臓器であり、もし肺が酸素を取り込めなくなれば私たちはあっという間に命を落としてしまいます。そうならないよう、異物が気管に侵入してきたと判断された時点で、咳をしてそれを追い出そうとするわけです。
私たちの身体は「気管が刺激されたら咳をする事で、異物を体外に追い出す」という仕組みを持つ事で、重要な臓器である肺を守っているのです。
ここまで理解すると、実は「咳」というのは私たちにとって重要な行為である事が分かります。ただ止めれば良いものではないのです。
「咳」は悪者のように扱われがちです。しかし咳が全く生じないという事は、簡単にばい菌が肺に侵入できてしまうという事です。適度に咳反射が生じる事で、私たちの身体をばい菌から守ってくれているのです。
2.咳を抑えるべきなのはどのような時か
咳は、私たちの身体を守るための反応である事をお話をしました。
ここからまず言える事は、「必要に応じて生じている咳を、無理矢理抑えるべきではない」という事です。
もし気管にばい菌が侵入しているのに、お薬で咳を無理矢理抑えてしまうとどうなるでしょうか。
ばい菌は気管内に留まり増殖しやすくなるでしょう。肺へも侵入しやすくなり、こうなれば命の危険も出てきます。
適度に咳が生じていれば、ばい菌は痰と一緒に体外に排出されていきます。このように咳は適度に生じている分にはメリットの方が高く、無理矢理抑えるべきではないのです。
風邪などを引いて咳止めを処方してもらった時、喉や気管にばい菌がたくさんいるような段階であれば、「咳が完全に止まる事」を目指すべきではありません。それは「ばい菌を肺に侵入させやすくしている」という事です。
ではメジコンのような咳止めは使うべきではないのでしょうか。
そんな事はありません。適度に生じている咳を抑える必要はありませんが、過度に生じている咳を抑えてあげる意味はあります。
では咳を抑えるべきなのはどのような時なのでしょうか。
それは咳をするメリット(=異物を体外に排出できる)よりも、咳で生じるデメリットが大きくなってしまう場合です。
具体的には次のような場合は、咳をするメリットよりもデメリットが高いため、メジコンのようなお薬で咳を抑えてあげた方が良いでしょう。
Ⅰ.咳が気管を過度に傷付けている
咳は、瞬間的に気管に強い圧をかける事で、気管に侵入した異物を体外に排出する行為です。
気管内に高い圧がかかるため、異物が排出されるだけでなく、気管壁を傷付けてしまう事があります。特に異物によって気管壁が障害されていると、咳で圧がかかったときにその傷が更に広がってしまう事もあります。
このように、咳によって異物を排出するメリットよりも、咳によって気管が傷付くデメリットの方が大きいと判断される場合は、咳止めなどを使う意義が出てきます。
具体的には、気管内のばい菌はもう少なくなっているのに、焼け跡のように気管が傷付いており、刺激に敏感になっているために咳が出やすくなっているような状態などです。
気管がボロボロになってしまうと、細胞のバリア機能が失われるため、弱い刺激でも咳反射が生じやすくなってしまいます。この状態で咳反射が生じてしまうと、更に気管壁は障害されていき、更に咳が誘発されるという悪循環に陥ります。
このような咳は本来の「ばい菌を体外に排出する」という役割は乏しく、ただ気管を傷付けているだけであり、咳のデメリットの方が高い状態だと判断する事が出来ます。
このような悪循環を断ち切りたい時、メジコンのような咳止めを服用する意味はあります。
Ⅱ.気管に異物がないのに咳が生じている
気管に異物やばい菌などはないのに、ただ気管が刺激されて咳が生じている時も、咳を抑えてあげた方が良いでしょう。
このような場合も、咳をするメリット(=異物を体外に排出する)がありません。ただ気管に強い圧をかけて気管壁を傷付けるというデメリットだけが生じています。
ではこれはどのような状態が該当するでしょうか。
例えば呼吸器系にアレルギーが生じてしまうと、異物やばい菌の侵入がなくても気管壁に炎症が生じてしまい、気管を刺激してしまいます。
呼吸器系にアレルギーが生じる疾患としては、
- 気管支喘息
- 咳喘息
などがあります。このような場合は咳反射が生じるメリットが乏しいため、咳止めが使用される事があります(合わせて抗アレルギー剤やステロイド等も用いられます)。