モービック錠(一般名:メロキシカム)は2005年から発売されているお薬で、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)という種類に属します。
「非ステロイド性消炎鎮痛剤」というと難しい名前ですが、いわゆる「痛み止め」「熱さまし」として使われているお薬のことです。ステロイドでないお薬で、炎症を和らげ痛みを抑えるはたらきを持つものを非ステロイド性消炎鎮痛剤と呼びます。
NSAIDsにはたくさんの種類があります。どれも大きな違いはありませんが、細かい特徴や作用には違いがあり、医師は痛みの程度や性状に応じて、その患者さんに一番合いそうな痛み止めを処方しています。
NSAIDsの中でモービックはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここでは、モービックの効能や特徴、副作用などを紹介していきます。
1.モービックの特徴
まずはモービックの特徴を紹介します。
モービックは炎症を抑える事で解熱(熱さまし)・鎮痛(痛み止め)作用を持ちます。NSAIDsの中で胃腸系の副作用が少なめであり、また作用時間が長く1日1回の投与で良いという利点があります。
モービックはNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)と呼ばれるお薬で、消炎(炎症を抑える)作用を持ちます。同種のNSAIDsの中で効果の強さは中等度になります(お薬の効きは個人差があるためあくまでも目安です)。
NSAIDsの主な用途としては、炎症を抑える事で、
- 解熱(熱さまし)
- 鎮痛(痛み止め)
を目的として投与されます(ただしモービックは主にほぼ鎮痛目的での保険適応となっています)。
NSAIDsの中でもモービックの特徴は、作用時間が長く1日1回の服用で良い点です。多くのNSAIDsが1日3回投与であるのに対して、モービックは1回ですので服薬の手間が大きく省かれます。実際モービックの半減期(お薬の血中濃度が半分に落ちるまでにかかる時間)は約25~27時間であり、これはNSAIDsの中ではかなり長い部類になります。
ただしその分即効性には劣ります。お薬を飲んでから血中濃度が最大になるまでには約7時間かかるため、「痛みをすぐに抑えたい」という作用はあまり期待できません。
ほとんどのNSAIDsに言えることですが、NSAIDsは副作用としては胃腸を痛めてしまうことがあります。もちろんモービックにもこの副作用が生じる可能性はあり、特に大量に服用していたり長期間服用している場合は注意が必用です。
モービックは他のNSAIDsと比べてCOX2という炎症に関係する物質を集中的にブロックし、COX1という胃腸障害などの副作用に関係する物質はあまりブロックしないため、胃腸障害は注意すべき副作用ではあるものの、その頻度は少なめにはなります。
またNSAIDsは喘息を誘発しやすくすることが知られており、喘息の方にはできるだけ服用しない方が良いでしょう。
多くのNSAIDsは妊娠末期に使用する事が禁忌(絶対にダメ)となっています。その理由は妊娠末期の使用で、胎児の動脈管を収縮させたりといった胎児への悪影響が懸念される副作用の報告があるからです。
モービックはというと他のNSAIDsよりも厳しく、妊娠中はいかなる期間であっても使用は禁忌となっており、他のNSAIDsよりも一段階厳しい位置づけです。ここから妊娠中や妊娠の可能性のある方は用いるべきではなく、他のNSAIDsを選択した方が良いでしょう。
以上からモービックの特徴として次のような点が挙げられます。
【モービックの特徴】
・鎮痛作用(痛みを抑える)、解熱作用(熱を下げる)は中等度
・副作用の胃腸障害に注意(他のNSAIDsより少ない)
・喘息の方は使用に注意(他のNSAIDsと同様)
・作用時間が長く1日1回の服用で良い。その分即効性はない
・妊婦さんは使えない(他のNSAIDsの多くは妊娠末期のみ使えない)
2.モービックはどのような疾患に用いるのか
モービックはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
下記疾患並びに症状の消炎・鎮痛
関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群
モービックは消炎鎮痛剤ですから、炎症によって生じる症状を抑えるために用いられます。
実臨床では、
- 痛みを抑える
- 熱を下げる
のどちらかの目的で投与される事がほとんどです。
適応疾患には難しい病名がたくさん書かれていますが、おおまかな理解としては「痛みや発熱が認められる状態に対して、その症状の緩和に用いる」という認識で良いでしょう。
モービックの有効率(中等度以上に改善した率)は、
- 関節リウマチへの有効率は33.3%
- 変形性関節症への有効率は72.3%
- 腰痛症への有効率は84.2%
- 肩関節周囲炎への有効率は67.5%
- 頸肩腕症候群への有効率は80.8%
と報告されています。
ただし上記疾患にモービックが有効なのは間違いありませんが、モービックを始めとするNSAIDsは根本を治す治療ではなく、あくまでも対症療法に過ぎないことを忘れてはいけません。
対症療法とは「症状だけを抑えている治療法」で根本を治しているわけではない「その場しのぎの」治療です。
例えば腰の筋力低下によって腰痛が出現している方に対してモービックを投与すれば、確かに痛みは軽減します。しかしこれは原因である腰部の筋肉低下を治しているわけではなく、あくまでも発痛を起こしにくくしているだけに過ぎません。
対症療法が悪い治療法だということではありませんが、対症療法だけで終わってしまうのは良い治療とは言えません。対症療法と合わせて、根本を治すような治療も併用することが大切です。
例えば先ほどの腰痛であれば、モービックを使用しつつも、
- 適度な運動・リハビリをする
- 栄養をしっかり取る
などの根本的な治療法も併せて行う必要があるでしょう。
3.モービックにはどのような作用があるのか
モービックは「非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」という種類に属しますが、NSAIDsの作用はその名のとおり消炎(炎症を抑える)ことで鎮痛する(痛みを抑える)事になります。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。
モービックは炎症の原因が何であれ、炎症そのものを抑える作用を持ちます。つまり、発赤・熱感・腫脹・疼痛を和らげてくれるという事です。
具体的にどのように作用するのかというと、モービックなどのNSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)という物質のはたらきをブロックするはたらきがあります。
COXは、プロスタグランジン(PG)が作られる時に必要な物質であるため、COXがブロックされるとプロスタグランジンが作られにくくなります。
プロスタグランジンは炎症や痛み、発熱を誘発する物質です。そのため、モービックがCOXをブロックすると炎症や痛み、発熱が生じにくくなるのです。
モービックはCOXのはたらきをブロックする事で炎症を抑え、これにより
- 熱を下げる
- 痛みを抑える
といった効果が期待できます。そのためモービックのようなお薬を「COX阻害薬」と呼ぶ事もあります。
ちなみにCOXにはCOX1とCOX2の2種類があります。両者の違いは、生理機能(胃粘液分泌など正常時に行われている活動)に主に関係するのがCOX1で、炎症に主に関係しているのがCOX2になります。
という事は、COX1にはあまり作用せず、COX2に集中的に作用するお薬があれば、胃腸障害などを起こさずに消炎・鎮痛効果が得られるという事になります。
モービックはCOXの中でもCOX2に選択的に作用するように作られています。その機序としては、やや専門的になりますがモービックは構造的にメチル基を持っており、これがCOX1にくっつきにくくCOX2にくっつきやすい性質を持っているためだと考えられています。
実際、通常のNSAIDsはCOX1とCOX2を同程度にブロックするのに対して、モービックはCOX2をCOX1よりも約12倍強く阻害する事が確認されています。
ここからモービックのような胃腸障害の少ないNSAIDsの事を「選択的COX2阻害薬」と呼ぶこともあります。
モービックの他、「セレコックス(一般名:セレコキシブ)」も選択的COX2阻害薬になります。
4.モービックの副作用
モービックの副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。また副作用はどのくらい多いのでしょうか。
モービックの副作用発生率は、6.5%と報告されております。
主な副作用としては、
- 胃不快感
- 上腹部痛
- 発疹
- 悪心
- 胃炎
- 口内炎
などががあります。
モービックをはじめとしたNSAIDsには共通する副作用があります。
もっとも注意すべきなのが「胃腸系の障害」です。これはNSAIDsがプロスタグランジンの生成を抑制するために生じます。
プロスタグランジンは胃粘膜を保護するはたらきを持っており、実際にプロスタグランジンを誘導するようなお薬は胃薬として用いられています。そのため、NSAIDsによってこれが抑制されると胃腸が荒れやすくなってしまうのです。
胃痛や悪心などをはじめとして、胃炎や胃潰瘍などになってしまうこともあります。このため、NSAIDsは漫然と長期間使用し続けないことが推奨されています。
モービックはCOX2に選択性が高いため、他のNSAIDsと比べると胃腸系の副作用が少ないという特徴がありますが、そうは言っても胃腸系の副作用が生じる可能性は十分にありますので注意して使わなければいけません。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- 消化性潰瘍(穿孔を伴うことがある)
- 吐血,下血等の胃腸出血
- 大腸炎
- 喘息
- 急性腎不全
- 無顆粒球症、血小板減少
- 皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)
- 水疱、多形紅斑
- アナフィラキシー反応・アナフィラキシー様反応、血管浮腫
- 肝炎,重篤な肝機能障害
が報告されています。
またモービック以外のNSAIDsの副作用として
- ショック
- 再生不良性貧血
- 骨髄機能抑制
- ネフローゼ症候群
などが報告されているため、モービックでも生じる可能性はゼロではないと考えておかないといけません。
重篤な副作用は稀ではあるものの絶対に生じないわけではありません。モービックの服薬がやむを得ず長期にわたっている方は定期的に血液検査にて肝機能・腎機能などのチェックを行う必要があります。
また、モービックは次のような方には禁忌(絶対に使ってはダメ)となっていますので注意しましょう。
1.消化性潰瘍のある方
2.重篤な血液の異常のある方
3.重篤な肝障害のある方
4.重篤な腎障害のある方
5.重篤な心機能不全のある方
6.重篤な高血圧症の方
7.モービックに過敏症の既往歴のある方
8.アスピリン喘息の方
9.妊娠または妊娠の可能性のある方
胃を荒らす可能性のあるお薬ですので、胃腸に潰瘍がある方はそれを更に増悪させる可能性があり用いてはいけません。
また心臓、肝臓、腎臓といった臓器にダメージを与える可能性がありますので、これらの臓器に重篤な機能不全がある場合もモービックは用いてはいけません。
また動物実験においてモービックを妊娠に投与すると、胎児に様々な影響が生じる可能性がある事が報告されているため、妊婦さんに使用する事ができません。
他のほとんどのNSAIDsが妊娠「末期」にのみ禁忌となっているのに対し、モービックは妊娠期間中はすべて禁忌になっています。
5.モービックの用法・用量と剤形
モービックは次の1剤型のみが発売されています。
モービック錠 5mg
モービック錠 10mg
また、モービックの使い方は、
通常、成人には10mgを1日1回食後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日最高用量は15mgとする。
と書かれています。
モービックを初めとしたNSAIDsは空腹時に投与すると、胃腸へのダメージが更に生じやすくなるため、なるべく食後に服用するようにしましょう。
モービックは作用時間が非常に長いため、1日1回の投与で効果が持続します。しかしその分即効性には劣り、服用してからすぐに効果が得られるお薬ではありません。
服薬してから血中濃度が最大になるまでにかかる時間は約7時間であり、服用して「効いてきた!」と効果が実感できるお薬ではありません。服用していると「そういえば最近痛みをあまり感じなくなってきたな」といった感じ方をするお薬になります。
6.モービックが向いている人は?
モービックはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
モービックの特徴をおさらいすると、
・鎮痛作用(痛みを抑える)、解熱作用(熱を下げる)は中等度
・副作用の胃腸障害に注意(他のNSAIDsより少ない)
・喘息の方は使用に注意(他のNSAIDsと同様)
・作用時間が長く1日1回の服用で良い。その分即効性はない
・妊婦さんは使えない(他のNSAIDsの多くは妊娠末期のみ使えない)
といった特徴がありました。
基本的にNSAIDsはどれも大きな差はないため、処方する医師が使い慣れているものを処方する傾向があります。
モービックはNSAIDsの中で作用の強さは中くらいですが、効果の持続性がありまた胃腸系の副作用が少ないというメリットがあります。
ここから、
- 服用回数を少なくしたい方
- 急速に痛みを取るのではなく、ゆっくり長く痛みを抑えたい方
- 胃腸系の副作用をなるべく起こしたくない方
に向いているお薬となります。
反面、「痛い時にお薬ですぐに痛みを抑えたい」といった頓服的な使い方は向きません。
また妊娠期間中は禁忌となるため、妊娠中の方はもちろん、妊娠の可能性がありうる方も服用はすべきではありません。