ナイキサン(一般名:ナプロキセン)は1978年から発売されているお薬です。非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)と呼ばれ、炎症を抑える事で熱を下げたり痛みを抑えたりする作用を持ちます。
NSAIDsにはたくさんの種類があります。どれも大きな違いはありませんが、細かい特徴や作用には違いがあり、医師は痛みの程度や性状に応じて、その患者さんに一番合いそうな痛み止めを処方しています。
NSAIDsの中でナイキサンはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここでは、ナイキサンの効能や特徴、副作用などを紹介していきます。
1.ナイキサンの特徴
まずはナイキサンの特徴を紹介します。
ナイキサンは、即効性・持続力・効果の強さにおいてすべて平均的な作用を有するバランス型の解熱鎮痛剤になります。
ナイキサンはNSAIDsに属します。NSAIDsとは「非ステロイド性消炎鎮痛剤」の事で、ステロイド作用を持たない炎症を抑えるお薬の事です。炎症が抑えられると熱を下げたり、痛みを抑えたりといった効果が期待できるため、臨床では主に熱さまし(解熱剤)・痛み止め(鎮痛剤)として用いられています。
ナイキサンはあまり特徴のない解熱鎮痛剤です。これは悪い意味ではなく、バランス型のNSAIDsだという事です。
- 即効性もまずまず(30~60分で効き始め、2時間ほどで効果が最大となる)
- 持続力もまずまず(1回の投与で約半日ほど効果が持続する)
- 効果の強さも中等度
であり、平均的なNSAIDsだと言えるでしょう。
他のNSAIDsと比べて副作用も多くもなく少なくもありません。
以上からナイキサンの特徴として次のような点が挙げられます。
【ナイキサンの特徴】
・解熱・鎮痛作用は中等度
・即効性・持続力などにまずまず優れる
・副作用の程度・頻度も中等度
2.ナイキサンはどのような疾患に用いるのか
ナイキサンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
○下記疾患の消炎、鎮痛、解熱関節リウマチ、変形性関節症、痛風発作、強直性脊椎炎、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、腱・腱鞘炎、月経困難症、帯状疱疹
○外傷後並びに手術後の消炎、鎮痛
○歯科・口腔外科領域における抜歯並びに小手術後の消炎、鎮痛
ナイキサンは解熱鎮痛剤であり、炎症を抑える事で熱を下げたり痛みを和らげる作用があります。
そのため用いる疾患は、発熱を来すようなもの、痛みを来すようなものになります。
難しい病名が書かれていますが、大きな認識としては「痛みや熱などが認められる疾患に対して、その症状の緩和に用いる」という認識で良いでしょう。
各種疾患に対するナイキサンの有効率は、
- 関節リウマチに対する有効率は48.6%
- 変形性関節症に対する有効率は55.8%
- 痛風発作に対する有効率は82.6%
- 強直性脊椎炎に対する有効率は61.3%
- 腰痛症に対する有効率は60.6%
- 肩関節周囲炎に対する有効率は73.3%
- 頸肩腕症候群に対する有効率は62.2%
- 腱・腱鞘炎に対する有効率は68.5%
- 月経困難症に対する有効率は63.9%
- 帯状疱疹に対する有効率は86.2%
- 外傷後・手術後に対する有効率は54.4%
- 抜歯後・小手術後に対する有効率は69.2%
と報告されています。
ナイキサンを始めとするNSAIDsを使用する際は、これらは根本を治す治療ではなくあくまでも対症療法に過ぎないことを忘れてはいけません。
対症療法とは「症状だけを抑えている治療法」の事です。あくまでも表面的な症状を感じにくくさせているだけの治療法で根本を治している治療ではない事を忘れてはいけません。
例えば腰痛症の痛みに対してナイキサンを投与すれば、確かに痛みも軽減します。
しかしこれは痛みが生じている根本を治しているわけではありません。あくまでも発痛を起こしにくくしているだけに過ぎません。
対症療法が悪い治療法だということはありませんが、対症療法だけで終わってしまうのは良い治療とは言えません。対症療法に加えて、根本を治すような治療も併用することが大切です。
例えば先ほどの腰痛症であれば、ナイキサンを使用しつつも、
- 腰に無理な負担がかからないように生活習慣を改善する
- 栄養をしっかりとって骨を強くする
- 適度な運動・リハビリをすることで骨を強くする
など、根本の治療も併せて行う必要があります。
3.ナイキサンにはどのような作用があるのか
ナイキサンは「非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」という種類に属しますが、NSAIDsの作用は、消炎(炎症を抑える)事によって解熱(熱を下げる)と鎮痛(痛みを抑える)ことになります。
ナイキサンも他のNSAIDsと同様に解熱作用と鎮痛作用を有しています。その作用機序について説明します。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。
ナイキサンは炎症の原因が何であれ、炎症そのものを抑える作用を持ちます。つまり、発赤・熱感・腫脹・疼痛を和らげてくれるという事です。
具体的にどのように作用するのかというと、ナイキサンなどのNSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)という物質のはたらきをブロックするはたらきがあります。
COXはプロスタグランジン(PG)が作られる時に必要な物質であるため、COXがブロックされるとプロスタグランジンが作られにくくなります。
プロスタグランジンは炎症や痛み、発熱を誘発する物質です。そのため、ナイキサンがCOXをブロックすると炎症や痛み、発熱が生じにくくなるというわけです。
ナイキサンはCOXをブロックする作用が強力であり、そのために強い解熱・鎮痛作用を有しています。
4.ナイキサンの副作用
ナイキサンにはどんな副作用があるのでしょうか。またどの頻度はどのくらいなのでしょうか。
ナイキサンの副作用発生率は3.50%と報告されています。他のNSAIDsと比較しても平均的な副作用の頻度となります。
生じうる副作用としては、
- 胃腸障害
- 腹痛・胃痛・胃部不快感
- 悪心・嘔吐
- 食欲不振
- 発疹
- 浮腫
などが報告されています。
ナイキサンをはじめとしたNSAIDsでもっとも注意すべきなのが「胃腸系の副作用」です。これはNSAIDsがプロスタグランジンの生成を抑制するために生じます。
プロスタグランジンは炎症を起こす作用とは別に、実は胃粘膜を保護するはたらきを持っています。NSAIDsによってこれが抑制されると胃腸が荒れやすくなってしまうのです。
胃痛や悪心などをはじめ、ひどい場合は胃炎や胃潰瘍・大腸炎などになってしまうこともあります。このため、NSAIDsは漫然と長期間使用し続けないことが推奨されています。
また重篤な副作用としては、
- ショック
- PIE症候群
- 皮膚粘膜眼症候群
- 胃腸出血、潰瘍
- 再生不良性貧血、溶血性貧血、無顆粒球症、血小板減少
- 糸球体腎炎、間質性腎炎、腎乳頭壊死、ネフローゼ症候群、腎不全
- 表皮水疱症、表皮壊死、多形性紅斑
- 胃腸穿孔
- 大腸炎
- 劇症肝炎
- 聴力障害
- 視力障害
- 無菌性髄膜炎
- 血管炎
が報告されています。これらは頻度は稀ではあるものの、絶対に生じないわけではありません。特に使用が長期に渡る場合はとりわけ注意が必要です。
またナイキサンは次のような患者さんには投与する事が出来ません(禁忌)。
- 消化性潰瘍のある方(胃潰瘍・十二指腸潰瘍などをより悪化させる)
- 重篤な血液の異常のある方(血液異常を更に悪化させる)
- 重篤な肝障害のある方(肝障害をより悪化させる)
- 重篤な腎障害のある方(腎障害をより悪化させる)
- 重篤な心機能不全のある方(心臓の仕事量を増やし心不全を更に悪化させる)
- 重篤な高血圧症の方(浮腫や血圧上昇を更に悪化させる)
- ナイキサンまたは他のNSAIDsに対して過敏症の既往歴のある方
- アスピリン喘息の方(喘息発作を誘発する)
- 妊娠後期の女性(胎児の動脈管を収縮させてしまう可能性がある)
またNSAIDsは喘息を誘発する危険があるため、できる限り喘息の患者さんには投与しない方が良いでしょう。
5.ナイキサンの用法・用量と剤形
ナイキサンは次の剤型が発売されています。
ナイキサン錠 100mg
またナイキサンの使い方は、
通常、成人には1日量300~600mgを2~3回に分け、なるべく空腹時をさけて経口投与する。
痛風発作には初回400~600mgを経口投与する。
頓用する場合及び外傷後並びに術後初回には300mgを経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
と書かれています。
ナイキサンは血中半減期(血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間)が14時間と長めでありり、中時間作用型として1日2回の投与が推奨されています。
また持続力がある割に即効性にも優れるお薬になっています。服用してから血中濃度が最大になるまでには2~4時間と報告されており、体感的には服用後30分~1時間ほどで効果を感じ始めます。
6.ナイキサンが向いている人は?
ナイキサンはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
ナイキサンの特徴をおさらいすると、
・解熱・鎮痛作用は中等度
・即効性・持続力などにまずまず優れる
・副作用の程度・頻度も中等度
といった特徴がありました。
基本的にNSAIDsは、どれも大きな差はないため、処方する医師が使い慣れているものを処方されることも多々あります。
ナイキサンのメリットは、即効性・持続力・効果の強さ・副作用の多さなどにおいてバランス型の解熱鎮痛剤であるという点になります。
中等度の痛みや発熱に対して、まず最初に試してみるお薬としても向いているでしょう。