メチコバイド(一般名:メコバラミン)は、1981年から発売されている「メチコバール」というお薬のジェネリック医薬品です。
ジェネリック医薬品とは、先発品(メチコバール)の特許が切れた後に他社から発売された同じ成分からなるお薬の事です。お薬の開発・研究費がかかっていない分だけ、薬価が安くなっているというメリットがあります。
メチコバイドはビタミン剤です。ビタミンの中でも「ビタミンB12」になります。
ビタミンB12が不足すると身体には様々な支障が生じますが、特に多いものとしては貧血や神経障害(しびれや痛みなど)などが挙げられます。このうちメチコバイドは特に「神経障害」に効果を発揮するお薬になります。
ビタミンB12は基本的には食事から摂取できるものです。そのため、まずは規則正しい食生活によって摂取していただきたいのですが、どうしても十分なビタミンを食事から摂取できなかったり、何らかの疾患によってビタミンB12が失われてしまう場合、メチコバイドのようなお薬でビタミンB12を補うことがあります。
ビタミンB12であるメチコバイドは、どのような方に適したお薬なのでしょうか。
ここではメチコバイドの特徴や効果・副作用について紹介していきます。
目次
1.メチコバイドの特徴
まずはメチコバイドの全体的な特徴についてみてみましょう。
メチコバイドはビタミンB12になります。そのためビタミンB12が欠乏している時に投与されます。
ビタミンB12には様々なはたらきがありますが、基本的な作用は核酸・たんぱく質・脂質といった身体を作るのに必要なものの合成を促進する作用を持ちます。
メチコバイドは特に神経細胞に移行性が高く、上記作用によって神経細胞を修復するはたらきに優れるため、主に神経障害の改善に用いられます。
メチコバイドの主成分は「メコバラミン」というビタミンB12になります。
ちなみにビタミンB12は体内でどのようなはたらきをしているのでしょうか。
ビタミンB12には様々なはたらきがありますが、主なものとしては、
- 核酸・たんぱく質・脂質の合成を促進する
- 赤血球の合成を促進する
- 神経の修復を促進する
といった作用が挙げられます。
私たちは日々、食事から炭水化物・たんぱく質・脂質といった栄養素を摂取し、これら摂取した栄養素をもとに身体に必要な物質を合成しています。
ビタミンB12は身体を構成する成分のうち、
- 核酸(いわゆるDNA、RNAといった遺伝情報)
- たんぱく質(筋肉などを構成する成分)
- 脂質(細胞膜やホルモンなどの成分)
などの合成を助ける役割があります。
ビタミンB12が欠乏するとこれらの合成がしにくくなります。
核酸には遺伝情報が入っており、細胞が分裂する際はこの核酸の中にある情報を元に細胞分裂が行われます。核酸を十分に合成できなくなると、必要な時に細胞分裂ができなくなり、成長の障害が生じます。また組織が破壊されたときに新たな細胞を合成できなくなるため組織を修復する能力も低下します。
たんぱく質や脂質は身体を構成するために不可欠な物質です。たんぱく質・脂質が十分に合成できないと筋肉量が減って体力が低下したり、ホルモンバランスの崩れて心身に不調が生じる可能性もあります。
ビタミンB12は赤血球を作るためにも必要です。通常、赤血球は骨髄の中に存在する赤芽球という血球細胞から作られますが、ビタミンB12が欠乏すると赤芽球が正常に作られなくなり、巨赤芽球という巨大な赤芽球が作られてしまいます。
巨赤芽球は異常な血球であるため、赤血球に成長できずにそのまま死んでしまいます(これを無効造血と呼びます)。
ビタミンB12が欠乏すると巨赤芽球が多くなり、その結果正常な赤血球が作られなくなるために貧血が進行してしまいます。これを「巨赤芽球性貧血」「ビタミンB12欠乏性貧血」と言います。
またビタミンB12は神経組織を作ったり修復するためにも必要です。ビタミンB12がたんぱく質や脂質の合成を促進する事は神経組織の合成も促進する事になるためです。ビタミンB12が欠乏すると神経組織が正常に作られず、神経痛やしびれといった症状が生じやすくなります。また神経障害が生じた際もその修復がされにくくなります。
ビタミンB12は私たちが普段口にするような食べ物から十分摂取できます。ビタミンB12を特に多く含む食事には、「魚介類」「レバー」「乳製品」などがあります。
これらは特殊な食品ではなく、日常で普通に摂取できるものです。そのため通常のバランスの取れた食生活を送っていればビタミンB12が欠乏する事はほとんどありません。
しかし極端な偏食が続いていたり、ビタミンB12が失われやすい状況にあると、ビタミンB12欠乏が生じ、上記のような症状が出現する事があります。
そのような時にメチコバイドのようなビタミン剤が検討されます。
ちなみに人工的に合成されたビタミンB12にはいくつか種類があり、
- 補酵素型B12(DBCC)
- メチル型B12(CH13-B12)
などがあります。このうちメチコバイドは主にCH13-B12になります。一方でDBCCが主となるお薬には「ハイコバール(一般名:コバマミド)」があります。
DBCCはビタミンB12のはたらきの中でも特に「赤血球の合成を促進する作用」にはたらき、一方でCH13-B12は主に「核酸・たんぱく質・脂質の合成を促進する作用」「神経の修復を促進する作用」にはたらきます。
そのため同じビタミンB12でもハイコバールは主に貧血に対して適応を持ち、メチコバイドは主に神経障害に対して適応を持っているという違いがあります。
またメチコバイドは基本的にはビタミンB12が不足して生じている神経障害に用いられるべきですが、適応疾患上はビタミンB12が欠乏しているかどうかは関係なく「末梢神経障害」に用いる事が出来ます。
メチコバイドはお薬ではありますが、食品にも含まれているビタミンB12が主成分ですので副作用はほとんどありません。安全性は極めて高いお薬になります。
またメチコバイドはジェネリック医薬品ですので、先発品と比べて薬価が安いというメリットもあります。
以上から、メチコバイドの特徴として次のようなことが挙げられます。
【メチコバイドの特徴】
・ビタミンB12である |
2.メチコバイドの適応疾患と有効率
メチコバイドはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
末梢性神経障害
メチコバイドはビタミンB12ですので、基本的にビタミンB12が足りていない時に投与されるお薬になります。
逆に言えばいくら神経障害があっても、その病態がビタミンB12不足と無関係のものであれば服用しても薬理学的には意味はありません(適応疾患上はビタミンB12が不足していなくても使う事は出来ます)。
では、メチコバイドはこれらの疾患に対してどのくらいの有効率があるのでしょうか。
メチコバイドはジェネリック医薬品ですので、有効性に関する詳しい調査は行われていません。しかし同じ主成分からなる「メチコバール」では行われており、メチコバール1,500μg/日を末梢神経障害に4週間投与した調査では、その有効率は、
- メチコバール群で軽度改善以上は77.3%、中等度改善以上は38.6%
- プラセボ(偽薬)群で軽度改善以上は53.3%、中等度改善以上は26.7%
とメチコバール群でより高い改善効果が得られた事が確認されています。
また同じビタミンB12製剤であるハイコバール(一般名:コバマミド)を同様に末梢神経障害に4週間投与したところ、
- ハイコバール群で軽度改善以上は57.8%、中等度改善以上は22.2%
とプラセボとほとんど変わらない有効率であったことが示され、やはり末梢神経障害にはDBCCであるハイコバールよりもCH13-B12であるメチコバールの方が効果が高い事が分かります。
同じ主成分からなるメチコバイドもこれと同程度の有効率があると考えられます。
3.メチコバイドの作用
メチコバイドにはどのような作用があるのでしょうか。
メチコバイドはビタミンB12になります。ビタミンB12の中でもメチコバイドは特に神経細胞への移行性に優れるため、神経に作用しやすいという特徴があります。
メチコバイドの作用機序について紹介します。
Ⅰ.核酸・たんぱく質・脂質の合成を促進する
メチコバイドには、
- 核酸(いわゆるDNA、RNAといった遺伝情報)
- たんぱく質(筋肉などを構成する成分)
- 脂質(細胞膜やホルモンなどの成分)
の合成を促進するはたらきがあります。
これらの物質は、いずれも正常な身体を作るために必須のものです。
核酸は「DNA」や「RNA」と呼ばれるもので、遺伝情報であり、細胞はこの遺伝情報をもとに細胞分裂をして増殖していきます。
子供が成長する時は、核酸の遺伝情報を元に細胞が分裂し、これによって正常な組織や器官が作られます。また何らかの原因で組織の一部が破壊されてしまった際は、残った組織の細胞が細胞分裂する事で組織を修復します。
たんぱく質は身体を作るために重要な物質です。特に筋肉を作るのに重要になります。
脂質も身体を作るために重要な物質です。脂質はホルモンや細胞膜を作るのに必要な物質になります。
ビタミンB12はこれらの物質の合成を促すはたらきがあります。
逆に言えば、ビタミンB12が欠乏してしまうと、これらの合成が不十分になってしまう可能性があるという事でもあります。
Ⅱ.神経組織の修復を促進する
ビタミンB12は核酸・たんぱく質・脂質などの合成に必要であるため、同様に神経組織の成長や修復にも関わっています。
神経組織も、神経細胞が核酸の遺伝情報をもとに増殖して形成されていくものであり、またその構成成分として脂質やたんぱく質があるためです。
特にメチコバイドはビタミンB12の中でも神経細胞への移行性が高く、神経細胞の修復に優れます。
実際、動物実験において坐骨神経に人工的にダメージを与え、メコバラミン(メチコバイドの主成分)を投与したところ、
- 軸索の骨格たんぱくの輸送を正常化した
- 変性神経の出現を抑制した
- 髄鞘の構成成分であるレシチンの合成を促進し、髄鞘形成率を高める
- 神経線維の興奮性を高めた
- 脳の神経伝達物質の分泌量を正常化した
と神経を正常化させる作用がある事が示されています。
ちなみに軸索というのは神経細胞の一部、神経細胞の細胞体から出ている細長い枝のようなものです。神経細胞から発された電気信号は、この軸索を通って遠くの神経細胞に伝えられます。
軸索の周りには「髄鞘」という脂質成分でおおわれています。この髄鞘は軸索を電気が効率的に流れるために重要な役割を持っています。
4.メチコバイドの副作用
メチコバイドにはどのような副作用があるのでしょうか。またその頻度はどのくらいなのでしょうか。
メチコバイドはジェネリック医薬品のため副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし同じ主成分からなる「メチコバール」では行われており副作用発生率は0.96%と報告されています。
同じ主成分からなるメチコバイドもこれとおおよそ同等の副作用発生率だと考えられます。
メチコバイドはビタミンB12になり、ビタミンというのは本来食べ物などに含まれている成分になります。
元々普段から口にしている成分ですので、適正に摂取している分には大きな副作用が出ることはほとんどありません。
報告されている副作用としては、
- 食欲不振、嘔気、下痢などの消化器症状
- 発疹等の過敏症状
などがあります。
一定の注意は必要になりますが、適正量の摂取ではほとんど問題になる事はなく、その頻度も少なく、また重篤となる事もほとんどありません。
5.メチコバイドの用法・用量と剤形
メチコバイドには、
メチコバイド錠 500μg
の1剤形のみがあります。
メチコバイドの用法・用量は次のようになります。
通常成人は、1日1,500μgまでを1~3回に分けて経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
メチコバイドは食品にも含まれるビタミンが主成分であるため、その飲み方もある程度幅を持たせた服薬法となっています。
なお1日に必要なビタミンB12の量は成人で2.4μgです。妊娠中の女性で2.6μg、授乳中の女性で2.8μgとやや増えるものの、そこまで多量に必要になるビタミンではありません。
ビタミンB12は「レバー」「魚貝類」「乳製品」などに多く含まれており、これらの食事を適正に摂取していて、ビタミンB12が欠乏するような病態がなければ不足する事はありません。
6.メチコバイドが向いている人は?
以上から考えて、メチコバイドが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
メチコバイドの特徴をおさらいすると、
【メチコバイドの特徴】
・ビタミンB12である |
というものでした。
誤解してはいけないのが、メチコバイドはそもそも食事からビタミンB12を十分に摂取できている人には不要なお薬だという事です。
十分なビタミンB12が食事で補えているのに、「もっと神経の修復力を高めたい!」と大量にメチコバイドを服薬しても意味はありません。
十分なビタミンB12が摂取できていなかったり、ビタミンB12の消耗が通常より激しいと予測されるような状態において、神経障害などが生じているような場合はメチコバイドを使うことで改善が得られる可能性があります。
7.ビタミンB12を多く含む食品・サプリメントは?
メチコバイドを服用する事で、効率的にビタミンB12を摂取する事ができますが、本来ビタミンというのは医薬品から摂取するものではなく、食事から十分に摂取できるものです。
ビタミンB12の1日必要量としては、おおよそ2.4μg前後だと言われています(性別、年齢で多少異なります)。
妊婦さんや授乳婦さんなどではもう少し多くなりますが、それでも1日3μgも摂取すれば十分です。
ではビタミンB12が豊富に含まれている食品にはどのようなものがあるでしょうか。
ビタミンB12は、
- レバー
- 魚貝類
- 乳製品
などに多く含まれます。
また食事から十分にビタミンB12を摂取できていない場合は、市販のサプリメントでもビタミンB12を多く含むものがあります。
ネイチャーメイドB12は1錠でビタミンB12を50μg含んでいます。メチコバイドと比べると含有量は少ないですが、1日に必要な量としては十分です。