ムコフィリン吸入液(一般名:アセチルシステイン)は1965年から発売されているお薬です。いわゆる「痰切り」で、専門的には「去痰剤(きょたんざい)」と呼ばれます。
ムコフィリンは、主に風邪や気管支炎などで痰がからんでしまうような時に用いられます。ネバネバの痰を溶かし、サラサラにする事で喀出させやすくする作用があります。
またお薬ではありますが、一般的な飲み薬のように服用するのではなく、気管に注入したり噴霧するような使い方をするお薬になります。
去痰剤の中でムコフィリンはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここではムコフィリンの特徴や効果・副作用についてお話させて頂きます。
目次
1.ムコフィリンの特徴
まずはムコフィリンの特徴を紹介します。
ムコフィリンは痰の粘度を下げ、痰を溶かす事で痰を排出させやすくするお薬です。飲み薬ではなく気管に注入あるいは噴霧するお薬になります。
ムコフィリンは、痰のネバネバの原因である「ムコ蛋白」を分解する事で、痰の粘度を下げるお薬になります。痰の粘性(ネバネバ度)を下げるため、咳で痰が喀出されやすくなります。
ムコフィリンの大きな特徴として、飲み薬ではないという点が挙げられます。液体ですが、そのまま飲み込んではいけません。液体を直接気管に注入するか噴霧する事で使用します。
気管に直接お薬を注入するというのは自分ではなかなかできませんので、実際はネブライザー(吸入器)に用いる水(蒸留水)にムコフィリンを混ぜて、蒸気として吸入するという使い方が一般的です。
痰切りのお薬にもいくつかの種類がありますが、その作用を大きく分けると、
・痰を出しやすくするお薬
・痰を溶かすお薬
の2つに分けられます。
このうち、ムコフィリンは後者の「痰を溶かすお薬」になります。
ちなみに前者に該当する去痰剤には「ムコダイン(一般名:カルボシステイン)」、「ムコソルバン(一般名:アンブロキソール)」などがあり、後者に該当する他の去痰剤には「ビソルボン(一般名:ブロムヘキシン)」などがあります。
ムコフィリンは気管に直接注入・噴霧するため、気管が刺激されて吐き気や咽頭痛などが生じる事はあります。また独特の臭い(硫黄臭)があるため、これを不快に感じられる方もいらっしゃいます。
しかし重篤な副作用が生じる事は稀で基本的には安全性は高いお薬になります。
以上からムコフィリンの特徴として次のような点が挙げられます。
【ムコフィリンの特徴】
・ムコ多糖を分解する事で痰の粘度を下げる
・独特の臭い(硫黄臭)がある
・飲み薬ではなく、気管に注入・噴霧するお薬である
2.ムコフィリンはどのような疾患に用いるのか
ムコフィリンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇下記疾患の去痰
慢性気管支炎、肺気腫、肺化膿症、肺炎、気管支拡張症、肺結核、嚢胞性線維症、気管支喘息、上気道炎(咽頭炎、喉頭炎)、術後肺合併症
〇下記における前後処置
気管支造影、気管支鏡検査、肺癌細胞診、気管切開術
難しい病名がたくさん書かれていますが、基本的には痰が出るような呼吸器疾患に対して、「痰切り」の目的で投与されるという認識で良いでしょう。
3.ムコフィリンにはどのような作用があるのか
主に痰切り(去痰剤)として用いられるムコフィリンですが、どのような機序で痰を出しやすくしているのでしょうか。またその他の作用はどのように生じているのでしょうか。
ムコフィリンには次のような作用がある事が知られています。
Ⅰ.ムコ蛋白を分解する
ムコフィリンは、痰の構成成分であるムコ蛋白を分解するはたらきがあります。
ムコ蛋白は糖蛋白の一種で、糖分を多く含む事で粘度(ネバネバ度)を持ちます。痰にムコ蛋白が多量に含まれていると、粘度が高くなって気管にこびりついてしまうため、咳をしても喀出されにくくなります。
ムコフィリンは痰に含まれるムコ蛋白のS-S結合を切り離す作用をもちます。これによりムコ蛋白を分解し、痰の粘度を下げてくれます。
痰の粘度が下がり、ネバネバ痰がサラサラになれば痰は気道にこびりつきにくくなるため、咳で体外に排出されやすくなるというわけです。
4.ムコフィリンの副作用
ムコフィリンにはどんな副作用があるのでしょうか。またその頻度はどのくらいなのでしょうか。
ムコフィリンの副作用発生率は12.6%と報告されています。数値だけみると副作用が多いお薬に見えるかもしれませんが、ムコフィリンは危険な副作用のあるお薬ではありません。飲み薬と異なり気管に注入・噴霧するという使い方をするため気管を刺激しやすく、これによる副作用が生じやすいのです。
生じうる副作用としては、
- 硫黄臭
- 悪心・嘔吐・嘔気
- 気管支閉塞
- 咽頭痛
- 咳嗽発作
- 気管支痙攣
などが報告されています。
もっとも頻度が多いのは硫黄臭です。これはムコフィリンの臭いになります。ムコフィリンは構造上、SH基(チオール基)を持ち硫黄(S)を含むため、独特の臭いがあります。
また飲み薬ではなく、直接気管に注入・噴霧するものですので、気管が刺激されて吐き気や痛み、咳が生じる事があります。
稀ではありますが重篤な副作用として、
- 気管支閉塞
- 気管支痙攣
が報告されています。
このような副作用はほとんど生じる可能性はありませんが、万が一喉の閉塞感や呼吸苦が生じた場合は速やかに医療機関に連絡し、指示を仰ぐようにしましょう。
また副作用ではないのですが、ムコフィリンを投与するとネバネバの痰がサラサラになって喀出されやすくなるため、一時的に痰の量が増える事があります。
これにびっくりする方もいますが、これは気道にたまっていた痰がお薬の作用で出てきただけですので、心配はいりません。
5.ムコフィリンの用法・用量と剤形
ムコフィリンには、
ムコフィリン吸入液 20% 2ml
の1剤型のみがあります。
ムコフィリンの使い方は、
通常、1回1/2包~2包(1~4mL)を単独又は他の薬剤を混じて気管内に直接注入するか、噴霧吸入する。なお、年齢、症状により投与量、投与回数を適宜増減する。
と書かれています。
実際は気管に直接注入すると刺激になってしまう事が多いため、水(蒸留水など)に溶かしてネブライザー(吸入器)で噴霧吸入するのが一般的です。
6.ムコフィリンが向いている人は?
以上から考えて、ムコフィリンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ムコフィリンの特徴をおさらいすると、
・ムコ多糖を分解する事で痰の粘度を下げる
・独特の臭い(硫黄臭)がある
・飲み薬ではなく、気管に注入・噴霧するお薬である
などがありました。
ムコフィリンは痰を出すはたらきを持つお薬で、なおかつ飲み薬ではなく注入・噴霧で用いるお薬になります。
そのため、飲み薬の去痰剤のみでは効果が不十分であり、ネブライザーなども使用する事が出来る方に向いているお薬になります。
ネブライザーは水分を蒸発させ、それを吸い込む事で気管を加湿させる機械です。そのままでも加湿作用で痰を出しやすくする作用が期待できますが、痰を溶かしやすくするムコフィリンを混ぜる事でよりしっかりとした去痰作用が期待できます。