ネオドパゾール配合錠の効果と副作用【パーキンソン病治療薬】

ネオドパゾール配合錠(一般名:レボドパ・ベンセラジド塩酸塩配合)は、1980年から発売されているパーキンソン病治療薬です。

ネオドパゾール配合錠は、「レボドパ」と「ベンセラジド塩酸塩」という2つのお薬が配合されています。パーキンソン病の治療として主にはたらくのはレボドパの方で、ベンセラジドはレボドパが効率的に作用できるように、またレボドパの副作用を軽減させるように補助する役割になります。

パーキンソン病は脳のドーパミンが少なくなって発症するため、レボドパ(脳でドーパミンに変換される物質)を投与する事でパーキンソン症状を改善させる事が出来ます。

しかしレボドパだけを使用し続けていると様々な副作用が出現してしまうため、現在ではレボドパと副作用を抑える物質を配合したネオドパゾール配合錠のようなお薬を使うのが一般的となっています。

パーキンソン病の治療薬にはたくさんの種類があり、どのようなお薬をどのような時に用いるのが適切なのかは分かりにくいものです。

パーキンソン病治療薬の中でネオドパゾール配合錠はどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。

ここではネオドパゾール配合錠の特徴や効果、副作用などを紹介していきます。

 

1.ネオドパゾール配合錠の特徴

まずはネオドパゾール配合錠の特徴を紹介します。

ネオドパゾール配合錠は、パーキンソン病で減少している脳内のドーパミンを効率良く増やしてくれるお薬になります。

ネオドパゾールに含まれるレボドパが脳内でドーパミンに変換され、パーキンソン症状を改善させます。一方でベンセラジド塩酸塩は脳以外の部位(末梢)でレボドパがドーパミンに変わらないようにします。これによりレボドパが脳に届く効率を上げ、また末梢でドーパミンが増える事によって生じる副作用を軽減させます。

ネオドパゾール配合錠の主成分は、ドーパミンの前駆体「レボドパ」であり、これは脳でドーパミンに変換されます。そのためネオドパゾールは脳にドーパミンを補う事でパーキンソン病を改善させるはたらきがあります(「前駆体」というのはドーパミンになる前の物質のことです)。

パーキンソン病は脳(主に中脳黒質-線条体系)のドーパミン量が減少する事で生じると考えられています。ネオドパゾールは、足りなくなっているドーパミンを直接補うはたらきがあるのです。

ドーパミンが足りないのであれば、ドーパミンの前駆体ではなくドーパミンそのものを投与すればいいじゃないか、と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実はドーパミンというのは脳に入ることができない物質なのです。

血液が脳に入る際には、BBB(Blood-Brain Barrier、血液脳関門)という関所のようなシステムがあり、そこでチェックが行われます。BBBでは血液中に脳に害を与える物質が混入していないかチェックをしています。

脳は大切な臓器ですので、万が一にも害のある物質が入らないよう、BBBが厳しいチェックをしており、問題があると判断された物質は脳に入ることができません。

そしてドーパミンはBBBでブロックされてしまう物質になるため、脳に入ることができないのです。

しかしドーパミンの前駆体である「レボドバ」はBBBを通過することができます。そして脳に入ったレボドパは脳内で「レボドパ脱炭酸酵素」によってドーパミンに変換されます。そのため、ドーパミンではなくレボドパを投与しないと脳内のドーパミンを増やすことができないのです。

ネオドパゾールはこのように少なくなっている脳のドーパミンを直接的に補うはたらきがあるため、パーキンソン病をダイレクトに改善させる効果があるのが利点です。

更にネオドパゾールには「ベンセラジド」という成分が配合されています。ベンセラジドは「末梢性脱炭酸酵素阻害薬」というもので、末梢(脳などの中枢神経以外の部位)においてレボドパがドーパミンに変換されないようにはたらくお薬です。

パーキンソン病の脳はドーパミンが足りない疾患です。そのため脳のドーパミンを増やしてあげたいのですが、ドーパミンを服用してしまうと全身のドーパミンが増えてしまいます。

特に胃や腸といった消化管にはドーパミン受容体が多く存在するため、全身のドーパミンが増えてしまうと、吐き気や食欲低下などの副作用が起こってしまうのです。

ネオドパゾールはベンセラジドを配合することにより、脳以外の部位ではレボドパがドーパミンに変わらないようにします。そうすると、レボドパが効率よく脳に送られるため、お薬の量が少なくても十分な効果が発揮されるようになります。また、脳以外の末梢のドーパミンは増えないため、副作用が軽減できるのです。

ネオドパゾール配合錠のデメリットとしては、ドーパミンを薬で補うことを続けていると、様々な副作用が出てきてしまうリスクが挙げられます。これはネオドパゾールに限らずあらゆるレボドパ製剤で共通する問題ですが、長期使用により「wearing-off現象」「delayed-on現象」「on-off現象」などの問題が生じます(これらの現象についての詳細は後述します)。

ネオドパゾールは、ベンセラジドを配合することでこれらの副作用のリスクを軽減してはいますが、そうはいっても長期使用していると副作用は出現してしまいます。

以上からネオドパゾール配合錠の特徴として次のような点が挙げられます。

【ネオドパゾール配合錠の特徴】

・脳のドーパミンを増やす事でパーキンソン症状を改善させる
・末梢でレボドパがドーパミンに変換されないため、消化器系の副作用が少ない
・末梢でレボドパがドーパミンに変換されないため、脳に効率よくレボドパを送れる
・ドーパミン補充を長期続けていると様々な副作用が生じやすい(レボドパ単剤よりは少ない)

 

2.ネオドパゾール配合錠はどのような疾患に用いるのか

ネオドパゾールはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

パーキンソン病、パーキンソン症候群

ネオドパゾールはドーパミン製剤であるため、投与すると体内のドーパミン濃度が増えます。

パーキンソン病は、主に中脳黒質-線条体系という部位のドーパミン不足で生じると考えられているため、ドーパミンを増やすネオドパゾールなどはパーキンソン病を改善させることが期待できます。

ちなみにパーキンソン病とパーキンソン症候群は何が違うのでしょうか。

パーキンソン症候群とは、パーキンソン病とは別の原因によって中脳黒質のドーパミンが減ってしまう状態を言います。例えば、

  • お薬の副作用で、ドーパミンが不足してパーキンソン症状が出てしまった
  • 脳炎や脳腫瘍などで脳が障害され、ドーパミン不足となりパーキンソン症状が出てしまった

などが挙げられます。

原因は異なれど、どちらも脳のドーパミン不足で生じていることに変わりはないため、ネオドパゾールはパーキンソン病でもパーキンソン症候群でも使用することができます。

しかしパーキンソン症候群の場合、明らかに改善できる原因があるのであれば、まずはそちらの原因除去が第一になりますす。例えばお薬の副作用でパーキンソン症候群になっているのであれば、まずすべき事はネオドパゾールのようなお薬を投与することではなく、パーキンソン症候群の原因となっているお薬を中止することです。

ではネオドパゾールはパーキンソン病・パーキンソン症候群に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。

ネオドパゾール配合錠をパーキンソン病及びパーキンソン症候群の患者さんに投与してその有効性をみた調査では、

  • 軽度改善以上の症例は94.6%
  • 中等度改善以上の症例は79.1%

と報告されています。

また同じ主成分からなる「マドパー配合錠」における調査ではパーキンソン症状に対して、

  • 筋強直を中等度以上に改善させた率は42.1%(軽度改善以上は73.3%)
  • 振戦を中等度以上に改善させた率は40.9%(軽度改善以上は77.3%)
  • 無動を中等度以上に改善させた率は32.6%(軽度改善以上は67.9%)
  • 日常生活動作障害を中等度以上に改善させた率は29.7%(軽度改善以上は63.9%)

と報告されています。ネオドパゾールもこれと同程度の有効率があると考えられます。

 

3.ネオドパゾール配合錠にはどのような作用があるのか

ネオドパゾールは、主にパーキンソン病の治療薬として用いられています。

パーキンソン病は、主に中脳黒質-線条体系という部位の神経細胞が変性してしまうことによって、ドーパミンが少なくなってしまう疾患です。ドーパミンが少なくなる事によって、

・振戦(手足のふるえ)
・筋固縮(筋肉が固まったように動かしにくくなる)
・無動(表情が乏しくなったり、動きが乏しくなる)
・姿勢反射障害(身体のバランスを保ちにくくなる)

などの症状が出現します。

ネオドパゾールは、ドーパミンの前駆体である「レボドパ」が主成分であり、これは脳に到達するとドーパミンに変換されます。この機序により中脳黒質-線条体系のドーパミンを増やしてあげる事でパーキンソン病症状を改善させてくれるのです。

また配合されているベンセラジドは「末梢性脱炭酸酵素阻害薬」というもので、脳以外の末梢でレボドパがドーパミンに変換されることを防ぎます。末梢でドーパミンが増えると吐き気・食欲低下などの副作用を引き起こすため、ベンセラジドはこれらの軽減につながります。また、末梢でドーパミンに変換されない分のレボドパが脳に届きやすくため、より少ないお薬の量でパーキンソン病を改善させることも期待できます。

具体的にはベンセラジドを配合することで、レボドパ単体で使用した時と比べて、レボドパの脳内濃度は4~5倍にまで上昇することが報告されています。これはつまりベンセラジドを併用すると、必要なレボドパ量が1/5で済むという事です。

ちなみにベンセラジドは脳に到達しない物質であるため、ベンセラジドを投与することで脳に到達するドーパミンも減ってしまうという事はありません。

ネオドパゾールは、レボドパとベンセラジドを約4:1の比率で配合しており、これにより効率的にパーキンソン病患者さんの脳内ドーパミンを増やし、副作用を軽減することを可能にしています。

 

4.ネオドパゾール配合錠の副作用

ネオドパゾールにはどのような副作用があるのでしょうか。またその頻度はどのくらいなのでしょうか。

ネオドパゾールはレボドパ製剤ですので、投与すると体内にドーパミンが増えることになります。パーキンソン病は脳のドーパミンは少ない状態であるため、脳のドーパミンが増える分には良いのですが、その他の臓器においてはドーパミンが増えすぎてしまい、これは副作用となってしまう事があります。

ネオドパゾールの副作用発生率は13.9%と報告されています。

比較的多いのが

  • 気分不良
  • 嘔吐
  • 食欲低下

といった消化器症状です。

これは胃や腸といった消化管にもドーパミン受容体があるため、ネオドパゾールがそこに作用してしまうために生じると考えられています。ネオドパゾールはベンセラジドの作用により末梢のドーパミンが増えにくくなっているため、末梢の副作用はレボドパ単剤よりは大分軽減されてはいますが、全く生じないわけではありません。

また精神症状も時に認められ、

  • 幻覚
  • 興奮
  • 不眠

などが生じる事もあります。重篤な場合は異常行動による事故や錯乱、自殺企図などに至る可能性も稀ながらありえます。

ドーパミンは興奮・快楽に関係する物質であり、その量が増えすぎると興奮したり幻覚が生じたりすることがあります。例えば覚せい剤を使用した人には幻覚が生じますがこれは脳内ドーパミン量が過度に増えるためだと考えられています。また、幻覚が生じる統合失調症の原因もドーパミンの過剰ではないかとも指摘されています(ドーパミン仮説)。

これらの例から分かるように、ドーパミンは増えすぎると幻覚・興奮などの精神症状を引き起こす可能性があるのです。

その他の副作用としては、

  • 不随意運動(身体が勝手に動いてしまう)

などもしばしば認められます。

定期的に血液検査をしたり、身体所見を診察してもらう事でこれらの副作用を放置しないよう注意していく必要があります。

不随意運動は手足がクネクネ動いてしまったり、口をモグモグ動かしてしまったりといった、自分の意志と関係なく身体が動いてしまう現象です。ドーパミン受容体の感受性バランスが崩れる事で生じると考えられており、ドーパミン受容体をブロックするはたらきを持つ統合失調症の治療薬(抗精神病薬)の副作用でもよく認められます。

ネオドパゾールもドーパミン濃度を変動させるお薬であるため、時に不随意運動が出現してしまう事があるのです。ネオドパゾールの不随意運動の出現頻度は、ドパストン(レボドパのみの製剤)よりも若干多いとの報告があります。

その他も頻度は低いのですが、重篤な副作用として、

  • 血小板減少、溶血性貧血
  • 突発的睡眠
  • 悪性症候群(急激にドーパミン量が増減すると生じることがある)

などの報告があります。

またネオドパゾールのようなドーパミン製剤は長期服用していると、いくつかの問題が出てくることがあります。代表的なものとしては、

【wearing-off現象】
レボドパによるドーパミンの補充を続けていると、次第にレボドパの薬効が短くなっていき、お薬が切れたときの症状が強まってしまう現象

【delayd-on現象】
レボドパによるドーパミン補充を続けていると、次第にお薬の効きが悪くなり、効果発現に時間がかかるようになってしまう現象

【on-off現象】
レボドパによるドーパミン補充を続けていると、服薬時間に関わらず急に症状が改善したり悪化したりが出現する現象

などがあります。

これらの副作用は特にレボドパを単剤で使用していると発症リスクが上がります。

ネオドパゾールはレボドパにベンセラジドを配合することで効率的にドーパミンを脳に到達させるように工夫されており、その工夫からレボドパ単剤よりはこれらの副作用の発症リスクは低くなっています。しかし発症しないわけではなく、長期使用していると発症してしまう可能性は十分あります。

このような問題から、現在ではパーキンソン病を治療する際の第一選択薬として、レボドパではなく「ドーパミンアゴニスト」を使うように推奨する専門家もいます。しかしレボドパがパーキンソン病に有効な治療薬であることに間違いはありません。どのお薬にも一長一短あるため、パーキンソン病治療薬を上手に使い分け、なるべく問題が生じないように工夫していくことが大切です。

 

5.ネオドパゾールの用法・用量と剤形

ネオドパゾールは次の剤型が発売されています。

ネオドパゾール配合錠

ネオドパゾール配合錠は、ドーパミンの前駆体であるレボドパと、ドーパミンを効率良く利用するための物質であるベンセラジドが配合されています。ネオドパゾール配合錠1錠中には、

レボドパ 100mg
ベンセラジド 25mg

が含まれています。

ネオドパゾールをパーキンソン病に用いる際には、既にレボドパ(商品名:ドパストンなど)を服用している方かどうかで服用方法が異なってきます。ネオドパゾールもレボドパを含むお薬であるためです。

ネオドパゾールの使い方は、

【レボドパ未服用の患者さん】
通常成人は初回1日量1~3錠を1~3回に分けて、食後に経口投与し、2~3日毎に1日量1~2錠ずつ漸増し、維持量として1日3~6錠を経口投与する。

【レボドパ服用中の患者さん】
通常成人初回1日量は、投与中のレボドパ量の約1/5に相当するレボドパ量に切り替え、1~3回に分けて、食後に経口投与し、漸増もしくは漸減し、維持量としては1日量3~6錠を経口投与する。

なお、年齢、症状により適宜増減する。

と書かれています。

ネオドパゾールはドーパミンを直接体内に補充するため、ダイレクトな効果が期待できます。そのため服薬を始めてから効果を感じるまでの時間も短く、62.4%の方が1週間以内に効果が認められると報告されています。

なおネオドパゾール配合錠は食前・食後どちらでも服用できるような書き方となっていますが、高タンパク食を食べてから服薬するとレボドパの脳内移行が悪くなることが報告されています。また食後の服用はレボドパの吸収が低下すると言われています。

このようなことも加味しながら、自分の症状やライフスタイルに合わせて服用するタイミングを主治医と決めていきます。

注意点として、ネオドパゾールをはじめとしたレボドパ製剤は、

  • バナナジュース
  • 牛乳
  • ヨーグルト
  • アミノ酸を含むスポーツ飲料

などと一緒に服用するとレボドパの含有量が顕著に低下する事が報告されています。

特に朝食時にヨーグルト、バナナ、牛乳などを摂取する方は少なくありませんので、レボドパ製剤を服用している方は注意しましょう。

 

6.ネオドパゾールが向いている人は?

以上からネオドパゾールはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。

ネオドパゾールの特徴をおさらいすると、

【ネオドパゾール配合錠の特徴】

・脳のドーパミンを増やす事でパーキンソン症状を改善させる
・末梢でレボドパがドーパミンに変換されないため、消化器系の副作用が少ない
・末梢でレボドパがドーパミンに変換されないため、脳に効率よくレボドパを送れる
・ドーパミン補充を長期続けていると、様々な副作用が生じやすい(レボドパ単剤よりは少ない)

というものがありました。

現在、ネオドパゾールのような「レボドパ製剤」はパーキンソン病治療薬の第一選択となっています。他にも「ドーパミンアゴニスト」と呼ばれるお薬も同様に第一選択とされており、どちらから使うかは患者さんの症状や経過、年齢によって異なります。

レボドパ製剤はしっかりした効果が期待できる反面、長期使用によって上記で説明したような問題が生じる可能性があります。一方ドーパミンアゴニストはレボドパほどしっかりした効果はないのですが、長期使用による問題はレボドパよりは少なくなっています。

基本的には、

・70~75歳以下の非高齢者で
・精神症状や認知機能障害がない

といった場合は、ドーパミンアゴニストから開始するが推奨されています。

ネオドパゾールはパーキンソン病の治療薬として非常に重要な位置づけのお薬なのですが、上記の長期使用に伴う副作用の問題があります。そのため、長期間用いる場合は、ネオドパゾールに副作用を穏やかにするお薬を併用することもあります。

例えばコムタン(一般名:エンタカポン)という、レボドパの分解を抑えるお薬があります。レボドパとコムタンを併用すれば、レボドパの薬効が長くなり、上記のwearing-off現象の改善が期待できます。

またスタレボというお薬が2014年に発売されましたが、このお薬は「ドパストン(レボドパ)」と「レボドパ脱炭酸酵素阻害薬」と「コムタン(エンタカポン)」の3つのお薬を配合したお薬であり、これも副作用の軽減が期待できます。