ミカルディス錠(一般名:テルミサルタン)は2002年に発売された降圧剤(血圧を下げるお薬)で、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(AngiotensinⅡ Receptor Blocker:ARB)という種類に属します。
ミカルディスをはじめとしたARBは、血圧を下げる作用の他、心臓や腎臓などの臓器を保護する作用もあるため、臓器障害を有する方にも適した降圧剤になります。
ARBは上手に使えば1剤で複数の効果が期待できます。お薬の作用をしっかりと熟知すれば非常に頼もしいお薬だと言えるでしょう。
血圧を下げる降圧剤にも多くの種類があります。その中でミカルディスはどんな特徴のある降圧剤で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ミカルディス錠の効果や特徴についてみていきましょう。
目次
1.ミカルディス錠の特徴
ミカルディス錠というお薬の特徴についてみてみましょう。
ミカルディスはARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)という種類の降圧剤になります。ARBはアンジオテンシンⅡという物質のはたらきをブロックすることで、血圧を下げるお薬になります。アンジオテンシンⅡは血圧を上げる作用が強い物質なので、これをブロックすると血圧が下がるのです。
ARBはミカルディス以外にもいくつかあります。まずはARBの特徴について紹介します。
【ARBの特徴】
・血圧を下げる力(降圧力)は中程度
・臓器保護作用があり心不全・腎不全にも用いられる
・お薬によっては血糖値や尿酸値などの改善も期待できる
ARBは降圧剤に属し、血圧を下げるはたらきを狙って投与されるお薬です。しかしそれ以外にも付加的な効果が期待できます。単純に「血圧を下げる力」だけを見れば、カルシウム拮抗薬という降圧剤の方が強力です。しかしARBは、血圧を下げる以外にも付加的な効果があるのです。
その1つが「臓器保護作用」です。ARBは心臓や腎臓を保護してくれる作用が確認されています。
血圧が高いと心臓や腎臓にもダメージを与えます。血液は心臓から全身の血管に届くわけですから、血管が硬くなって血圧が上がれば心臓の負荷が上がり、心臓も痛みやすくなります。
また腎臓は血液から老廃物を取り出し尿を作るはたらきがあります。血管が硬くなっている高血圧の方では、尿を作るのも負荷がかかるようになり腎臓も痛みやすくなります。
このように血圧が高い方というのは、心臓や腎臓といった臓器にもリスクが生じるため、臓器保護作用を持つARBは高血圧による全身へのダメージをより広く守ってくれるお薬だと言えるでしょう。
またARBの中には様々な付加的効果を持つものがあり、糖尿病や高尿酸血症の改善も期待できるものがあります。
では次にARBの中でのミカルディスの特徴を紹介します。
・作用時間が長く、1回の服薬で24時間しっかりと効く
・糖尿病を改善させる効果がある
・胆汁からほぼ排泄される
ミカルディスのARBの中での特徴は、作用時間が長く1日を通してしっかりと効くことです。
ミカルディスの半減期(お薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間)は約20時間で、これは現時点のARBの中では最長になります。ミカルディスは長期間しっかりと効くARBという事が出来ます。
また血圧はワンポイントで下げるのではなく、一日を通してしっかりと下げることが重要だと考えられています。特に早朝や夜間は血圧が上がりやすいため、この時間帯にしっかりと血圧を下げてくれる降圧剤は理想的な降圧剤だと言えます。
またミカルディスには血糖値を下げ、糖尿病を改善させる作用があります。その作用は強くはないため、単独で糖尿病治療に使われるものではありませんが、糖尿病と高血圧を合併している方などには向いているお薬です。
ミカルディスの他にもアバプロ・イルベタン(一般名:イルベサルタン)、アジルバ(一般名:アジルサルタン)などにも血糖値を下げる作用は報告されていますが、ミカルディスはARBの中では血糖値を下げる作用は最も優れているといわれています。
ミカルディスは胆汁から糞中にほぼ排泄されるというのも特徴の1つです。お薬の排泄経路は大きく分けると便として排泄されるか尿として排泄されるかになります。
ミカルディスは前者になります。これはどういう事かというと、肝臓や胆道系の機能が悪い方はミカルディスの使用は注意しないといけません。実際ミカルディスは胆汁の分泌が極めて悪い方や重篤な肝障害のある方は使用できない事になっています。
反対に腎臓から尿として排泄されないため、腎臓の機能が悪い方には比較的使いやすいお薬でもあります。
以上からミカルディスの特徴を挙げると次のようになります。
【ミカルディスの特徴】
・心臓・腎臓などの臓器保護作用がある
・1日を通してしっかりと血圧を下げる
・糖尿病を改善させる効果がある
・胆汁排泄型であり、肝障害がある方は注意(腎障害がある方に使いやすい)
2.ミカルディス錠はどんな疾患に用いるのか
ミカルディスはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
高血圧症
ミカルディスは降圧剤ですので、「高血圧症」の患者さんに用います。
ミカルディスの有効率は、
- 軽症・中等症本態性高血圧症への有効率は76.8%
- 重症高血圧症への有効率は79.3%
- 腎障害を伴う高血圧症への有効率は65.0%
と報告されています。
これ以外にもミカルディスは臓器保護作用を持っており、このためミカルディスのようなARBは心不全や腎不全に対しての治療薬としてもよく用いられています。
3.ミカルディス錠にはどのような作用があるのか
ミカルディスは具体的にどのような作用を有しているのでしょうか。
ミカルディスの作用機序について紹介します。
Ⅰ.降圧作用
ミカルディスは「降圧剤」であり、主な作用は血圧を下げる作用になります。
ではミカルディスはどのような機序で血圧を下げてくれるのでしょうか。
私たちの身体の中には、血圧を上げる仕組みがいくつかあります。その1つに「RAA系」と呼ばれる体内システムがあります(RAA系とは「レニン-アンジオテンシン-アルドステロン」の略です)。
RAA系は本来、血圧が低くなりすぎてしまった時に血圧を上げるシステムです。
腎臓は血液から老廃物を取り出して尿を作る臓器ですが、ここに「傍糸球体装置」というものがあります。傍糸球体装置は腎臓に流れてくる血液が少なくなると「レニン」という物質を放出します。
レニンはアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠという物質に変えるはたらきがあります。
更にアンジオテンシンⅠはACEという酵素によってアンジオテンシンⅡになります(ちなみにこれをブロックするのがACE阻害薬という降圧剤です)。
アンジオテンシンⅡは、血管を収縮させて血圧を上げるはたらきがあります。また副腎という臓器に作用して、アルドステロンというホルモンを分泌させます。
アルドステロンは血液中にナトリウムを増やします(詳しく言うと、尿として捨てる予定だったナトリウムを体内に再吸収します)。血液中のナトリウムが増えると血液の浸透圧が上がるため、ナトリウムにつられて水分も血液中に引き込まれていきます。これにより血液量が増えて血圧も上がるという仕組みです。
通常であればこのRAA系は、血圧が低くなった時だけ作動する仕組みです。しかし血圧が高い状態が持続している方は、このRAA系のスイッチが不良になってしまい、普段からRAA系システムが作動してしまっていることがあります。
ミカルディスをはじめとしたARBは、アンジオテンシンⅡのはたらきをブロックすることで、RAA系が作動しないようにします。すると血圧を上げる物質が少なくなるため、血圧が下がるというわけです。
Ⅱ.臓器保護作用
ミカルディスには臓器保護作用があります。
具体的には心臓・腎臓や脳に対して、これらの臓器が傷付くのを防いでくれるのです。
心臓が傷んでしまい、十分に機能できなくなる状態を「心不全」と呼びます。高血圧は心不全のリスクになるため、ミカルディスの強力な降圧作用はそれ自体が心保護作用になります。
またそれ以外にも先ほど説明したRAA系の「アンジオテンシンⅡ」は心臓の筋肉(心筋)の線維化を促進し、これも心臓の力を弱める原因となります。
ミカルディスはアンジオテンシンⅡのはたらきをブロックしてくれるため、これも心保護作用になります。
実際、ミカルディスは心肥大の患者さんの心肥大の抑制を認めた事が報告されています。ARBは心不全に対しての第一選択薬となっています。
また腎臓に対しても同様です。
腎臓が傷んでしまい、十分に機能できなくなる状態は「腎不全」と呼ばれ、これも高血圧が発症リスクになるため、ミカルディスの強力な降圧作用はそれ自体が腎保護作用になります。
アンジオテンシンは腎臓の線維化も促進し、これも腎不全の原因になるのですが、ミカルディスは同様の機序で腎臓の線維化を抑え、腎保護作用を発揮します。
ARBは、腎不全に対しても第一選択薬となっています。
Ⅲ.血糖改善作用
ミカルディスには血糖値を改善させる作用があります。
その作用は強くはないため単独で糖尿病の治療に用いられる事はありませんが、高血圧に糖尿病を合併しているような場合では1剤で複数の作用を期待できます。
血糖を改善させる作用はミカルディスの持つPPARγ(ピーパーガンマ)作用によるものだと考えられています。PPARγとは脂肪細胞に存在する物質で、この物質はアディポネクチンという物質を増やす作用があります。
アディポネクチンには、
- 血液中の血糖を筋肉などの臓器・組織に取り込む
- インスリン(血糖を下げるホルモン)の感受性を上げる
- 炎症を抑える
- 様々な臓器を保護する
といった様々な作用があります。
血液中の血糖を臓器や組織に取り込むと、血液中の糖分が少なくなるため血糖が下がります。またインスリンは血糖を下げるホルモンですので、その効きを高めれば血糖も下がりやすくなります。
このような機序にてミカルディスは血糖値を下げ、糖尿病を改善させてくれます。
ミカルディスはARBの中で血糖値を下げる作用にもっともすぐれており、そのため「メタボサルタン」と呼ばれることもあります。
4.ミカルディス錠の副作用
ミカルディスの副作用はどのようなものがあるのでしょうか。またミカルディスは安全はお薬なのでしょうか、それとも副作用が多いお薬なのでしょうか。
全体的な印象としてミカルディスをはじめとしたARBは安全性が高いお薬です。高血圧の患者さんは多く、ARBを処方する機会も非常に多いのですが、適正に使用していれば重篤な副作用に出会うことはほとんどありません。
ミカルディスの副作用発生率は約6.0%と報告されています。
生じうる副作用としては、
- 低血圧
- めまい・ふらつき
- 発疹
- 頭痛
- めまい
などがあります。頭痛やめまいはミカルディスは血圧を下げてしまうことによって生じる症状です。
また血液検査値の異常の報告もあります。
- 尿酸値上昇
- カリウム(K)上昇
- 肝臓系酵素(AST、ALTなど)の上昇
- 腎臓系酵素(BUN、クレアチニンなど)の上昇
- CK(CPK)上昇
などです。
ミカルディスは「アルドステロン」というホルモンのはたらきを弱めますが、アルドステロンは本来、体内のナトリウムを増やし、その代り体内のカリウムを減らすはたらきがあります(ナトリウムを尿から再吸収し、カリウムを尿に排泄します)。
ミカルディスはこの作用を止めてしまうため、体内のカリウムが増えすぎてしまうことがあるのです。
そのためARBを長期間副作用されている方は定期的に血液検査などで肝機能、腎機能、電解質(カリウムなど)をチェックしておくことが望ましいでしょう。
また、稀ですが重篤な副作用として
- 血管浮腫
- 高カリウム血症
- 腎機能障害
- ショック・失神・意識消失
- 肝機能障害・黄疸
- 低血糖
- アナフィラキシー
- 間質性肺炎
- 横紋筋融解症
などが報告されています。
また、ミカルディスは
- 妊婦または妊娠している可能性のある方
- 胆汁の分泌が極めて悪い方や重篤な肝障害のある方
- ラジレスを投与中の糖尿病の方
は原則服薬することが出来ません。
妊娠中の方が服薬できないのは、妊娠中期及び末期にミカルディスなどのARBを投与された方の赤ちゃんに羊水過少症、胎児・新生児の死亡、新生児の低血圧、腎不全、高カリウム 血症、頭蓋の形成不全及び羊水過少症によると推測される四肢の拘縮、頭蓋顔面の奇形、肺の発育不全等が認められたという報告があるためで、ミカルディスに限らずARBは全て妊娠中の方は服用できないようになっています。
難しい用語を並べましたが、要するにARBを妊娠中に服用すると赤ちゃんに奇形が生じる確率が上がってしまうため、使用する事が出来ないという事です。
またミカルディスは胆汁→便として排泄されるお薬になるため、肝臓や胆管系の機能が悪い方は服用に注意する必要があり、極めて悪い方は服用できません。これはこのような方はお薬が体外に排泄しにくく、過度にお薬が効いてしまう危険があるためです。
糖尿病患者さんがラジレスとミカルディス(ARB)は併用すると非致死性脳卒中、腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧のリスク増加が報告されています。
ただしラジレスとの併用に関しては、どうしても他の降圧剤で治療できない高血圧症の方に限り、慎重に用いることは認められています。
5.ミカルディスの用法・用量と剤形
ミカルディスは、
ミカルディス錠 20mg
ミカルディス錠 40mg
ミカルディス錠 80mg
の3剤形があります。
ミカルディスの使い方は、
通常、成人には40mgを1日1回経口投与する。ただし、1日20mgから投与を開始し漸次増量する。なお、年齢・症状により適宜増減するが、1日最大投与量は80mgまでとする(肝障害のある患者に投与する場合、最大投与量は1日1回40mgとする)。
と書かれています。
ちなみにミカルディスを服薬してからどれくらいで効果を判定すれば良いのでしょうか。これは明確に決まっているわけではありませんが、通常2週間程度で効果は現れはじめます。しっかりとした効果を判定するには「約1カ月」程度を考えます。
6.ミカルディス錠が向いている人は
以上から考えて、ミカルディスが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ミカルディスの特徴をおさらいすると、
・心臓・腎臓などの臓器保護作用がある
・1日を通してしっかりと血圧を下げる
・糖尿病を改善させる効果がある
・胆汁排泄型であり、肝障害がある方は注意(腎障害がある方に使いやすい)
というものでした。
ミカルディスの最大の売りは、作用時間の長さと糖尿病の改善(PPARγ作用)です。
そのため、
・糖尿病を合併している方
・一日を通してしっかりと血圧を下げたい方
に良い適応となります。
また、1日を通してしっかりと効きますので、
・夜間や早朝などに血圧が上がってしまいやすい方
にもミカルディスはお勧めしやすい降圧剤になります。
通常私たちは夜間早朝は血圧が低くなります。これを「dipper」と呼びます。高血圧になってしまうと夜間血圧が下がらなくなったり(non-dipper)、むしろ上がってしまう(riser)ことがあり、これは脳梗塞や心筋梗塞などの心血管イベントのリスクとされています。
24時間にわたってしっかりと血圧を下げるミカルディスはnon-dipperやriserの方にもおすすめしやすい降圧剤になります。