腸の調子が悪い時、腸のはたらきを整えるために整腸剤が用いられる事があります。
整腸剤は腸に良い作用をもたらす腸内細菌(いわゆる善玉菌)からなるものが多く、代表的なお薬としては、
- ビオフェルミン、ラックビー(ビフィズス菌を配合)
- ミヤBM(酪酸菌を配合)
- ビオスリー(ラクトミン、酪酸菌、糖化菌を配合)
などが挙げられます。
このように同じ「整腸剤」であっても、配合されている菌種が異なっており、それぞれの菌種によって腸内環境の整え方に違いがあったりします。
では、異なる菌種からなる整腸剤をいくつか併用すれば、よりしっかりと腸内環境を整える効果が期待できるのでしょうか。
ここでは整腸剤の中でも有名な「ビオフェルミン」と「ミヤBM」に焦点を当て、この2つを併用する事に意味はあるのかを考えていきましょう。
1.ビオフェルミンとミヤBMの併用に意味はあるか
ビオフェルミン、そしてミヤBMは整腸剤になります。
腸内環境を整える善玉菌であるため、腸内環境の乱れで生じている下痢や便秘・腹痛といった症状を改善させる作用が期待できます。
善玉菌にも様々な種類がありますので、整腸剤も様々な善玉菌を含んでいるものがあります。
ビオフェルミンは乳酸菌の一種である「ビフィズス菌」からなっています。一方でミヤBMは酪酸菌の一種である「宮入菌」からなっています。
同じ「善玉菌」であり、それぞれ腸内環境を整える作用はあるものの、それぞれの作用の仕方は多少異なります。
ということはビオフェルミンとミヤBMのどちらか片方を使うよりも、両方を併用した方が高い効果が得られるのではないか、と考える方もいらっしゃるかもしれません。
これはどうなのでしょうか。
結論から言うと、異なる菌種からなる整腸剤を併用すれば、腸内環境を整える作用はより強まる可能性はあります。
しかし保険適応上の問題や、そもそも整腸剤というのは劇的な作用を持つお薬ではないことから、併用するという方法は多くは用いられてはいないのが現状です。
2.ビオフェルミンとミヤBMのそれぞれの作用機序
ビオフェルミンとミヤBMを併用すると、どのような作用が得られるのかを理解するために、それぞれがどのように作用する整腸剤なのかを詳しくみていきましょう。
まず共通点としては、これらはいずれも腸内環境を整える作用を持つ腸内細菌(いわゆる善玉菌)になります。
腸内に善玉菌が増えると、腸内環境が改善されます。そのため腸内環境が悪化している場合は、ビオフェルミンとミヤBMのどちらを用いても効果が期待できます。
しかし、どちらも同じ善玉菌ではあるのですが、実は菌種が異なります。
ビオフェルミンは乳酸菌の一種である「ビフィズス菌」が主成分です。一方でミヤBMは酪酸菌の一種である「宮入菌」が主成分です。
これらはどちらも善玉菌であり、腸内環境を整える作用をもたらします。ではビオフェルミン(ビフィズス菌)とミヤBM(宮入菌)はそれぞれどのような作用をもたらすお薬なのでしょうか。
それぞれの作用について紹介します。
Ⅰ.ビオフェルミン(ビフィズス菌)の作用機序
ビオフェルミンに含まれる乳酸菌(ビフィズス菌)は、腸にやってきた糖分(オリゴ糖など)を分解し、酢酸と乳酸を産生するはたらきがあります。
酢酸も乳酸も酸性の物質ですので、これにより腸内のpHが適正に整えられます。またこれらの物質には抗菌・殺菌作用がありますので、有害菌の発育を抑えてくれます。
また近年の研究では、ビフィズス菌はアレルギー反応や炎症反応を抑える作用がある事も明らかになっています。
Ⅱ.ミヤBM(宮入菌)の作用機序
一方でミヤBMに含まれる酪酸菌(宮入菌)は、腸にやってきた糖分(オリゴ糖など)を分解し、酢酸と酪酸を産生するはたらきがあります。
酢酸は酸性の物質であり、腸内のpHを整える作用があります。また抗菌・殺菌作用によって有害菌(悪玉菌)の発育を抑えてくれます。
酪酸は大腸の上皮細胞の栄養源になり、腸管上皮細胞の新生・増殖を促し、腸管の動きを活性化させる作用があります。
また宮入菌は「バクテリオシン」という抗菌活性をもつたんぱく質を産生し、これによって有害菌をやっつけてくれるというはたらきも期待できます。
3.ビオフェルミンとミヤBM併用のメリットとデメリット
ビオフェルミンとミヤBMのそれぞれの作用について見てきました。
どちらも腸内環境を整える善玉菌である事は共通しているものの、菌種は異なり、腸内環境の整え方に違いがある事が分かりました。
では最後に、両者の併用について考えてみましょう。
ビオフェルミン(ビフィズス菌)は、腸内で乳酸と酢酸を産生し、腸内pHを適正に整えます。また酸である乳酸と酢酸には殺菌作用があるため、有害菌の増殖を抑える作用も期待できます。
ミヤBM(宮入菌)は、腸内で酢酸と酪酸を産生し、腸内pHを適正に整えて有害菌の増殖を抑えつつ、腸管上皮に栄養を与えて細胞の新生・増殖も促進します。
これらは作用が多少異なるため、併用する事で単独では得られない作用が追加されます。これによって、より高い整腸作用が期待できます。
しかし整腸剤は元々腸内に存在する腸内細菌が主成分です。少なくなった腸内細菌を補充するようなお薬であるため、劇的に症状が改善するような効き方をするお薬ではありません。そのため、併用したからといって劇的に効果が高まるという事はなく、「ちょっといいかな」くらいの効果アップに過ぎません。
更にビオフェルミンもミヤBMも医薬品であるため、保険診療の適応疾患の基準にのっとって処方されなければいけません。どちらも同じ疾患に対して適応を持っているため、特に理由もなく両者を処方してしまうと保険的に認められない可能性があります。
このようにビオフェルミンとミヤBMの併用は、多少のメリットもあるものの、そこまで高いメリットではなく、また保険上認められない可能性もあるため、現状はそこまで多く行われている方法ではありません。
しかしビオフェルミンあるいはミヤBM単独でなかなか改善が得られない場合、「難治性のため」などの理由を元に併用する事は、主治医が必要と判断されれば認められる場合もあり、これは薬理的にみても妥当だと考えられます。