腸の調子が悪い時、腸のはたらきを整えるために整腸剤が処方されます。
整腸剤にもいくつかあります。代表的なものとしては、
- ビオフェルミン
- ラックビー
- ミヤBM
- ビオスリー
などが挙げられます。
この中で特に有名なのは「ビオフェルミン」そして「ミヤBM」のあたりでしょうか。これらは市販品もあるため非常に多くの方に使われています。
これら整腸剤は、何か違いはあるのでしょうか。またどのように使い分けをすればいいのでしょうか。
ここでは整腸剤の中でも「ビオフェルミン」と「ミヤBM」に焦点を当て、それぞれの違いや使い分けの方法について紹介させて頂きます。
1.ビオフェルミンとミヤBMの使い分けはあるのか?
ビオフェルミンやミヤBMは整腸剤になります。
整腸剤を用いるような症状としては、下痢や便秘・腹痛などが該当します。また疾患としては胃腸炎や便秘症、過敏性腸症候群などが挙げられます。
このような症状・疾患に対して整腸剤を用いる時、それぞれの使い分ける基準などはあるのでしょうか。
結論から申しますとこれらの整腸剤は、得られる効果としては大きな違いはありません。そのため、厳密に両者を使い分けなくてはいけないという事はほとんどありません。
もちろんそれぞれの整腸剤ならではの特徴や小さな違いなどもいくつかありますが、胃腸炎や便秘の患者さんに対して、「この人はビオフェルミンじゃ治らない!ミヤBMじゃないとダメだ」「この症状はビオフェルミン以外は効かない!」という事はありません。
実際、それぞれの用法を見ると、
【ビオフェルミン】
腸内細菌叢の異常による諸症状の改善【ミヤBM】
腸内細菌叢の異常による諸症状
とほぼ同様の適応が記載されています。
腸内細菌の異常によって下痢・便秘・腹痛などが生じていて整腸剤が必要な場合、ほとんどのケースで医師はビオフェルミンとミヤBMを厳密に使い分けてはいません。自分が使い慣れた方を処方しているのが実情です。
そしてどちらも似たような効能があるため、このように「極論を言えばどちらでも良い」という処方の仕方で、ほとんど問題ありません。
しかし小さな違いや、特殊なケースでの使い分けがないわけではありません。その例外を理解するために、次項からはビオフェルミンとミヤBMのそれぞれの詳しい作用について紹介させて頂きます。
2.ビオフェルミンとミヤBMのそれぞれの作用機序
ビオフェルミンとミヤBMはそれぞれどのような整腸剤なのでしょうか。
まず共通点としては、これらはいずれも腸内環境を整える作用を持つ腸内細菌(いわゆる善玉菌)が主成分になります。
腸内に善玉菌が増えると、腸内環境が改善されます。そのため腸内環境が悪化している場合は、ビオフェルミンとミヤBMのどちらを用いても効果が期待できるというわけです。
しかし、どちらも同じ善玉菌ではあるのですが、実は菌種が異なります。
ビオフェルミンは、乳酸菌の一種である「ビフィズス菌」が主成分です。一方でミヤBMは、酪酸菌の一種である「宮入菌」が主成分です。
こちらも善玉菌ではあり、腸内に良い作用をもたらす菌です。ではビオフェルミン(ビフィズス菌)とミヤBM(宮入菌)はそれぞれどのような作用をもたらすのでしょうか。
それぞれの作用を紹介します。
Ⅰ.ビオフェルミン(ビフィズス菌)の作用機序
ビオフェルミンに含まれる乳酸菌(ビフィズス菌)は、腸にやってきた糖分(オリゴ糖など)を分解し、酢酸と乳酸を産生するはたらきがあります。
酢酸も乳酸も酸性の物質ですので、これにより腸内のpHが適正に整えられます。またこれらの物質には抗菌・殺菌作用がありますので、有害菌の発育を抑えてくれます。
また近年の研究では、ビフィズス菌はアレルギー反応や炎症反応を抑える作用がある事も明らかになっています。
Ⅱ.ミヤBM(宮入菌)の作用機序
一方でミヤBMに含まれる酪酸菌(宮入菌)は、腸にやってきた糖分(オリゴ糖など)を分解し、酢酸と酪酸を産生するはたらきがあります。
酢酸は酸性の物質であり、腸内のpHを整える作用があります。また抗菌・殺菌作用によって有害菌(悪玉菌)の発育を抑える作用もあります。
酪酸は大腸の上皮細胞の栄養源になり、腸管上皮細胞の新生・増殖を促し、腸管の動きを活性化させる作用があります。
また宮入菌は「バクテリオシン」という抗菌活性をもつたんぱく質を産生し、これによって有害菌をやっつけてくれるというはたらきも期待できます。
3.ビオフェルミンとミヤBMの違い
ビオフェルミンとミヤBMのそれぞれの共通点と違いを見てきました。
どちらも腸内環境を整える善玉菌である事は共通しているものの、菌種が異なり、腸内環境の整え方に違いがありました。
では最後に臨床に関係する、両者の違いや使い分けについて紹介します。
Ⅰ.抗生物質に対する耐性
ビオフェルミンとミヤBMの一番の違いは、抗生物質に対する耐性です
簡単にいうと、
- ミヤBMは抗生物質と併用できる
- ビオフェルミンは抗生物質と併用できないため、ビオフェルミンRに変更しないといけない
という違いがあります。
ビオフェルミンに含まれるビフィズス菌も、ミヤBMに含まれる宮入菌も「菌」です。そのため感染症の治療で抗生物質を服用すると、身体にとって有害な菌も殺されますが、ビフィズス菌や宮入菌も殺されてしまう可能性があります。
ビオフェルミンに含まれるビフィズス菌は、抗生物質と一緒に服用すると抗生物質によって殺菌されてしまいます。そのため抗生物質を服用している時にビオフェルミンを服用してしまうと意味がありません。
この場合は「ビオフェルミンR」という抗生物質に耐性(Resistance)を持った整腸剤に切り替える必要があります。
抗生物質を服用していない時はビオフェルミンを服用し、抗生物質の服用が始まったらビオフェルミンRに変える。そして抗生物質の服用が終わったらビオフェルミンに戻さないといけません(抗生物質を飲んでいない時にビオフェルミンRは保険上使う事が出来ません)。
一方でミヤBMに含まれる宮入菌は、強固な芽胞に包まれているという特徴を持った菌であり、抗生物質に元々耐性を持っています。そのため抗生物質を飲んでいても服用する事が出来ます。抗生物質併用の有無にかかわらず服用する事が出来るのです。
Ⅱ.胃酸に対する耐性
整腸剤を口から飲むと、胃でその多くの菌が胃酸によって死滅してしまいます。
多くが死滅してしまうと腸に生菌が届かないため、整腸剤の効果が乏しくなってしまいます。
ビオフェルミンに含まれるビフィズス菌は、やはりその多くが胃酸によって死滅してしまいます。なるべく胃酸の被害を受けないよう、服用時間は「食後」となっていますが、それでも一定量は死んでしまいます。
一方でミヤBMに含まれる宮入菌は、強固な芽胞に包まれているという特徴を持った菌であり、胃酸に対しても耐性を持っており、ほとんど死滅せずに腸に届く事が出来ます。
そのため「腸に届く効率」という意味ではミヤBMの方が有利です。
しかしビフィズス菌はヒトの腸に定着しやすい性質もあるため、ビオフェルミンが全く無効だというわけではありません。
Ⅲ.有害菌を抑える作用と腸管上皮を新生する作用
前項で説明したビオフェルミンとミヤBMの作用機序をおさらいすると、
- ビオフェルミンは酢酸と乳酸で、有害菌の増殖を抑える
- ミヤBMは酢酸で有害菌の増殖を抑え、酪酸で腸管上皮を新生する
というはたらきがありました。
そのため有害菌(悪玉菌)が増えてしまい、それを抑える作用に重点を置きたかったらビオフェルミン、腸管上皮もダメージを受けていてその修復に重点を置きたかったらミヤBMの方が薬理上は適していると考える事が出来ます。
ただしこれはあくまでも薬理的な話であり、実際は有害菌の増殖と腸管上皮の新生のどちらを重視すべき状態かを判断する事は困難であるため、これは臨床ではそこまで重視されているわけではありません。