メイアクトMS錠・メイアクトMS顆粒(一般名:セフジトレンピボキシル)は、1994年から発売されている抗菌薬になります。抗菌薬の中でも「第3世代セフェム系」という系統に属します。
抗菌薬というのは「細菌をやっつけるお薬」のことになります。そのため抗菌薬は、主に細菌が身体に悪さをしている時に細菌をやっつけるために用いられます。よく誤解されるのですが細菌とウイルスは異なり、抗菌薬はウイルスには効きませんので、ウイルス感染が原因である場合には用いてもほとんど意味がありません。
メイアクトMSは幅広い菌に対して効果を発揮します。また作用も比較的強力で副作用も少ないため一般外来において呼吸器感染症や尿路感染症、耳鼻科系感染症などに対して広く用いられています。
しかし抗菌薬というのは、漫然と安易に用いて良いものではありません。必要性をしっかりと見極めて使わないと、「耐性菌」を作ってしまったりと後々困った事態を引き起こしてしまうことになります。
抗菌薬にもたくさんの種類があります。これらの中でメイアクトMSはどのような位置付けになるのでしょうか。
メイアクトMSの効果や特徴、どのような作用機序を持つお薬でどのような方に向いているお薬なのかについてみていきましょう。
目次
1.メイアクトMSの特徴
まずはメイアクトMSの特徴について、かんたんに紹介します。
メイアクトMSはグラム陰性菌を始め、グラム陽性菌にもしっかりとした効果を発揮します。そのため、呼吸器感染症、尿路感染症、耳鼻科系の感染症を始め、多くの感染症に有効な抗菌剤になります。
グラム陽性菌:グラム染色という染色法で染まる菌。細菌細胞の外壁(ペプチドグリカン層)が厚い。ブドウ球菌、肺炎球菌、レンサ球菌などが属する
グラム陰性菌:グラム染色という染色法で染まらない菌。細菌細胞の外壁(ペプチドグリカン層)が薄い。インフルエンザ菌、大腸菌、モラキセラ・カタラーリスなどが属する
メイアクトMSは第3世代セフェム系という種類に属する抗菌薬です。セフェム系は第1世代から第4世代まであります。各世代ごとに効く菌の特徴に違いはありますが、基本的には世代が上がるに連れ、幅広い菌に効くように改良されています。
メイアクトMSが属する第3世代は、基本的には「グラム陰性菌」という種類の菌にしっかりと効く種類の抗菌薬なります。グラム陰性菌は大腸菌、クレブシエラといった尿路感染症(腎盂腎炎や膀胱炎など)の原因となることが多いため、第3世代は尿路感染症においては特に効果を得られやすいお薬です。
また一部の呼吸器感染症(咽頭炎・気管支炎・肺炎など)もインフルエンザ菌などのグラム陰性菌が原因となりますので、第3世代はこれらが疑われる呼吸器感染症に投与されることもあります。
更にメイアクトはこれらの特徴以外にも、
- グラム陽性菌にも比較的効果がある(特に肺炎の原因として多い肺炎球菌や黄色ブドウ球菌、咽頭炎の原因として多いレンサ球菌などにも良く効く)
- 抗菌薬が効きにくいグラム陰性菌である「嫌気性菌」にも効果がある
という特徴があります。
グラム陽性菌は、肺炎球菌・ブドウ球菌などの呼吸器感染症に多い原因菌の他、表皮ブドウ球菌など、皮膚感染症の原因菌も多く含まれます。
メイアクトMSはこのように幅広い菌に効く抗菌剤であり、これが大きなメリットです。また効果も強く菌をしっかりとやっつけてくれます。メイアクトMSは外来でよく処方される抗菌薬の1つですが、その理由の1つはこのように幅広く・しっかりと効くからです。
しかし抗菌剤では、「幅広く効く」という事は「耐性菌を作りやすい」ということを同じ意味になります(耐性についての問題は後述します)。耐性菌とは簡単に言えば、その抗菌薬に抵抗性を持ってしまう菌で、耐性が出来ると抗菌薬が効かなくなってしまいます。
必要な時にメイアクトMSを使うのは問題ありませんが、必要以上に使ってしまうと耐性菌を作ってしまい、後々抗菌薬が効かない身体になってしまうことがあります。
そのため抗菌薬は安易に用いていいものではありません。特にメイアクトMSのような強く・幅広く効く抗菌薬は適応をしっかりと見極めて使用しなければいけません。
またメイアクトMSは副作用が比較的少ないというのも大きなメリットです。腸内細菌を殺菌してしまう事により下痢や軟便といった副作用が生じることがありますが、全体的には副作用は少なく、安全に使えます。
以上からメイアクトMSの特徴として次のようなことが挙げられます。
【メイアクトMSの特徴】
・細菌をやっつける抗菌薬である(ウイルスには効かない)
・グラム陰性菌に良く効く第3世代セフェム系である
・他の第3世代セフェム系と比べて、一部のグラム陽性菌にもよく効く
・他の第3世代セフェム系と比べて、嫌気性菌にも効く
・副作用は全体的に少なめだが、下痢に注意
・幅広く効くため、安易に投与すると耐性菌が出来てしまうので注意
2.メイアクトMSはどのような疾患に用いるのか
メイアクトMSはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
<適応菌種>
メイアクトMSに感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア属、インフルエンザ菌、ペプトストレプトコッカス属、バクテロイデス属、プレボテラ属、アクネ菌、百日咳菌<適応症>
表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、乳腺炎、肛門周囲膿瘍、咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)、急性気管支炎、肺炎、肺膿瘍、慢性呼吸器病変の二次感染、膀胱炎、腎盂腎炎、中耳炎、副鼻腔炎、胆嚢炎、胆管炎、バルトリン腺炎、子宮内感染、子宮付属器炎、眼瞼膿瘍、涙嚢炎、麦粒腫、瞼板腺炎、歯周組織炎、歯冠周囲炎、顎炎、猩紅熱、百日咳
メイアクトMSは、このように幅広い菌に作用し、幅広い細菌感染症に対して効果を発揮します。
メイアクトMSがしっかりと効く理由として、細菌をやっつけるために必要な抗菌薬の血中濃度よりも高い血中濃度を保ちやすいお薬だという特徴があります。
そのため、通常であれば抗菌薬が届きにくい部位の感染症に対しても用いられます。メイアクトMSは耳鼻科領域で中耳炎などの治療にも用いられますが、これは高い血中濃度を保ち、抗菌薬が届きにくい部位にもしっかり届くお薬だからです。
また泌尿器系(腎臓・尿管・膀胱など)や呼吸器系(咽頭・気管支・肺など)を始め、皮膚、乳腺、胆嚢・胆管、生殖器系(子宮など)、眼周囲などにも届くため、幅広い適応を有しているのです。
3.メイアクトMSにはどのような効果・作用があるのか
メイアクトMSは抗菌薬であり、細菌をやっつける作用があります。
メイアクトMSの主成分の「セフジトレンピボキシル」は、腸管から吸収される時にセフジトレンに代謝され、抗菌力を発揮するようになります。
セフジトレンは細菌の細胞の外側を覆っている「細胞壁」を合成する酵素をブロックするのがそのはたらきです。これによって細菌は正常な細胞壁を作れなくなります。するともろくなった細胞壁は容易に壊れてしまいます。これがメイアクトMSの殺菌作用の機序になります。
抗菌薬は殺菌的に作用するもの(細菌を殺す)と、静菌的に作用するもの(細菌の増殖を抑える)の2種類がありますが、このうちメイアクトMSは殺菌作用を持つ抗菌薬になります。
メイアクトMSはこのような作用によって菌をやっつけますが、具体的にどのような菌に効くのでしょうか。
Ⅰ.グラム陰性菌への殺菌作用
メイアクトMSは、多くのグラム陰性菌へ効果を発揮します。
大腸菌などが原因として多い尿路感染症(腎盂腎炎・膀胱炎など)や一部のグラム陰性菌(インフルエンザ菌やモラキセラ・カタラーリスなど)が原因となることのある呼吸器感染症(肺炎・気管支炎など)に対して効果を発揮します。
また抗菌薬が効きにくいグラム陰性菌である嫌気性菌(ペプトストレプトコッカス属、アクネ菌、バクテロイデス属、プレボテラ属など)にもしっかりとした作用を示します。
Ⅱ.グラム陽性菌への殺菌作用
メイアクトMSは一部のグラム陽性菌に対しても高い効果を発揮します。
具体的には、呼吸器感染症の原因として多い肺炎球菌やブドウ球菌属にも効きます。また咽頭炎の原因として多いレンサ球菌属にも効果を発揮します。
メイアクトMSは第3世代のセフェム系でありながら、市中肺炎の原因として多い肺炎球菌に良好な活性を持っているのが特徴です。
メイアクトMSは、肺炎の原因として多い
- 肺炎球菌(グラム陽性球菌)
- インフルエンザ菌(グラム陰性桿菌)
のどちらにも良好な活性を持っています。
4.メイアクトMSの副作用
メイアクトMSは非常に多く処方されている抗菌薬です。その一番の理由はメイアクトMSの安全性の高さにあります。これは言い換えれば「副作用が少ない」という事です。
メイアクトMSは副作用が非常に少ないお薬です。メイアクトMSの副作用発生率は0.71~2%前後と報告されており、高い安全性を有しています。
生じうる副作用としては、
- 消化器症状(下痢、軟便、嘔気、胃不快感など)
- アレルギー症状(発疹など)
- 肝酵素の上昇(AST、ALTなど)
- 好酸球増多
などが報告されています。特に認められやすいのは下痢・軟便になります。
なかでも3歳未満の子が服用すると、下痢・軟便は生じやすいと報告されていますので、小さい子がメイアクトMSを服用する時は注意が必要で、心配であればあらかじめ整腸剤なども併用しておいた方がいいかもしれません。
非常に稀ですが重篤な副作用としては、
- ショック
- 偽膜性大腸炎等の血便を伴う重篤な大腸炎
- 中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)
- 間質性肺炎
- 肝機能障害
- 急性腎不全等の重篤な腎障害
- 無顆粒球症
- 低カルニチン血症
などが報告されていますが、適正に使用していれば滅多に見かけることはありません。
5.メイアクトMSの用法・用量と剤形
メイアクトMSは、
メイアクトMS錠 100mg
メイアクトMS小児用細粒 10%(バナナ味)
の2つの剤型があります。
ちなみに余談になりますが、メイアクトMSの「MS」ってどんな意味があるのでしょうか。これは実は販売会社の頭文字を取っているだけです。メイアクトMSは明治製菓が発売していますので、「MS(Meiji Seika)」だそうです。
メイアクトMSの使い方は、
<成人>
通常、成人には1回100mgを1日3回食後に経口投与する。なお、年齢及び症状に応じて適宜増減するが、重症又は効果不十分と思われる場合は、1回200mgを1日3回食後に経口投与する。<小児>
通常、小児には1回3mg/kgを1日3回食後に経口投与する。なお、年齢及び症状に応じて適宜増減するが、成人での上限用量の1回200mgを1日3回を超えないこととする。肺炎、中耳炎、副鼻腔炎の場合は、通常、小児には1回3mg/kgを1日3回食後に経口投与する。なお、必要に応じて1回6mg/kgまで投与できるが、成人での上限用量の1回200mgを1日3回を超えないこととする。
となっています。
メイアクトは空腹時に投与するより、食後に投与した方が血中濃度が高くなると報告されており、基本的には食後の服用が推奨されます。
また抗菌薬は大きく分けると効き方によって2種類に分けられます。それは「時間依存型」の抗菌薬と「用量依存型」の抗菌薬です。
専門的な詳しい説明は省きますがかんたんに言うと、時間依存型の抗菌薬は、抗菌作用を発揮する濃度以上の濃度を「長い時間」保つことが菌をやっつけるためには重要になります。そのため、なるべく服用回数を分割して、血中濃度を一定に保つことが効果を発揮するためには大切です。
一方で用量依存型の抗菌薬は、短期間であってもなるべく高い血中濃度を得ることが菌をやっつけるためには重要になります。そのため、なるべく一回にまとめて服薬し高い血中濃度が得られるようにすることが効果を発揮するためには大切です。
メイアクトMSは時間依存性の抗菌薬になります。そのため1日3回に分けて服薬することとなっています。
反対に例えばニューキノロン系の「クラビット」などは用量依存性の抗菌薬ですので、1日1回の投与を行います。
6.メイアクトMSが向いている人は?
以上から考えて、メイアクトMSが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
メイアクトMSの特徴をおさらいすると、
・細菌をやっつける抗菌薬である(ウイルスには効かない)
・グラム陰性菌に良く効く第3世代セフェム系である
・他の第3世代セフェム系と比べて、一部のグラム陽性菌にもよく効く
・他の第3世代セフェム系と比べて、嫌気性菌にも効く
・副作用は全体的に少なめだが、下痢に注意
・幅広く効くため、安易に投与すると耐性菌が出来てしまうので注意
というものでした。
幅広い菌に対して、しっかりと効くのがメイアクトMSの大きなメリットです。そのため、「どの菌が原因かはっきり特定できないけど、でも取りあえず菌をやっつけないといけない」という状況ではとても助かるお薬になります。
しかし一方で色々な菌にしっかりと効いてしまうメイアクトMSは、耐性菌を作ってしまうリスクもあるお薬になります。そのため、「明らかにグラム陽性菌の感染の可能性が高い」「明らかにグラム陰性菌の感染の可能性が高い」などと菌の予測・特定が出来ている場合は、もうちょっとピンポイントで効く抗菌薬の方が適していることもあります。
メイアクトMSは、耐性菌がなるべく出来にくいような工夫もされています。
菌をやっつけるために必要な血中濃度よりも高い血中濃度を保てるようにすることで、中途半端に効くという状態を防ぎ、これにより耐性菌ができにくくしています。
耐性菌は抗菌薬が中途半端に効いている時にもっとも生じやすいのです。耐性菌が出来る前にしっかりと菌を全滅させることが出来れば耐性菌は生じません。しかし中途半端に菌が生き残れるような環境だと、耐性菌が生まれてしまいます。
また、細菌の細胞壁合成に関係する酵素であるPSP2Xにしっかりとくっつくというのも耐性菌を生じにくくさせると考えられています。しっかりとくっつけば、しっかりと抗菌作用が発揮されるため、耐性菌は生じにくくなります。一方で中途半端にくっついていると抗菌作用も中途半端になるため耐性菌が生じやすいのです。
このような特徴はありますが、それでも耐性菌は全く生じないというわけではありません。強く・幅広く効くからこそ使いどころを間違えず、本当に必要な時に使用していただきたい抗菌薬です。
7.抗菌薬の中でのメイアクトMSの位置づけ
抗菌薬は数多くありますが、その中でメイアクトというのはどのような位置づけになるのでしょうか。
抗菌薬の歴史は、1929年のペニシリンの発見から始まります。ペニシリンはフレミングというイギリスの細菌学者の偶然の発見によって見出されました。
ブドウ球菌の培養を行っていた培地をたまたま放置していたところ、その培地にアオカビが混入してしまいました。そして彼は、アオカビが混入した部位の培地はブドウ球菌の発育が抑制されていることに偶然気付いたのです。
ここから彼は「アオカビの何らかの成分にブドウ球菌をやっつける作用があるのではないか」と考えました。そこからアオカビの成分を抽出し、ペニシリンを発見したのです。
ペニシリンの発見は医学史上の中でも革命的な出来事で、これにより私たちは細菌と闘う武器を手に入れました。それまでは感染症により多くの命が奪われていましたが、ペニシリンの発見から、感染症による人類の死亡は見事に激減しました。
ペニシリンのすごいところは、私たち人間も、細菌も同じ「生物」なのに、細菌だけ攻撃するところです。細菌はやっつけるのに、私たちの身体を攻撃することはほとんどないというのはよく考えればすごく不思議ですね。
なぜこのようなことが可能なのでしょうか。
実はペニシリンは、細菌に存在する「細胞壁」という細胞の外側を覆う壁を標的にしているのです。ペニシリンは細菌の細胞壁を作るために必要な酵素のはたらきをブロックします。
すると細菌は正常な細胞壁が作れません。もろい細胞壁が作られることになり、これによって細菌の細胞は容易に破壊されてしまいます。これがペニシリンの殺菌作用の機序です。
そして注目すべきは、細菌の細胞には細胞壁がありますが、私たち動物の細胞には細胞壁がないというところです。
この「細胞壁」を標的にすることによって、抗菌薬は細菌には有毒でありながら、動物(人間含む)には無毒という理想的な機序を可能にしたのです。
ペニシリンの発見を機に、抗菌薬の開発・研究が盛んになり、その後多くの抗菌薬が開発されました。
その1つがメイアクトMSが属する「セフェム系」です。
1948年、セファロスポリンという抗菌作用を持つ成分が発見されました。これがセフェム系抗菌薬の始まりになります。セファロスポリンはペニシリンと同じように細菌の細胞壁を作る酵素をブロックすることで抗菌作用を発揮します(しかしペニシリンとはブロックする酵素が異なります)。
セファロスポリンの発見後、同様の構造を持つ抗菌薬が次々を改良を重ねられ開発され、これらは「セフェム系」と総称されるようになりました。セフェム系は古いものから順に第1世代、第2世代、第3世代、第4世代と分けられています。
それぞれのおおよその特徴を挙げると
- 第1世代:グラム陽性菌にしっかりと効く
- 第2世代:グラム陰性菌にしっかり効き、グラム陽性菌にもある程度効く
- 第3世代:グラム陰性菌にしっかり効き、グラム陽性菌にも結構効く
- 第4世代:グラム陽性菌とグラム陰性菌に、しっかり効く
となります(例外は多々あります。理解しやすくするため、おおよそのイメージです)。
この中でメイアクトMSは第3世代に属します。
8.抗菌薬による耐性菌を増やさないために知って欲しい事
抗菌薬には様々な種類があります。
おおよそのイメージで言うと、古いお薬(ペニシリンや第1世代セフェムなど)は、効く菌が少なく、新しいお薬になるに連れて多くの菌に効くように改良されています。
一見すれば、たくさんの菌に効く新しい抗菌薬の方が良いように感じるでしょう。しかし抗菌薬というのはそう単純なものではありません。
抗菌薬が標的とする細菌は生物です。そして生物は絶滅しないよう、環境に応じて進化するという特徴があります。そして、この進化は絶滅の危機に瀕すると生じやすくなります。
キリンの首は何故長いのかというお話を聞いたことがあるでしょうか。キリンの首が長いのは、高い場所にある草を食べないと生きていけなかったからです。そのため、首の短いキリンは死滅してしまい、首の長いキリンのみが生き残ったと考えられています。「高い場所にしか草がない」という絶滅の危機において、キリンは環境に適応し進化したのです。
これと同じで、ある抗菌薬を使って細菌にとって絶滅の可能性のある環境を作ると、「抗菌薬に抵抗する力のある細菌」が生まれ、増殖してしまうということが起こります。このような菌を「耐性菌」と呼びます。
ある抗菌薬に耐性を持ってしまう菌が生まれると、その抗菌薬はもう効かなくなります。1つの抗菌薬に耐性があるだけなら、抗菌薬の種類を変えれば解決しますが、これを繰り返していると最終的には、「どの抗菌薬も効かない菌(多剤耐性菌)」が出来てしまいます。
これは人類にとって大きな脅威です。多剤耐性菌が世の中にまん延するようになれば、また昔のように多くの方が感染症で死んでしまう未来が来るかもしれません。
更にやっかいなことに細菌はプラスミドという遺伝子を持っており、この遺伝情報は細菌から細菌へ容易に受け渡すことが出来ると考えられています。つまり、ある菌がある抗菌薬に耐性を持ってしまうと、その「薬剤耐性」という遺伝情報をすぐに別の菌にも渡せてしまうのです。これによりあっという間に耐性菌は身体の中で増えてしまいます。
耐性菌というのは、私たちにとって非常に怖い存在であり、できる限り耐性菌を作らないように注意しながら抗菌薬は使っていかなければいけません。
この耐性化を防ぐためには、抗菌薬を「必要な時のみ」「必要な期間のみ」「必要な作用のみ」で使うことが非常に重要です。
まず、抗菌薬は「必要な時のみ」使うようにしなければいけません。
熱が出たら取りあえず抗菌薬を飲む、などというのはしてはいけません。例えば身近な疾患として風邪(急性上気道炎)がありますが、風邪の原因のほとんどは細菌ではなく「ウイルス」だと言われています。そして抗菌薬はウイルスには効きません。
つまりウイルス性の風邪に対して抗菌薬を服用するというのは、無意味なだけでなく、ただただ耐性菌をせっせと身体の中に作ってしまっているだけなのです。
こうなってしまうと、本当に抗菌薬が必要な病気が生じた時、すでに身体の中が耐性菌だらけになっていて、抗菌薬が効かなくなっているという事態が起こり得ます。
また、抗菌薬が必要な状況だとしても、「まだ心配だから」と不要に長期間服薬することも良くありません。抗菌薬へ身体がさらされる期間が長ければ長いほど、細菌が耐性を獲得するチャンスが増えてしまうからです。
必要な時に抗菌薬を使うのは問題ありません。医師が必要だと判断するのであればしっかりと使いましょう。しかし漫然と使うのはよくありません。
抗菌薬はしっかりと短期間使うのが一番耐性菌を作りにくいと考えられています。反対に中途半端にダラダラと使い続けると耐性菌は作られやすくなります。
そして最後の注意点として、抗菌薬は「必要な作用のみ」が理想です。
例えばグラム陽性菌による感染なのに、「グラム陽性菌にもグラム陰性菌にも効く抗菌薬」を投与してしまうのは最善の治療とは言えません。確かにグラム陽性菌をやっつけることは出来ます。しかし今回の感染の原因になっていないグラム陰性菌に対しては耐性を獲得させてしまう可能性があるからです。
この場合はグラム陽性菌にしか効かない抗菌薬を使うのが理想で、そうすればグラム陰性菌に耐性を獲得させずに済みます。
メイアクトは幅広い菌に抗菌作用を持ちます。そのため「どの菌が原因菌なのか分からない」「でも早く治してあげないとまずい状態」であれば、使うメリットはあります。
しかし「明らかに〇〇菌の可能性が高い」と推定できるのであれば、より効く範囲の狭い抗菌薬を選択した方が、不要に耐性菌を作らないで済むのです。
細菌の抗菌薬への耐性化は、年々進んでいます。このまま抗菌薬の乱用が続けば、いずれどの抗菌薬も効かなくなってしまう菌(多剤耐性菌)が多くなるだろうと指摘する専門家もいます。
そうなってしまえば、人類にとっては大きな脅威です。そのような未来にしないためにも、抗菌薬は「必要な時のみ」「必要な期間のみ」「必要な作用のみ」を意識したいところです。
間違ってもウイルス性の風邪を治す目的で抗菌薬を服薬してはいけません。