モーラスパップ(一般名:ケトプロフェン)は1988年から発売されている痛み止めの湿布です。「非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」という種類に属します。
NSAIDsは痛み止めとして広く用いられているお薬で、湿布以外にも痛み止めの飲み薬や塗り薬としても使用されています。
このうち、湿布剤のNSAIDsは主に関節や骨・筋肉などの局所の痛みに対して、その部位の炎症を抑えたり痛みを軽減する目的で処方されます。
痛み止めの湿布にもたくさんの種類があり、それぞれがどのような特徴を持つのか分かりにくいものです。ここではモーラスパップがどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのか、その効果・効能や特徴、副作用についてお話します。
目次
1.モーラスパップの特徴
まずはモーラスパップの特徴をざっくりと紹介します。
モーラスパップは主に炎症を和らげる(消炎)はたらきと痛みを和らげる(鎮痛)はたらきを持ちます。清涼感(ひんやり感)を感じるパップ剤であり、この感覚を好む方も少なくありません。
伸縮性(伸び)や粘着性(皮膚にくっつく力)はテープ剤と比べて弱めです。
モーラスパップは「非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」と呼ばれるお薬になります。
NSAIDsは医療現場で用いられている代表的な痛み止めであり、湿布以外にも飲み薬や塗り薬として広く使われています。
例えば、痛み止めの飲み薬としては、
- ロキソニン(ロキソプロフェン)
- ボルタレン(ジクロフェナク)
- ブルフェン(イブプロフェン)
などがありますが、これらもNSAIDsです。
その他、塗り薬(軟膏やクリーム)や坐薬、点滴など多くの剤型のNSAIDsがあり、痛みを和らげたり炎症を抑えたりするために用いられています。
モーラスパップは湿布剤ですので、貼った部位の炎症や痛みを抑える作用があります。そのため、主に関節や骨・筋肉の痛みを和らげる目的で使用されます。
特に良く使われるのが肩・膝・腰といった関節の痛みです。ぶつけたり、あるいは年とともに関節が弱って痛み出したりした際、モーラスパップをその部位に貼ることで、これらの症状を改善させることができます。
貼り薬(湿布)であるモーラスパップは飲み薬のNSAIDsと異なり、全身にお薬が回りにくいという利点があります。局所にしか効かないため、全身の様々な部位が痛いという場合には向きませんが、身体の一部分が痛いという場合にはその部位にだけ効かせることが可能です。全身にお薬が回りにくいため、副作用が生じる頻度も少なくなります。
モーラスにはテープ剤とパップ剤がありますが、このうちパップ剤は水溶性の物質を多く含むため、清涼感(ひんやり感)を感じられるのがメリットです。この感覚を「効いている感じがする!」と好む方も少なくありません。
一方でテープ剤と比べると伸縮性(伸び)と粘着性(くっつきやすさ)は劣ります。そのため、膝や肩といった剥がれやすい関節部位に貼る場合は、テープ剤の方が優れていることもあります。
以上から、モーラスパップの特徴としては次のようなことが挙げられます。
【モーラスパップの特徴】
・消炎作用(炎症を抑える)・鎮痛作用(痛みを和らげる)がある
・湿布であり、痛みがある部位にのみ効かせることができる
・お薬の成分が全身に回りにくいため、副作用が少ない
・貼った時に清涼感(ひんやり感)がある
2.モーラスパップはどのような疾患に用いるのか
モーラスパップはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
下記疾患並びに症状の鎮痛・消炎変形性関節症、肩関節周囲炎、腱・腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎(テニス肘等)、筋肉痛、外傷後の腫脹・疼痛
たくさんの難しい病名が書かれていますが、要するに「関節や骨、筋肉の痛み」に対して用いるという認識で良いと思います。
モーラスパップは消炎作用と鎮痛作用を有していますが、それ以外の作用はほとんどありません。
よく勘違いされるのですが、「痛みの原因を治す作用」はありませんので注意が必要です。
例えば骨にヒビが入ってしまって痛むという部位にモーラスパップを貼れば、確かに痛みは和らぎます。しかしあくまでも痛みを感じにくくさせているだけで、別に骨の修復を早めるような作用はありません。
モーラスパップの有効率(中等度以上改善した率)は、
- 変形性関節症への有効率は58.8%
- 肩関節周囲炎への有効率は55.7%
- 腱・腱鞘炎、腱周囲炎への有効率は80.4%
- 上腕骨上顆炎への有効率は77.8%
- 筋肉痛への有効率は72.2%
- 外傷後の腫脹・疼痛での改善率は83.4%
と報告されています。
3.モーラスパップにはどのような作用があるのか
モーラスパップは、どのような作用を持つお薬なのでしょうか。
モーラスパップを貼った時に得られる作用について紹介します。
Ⅰ.抗炎症作用
モーラスパップをはじめとしたNSAIDsは、炎症を和らげる作用を持ちます。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
例えば身体をぶつけたり、身体にばい菌が入ったりすると、その部位が赤くなったり熱感を持ったり、腫れたり、痛んだりという状態になりますよね。これが炎症です。
例えば皮膚に炎症が起こることを皮膚炎と呼びますが、これは皮膚に外傷やばい菌の感染、アレルギーなどが生じることで、発赤・熱感・腫脹・疼痛が生じます。
抗炎症作用とは、どのような原因であれ、炎症そのものを抑えてくれる作用です。モーラスパップは抗炎症作用があり、発赤・熱感・腫脹・疼痛といった症状を和らげてくれます。
具体的なモーラスパップなどのNSAIDsの作用機序を見ると、シクロオキシゲナーゼ(COX)という物質をブロックするはたらきがあります。
COXは、プロスタグランジン(PG)が作られる時に必要な物質であるため、COXがブロックされるとプロスタグランジンが作られにくくなります。
プロスタグランジンは炎症や痛みを誘発する物質であるため、モーラスパップがCOXをブロックすると炎症や痛みが生じにくくなるのです。
炎症が起きると血管の透過性が亢進し、血管内から血管外へ様々な物質が移動していきます。これは炎症の原因となっているものを修復する作用がある一方で、「発赤」「熱感」「腫脹」「疼痛」を引き起こしてしまいます。また浮腫(むくみ)の原因になることもあります。
モーラスパップは、COXの作用をブロックすることで、炎症や浮腫を和らげるはたらきがあるのです。
Ⅱ.鎮痛作用
炎症は疼痛(痛み)も引き起こします。
モーラスパップはCOXをブロックすることで炎症を和らげ、これにより痛みを抑えてくれます。
モーラスパップのようなお薬は俗に「痛み止め」と呼ばれていますが、この痛み止めとしての作用は、抗炎症作用が生じた結果によってもたらされています。
4.モーラスパップの副作用
モーラスパップにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
モーラスパップの副作用発生率は2.04%と報告されています。
報告されている副作用としては湿布を貼った部位に生じるものが多く、
- 発疹
- 発赤(赤くなる)
- 瘙痒感(かゆくなる)
- 刺激感
などが報告されています。
いずれも重篤となることは少なく、モーラスパップの使用量を適正にしたり、使用を中止すれば改善することがほとんどです。
またモーラスパップは、次に該当する方は使用禁忌(絶対に使ってはいけない)となっています。
- アスピリン喘息またはその既往のある方
- チアプロフェン酸(商品名スルガム)、スプロフェン(商品名トパルジック)、フェノフィブラート(商品名リピディル)、オキシベンゾン及びオクトクリレンを含有する製品に対して過敏症の既往のある方
- 光線過敏症の既往のある方
- 妊娠後期の女性
妊娠後期の妊婦さんがモーラスパップを使用してはいけないのは、妊娠後期にNSAIDsを使用した場合、赤ちゃんで開通している血管である「動脈管」が閉鎖してしまう事があるためです。
そのため、妊娠後期の女性には禁忌となっています。
5.モーラスパップの用量・用法と剤型
モーラスパップは、
モーラスパップ 30mg (湿布1枚10×14cm) 1袋(湿布7枚入り)
モーラスパップ 60mg (湿布1枚14×20cm) 1袋(湿布7枚入り)
の2剤型があります。
この2つは大きさが違うだけで含まれている痛み止めの濃度は同じです。患部が狭い場合は30mgで良いでしょうし、広い場合は60mgを使うこともあります。
一般的な湿布は、
- 小さい剤型が7×10cm
- 大きい剤型が10×14cm
であることが多いのですが、モーラスパップは、更に大きい14×20㎝の剤型があります。そのため、広い部位に大きな湿布を貼りたい場合には適しています。
またモーラスにはパップ剤だけではなくテープ剤もあります。
モーラステープ 20mg (湿布1枚7×10cm) 1袋(湿布7枚入り)
モーラステープL 40mg (湿布1枚10×14cm) 1袋(湿布7枚入り)
テープもパップも含まれているお薬の成分は同じですが、量や湿布剤の大きさが異なります。
またそれぞれの剤型による違いがあります。
まず見た目としては、パップ剤が白色でテープが肌色という事が多く、テープ剤の方が目立たないため、目立つ部位にも比較的貼りやすいというメリットがあります。
根本的な違いとしてはパップ剤は水溶性の基材を用いており、テープ剤は脂溶性の基材を用いているという点が挙げられます。
水分を多く含む水溶性のパップ剤は貼った時に「清涼感(ひんやりした感覚)」を得やすいため、この冷たい感覚を好む方はパップ剤が良いでしょう。中にはこのひんやり感がないと「効いている感じがしない!」という方もいらっしゃいます。
脂溶性のテープ剤は脂(あぶら)と相性が良いため、皮膚にくっつきやすくはがれにくいというメリットがあります。そのため、剥がれやすい部位(関節など)にはテープ剤が適しています。
これらの違いを理解し、自分が使いたい部位に応じて適切な剤型を選びましょう。
モーラスパップの使い方は、
1日2回、患部に貼付する。
と書かれています。
モーラスパップは1回の貼付で1日効果が持続しますが、添付文書上は1日2回貼り換えることとなっています。ちなみに同じ成分から成るモーラステープは「1日1回、患部に貼付する」となっています。
モーラスパップはテープ剤と比べると粘着力が弱く、はがれやすい傾向があります。そのため、1日2回の貼付となっているのかもしれません。
6.モーラスパップの使用期限はどれくらい?
モーラスパップの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった湿布があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
これは保存状態によっても異なってきますので一概に答えることはできませんが、適切な条件(室温・遮光・気密容器)で保存されていたのであれば「3年」が使用期限となります。
モーラスパップは基本的には遮光、気密容器、室温で保存するものですので、この状態で保存していたのであれば上記期間持つと考えて良いでしょう。反対に暑い場所で保管していたり、光が当たる場所で保管していた場合は、使用期限は短くなる可能性があります。
7.モーラスパップが向いている人は?
以上から考えて、モーラスパップが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
モーラスパップの特徴をおさらいすると、
・消炎作用(炎症を抑える)・鎮痛作用(痛みを和らげる)がある
・湿布であり、痛みがある部位にのみ効かせることができる
・お薬の成分が全身に回りにくいため、副作用が少ない
・貼った時に清涼感(ひんやり感)がある
というものでした。
モーラスパップは痛み止めの強さとしては標準的な強さを持ち、安全性にも優れます。そのため肩・膝や腰といった局所の痛みを抑える際に、まず用いる第一選択のお薬として適しているのではないでしょうか。
反対に全身の広い部位に痛みを感じる場合は、湿布よりも飲み薬の方が全身にお薬が回りますので良いかもしれません。
またモーラスにはパップ剤とテープ剤がありますが、モーラスパップは水溶性の基材を用いているため、貼った際に清涼感を得られるのが特徴です。この感覚を好む方はパップ剤が良いでしょう(しかしひんやりするからといってテープ剤よりも効くというわけではありません)。
パップ剤は伸縮性や粘着性は弱いため、関節など湿布がある程度伸びる場所に貼りたい方やはがれやすい部位に貼りたい方はテープ剤の方が適していることもあります。
また、モーラスパップをはじめとしたNSAIDsはあくまでも炎症を抑えているだけで根本を治しているわけではない事は知っておく必要があります。
例えば骨折に痛みにモーラスパップを貼れば、確かに痛みは和らぎます。しかしこれは痛みの原因である骨折を治す作用はありません。あくまでも骨折で生じる痛みを感じさせにくくしているだけになります。
そのため、痛みに何らかの治療可能な原因がある場合は、安易に痛み止めで痛みを抑えるのではなく、原因を突き止め、根本を治すような治療も並行して行っていく必要があります。