プリンペラン錠・細粒(メトクロプラミド)の効果と副作用【制吐薬】

プリンペラン錠・プリンペラン細粒(一般名:メトクロプラミド)は1965年から発売されている制吐剤になります。

制吐剤とはいわゆる「吐き気止め」の事です。

プリンペランは非常に古いお薬ですが、吐き気に対する効果もしっかりしており、また副作用の頻度も多くはありません。しかしプリンペランは副作用の頻度は多くはないものの、ドーパミン受容体という部位に作用する特性上、注意すべき副作用がいくつかあります。

プリンペランはどんなお薬で、どんな患者さんに向いているのでしょうか。

プリンペランの効果や特徴についてみていきましょう。

 

1.プリンペラン錠・細粒の特徴

まずはプリンペランの特徴について、かんたんに紹介します。

プリンペラン(一般名:メトクロプラミド)は吐き気止めになりますが、嘔吐は大きく分けて「中枢性嘔吐」「末梢性嘔吐」の2つに分けられます。

中枢性嘔吐は、脳の延髄にある嘔吐中枢の刺激によって生じる嘔吐です。そして末梢性嘔吐は、胃などの消化管が刺激されることによって生じる嘔吐です。

プリンペランはこの中枢性嘔吐・末梢性嘔吐のどちらにも効果を示すお薬になります。そのため幅広い原因の嘔吐に効果を発揮してくれます。またその作用も強く、吐き気をしっかりと改善させてくれます。

プリンペランは古いお薬になりますが、今でも広く用いられています。その理由の1つが、この「幅広い嘔吐に対してしっかりと効果を示す」点でしょう。中枢性嘔吐・末梢性嘔吐のどちらもしっかりと改善させてくれるプリンペランは非常に頼れるお薬なのです。

しかし一方で副作用には注意が必要です。プリンペランは副作用の頻度自体は多くはないのですが、「ドーパミン」という神経伝達物質のはたらきをブロックするため、特有の副作用が出てしまうことがあります。

以上からプリンペランの特徴として次のようなことが挙げられます。

【プリンペラン錠・細粒(メトクロプラミド)の特徴】

・吐き気を抑える作用に優れる
・副作用は少ないが、ドーパミン系の副作用には注意

 

2.プリンペラン錠・細粒はどんな疾患に用いるのか

プリンペランはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

〇次の場合における消化器機能異常(悪心・嘔吐・食欲不振・腹部膨満感)

胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胆嚢・胆道疾患、腎炎、尿毒症、乳幼児嘔吐、薬剤(制癌剤・抗生物質・抗結核剤・麻酔剤)投与時、胃内・気管内挿管時、放射線照射時、開腹術後

〇X線検査時のバリウムの通過促進

プリンペランは、脳の嘔吐中枢のはたらきを抑えたり、消化管のドーパミン受容体をブロックすることで、消化管の運動を活性化させ。吐き気を抑える作用があります。

そのため原因によらず、吐き気を生じる疾患に幅広く効果を示します。

 

3.プリンペラン錠・細粒にはどのような作用があるのか

プリンペランは、吐き気を抑える作用がありますが、これはどのような作用機序になっているのでしょうか。プリンペランの主な作用について紹介します。

 

Ⅰ.消化管のドーパミン受容体をブロックする

プリンペランは、消化管に存在するドーパミン受容体という部位をブロックするはたらきがあります(正確にはドーパミン受容体のうち、ドーパミン2受容体という受容体をブロックします)。

ドーパミン受容体は、ドーパミンが結合して様々な作用を発揮する部位になります。そして消化管においてドーパミン受容体にドーパミンが結合すると、アセチルコリンという胃腸の動きを促進する物質の分泌を抑えるはたらきがあります。

プリンペランが消化管のドーパミン受容体をブロックすると、胃腸の動きが活発になります。

プリンペランは、ドーパミン受容体をブロックすることで胃腸の動きを活発にして、胃腸に食事が溜まっていることによる吐き気など(末梢性嘔吐)を改善させてくれる作用があります。

 

Ⅱ.脳の嘔吐中枢のはたらきを抑える

プリンペランは、脳幹(延髄)に存在する嘔吐中枢のはたらきを抑える作用があります。

嘔吐中枢が刺激されることで生じる嘔吐を中枢性嘔吐と呼びますが、プリンペランは中枢性嘔吐に対する作用も有しているのです。

 

4.プリンペラン錠・細粒の副作用

プリンペランは副作用に注意が必要なお薬です。副作用の発生率自体は多くはないのですが、問題となる副作用が稀ながら生じる可能性があるのです。

副作用としては、

  • 腹痛、下痢、便秘
  • 眠気
  • 頭痛
  • めまい

などがあります。

注意すべき副作用としては、「錐体外路症状」「高プロラクチン血症」が挙げられます。

錐体外路症状というのは

  • 四肢のふるえ
  • 不随意運動(勝手に動いてしまう)

などの症状のことで、これは脳でドーパミンのはたらきがブロックされすぎることで生じます。プリンペランは消化管のドーパミンをブロックするはたらきになりますが、一部脳のドーパミンもブロックしてしまうのです。

脳のドーパミンが少なくなりすぎてしまう疾患に「パーキンソン病」がありますが、プリンペランはドーパミンをブロックする事で人工的にパーキンソン病のような状態を作ってしまう事があるのです(これを薬剤性パーキンソニズムと呼びます)。

錐体外路症状は命に直結する副作用ではないものの、患者さんの生活に大きな苦痛が生じるものであり、その発症はできる限り避けなくてはいけません。

また錐体外路症状によっては一度出てしまうとお薬を中止しても消えないものもあります。そのため、これから長い人生がある小児の方には特に起こさないようにすべき副作用になります。

実際プリンペランは「小児では錐体外路症状が発現しやすいため、過量投与にならないよう注意すること」と使用上の注意が書かれています。

高プロラクチン血症というのは、プロラクチンというホルモンが増えてしまう副作用で、これもドーパミンがブロックされるために生じます。

プロラクチンは乳汁を出すホルモンで、本来であれば授乳婦において上昇しているホルモンです。高プロラクチン血症が生じると男性でも胸が張り、乳汁が出てくるようになります。それだけでなく、乳がんや骨粗しょう症のリスクにもなる事が指摘されています。

ちなみにプリンペランの他、抗精神病薬(統合失調症の治療薬)などもドーパミンをブロックする作用を持つため、錐体外路症状や高プロラクチン血症が生じることがあります。

またプリンペランで生じる重篤な副作用としては

  • 悪性症候群
  • 意識障害
  • 痙攣
  • ショック

などがあります。これらは頻度は稀ではありますが注意が必要な副作用になります。

悪性症候群とは高熱・筋強直・意識障害などが生じる副作用で、放置すれば死に至ることもある危険な副作用です。ドーパミン量の急な増減が原因であると考えられており、プリンペランを急激に増減させると発症しやすくなるため注意が必要です。

またプリンペランは

  • 褐色細胞腫の疑いのある患者さん
  • 消化管出血・穿孔の患者さん
  • 消化管に閉塞のある患者さん

への使用は「禁忌(絶対にダメ)」となっています。

褐色細胞腫は、腎臓の上にある「副腎」という臓器に腫瘍が出来てしまう疾患です。副腎は様々なホルモンを分泌する臓器ですが、その中で副腎髄質という部位はカテコールアミンというホルモンを分泌します。

副腎髄質に腫瘍が出来てしまうと、カテコールアミンが大量に分泌されてしまいます。カテコールアミンは血圧を上げたり、代謝を促進させたりという作用がありますが、これが大量に分泌されると高血圧や頭痛、体重減少などの問題が出てきます。

プリンペランは褐色細胞腫のカテコールアミンの分泌を更に促進させてしまうことが報告されており、ここから褐色細胞腫が疑われる方に投与することは出来ません。

またプリンペランは消化管の運動を促すお薬になりますので、消化管の動きが活発になるとマズい状態においては使用すべきではありません。消化管に出血がある場合、出血を悪化させる恐れがありますし、穿孔(消化管に穴が開いている)している場合は消化管の外に食べ物が漏れやすくなってしまいます。

また消化管が閉塞しているのに、無理矢理消化管を動かしてしまうと、腸管内圧が上がり、消化管が破裂してしまう危険があるため、このような状態への使用も勧められていません。

 

5.プリンペランの用法・用量と剤形

プリンペランは、

プリンペラン錠(メトクロプラミド) 5mg
プリンペラン細粒(メトクロプラミド) 2%

の2剤形のみがあります。

臨床的には錠剤を処方することが圧倒的に多い印象があります。

プリンペランの使い方は、

(5mg錠剤)
通常成人10~30mg(2~6錠)を2~3回に分割し、食前に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する

(細粒)
通常成人10~30mg(0.5~1.5g)を2~3回に分割し、食前に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する

となっています。プリンペランは食前に投与することが推奨されています。

 

6.プリンペラン錠が向いている人は?

以上から考えて、プリンペランが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

プリンペランの特徴をおさらいすると、

・吐き気を抑える作用に優れる
・副作用は少ないが、ドーパミン系の副作用には注意

というものでした。

プリンペランは中枢性嘔吐・末梢性嘔吐の両方に効果を示す吐き気止めであるため、吐き気でつらい思いをしている時には頼れるお薬になります。

しかし、副作用の頻度自体は多くはないものの、注意すべき副作用があることから、漫然と投与して良いお薬ではありません。

吐き気がひどいとき、必要な期間のみ利用すべきお薬であると言えます。

また、小児にはなるべく使わないようにし、

  • 褐色細胞腫の疑いのいある方
  • 消化管出血・穿孔の患者さん
  • 消化管に閉塞のある患者さん

などには絶対に使用しないよう注意しなくてはいけません。