ムコブリン錠（一般名：アンブロキソール塩酸塩）は1984年に発売されている「ムコソルバン」というお薬のジェネリック医薬品です。
いわゆる「痰切り」で、専門的には「去痰剤（きょたんざい）」と呼ばれます。
ムコブリンは、主に風邪や気管支炎などで痰が多くなった時に、痰を出しやすくするお薬として処方されます。副作用が少なく使い勝手が良いため、現在でも広く用いられています。
ムコブリンはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに使うお薬なのでしょうか。ここではムコブリンの特徴や効果・副作用について紹介します。
１．ムコブリンの特徴
まずはムコブリンの特徴をざっくりと紹介します。
ムコブリンは痰を出しやすくする痰切りのお薬で、副作用の少なさが特徴です。
そのため、風邪や気管支炎・肺炎などを中心に現在でも広く処方されています。
痰切りのお薬にもいくつかの種類がありますが、その作用を大きく分けると、
- 痰を出しやすくするお薬
- 痰を溶かすお薬
の2つに分けられます。
このうちムコブリンは前者になり、主に気道の粘液を増やしたり、気道の線毛運動を亢進させる事で痰を体外に排出しやすくする作用を持ちます。
同じようなはたらきをするお薬として、他にもムコダイン（一般名：カルボシステイン）などがあります。
一方で痰を溶かすお薬にはビソルボン（一般名：ブロムヘキシン）などがあります。
ムコブリンは基本的には気道の痰を排出する目的で使われますが、実はそれ以外にも副鼻腔の排膿効果（膿を排出させる効果）も認められており、副鼻腔炎などにも使えるのも利点です。
ムコブリンは副作用が少なく、臨床で処方している感覚としては「副作用がほぼない」と言っても良いようなお薬です。たまに胃不快感などの胃腸系の症状が出ますが、出たとしても軽度であり、安全性はとても高いお薬になります。
またムコブリンはジェネリック医薬品ですので先発品のムコソルバンと比べると薬価が安いのもメリットです。
以上からムコブリンの特徴として次のような点が挙げられます。
【ムコブリンの特徴】
・痰を排出しやすくするはたらきを持つ
・副鼻腔炎の排膿にも効果がある
・副作用が少なく安全性が高い
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
２．ムコブリンはどんな疾患に用いるのか
ムコブリンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇下記疾患の去痰
急性気管支炎、気管支喘息、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺結核、塵肺症、手術後の喀痰喀出困難
〇慢性副鼻腔炎の排膿
難しい病名がたくさん並んでいますが、簡単に言えば「痰が出るような呼吸器疾患に対して痰切りとして使える」という認識で良いと思います。
臨床でよく用いられるのが、風邪（急性上気道炎）や気管支炎、喘息などですね。
ムコブリンはこれらの疾患に対してどの程度効果があるのでしょうか。
ムコブリンはジェネリック医薬品ですので有効性の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「ムコソルバン」では行われており、各疾患に対する有効率は、
- 急性気管支炎の去痰に対する有効率は75.3％
- 気管支喘息の去痰に対する有効率は51.5％
- 慢性気管支炎の去痰に対する有効率は54.2％
- 気管支拡張症の去痰に対する有効率は43.7％
- 肺結核の去痰に対する有効率は43.2％
- 塵肺症の去痰に対する有効率は54.1％
- 手術後の喀痰喀出困難に対する有効率は41.4％
- 慢性副鼻腔炎の排膿に対する有効率は45.7％
と報告されています。
ムコソルバンと同じ主成分を持つムコブリンもこれと同程度の有効率があると考えられます。
３．ムコブリンにはどのような作用があるのか
痰切り（去痰剤）として用いられるムコブリンですが、どのような機序で痰を抑えてくれるのでしょうか。
ムコブリンには主に次の3つの作用があります。
Ⅰ．痰を柔らかくし、出しやすくする
痰は固くなると気管の壁にこびりついてしまい、喀出しにくくなってしまいます。
ムコブリンは痰を柔らかくする事で、痰が体外に排出されやすいようにしてくれます。
具体的に言うとムコブリンは、
- 肺サーファクタント（界面活性剤のようなもの）
- 気道液と呼ばれる液体
を気管内・肺胞内に分泌します。
これにより気管壁が潤滑になり、また痰も水気を含んで柔らかくなるため、体外に排出されやすくなるのです。
Ⅱ．気管支の線毛の動きを良くする
気管支の壁には線毛（繊毛）と呼ばれる毛のようなものが付いています。
線毛は異物が気管に入ると動きが活性化し、異物を体外に運ぶはたらきがあります。
ムコブリンは、気管壁に存在する線毛の動きを活性化するはたらきがあります。これにより痰も体外に運ばれますので、排出されやすくなるのです。
Ⅲ．副鼻腔をきれいにする
ムコブリンは気管だけではなく、副鼻腔にも作用することが分かっています。
元々副鼻腔と気管は構造的に似ている部分が多く、そのためムコブリンは気管だけではなく副鼻腔でも同じように余計な物質を排出してくれる作用が期待できます。
副鼻腔に膿がたまると副鼻腔炎を発症しますが、ムコブリンは副鼻腔炎などで過剰になった分泌液を正常化したり、副鼻腔の繊毛運動を活性化する事で、排膿を促す効果があることが確認されています。
４．ムコブリンの副作用
ムコブリンにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
ムコブリンはジェネリック医薬品ですので、副作用発生率についての詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「ムコソルバン」の副作用発生率は0.5%と報告されており、ムコブリンもこれと同程度の副作用発生率だと考えられます。
生じうる副作用としては消化器系のものが多く、
- 胃不快感
- 吐き気
- 胃痛
- 腹痛
などが報告されています。
これはムコブリンが消化器系の運動を一過性に高めるためであると考えられています。しかし頻度は少なく、ほとんどが軽度の症状に留まります。
また、
- 浮腫
- 発疹
などの報告もありますが、こちらも頻度は少なく、また重症化することはほとんどありません。
５．ムコブリンの用法・用量と剤形
ムコブリンには、
ムコブリン錠 15mg
の1剤型のみが発売されています。
ちなみに先発品の「ムコソルバン」は錠剤以外にも、
- ドライシロップ（DS）
- シロップ
- 内用液
- L錠（徐放錠）
- Lカプセル（徐放カプセル）
とたくさんの剤型がそろっていますので、錠剤以外を希望される方は先発品を選択するのも手です。
ちなみにL剤というのは「徐放製剤」の事です。ムコソルバンは効果が長く続かないため、効果を一定させるためには、1日3回服用することが指示されています。しかし徐放製剤は「ゆっくり長く効く」ような工夫がされている製剤であり、1日1回服用するだけで効果が1日持続します。1日3回も服用できないという方にとっては役立つお薬になります。
ムコブリンの使い方は、
通常、成人には1回1錠を1日3回経口投与する。なお、年齢・症状により適宜増減する。
と書かれています。
ムコブリンはだいたい、服用してから1～3時間で血中濃度は最大になり、半減期は5～9時間ほどと報告されています。半減期とは、お薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、そのお薬の作用時間の一つの目安になる数値です。ムコブリンはその半減期から1日1回の服薬では1日を通して効果は持続しないと考えられており、1日3回の服用が指示されています。
６．ムコブリンが向いている人は？
以上から考えて、ムコブリンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ムコブリンの特徴をおさらいすると、
・痰を排出しやすくするはたらきを持つ
・副鼻腔炎の排膿にも効果がある
・副作用が少なく安全性が高い
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
などがありました。
ムコブリンは効果もしっかりとあり、安全性も高いお薬です。
ここから、呼吸器疾患に伴う痰が生じた時に、まず最初に用いるお薬として適していると言えます。
また先発品と比べて安い薬価で処方してもらえますので、経済的負担を少なくしたい方にもおすすめです。
ただし剤型は錠剤しかありません。シロップやドライシロップ（DS）でないと飲めない乳幼児の方や1日に3回も服用できないという方は先発品のムコソルバンや他のジェネリックであれば多くの剤型がそろっていますので、そちらを使用しても良いかもしれません。