顔にお薬を使う時、「この薬って顔に塗って安全なの?」と気になっている方は多いのではないでしょうか。
顔は皮膚の中でも特にデリケートな部位です。また一番目立つ部位でもあるため、副作用のリスクが高いお薬を使う事は非常にためらわれるでしょう。
実際、顔の皮膚に軟膏を処方すると、
「これって安全なお薬ですか」
「強いお薬じゃないですよね?」
「顔が荒れたり赤くなったりしませんか」
といった質問を多く頂きます。
ネリゾナ軟膏(一般名:ジフルコルトロン吉草酸エステル)は病院で処方される外用剤(塗り薬)の1つです。いわゆる「ステロイド」であり、皮膚の炎症を抑えたり、肥厚した皮膚を改善させる作用を持ちます。
このネリゾナ軟膏って、顔に塗っても大丈夫なお薬なのでしょうか。
ここではネリゾナ軟膏が顔に安全に使えるお薬なのかどうかを、その作用機序と顔の皮膚の特徴を説明していきながら考えていきたいと思います。
1.ネリゾナ軟膏は顔に使えるのか
ネリゾナ軟膏は顔に使える塗り薬なのでしょうか。
結論から言うと、ネリゾナ軟膏は原則として顔に使用してはいけません。
どうしても必要な際は慎重に使う事もありますが、経験豊富な皮膚科医の慎重な管理のもとでのみ行われるべきです。
ネリゾナ軟膏は、「ジフルコルトロン吉草酸エステル」というステロイドが含まれている外用剤です。
ステロイドには、
- 免疫を抑える作用
- 炎症を抑える作用
- 皮膚を薄くする作用
があります。
ステロイドは免疫反応(身体がばい菌などの異物と闘う反応)を抑える事で、塗った部位の炎症反応を抑える作用があります。
炎症とは何らかの原因によって身体の細胞がダメージを受けたときに生じる反応の事で、「発赤(赤くなる)」「腫脹(腫れる)」「熱感(熱くなる)」「疼痛(痛みが出る)」といった症状が生じます。
身体をぶつけると、その部位にこのような症状が生じますね。あるいは風邪をひくと喉にこのような症状が生じる事もあります。このように炎症は、外傷やばい菌の感染・アレルギーなど様々な原因で生じる反応なのです。
ステロイドは炎症を抑える事でこれらの症状を和らげてくれますので、皮膚に炎症が生じていたり、免疫反応が暴走してしまっている時に使う事で効果が期待できます。例えばアトピーのようなアレルギー疾患や、膠原病のような自己免疫疾患は免疫の暴走が原因ですのでステロイドが効果があるのです。
またステロイドには皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあり、これによって厚くなった皮膚を正常化させる作用も期待できます。
しかし一方でステロイドには副作用もあります。免疫を抑えたり、皮膚細胞の増殖を抑えるわけですから、これによって皮膚にばい菌が感染しやすくなってしまったり、皮膚が過度に薄くなってしまう可能性もあるわけです。
顔というのは私たちの身体の中でも、とりわけ皮膚が薄い部位です。ステロイドを使う事で、顔の薄い皮膚が更に薄くなってしまうと、血管が浮き出てしまってあから顔になったり(ステロイド性酒さ)、皮膚の中に細菌やウイルスなどの病原体が侵入しやすくなってしまう事もあるのです。
ステロイドの中でも、ネリゾナ軟膏は強めのステロイドになります。そのため、炎症を強力に抑える必要がある場合や、皮膚が厚い部位に使用するのには適しています。
しかし皮膚が薄い皮膚に使用する事は、リスクが大きすぎるため原則として用いるべきではありません。
2.顔の皮膚の特徴と治療の際の注意点
顔の皮膚を綺麗な状態に保つために、みなさん知っておかないといけない事があります。
それは、顔の皮膚は他の部位の皮膚と比べると、とても薄いという事です。
顔の皮膚が薄いのには理由があります。皮膚が薄いと、外界の情報を敏感に感じ取れるというメリットがあるのです。
顔の皮膚は常に外界にさらされているため、薄くする事で感覚を敏感にして外界の情報を多く得られているのです。
しかし一方で皮膚が薄いという事は、バリア機能が弱いという事であり、皮膚が傷つきやすく、また異物が体内に浸透してしまいやすいという事でもあります。
顔にお薬を塗る際は、この事が重要になってきます。
例えば同じステロイドを、顔と手足に塗った場合では、顔の方が10倍以上も吸収力が高くなる事が確認されています。
顔にとって良い成分がたくさん浸透するだけならいいのですが、何か皮膚にダメージを与える成分が顔に塗られてしまった時、手足であれば大したダメージが生じないものであったとしても、顔であれば大きなダメージが生じてしまうのです。
また顔というのは、身体の中でも「日光」を浴びやすい部位です。日光は紫外線を含むため、過度に浴びれば皮膚細胞を傷付けます。
同じ皮膚でも体幹や上腕・大腿などは衣服に覆われている事が多いため、紫外線の影響はあまり受けません。しかし顔は紫外線の影響を強く受けるため、ダメージを受けやすいという特徴もあります。
このような理由から、顔にお薬を塗る場合は、他の部位に使うお薬と比べて作用の穏やかなものを選ぶ必要があるのです。
ステロイドはその強さによって5段階に分けられています。このうち、顔に塗っても良いものは弱いものか、最大でも中くらいの強さを持つものまでになります。
顔の皮膚というのは、
- 皮膚が薄い
- お薬がたくさん吸収されやすい
- 紫外線を浴びる量が多いため、皮膚細胞がダメージを受けやすい
という特徴があります。
このような特徴から、他の部位と比べて作用も副作用も生じやすいため、なるべく作用や副作用が穏やかなお薬を用いる必要があるのです。
3.ネリゾナ軟膏はどのようなお薬なのか
次にネリゾナ軟膏がどのようなお薬なのかを紹介します。
ネリゾナ軟膏は「ジフルコルトロン吉草酸エステル」というステロイド外用剤です。
ステロイドは様々な作用を持つ物質ですが、外用剤(塗り薬)で得られる主な作用としては、
- 免疫反応を抑える作用
- 炎症反応を抑える作用
- 皮膚細胞の増殖を抑える作用
などがあります。
ステロイドは免疫反応(身体がばい菌などの異物と闘う反応)を抑える事で、塗った部位の炎症反応を抑えてくれます。これにより湿疹や皮膚炎を改善させたり、アレルギー症状を和らげます。
一方で免疫反応を抑えてしまうため、ばい菌が感染しやすくなるというデメリットもあります。
またステロイドには皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあり、病的に厚くなった皮膚を薄くする作用も期待できます。これも一方で正常な皮膚を更に薄くしてしまう事で皮膚のバリア機能を低下させてしまうというデメリットもあります。
ステロイドは強さによって5段階に分かれています。
【分類】 | 【強さ】 | 【商品名】 |
Ⅰ群 | 最も強力(Strongest) | デルモベート、ダイアコートなど |
Ⅱ群 | 非常に強力(Very Strong) | アンテベート、ネリゾナ、マイザーなど |
Ⅲ群 | 強力(Strong) | ボアラ、リンデロンV、リドメックスなど |
Ⅳ群 | 中等度(Medium) | アルメタ、ロコイド、キンダベートなど |
Ⅴ群 | 弱い(Weak) | コートリル、プレドニンなど |
この中でネリゾナ軟膏に含まれるジフルコルトロン吉草酸エステルは「Ⅱ群」に属します。
Ⅱ群のステロイドは「非常に強力」であり、炎症をしっかりと抑える作用がある一方で副作用に注意も必要です。
ステロイドはしっかりとした抗炎症作用(炎症を抑える作用)が得られる一方で、長期使用による副作用の問題もあるため、皮膚症状に応じて適切な強さのものを使い分ける事が大切です。
強いステロイドには強力な抗炎症作用がありますが、副作用のリスクも高くなります。反対に弱いステロイドは抗炎症作用は穏やかですが、副作用も生じにくいのがメリットです。
ネリゾナ軟膏は外用ステロイド剤の中でも強い部類に入るため、成人であれば背中や足の裏など皮膚が厚い部位に塗るのに適しています。
反対に顔や陰部などといった皮膚が薄い部位には原則として用いてはいけません。このような部位は、Ⅳ群(やむを得ない場合に限りⅢ群)など弱いステロイドが適応になります。
顔にⅡ群のネリゾナ軟膏を使用してしまうと、確かに炎症は強力に抑えられるでしょう。しかし元々薄い皮膚が更に薄くなって毛細血管が浮き出てあから顔になってしまったり(ステロイド酒さ)、皮膚にばい菌が感染しやすくなってしまうリスクが高くなってしまうのです。
4.「他の基剤で薄めれば大丈夫」は間違い
ネリゾナ軟膏はⅡ群(非常に強力)に属するステロイド剤であるため、原則として皮膚が薄い部位に塗ってはいけないという事をお話してきました。
このような理由から顔への塗布も基本的にはしてはいけません。
顔に外用剤を用いる際は、副作用の少ない安全な外用剤を用いるか、ステロイドを用いる際も原則としてⅣ群以下(やむを得ないケースに限ってⅢ群まで)の外用剤を用いるべきです。
ネリゾナ軟膏は強力すぎるため顔の皮膚に塗ってはいけない、という説明をすると、「基剤を増やして薄めれば作用も弱まるだろうから使っても大丈夫なのではないか」と考える方もいます。
医師によっては、外用剤を処方する際にいくつかの外用剤を混ぜて処方する事もあります。
例えば、ステロイドと保湿剤を混ぜたり、ステロイドとワセリンを混ぜたりするのは臨床上もよく用いられている処方です。
例えばネリゾナ軟膏50gとヒルドイドソフト軟膏(保湿剤)50gを混合して計100gにした外用剤を処方されたとします。この場合、ネリゾナ軟膏は半分に薄まっているわけだから顔に塗っても大丈夫だろうと考える方がいますが、これは間違いです。
確かに同じ量の中に含まれるネリゾナ軟膏の量は半分にはなっていますが、ネリゾナ軟膏自体の作用が弱まっているわけではなく、基本的にはいくら他の外用剤を混合したとしても、Ⅱ群に属するステロイドは顔に用いるべきではありません。