モーラステープ(一般名:ケトプロフェン)は1995年から発売されている痛み止めの湿布です。「非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」という種類に属します。
NSAIDsは痛み止めとして広く用いられている成分で、湿布以外にも軟膏や飲み薬としても使用されています。
湿布剤のNSAIDsは主に関節や骨・筋肉などの痛みに対して、炎症を抑えたり痛みを軽減する目的で処方されます。
痛み止めの湿布にもたくさんの種類があり、それぞれがどのような特徴を持つのか分かりにくいと思います。モーラステープがどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのか、その効果・効能や特徴、副作用についてみていきましょう。
目次
1.モーラステープの特徴
まずはモーラステープの特徴をざっくりと紹介します。
モーラステープは主に炎症を和らげる(消炎)はたらきと痛みを和らげる(鎮痛)はたらきを持ちます。伸縮性と粘着力に優れたテープであり、膝などの可動部に貼ってもはがれにくい剤型となっています。
モーラステープは「非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」と呼ばれるお薬になります。
NSAIDsは痛み止めとして湿布以外にも広く使われています。
例えば、痛み止めの飲み薬としては、
- ロキソニン
- ボルタレン
- セレコックス
などがありますが、これらもNSAIDsです。
その他塗り薬(軟膏やクリーム)、坐薬、点滴など多くの剤型のNSAIDsがあり、痛みを和らげたり炎症を抑えたりするはたらきを持っています。
モーラステープは湿布剤ですので、主に関節や骨・筋肉の痛みを和らげる目的で使用されます。特に良く使われるのが肩・膝・腰といった関節の痛みです。ぶつけたり、あるいは年とともに関節が弱って痛み出したりした際、モーラステープには消炎作用(炎症を抑える作用)と鎮痛作用(痛みを抑える作用)がありますので、これらの症状を改善させることができます。
貼り薬(湿布)であるモーラステープは飲み薬のNSAIDsと異なり、全身にお薬が回りにくいという利点があります。局所にしか効かないため、全身の様々な部位が痛いという場合には向きませんが、身体の一部分が痛いという場合にはその部位にだけ効かせることが可能です。全身にお薬が回りにくいため、副作用が生じる頻度も少なくなります。
モーラステープは、テープに適度な伸縮性(伸び)と粘着性(くっつきやすさ)があります。そのため、膝や肩といった関節部位に貼ってもはがれにくいというメリットがあります。
以上から、モーラステープの特徴としては次のようなことが挙げられます。
【モーラステープの特徴】
・消炎作用(炎症を抑える)・鎮痛作用(痛みを和らげる)がある
・湿布であり、痛みがある部位にのみ効かせることができる
・お薬の成分が全身に回りにくいため、副作用が少ない
・適度な伸縮性と粘着性があるため、関節に貼ってもはがれにくい
2.モーラステープはどのような疾患に用いるのか
モーラステープはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
○下記疾患並びに症状の鎮痛・消炎腰痛症(筋・筋膜性腰痛症、変形性脊椎症、椎間板症、腰椎捻挫)、変形性関節症、肩関節周囲炎、腱・腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎(テニス肘等)、筋肉痛、外傷後の腫脹・疼痛
○関節リウマチにおける関節局所の鎮痛
たくさんの難しい病名が書かれていますが、要するに「関節や骨、筋肉の痛み」に対して用いるという認識で良いと思います。
モーラステープは消炎作用と鎮痛作用を有していますが、それ以外の作用はほとんどありません。
よく勘違いされるのですが、「痛みの原因を治す作用」はありませんので注意が必要です。
例えば骨にヒビが入ってしまって痛むという部位にモーラステープを貼れば、確かに痛みは和らぎます。しかしあくまでも痛みを感じにくくさせているだけで、別に骨の修復を早めるような作用はありません。
モーラステープの改善率(中等度以上改善した率)は、
- 腰痛症での改善率は63.0%
- 変形性関節症での改善率は68.0%
- 肩関節周囲炎での改善率は61.1%
- 腱・腱鞘炎での改善率は69.4%
- 腱周囲炎での改善率は75.0%
- 上腕骨上顆炎での改善率は72.1%
- 筋肉痛での改善率は90.7%
- 外傷後の腫脹・疼痛での改善率は83.3%
と報告されています。
3.モーラステープにはどのような作用があるのか
モーラステープは、どのような作用を持つお薬なのでしょうか。
モーラステープを塗る事で期待できる作用について紹介します。
Ⅰ.抗炎症作用
モーラステープは、炎症を和らげる作用を持ちます。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
例えば身体をぶつけたり、身体にばい菌が入ったりすると、その部位が赤くなったり熱感を持ったり、腫れたり、痛んだりという状態になりますが、これが炎症です。
皮膚に炎症が起こることを皮膚炎と呼びます。皮膚炎も外傷でも生じるし、ばい菌に感染することでも生じるし、アレルギーでも生じます。
どのような原因であれ、炎症そのものを抑えてくれる作用が抗炎症作用です。モーラステープは抗炎症作用があり、発赤・熱感・腫脹・疼痛といった症状を和らげてくれます。
具体的にモーラステープなどのNSAIDsの作用機序を見ると、シクロオキシゲナーゼ(COX)という物質をブロックするはたらきがあります。
COXは、プロスタグランジン(PG)が作られる時に必要な物質であるため、COXがブロックされるとプロスタグランジンが作られにくくなります。
プロスタグランジンは炎症や痛みを誘発する物質であるため、モーラステープがCOXをブロックすると炎症や痛みが生じにくくなるのです。
炎症が起きると血管の透過性が亢進し、血管内から血管外へ様々な物質が移動していきます。これは炎症の原因となっているものを修復する作用がある一方で、「発赤」「熱感」「腫脹」「疼痛」を引き起こしてしまいます。また浮腫(むくみ)の原因になることもあります。
モーラステープは、COXの作用をブロックすることで、炎症や浮腫を和らげるはたらきがあるのです。
Ⅱ.鎮痛作用
炎症は疼痛(痛み)も引き起こします。
モーラステープはCOXをブロックすることで炎症を和らげ、これにより痛みを抑えてくれます。
モーラステープのようなお薬は俗に「痛み止め」と呼ばれていますが、この痛み止めとしての作用は、抗炎症作用が生じた結果によってもたらされています。
4.モーラステープの副作用
モーラステープにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
モーラステープの副作用発生率は4.93%~8.57%と報告されています。数値だけを見ると多く感じられるかもしれませんが、副作用の程度は軽いものがほとんどです。
報告されている副作用としては湿布を貼った部位に生じるものが多く、
- 発疹
- 発赤(赤くなる)
- 瘙痒感(かゆくなる)
- 刺激感
- 貼付部の膨疹
- 動悸
- 顔面及び手の浮腫
などが報告されています。
いずれも重篤となることは少なく、モーラステープの使用量を適正にしたり、使用を中止すれば改善することがほとんどです。
またモーラステープは、次に該当する方は使用禁忌(絶対に使ってはいけない)となっています。
- アスピリン喘息またはその既往のある方
- チアプロフェン酸(商品名スルガム)、スプロフェン(商品名トパルジック)、フェノフィブラート(商品名リピディル)、オキシベンゾン及びオクトクリレンを含有する製品に対して過敏症の既往のある方
- 光線過敏症の既往のある方
- 妊娠後期の女性
妊娠後期の妊婦さんがモーラステープを使用してはいけないのは、妊娠後期にNSAIDsを使用した場合、赤ちゃんで開通している血管である「動脈管」が閉鎖してしまう事があるためです。
そのため、妊娠後期の女性には禁忌となっています。
5.モーラステープの用量・用法と剤型
モーラステープは、
モーラステープ 20mg (湿布1枚7×10cm) 1袋(湿布7枚入り)
モーラステープL 40mg (湿布1枚10×14cm) 1袋(湿布7枚入り)
の2剤型があります。
この2つは大きさが違うだけで含まれている痛み止めの濃度は同じです。患部が狭い場合は20mgで良いでしょうし、広い場合は40mgを使うこともあります。
モーラステープの使い方は、
1日1回患部に貼付する。
と書かれています。
モーラステープは貼ることで1日効果が持続します。湿布は「貼って数時間くらいしか効かない」というイメージを持っている方も少なくありませんが、モーラステープは皮膚から吸収され、血中濃度が最大になるのは約12時間後と報告されています。ゆっくりと効き始め、長く効果が持続するお薬なのです。
6.モーラステープの使用期限はどれくらい?
モーラステープの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった湿布があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
これは保存状態によっても異なってきますので一概に答えることはできませんが、適切な条件(室温・遮光・気密容器)で保存されていたのであれば「2年」が使用期限となります。
モーラステープは基本的には遮光、気密容器、室温で保存するものですので、この状態で保存していたのであれば上記期間持つと考えて良いでしょう。反対に暑い場所で保管していたり、光が当たる場所で保管していた場合は、使用期限は短くなる可能性があります。
7.モーラステープが向いている人は?
以上から考えて、モーラステープが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
モーラステープの特徴をおさらいすると、
・消炎作用(炎症を抑える)・鎮痛作用(痛みを和らげる)がある
・湿布であり、痛みがある部位にのみ効かせることができる
・お薬の成分が全身に回りにくいため、副作用が少ない
・適度な伸縮性と粘着性があるため、関節に貼ってもはがれにくい
というものでした。
モーラステープは、標準的な作用を持ち、安全性も高く、テープに優れた伸縮性と粘着性があるため、痛み止めの湿布の中でも広く処方されているお薬になります。
肩・膝や腰の痛みを抑える際に、まず用いる第一選択のお薬として適しているのではないでしょうか。
反対に全身の広い部位に痛みを感じる場合は、湿布よりも痛み止めの飲み薬の方が全身にお薬が回りますので良いかもしれません。
ただしモーラステープはあくまでも炎症を抑えているだけで根本を治しているわけではない事は知っておく必要があります。
例えば骨折に痛みにモーラステープを貼れば、確かに痛みは和らぎます。しかしこれは痛みの原因である骨折を治す作用はありません。あくまでも骨折で生じる痛みを感じさせにくくしているだけになります。
そのため、痛みに何らかの治療可能な原因がある場合は、安易に痛み止めで痛みを抑えるのではなく、原因を突き止め、根本を治すような治療も並行して行っていく必要があります。