ムコダイン錠(一般名:L-カルボシステイン)は1981年から発売されているお薬です。いわゆる「痰切り」のお薬で、専門的には「去痰剤(きょたんざい)」と呼ばれます。
ムコダインは、主に風邪や気管支炎などで痰がからんでしまうような時に痰を出しやすくするお薬として処方されます。またそれ以外にも鼻水・鼻づまりを改善させる作用などもあります。風邪を引いた時は痰だけでなく鼻水も出る事が多いので、1剤で痰と鼻水の両方に効いてくれるムコダインは臨床において多く処方されています。
副作用が少なく、剤型も多く使い勝手が良いため、古いお薬でありながら現在でも広く用いられているお薬の1つです。
去痰剤の中でムコダインはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ムコダインの効能や特徴についてお話させて頂きます。
1.ムコダインの特徴
まずはムコダインの特徴をざっくりと紹介します。
ムコダインは気道・鼻腔・副鼻腔・中耳の粘膜を修復させ、異物(痰や膿など)を排泄しやすくするお薬です。
ムコダインの主な作用は痰を排出しやすくすることですが、それ以外にも鼻水や耳に溜まった水(浸出液)も同様に排出しやすくする作用があります。そのため痰のみならず鼻症状(鼻水・鼻づまりなど)を認めるような風邪や気管支炎などを中心に現在でも広く処方されています。また主に子供がかかりやすい中耳炎において処方されることもあります。
痰切りのお薬にもいくつかの種類があります。その作用を大きく分けると、
・痰を出しやすくするお薬
・痰を溶かすお薬
があります。
ムコダインは前者になり、気道に分泌される粘液を正常化したり、気道の線毛運動を亢進させる事で痰を体外に排出しやすくするお薬です。この種類のお薬は他にも「ムコソルバン(一般名:アンブロキソール)」などがあります。
もう1つが痰を溶かすお薬で、こちらにはビソルボン(一般名:ブロムヘキシン)などがあります。
ムコダインは副作用が少なく、臨床で処方している感覚としては「副作用がほぼない」と言っても良いようなお薬です。たまに胃不快感などの胃腸系の症状が出ますが、出たとしても軽度であり、安全性はとても高いお薬になります。
多くの剤型が揃っているのもムコダインのメリットです。
錠剤の他にドライシロップ(粉)、シロップもあり、小さい子やお年寄りの方でも飲みやすくなっています。
以上からムコダインの特徴として次のような点が挙げられます。
【ムコダインの特徴】
・痰を排出しやすくするはたらきを持つ
・鼻腔・副鼻腔炎の鼻水・鼻づまりを改善させる作用もある
・中耳に溜まった水を排泄する作用もある
・副作用が少なく安全性が高い
・剤型が豊富で使い勝手が良い
2.ムコダインはどんな疾患に用いるのか
ムコダインはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇 下記疾患の去痰
上気道炎(咽頭炎、喉頭炎)、急性気管支炎、気管支喘息、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺結核〇 慢性副鼻腔炎の排膿
〇 滲出性中耳炎の排液(小児のみ)
難しく書かれていますが、基本的には痰が出るような呼吸器疾患に対して、「痰切り」の目的で投与されるという認識で良いでしょう。
加えてムコダインには鼻腔や副鼻腔の清浄作用がありますので、副鼻腔炎にも適応があります。また中耳に溜まった液を排出する作用がありますので、中耳炎のかかりやすい小児には「浸出性中耳炎」にも適応があります。
3.ムコダインにはどのような作用があるのか
主に痰切り(去痰剤)として用いられるムコダインですが、どのような機序で痰を出しやすくしているのでしょうか。またその他の作用はどのように生じているのでしょうか。
ムコダインには次のような作用がある事が知られています。
Ⅰ.痰を柔らかくし、出しやすくする
ムコダインは気道に分泌される粘液を正常化することで、痰を排出しやすくする作用を持ちます。
痰が固くなって出しにくい時というのは、痰の構成成分であるシアル酸・フコースの構成比が崩れていることが知られています。ムコダインは、これらの構成比を正常化させる作用があり、これによって痰を柔らかくし、排出しやすくします。
また気道粘液中のムチンという粘度の高いタンパク質の生成を抑制することで、痰の粘度を下げ、痰を排泄しやすくするというはたらきもあります。
Ⅱ.気管支の線毛の動きを良くする
気管支の壁には線毛(繊毛)と呼ばれる毛のようなものが付いています。
この毛は、異物が気管に入ると動きが活性化し、体外に異物を運ぶはたらきがあります。
ムコダインは、上気道炎や気管支炎によって生じた気道粘膜の炎症を修復する作用もあります。これによって気管壁に存在する線毛もしっかりとはたらけるようになり、痰が体外に排出されやすくなります。
Ⅲ.鼻腔・副鼻腔をきれいにする
ムコダインは「去痰剤」というイメージが強く、気管にしか作用しないと思われがちですが、実は気管だけではなく、鼻腔や副鼻腔にも作用することが分かっています。
元々鼻腔・副鼻腔と気管は分泌液や線毛運動など構造的に似ている部分が多い事が知られています。そのためムコダインは気管だけではなく鼻腔・副鼻腔でも同じようにはたらき、余計な物質を排出してくれる作用が期待できるのです。
ムコダインは炎症などによって傷ついた鼻腔・副鼻腔の粘膜を修復してくれる作用が確認されています。また鼻腔・副鼻腔の線毛運動を正常化することにより鼻汁の排泄を促したり、鼻閉(鼻づまり)を改善させます。
風邪の症状の他、副鼻腔炎の鼻漏、後鼻漏、鼻閉などの症状の改善も期待できます。
Ⅳ.中耳貯留液を排泄する
ムコダインは、鼻腔・副鼻腔と同様に中耳にも作用してくれます。
中耳というのは耳の鼓膜より奥の部位を指します。子供は時に中耳炎を起こしてしまいますが、このような時にムコダインは役立ちます。
ムコダインは炎症などによって傷ついた中耳の粘膜を修復する作用があります。また中耳の線毛運動も回復するはたらきがあり、これは中耳炎などで中耳に液が溜まってしまった時(浸出性中耳炎)に、液を排出するはたらきとして役立ちます。
4.ムコダインの副作用
ムコダインにはどんな副作用があるのでしょうか。またその頻度はどのくらいなのでしょうか・
ムコダインは副作用が非常に少なく、安全性が高いお薬になります。副作用の発生率は0.9%程度と報告されており、これは非常に少ない数値です。また生じる副作用の程度も軽いものがほとんどで重篤な副作用はほぼ起こらないといってもよいお薬です。
頻度は少ないものの、生じうる副作用としては消化器系のものが多く、
・食欲不振
・下痢
・腹痛
・発疹
などが報告されています。
非常に稀ではありますが重篤な副作用として、
・皮膚粘膜眼症候群(SJS)
・中毒性表皮壊死症(TEN)
・肝機能障害
・黄疸
・ショック
などが報告されています。
肝臓に対する副作用が稀にあるため、元々肝機能の悪い方は主治医にあらかじめ伝えておく必要があります。
これらの重篤な副作用は報告があるため一応の注意は必要ですが、適正に使用していれば臨床で見かけることはほとんどありません。
5.ムコダインの用法・用量と剤形
ムコダインは多くの剤型が発売されています。
ムコダイン錠 250mg
ムコダイン錠 500mgムコダインDS(ドライシロップ) 50%
ムコダインシロップ 5%
と、多くの剤型が発売されています。
風邪や気管支炎・肺炎などは子どもからお年寄りまで幅広い年代の方がかかる疾患ですので、ムコダインもそれに合わせて錠剤だけではなく、小児やお年寄りでも飲みやすいDS(ドライシロップ)、シロップとたくさんの剤型が用意されています。
ムコダインの使い方は、
通常成人1回500mg を1日3回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
通常、幼・小児に体重1kg当たり1回10mgを、1日3回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
と書かれています。
6.ムコダインが向いている人は?
以上から考えて、ムコダインが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ムコダインの特徴をおさらいすると、
・痰を排出しやすくするはたらきを持つ
・鼻腔・副鼻腔炎の鼻水・鼻づまりを改善させる作用もある
・中耳に溜まった水を排泄する作用もある
・副作用が少なく安全性が高い
・剤型が豊富で使い勝手が良い
などがありました。
ムコダインは効果もしっかりとあり、安全性も高いお薬です。また剤型がたくさんあり、使い勝手も良いという点も挙げられます。
ここから、呼吸器疾患に伴う痰が生じた時に、まず最初に用いるお薬として適していると言えます。臨床では風邪(急性上気道炎)や気管支炎などの痰切り・鼻水改善を目的に非常に多く処方されているお薬です。